第十七話 同伴出勤
ミーニアを書くのが楽しい。
空から太陽が昇り、東から南へ向かい始める朝の時分。鳥達が囀り、街道を歩く二人の男女を家の屋根から見下ろした。
「ふわぁああ……」
「リラクさんって、お寝坊さんだったんですね。知りませんでした。わたしが起こすまで、ずっと寝てるんですから」
欠伸をするリラクを下から見上げて、ミーニアは嬉しそうに微笑む。尻尾が元気よくゆらゆら揺れる。
「誰のせいだと思ってるんだ……」
と、ミーニアに聞こえない声で独り言を呟き、恨めがましくミーニアを見る。
そんな話をしながら、ハンターギルドの扉を開け、中に入った。
——その瞬間、ハンターギルドにいた人達の視線は二人に集まった。
「ああ……、とうとう僕のミーニアちゃんが……」
「あら、大人の階段を昇ったのね」
「きゃーっ」
「コロスコロスコロスコロス……」
絶望する男ハンター、生温かい視線を送る女ハンター、はしゃぐ受付嬢、呪詛を吐く男ハンター、ヒソヒソと言葉を紡ぐ。
リラクは、首を捻った。
「何を話しているかわからないけど、何か今日はいつもより騒がしいな……。なぁ、ミーニア?」
「そ、そうですね……」
ミーニアは周囲の様子から自分の今の状況を悟り、顔を茹蛸のように真っ赤に染めた。頭から蒸気を出している。
異様な雰囲気が支配するギルドハウス内であったが、一人だけ全く異なった反応を示す男がいた。ワーグナーだ。彼は全身から冷や汗を垂れ流し、全身を震わせる。「ありえない」とでもいうような視線で二人を見ていた。
そのワーグナーに気づいたリラクはわざとらしく明るい声で、
「おはようギルド長。約束通りに来たぞ。んっ? どうしたんだ? まるで幽霊でも見るような目でこっちを見て。——何かおかしなことでもあるのか?」
「い、いや……。何でもないです……」
「ところで書類はできているのか?」
「——ッ!? あ、ああ……、もう少しで完成するところです。少しお待ちいただけたら、す、すぐにでもお持ちします」
「そうかー……。あっ、その時間はなさそうだな」
リラクが視線を扉に向けた。
「はい?」
ワーグナーは不思議そうにリラクを見つめていると、ギルドハウスの外から複数の足音がした。
その音は次第に大きくなり、ギルドハウスに近づいてくる。そしてギルドハウスの前で足音が止まると、ドンッと勢いよく扉が開いた。
町の衛兵だ。彼らは兜と鎧を身に着け、槍を持った完全武装の状態でギルドハウスにゾロゾロと入ってきた。中に入った彼らはワーグナーを見つけると、円を作るように取り囲む。
「な、なんなんだっ!?」
動揺するワーグナーの前に、一人の衛兵が一歩出た。
「ハンターギルドのギルド長、ワーグナー氏ですね。少しお話を伺いたいので詰め所まで来て頂きたい」
「ど、どういうことだっ!?」
リラクが衛兵の代わりに説明し始める。満面の笑顔で。
「昨日な、俺とミーニアを襲った賊がいたんだよ。全員ぶっ飛ばしたけどな。賊はあとから来た衛兵に捕まったってわけだ。たぶん、あいつらは吐いたんじゃないか? 誰が依頼したのか」
「なっ!? ち、違うぞっ!? わたしではないっ!?」
「わかりました。そのお話は詰め所でゆっくり伺いますので、ご同行願います」
大声で否定するワーグナーを窘めるように、衛兵達はワーグナーの両脇を掴み、連行していく。
「わっ、わたしはギルド長だぞッ!? このハンターギルドのトップだッ!? わたしがこんなことをするわけないだろうッ!? やめろおおおおおおッ!」
ワーグナーは怒声を上げ、暴れだした。衛兵を振りほどき、逃げようとする。
すかさずリラクが近づき、顔面をぶん殴った。
「ぶへっ!」
ワーグナーは地面に転がった。死ぬ直前の虫のようにピクピクと痙攣している。
「往生際が悪いなぁ……。まぁ、でも丁度良かった。ミーニアを怪我させた分を返せたな」
リラクはスッキリした顔で笑った。
ミーニアはリラクのセリフにドキリとし、「落ち着けわたしぃ……」と、誰に聞こえない声で呟く。
顔を凹ませたワーグナーは、大人しく衛兵達によって連行されていった。
ワーグナーを見送ったリラクはミーニアを見て、
「さて、どうしようか?」
「はっ!? 何でしょうか?」
「ホワイトファングの解散命令の書類だよ。きっと、あいつのことだ。作ってないと思うよ?」
「…………では、わたしに任せてください」
少しの間逡巡したあと、ミーニアは決意した眼差しをリラクに向けた。「付いてきて下さい」と言って歩き出す。
リラクは疑問を浮かべながらあとに続く。着いた先は、ギルド長の執務室だった。
ミーニアは躊躇いもなく執務室の扉を開け中に入る。そのまま迷うことなく、執務室の椅子に座った。引き出しから複数枚の用紙を取り出した。置いてあったペンを手に持ち、その用紙に何か書き始める。
「わたしだって、ここで仕事を始めてから長いんですからね。このくらいはできます」
と、言いながら書類を書き終わると、机の上に置いてある判子を書類に押した。
「できました」
ミーニアは立ち上がり、書いた数枚の用紙をリラクに渡した。その内容はホワイトファングのユニオン解散を示すものだった。最後にはギルド長の印が押してある。
「ミーニア……これは……」
ミーニアはエヘヘと笑い、
「もしハンターギルドを首になったら責任を取ってくださいね。——あっ、これはリラクさんのためにやったわけではないですからっ! リスティさんのためですよっ!」
昨晩の一件の後、リスティとホワイトファングの間のことはミーニア伝えた。さすがにここまで危険な目に合わせて、事情を話さないわけにはいかいと、リラクが考えたからだ。
「リスティは良い友達を持ったな」
優しく微笑む。気持ちとしてはリスティの兄のような心情だ。
「で、では、さっさとホワイトファングに乗り込みましょうっ!」
顔を真っ赤にしたミーニアが音頭を取る。
リラクも頷き、二人はホワイトファングのユニオンハウスへ向かった。
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