第十三話 短剣
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翌朝、小鳩亭に一羽の梟がリラクの泊まる部屋の窓にとまった。梟は嘴に手紙を咥えて、早く窓を開けろと言わんばかりにリラクを睨みつけていた。
リラクは窓を開け、梟から手紙を受け取った。
用が済んだ梟はすぐに飛び立ち、朝日に向かって消えていく。
リラクは梟を見送った後、手に持った手紙の封を開け、中を読む。視線は字を追い、最後まで読み終わるとニヤリと笑い、呟いた。
「これで動けるな」
宿を出てハンターギルドへ向かった。
ハンターギルドに行くのは四日ぶりだ。
ハンターギルドの扉を開け、いつも通りに受付へ行った。
「おはよう、ミーニア……って、何か数日で随分やつれていないか?」
ミーニアに会って驚く。数日前に比べて疲れ切った顔をしていた。表情に明るさがない。
ミーニアは覇気のない声で、
「ああ……、リラクさん。おはようございます、数日ぶりですね。何かここ二、三日で仕事が一気に増えまして……」
「そうなのか……、でも忙しそうにしているのはミーニアだけのように思えるけど」
リラクは他の受付嬢を見ても、数日前と同じ光景が広がっていた。異様なのはミーニアだけだった。
ミーニアは深いため息をついて自嘲気味に、
「多分わたしがギルド長のワーグナーさんに逆らったからでしょうね……。あの日、リラクさんからハンター保護法の話を聞いて、ワーグナーさんに詰め寄ったんです。そうしたら怒ってしまって……。次の日には大量の仕事をワーグナーさんから貰うようになりました」
「他の受付嬢に手伝ってもらえないのか?」
「それが『手伝わないように』って、ワーグナーさんから指示が出ているらしいんですよ。最近では同僚から変な目で見られてます」
ミーニアは悲しそうに目線を下に向ける。犬耳も元気なく頭を垂れていた。
「なんだよそれは……」
これじゃギルド長の立場を利用した虐めじゃないか。
「わたし……、悔しいです。上からの命令にただ従うしかなくって、何もできないなんて……」
ミーニアは両手の拳を強く握りしめ、受付台を叩いた。悔しさから瞳に涙を浮かべる。
そこでふと気づく。ミーニアの手に包帯が巻かれていた。前に会ったときにはなかったものだ。
「どうしたんだ、その右手? 怪我でもしたのか?」
「ああこれは、ワーグナーさんと口論になったときに、ワーグナーさんに突き飛ばされてできたんです」
怪我した右手を見ながら説明した。
なるほど……、女の子に怪我をさせるギルド長か……。
奥歯を強く噛み締めた。ミーニアには怒りの表情を悟られないように注意しながら、優しい微笑みを作る。
「ちょっと、怪我してる右手を見せてごらん」
「えっ……、はい……」
ミーニアの右手を両手で触り、軽く魔力を流す。どうやら擦り傷ができているようだ。突き飛ばされた拍子に手をついて怪我をしたのだろう。
「回復」
淡い優しい光が、ミーニアの手を包む。
「温かい……」
ミーニアの表情が緩む。回復の光は仄かな温かさがある。その温かさは、子供の頃に経験した母の温もりに似ているらしい。親のいないリラクにはわからないが。
回復の光が消えると、リラクはミーニアの右手から両手を離した。
「よしっ……、もういいかな。包帯外していいよ」
リラクの言ったとおりに、ミーニアは包帯を外した。
「怪我が治ってる……。ありがとうございます。何かお礼をしないと……」
「そうだな……。なら、いつも通りの元気な笑顔を見せてほしいな」
「っ……はい、わかりました。リラクさんもそういう気障っぽいことを言うんですね」
「うるせっ」
ミーニアは瞳に涙を浮かべたまま、ニッコリと笑う。
今までリラクが見た中で最高の笑顔だった。
リラクはなぜか不思議と顔が熱くなり、一度咳払いをして仕切り直す。
「ところで、ギルド長のワーグナーには会えないのか?」
「えっ? 多分ダメだと思いますよ。訊くことはできますけど、多分断られます」」
「そうか……、でもこれを見せたら大丈夫だと思うよ」
リラクは腰に差していた短剣を取り出し、ミーニアに見せる。
ミーニアは不思議そうな表情を浮かべ、短剣を眺めた。
「この短剣がどうしたんですか?」
「抜いてみたらわかるよ」
ミーニアは疑問を浮かべながら、短剣を抜いた。その刃を見つめ、眼が次第に大きくなっていく。口を震わせて、リラクを凝視した。
「あ、あ、ああ……あなたさまは……」
「どう? 驚いた?」
悪戯に成功した子供のようにリラクは笑った。
「お、おお、驚きますよ!」
「まぁまぁ、静かにね。あと刃物は振り回さないようにね」
興奮して抜身の短剣を振り回すミーニアを宥めた。
落ち着きを取り戻しつつ、ミーニアは短剣を鞘に戻す。
「これなら問題ないだろう?」
「……確かにそうですね」
「ギルド長に会わせてほしい。大丈夫、ミーニアの仇は取ってあげるからね」
そう優しくミーニアに微笑みかけた。
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