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第十話 男が女の服を買うということは……

二話と三話を修正したら、更新するのが遅くなりました。

ストーリーには影響ないので大丈夫です。


 リラクは服屋を探し、町を周った。リスティの服を買うためだ。元々の服はクロウベアとの戦闘でボロボロになっていたからだ。

 ホワイトファングのユニオンハウスは関係者以外の立入は禁止なので、リスティの服を取りに行くことはできない。

 リラクは一件の服屋を見つけた。服屋の看板が出ているだけのシンプルな外装だ。

 リラクは店の扉を開けた。


「あら、いらっしゃい。何をお求めですか?」


 リラクを迎えたのは店の主人らしき妙齢の女だった。彼女は微笑みを浮かべた。

 店内には多くの衣服が棚に並べてあった。色とりどりの生地も置いてあり、仕立てもしているらしい。


「女物の服で寝間着用と外用とで、二着買いたいんだ」


 リスティが宿に泊まるのも数日の間だけなので、数はいらないだろう。


「女性用の……ですか? えっと……、贈り物でしょうか?」


 リスティにあげるのだから、贈り物といってもおかしくはない。


「まぁ、そんなところかな」


 服屋の主人は笑顔の中に疑問を浮かべているように感じた。が、リラクは気にせず受け答えをする。


「サイズはどれくらいでしょうか?」

「ん? 大きい小さいとかではダメなのか?」


「はい、もう少し情報がわかりませんと服を選ぶことはできません。サイズの合わない服を売るわけにはいきませんので」

「なるほど」


 リラクは今まで身なりを気にしたことは、あまりない。気にしても綺麗か汚いかくらいである。

 今着ている服は動きやすさを重視している。色についても森の中で目立たないために、地味な色を選んでいる。

 服を買うときは店に直接来て買うが、詳しいサイズというのは過去に聞かれたこともない。まして女物の服を買うのは今回が初めてだ。

 しかし、服のサイズはどの程度言えばいいのだろうか?

 と、首を捻った。

 考えてもわからなかったので、全部答えることにした。あいにくと、全て知っている。

 リラクはリスティのスリーサイズはもちろん、首回りから足のサイズまで全て回答していった。

 相手が男ならリスティのことを考えてまずいとは思ったが、相手が女ということもあり淡々と話していった。

 リスティの身体情報を知っているのは、彼女を回復魔術で治したからだ。目の前にある傷を治すだけならわからなかったが、彼女の場合は全身を怪我していた。そのため、彼女に魔力を流して、怪我をしている部分を探さなければならなかったのだ。怪我の箇所がわからないと、治すことはできない。

 結果、リスティの怪我を探した副産物として、彼女の身体情報を知ったのだ。

 リスティは意外にも着やせするタイプだった。常に防具を身に着けた状態でしか見たことがなかったので、わからなかった。

 リラクがリスティの身体情報を話していくと、服屋の主人は驚きから少しずつ変化し、艶めかしい視線を送ってきたように感じる。笑顔に色気が増した気がした。

 気のせいか……?


