第十二話 リスティの価値
本日の更新分です。
リラクはカロウセの町中を歩き回った。ヴェレーノを探すためだ。ギルドを通して話すことも考えたが、取り合ってもらえない思って諦めた。
ユニオンハウスの中にいたら会うことはできない。いるかもわからない存在を探すのは精神的に応えた。が、幼馴染のリスティのためと思い、捜索を続けた。
夜になり月も高く上り始めた頃、リラクは再び束の間の安息亭の前に来ていた。以前、ヴェレーノと会ったのはここだ。もしかしたらいるかもしれない。
「いたッ!」
運の良いことに、ヴェレーノはいた。裕福そうな身なりをした中年の男と一緒だ。
二人は建物から出てきたところで、二言三言話して別れた。ヴェレーノはホワイトファングのユニオンハウスに向かって歩き始める。もう一人は反対方向だ。
リラクはヴェレーノを追いかけた。彼女が歩く路地はひと気が少ない。その暗がりを彼女は堂々と歩いていた。
「ヴェレーノッ!」
「——ッ!」
思い切って、背後からヴェレーノに声をかける。
ヴェレーノは振り向き様にリラクへ鋭い視線を送った。相手がリラクと気がつくと、鬱陶しそうな態度で眼を細める。
「……あの時リスティといた間抜けそうな男か。 何か用かい? あんたのために使う時間なんてないんだけど」
「リスティのことだ」
「リスティ?」
ヴェレーノは興味を持ったのか、カマキリのような眼を開く。
「リスティをホワイトファングから解放しろ」
「ハッ!」
ヴェレーノは鼻を鳴らし、嘲笑った。
「何をいきなり言うと思ったら——、リスティを解放? 一番の稼ぎ頭を抜けさせるわけがないでしょう。馬鹿じゃないの?」
「そういう風に思ってるなら、もっと優しくしてやったらどうなんだ?」
「やっぱりお前は馬鹿な猿だわ。人の扱い方ってものを知らないの? 恐怖というのは、人間の思考を縛るには最も効果的なやり方なのよ。特にあの子はパーティが逃げた負い目がある。責めない手はないわ」
「お前……、本当にクズだな……」
リラクは吐き捨てるように言った。
「なんとでも言いなさいな。負け犬の遠吠えにしか聞こえないわ」
リラクは大きく息を吐いた。この女の話に乗って腹を立たせても仕方がない。心を落ち着かせ、冷静な物言いで言葉を紡ぐ。
「お前は何か勘違いしていないか?」
「勘違い?」
「ハンターギルドのルールでは、ハンターがユニオンを辞めるのに、ユニオンの承認を貰う必要はないはずだ」
ヴェレーノの眉が一瞬動いた。リラクをただの物知らずのハンターではないと認識したのだろう。
ほとんどのハンターはギルドのルールなど気にしない。魔獣を討伐して、魔石を持って帰って金にする。それだけ知っていればいいのだ。
だが、ヴェレーノ反応はそれだけだった。
「確かにそうね。でも本当にわたしの所に届くのかしら?」
「何……?」
ユニオンの脱退申請は、まず個人がギルドに脱退の申請を出す。そのあとギルドが承諾し、ユニオンにその旨を連絡して初めて脱退が完了となる。
その連絡が届かない……?
ヴェレーノは口を歪め、嘲笑する。
「本当に馬鹿ね。ハンターギルドがリスティの脱退を認めるわけがないじゃない。あの子はこの町にとっても優秀なハンターよ。もし脱退を認めたら、この町を出てしまうかもしれない。手放すわけがないじゃない」
「——ッ!?」
ハンターギルドが脱退を認めない!?
リラクは思考を巡らせる。確かにハンターギルドがリスティの脱退を難癖をつけて認めないなら、永遠にユニオンを辞めることもできない。確かにその通りだ。
もはやリスティにとって、この町は牢獄でしかなかった。
リラクは奥歯を噛み締める。
ヴェレーノは勝ち誇るように、
「それにあのハンターギルドのギルド長とは懇意にしているの。結構、融通が利くのよ」
「そういうことかよ」
ハンターギルドのギルド長とホワイトファングが繋がっている。ハンターギルドはホワイトファングの思うがままに操ることができるということになる。
「だから貴方が何を言っても無駄なの。仮に今の話をギルドで話そうとも、そこいらに転がっているハンターが何を言っても無駄なのよ」
ヴェレーノは嗤った。その目は水の中でもがき苦しむ虫を眺め、楽しむように。
「…………わかった」
リラクが首肯した。
ヴェレーノは意外そうな表情で、
「あら、随分物分かりがいいのね」
リラクは肩を竦め、
「まぁな、ここで話をしても無駄だということがわかったよ。あんたとしては、ここで俺が暴れてくれたほうが都合がいいのかもしれないけどな」
ヴェレーノは苦々しく口端を歪め、腰の後ろに回していた手を元の位置に戻した。おそらく魔術用の杖でも取り出すつもりだったのだろう。リラクが逆上して襲い掛かったときに、反撃して殺すつもりだったようだ。
「ということで、また会いに来るよ」
「……まだ諦めていないのね」
「ああ、今度は正々堂々正面から行くよ。そのときはよろしくな」
リラクは踵を返す。ヴェレーノに背を向け、ゆっくりとその場を後にする。背後から射殺すようなヴェレーノ視線を感じた。
ヴェレーノの気配がなくなり、夜の街道をリラクは一人歩く。道脇にある複数の街灯が煌めき、昏い道に陰影をもたらした。
「やはり使うしかないのか……」
ただのハンターとしてのんびり生きたいリラクにとっては、分不相応な力。だが、力に対抗するには力しかない。その普遍の法則に頭が痛くなった。言葉や理屈では解決できないものは、結局は力に頼るしかないのだ。
腰に手を回し、短剣を強く握った。
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