第十五話 忍び寄る影
本日の更新分です。
よろしくお願いします。
ハンターギルドの玄関口。
ギルド長のワーグナーとの話が終わり、リラクは外に出た。一仕事を終えたと肩を揉む。
ミーニアも一緒だった。リラクを見送るためだ。ミーニアがリラクに向けて頭を下げた。
「ありがとうございました。そして、ごめんなさい」
「ん? どうしたんだ、突然?」
「わたしが言いたいことを全部言ってもらって。おまけにわたしのことまで庇ってもらっちゃって……。あと、ヒーリア様が貴族の方と知らずに今まで失礼なことをいっぱい言ってしまいました」
ミーニアの行動にリラクはどうしたものかと頬を掻く。
「……頭を上げてくれ。別にやりたくてやっただけだよ。あといつも通り、リラクでいいよ。様付けもいらない。本当は爵位もいらなかったんだ。ただ俺には必要だって言ってた人がいて、貰ったんだよ。本当に言ってた通りになって助かったけどな」
リラクは腰の短剣にそっと手を置いた。
ミーニアは顔を上げ、嬉しそうに笑う。
「あっ、そうだ」
リラクがふと思いつき、鞄からイヤリングを取り出した。
ミーニアはリラクの手の平にあるイヤリングを見て、
「可愛らしいイヤリングですね。これがどうかしましたか?」
「あげるよ」
「えっ、良いんですか? 何か高そうですけど……」
「俺が何年か前に作ったモノだから、大したことはないよ。まぁ、お守りみたいなものだ。持っていてほしい。最近何かと物騒だからね」
「なら遠慮なく……」
ミーニアはリラクからイヤリングを受け取り、耳に着ける。翠色の石が淡く輝いた。
「どうですか似合いますか?」
「うん、似合ってるよ」
「……ありがとうございます」
ミーニアは照れるように頬を赤く染めた。
「んじゃ、俺は帰るから」
「はい、また明日会いましょう」
ミーニアは手を振って、リラクを見送った。その姿が見えなくなるまでずっと……。
リラクを見送った後、ミーニアはいつも通りの仕事をした。他の受付嬢と同じ内容の仕事だ。
ギルド長の指示で、仕事の内容が元に戻ったのだ。リラクのおかげだと思った。
ミーニアはリラクに守られている気がして、温かい気持ちになった。
たまに貰ったイヤリングを外して眺めた。じっと見ていると自然と頬が緩む。
「ムフフフフ……」
ふさふさの尻尾を左右に揺らすミーニアの姿を、他の受付嬢は奇妙なモノを見るような目で眺めていた。
「何かあったのかな?」
「最近ずっと夜遅くまで働いていたから、とうとうおかしくなっちゃったのかな?」
「あり得るわね……」
だが、ミーニアは受付嬢達の話声など全く気付いた様子もなかった。ただニヤニヤしながらイヤリングをずっと眺めていた。
その日の夜、仕事が終わった帰り道、ミーニアは自宅に向かって歩いていた。
心なしか足取りが軽い。
「ん? 何かいつもより暗いような……」
ふと異変に気付く。周囲を見ると、街灯の明かりが消えていた。
「うーん……、何か気味が悪いなあ……」
恐怖を感じ、自然と足早になる。よく前を見ると、向こうの街灯は明かりがついている。
向こうまで走ろう——
——と、思った瞬間。誰かに手を掴まれ、引っ張られた。
「きゃっ!?」
ミーニアは悲鳴を上げ、手の持ち主を見上げた。大きな髭面の大男だ。口端をつり上げ笑っていた。
「ほい、捕まえた」
「くっ、このっ……。やめてくださいっ!」
ミーニアは髭面の男の手から逃げ出そうと暴れるが、びくともしない。
髭面の男はミーニアの叫び声を無視し、「おいっ」と誰かを呼んだ。
「へいっ」と、骨ばった男が暗がりから現れ、持っていたロープでミーニアの口を縛った。
「むーっ! むーっ!」