「ありがとうございます。では奥様に似合いそうな商品をお持ちしますね。お若いのに……ふふふ」

「おくさま……?」


 服屋の主人は奥の部屋に消えていった。リラクは服屋の主人の言っている意味がわからなかった。その疑問は服屋の主人が戻ってくるまで続き、最後まで答えがわからなかった。


「お待たせしました。こちらでいかがでしょうか? まずは、外出用のものですね」

「あっ、確かに似合いそうだな」


 店の主人が持ってきたのは白いワンピースだった。リラクはリスティが着た状態を思い浮かべ、綺麗だなと思った。


「続いて寝間着用ですね」


 服屋の主人のセンスなら期待できそうだと思って待っていると、出てきたものを見て目を丸くした。


「ん!? えっと……、どういうことだ?」


 台に置かれているのは黒のネグリジェだった。生地も薄く、向こうが透けて見えるほどだ。もし誰かが着たら、肌の色から何から何まで全てが見えてしまうだろう。

 寝るための衣服というより、ヤルための衣服だった。


「奥様にお似合いではないでしょうか? 奥様はスタイルも良いので、お召しになったらきっと夜の女神のようなお姿になるでしょう。夜の生活も楽しめますよ」


 服屋の主人は恍惚とした笑顔をしていた。何を想像しているかは訊かずともわかる。

 リラクは服屋の主人が何を誤解しているのかを理解し、顔を上気させた。


「はあっ!? 違うからな!? ただの友達だから!?」

「えっ……、お友達の内からそんな関係……。なんてうらやま——」

「——っ違うから!? というか、あんたの頭の中どうなってんだよっ!?」


 リラクはひとつ深呼吸をした。荒くした呼吸を落ち着かせ、服屋の主人に誤解を解けるように丁寧に説明した。


「嫁でもセフレでもないからな……。森で助けた友達が宿屋で寝ていて、その間に着る服がないから、買いに来ただけだ。彼女のサイズを知っているのも、俺が回復魔術師だからだよ。職業柄、全身の怪我を治そうとすると自然と知ってしまうんだよ……。断じて、彼女の身体を隅から隅まで調べたわけではないぞ……」


  服屋の主人は、「あっ、なるほど」と、納得した。


「そうだったんですねー。わたしもおかしいなと思ったんですよー」


リラクは安堵した。理解してくれたらしい。ただ、彼女の表情はどこか残念そうに見えるのはなぜだ。

 リラクの身体にベアクロウを倒した以上の疲労感が襲った。


「ということで、もっと落ち着いた寝間着で……」


 服屋の主人は「わかりました」と言って、新たな衣服を持ってきた。今度のは普通のゆったりとした着心地のよさそうな寝間着だ。

 リラクは深いため息を吐いて、その二着を購入したのだ。




 外を出ると、空は赤く染まっていた。町を覆っていた雲の切れ間から、太陽の光が地面に降り注いでいる。


「早く帰らないとな」


 宿屋の女将にリスティをずっと任せるわけにはいかない。

 リスティは、足早に泊っている宿屋『止まり木』に向かう。

 そのとき、一人の男とぶつかった。


「あっ、すまん」


 リラクが謝ると、ぶつかった男も謝った。


「こちらこそ、すみません……」


 そこでリラクが気がつく、


「あれ? 今朝、ホワイトファングのユニオンハウスで会った……。確か名前はカーターさんだっけか?」

「ああ、朝の……。どうも」


 カーターもリラクを認識し、軽くお辞儀をした。


「今朝は本当に助かったよ。カーターさんに教えてもらえなかったら、ずっとあの場所にいたはずだ。もしかしたら苔が生えてしまっていたかも」

「あはは……。それはどういたしまして……。ところでリスティさんとは会えましたか?」

「ああ、会えたよ。カーターさんのおかげだね」

「そうですか。それでリスティさんはどこに……?」


 カーターはリスティを探すようにリラクの周囲を見回した。


「ああ、リスティは——」


 そのときカーターから漂ってきた臭いにリラクは顔を顰めた。仄かではあるが、どこか甘ったるい独特な臭いだ。

 この臭いは……。


「どうかしましたか?」


 カーターはリラクの表情が気になったようだ。

 リラクは表情を直し、


「何でもないよ。リスティなら森で再開したあと、町に戻ってさっき別れたよ」


 カーターに嘘をつく。話してはいけないと思った。


「そうですか……」


 カーターはため息をつき、肩を落とす。その反応を見たリラクは首を傾げ、


「ん? リスティに何か用事があったのか?」

「いやいや、何でもないよ!?」


 カーターは慌てて否定した。

 リラクは「そっか」と、にこやかに笑い、


「実は俺、回復魔術師をやっているんだ。お礼と言っては何だけど、浄化の魔法をつかってあげるよ。失礼かもしれないけど、少し臭うからね」


 浄化の魔法は、穢れや汚れを消す効果がある。


「臭い……? そうかな……?」


 カーターは自分の臭い嗅いで確かめる。が、わからないようだ。首を捻っている。


「僕じゃわからないなあ……。でも、リラクさん言うならお願いしようかな」

「わかった。……浄化プリフィケーション


 カーターの周囲に青い光を発し、地面から清々しい風がなびいた。

 リラクは魔術の行使を終えたあと、カーターの様子を見る。


「……気分はどうかな?」

「ありがとう。すごくスッキリした気分だよ」


 カーターは清々しそうにしていた。浄化の魔法は、汚れを落とすとことで、気分を爽快にする副次効果がある。


「良かった。んじゃ、また今度ね」


 リラクはニコッと笑い、手を振り、何事もなかったかのようにその場を去った。


「…………」


 リラクが立ち去るのを見ていたカーターは、


「なんだったのだろうか……」


 と、ポツリと呟いた。

 カーターの纏う空気を消して……。

お読み頂きありがとうございます。

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