「おいおい暴れるなよお嬢ちゃん。上手く縛れないじゃないか」
ニヤニヤと髭面の男が笑い、暴れようとするミーニアを押さえつける。ハンターでもない非力な少女では、大柄の男に対抗することはできない。
大柄な男の手の感触に、ミーニアは嫌悪感を露わにし、涙を浮かべる。気がついたときには、ロープで身体を巻かれ、身動きが取れない状態になっていた。
よく見ると、二人の男以外にも複数の男達がいたことに気づく。
「おい、行くぞ」
髭面の男がミーニアを物のように抱え、走り出した。他の男達も同様だ。
暗い裏通りを進み、ミーニアの知らない道を通った。ある一軒家に辿り着く。古びた家だ。誰かが住む気配がしない。
男達は扉を開け、全員家の中に入り、扉を閉めた。
髭面の男は古びたベッドにミーニアは放り投げた。
「おい、口のロープを外せ」
髭面の男は椅子に座り、他の男に指示を出す。
指示を受けた男は頷き、ミーニアの口を塞ぐロープを外した。
「どうしてこんなことをするんですかっ!」
ミーニアは恐怖で涙を浮かべながらも気丈に振る舞い、髭面の男に声を投げかけた。
髭面の男はニヤニヤして、
「そりゃあ、頼まれたからだよ。お前が邪魔だという人にな。あともう一人、リラクという男の宿にも行った。あっちはその場で殺すことになってるから、今頃は血の海だろうな」
「そんな……」
リラクは回復魔術師だ。戦闘が専門ではない彼が、集団の男達に勝てるわけがない。
そう思ったミーニアは絶望を感じ、身体から力が抜けた。
「男の心配より自分の心配をしたほうがいいんじゃないか? 依頼人からはお前を好きにしていいという話だ」
周囲の男達が下卑た嗤い声をあげた。
髭面の男も顔を醜悪に歪め、
「へへっ、久しぶりの上玉だ。俺らで楽しませてもらおうか。安心しろ。嫌だと思うのは最初だけだ。最後には俺の物がないと生きられないようにしてやるからよ」
髭面の男の周囲にいた男達が、ミーニアににじり寄っていく。下種な笑みを隠さず、興奮したような息を吐いていた。
「久しぶりの若い女だ……」
「娼館の女も飽きていたところだ。へへっ、ちょうどいい……」
「獣人の女は初めてだな……。どんな声で鳴くのか楽しみだな……」
「い、いやっ。来ないでっ!」
我に返ったミーニアは、必死に男達から逃げようとする。が、縛ってあるロープが身体に食い込むだけだった。
「ははっ、泣いて喚け。そのほうが興奮する。いくら騒いでも、ここらに人は住んでない。助けは誰もこない」
一人の男がミーニアの服に手を伸ばす——
——トントン。
突如、扉をノックする音がした。
男達の手が止まった。お互いに顔を見合わせ、延々と叩く音が鳴り響く扉の方を見る。
「おい、お前。ちょっと見に行ってこい」
髭面の男は不機嫌そうに一人の男に命令する。
「……わかりましたよ」
命令を受けた男はため息をついた。扉を叩いている誰かに向かって悪態をつき、玄関に向かう。
「せっかくの楽しみに水を差しやがって……、誰だ?」
と、男が扉を開けようとした。
——その瞬間、爆発するような轟音が鳴り響いた。
扉が男と一緒に吹き飛んだのだ。
「夜分遅くにすみません。こちらにミーニアという可愛らしい女の子はいらっしゃいませんか?」
扉の前に立っていたのは、黒髪に青い瞳の青年。黒い外套を纏い、ニッコリと笑うリラクの姿だった。
お読み頂きありがとうございます。
女の子のピンチを描く場合、どこまでがR15か悩みますよね。
この位は大丈夫だと思って書いています。
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