Happy End
彼女が警察に連れて行かれた後、台所にはこの惨状を一部始終見ていた物がいた。
それは彼女が暴れるた時に飛び散った血で、まるで涙を流しているようだった。
手に持っている誕生日カードが、その存在をさらに際立たせている。
感情のないはずの瞳が酷く悲しげに見えた。
私は気が付くと見知らぬ場所に立っていた。
全てが白く何も無い世界だった。
空もなく地面もない。
と、いつの間にか目の前には一匹のクマが居た。
クマは片手を挙げて私に挨拶して来た。
「やぁ。こんにちは。」
クマのぬいぐるみが話した事に多少驚いた。
「こんにちは。クマさん」
「時間がないから簡単に言うね。君は過ちを犯した。君は悪くない。でもやっぱり無知ってだけで罪なんだ。
そしてその咎は償われなければならない。例え輪廻に帰れなくなろうともね。でもね君を望んでくれた人がいる。
君を思い想いってくれた人が、ね。
だから君には最後のチャンスがあるんだ」
「……何を言っているの? クマさん。」
「うん。……いや、別に解らなくても良いよ。唯一つ問うよ。君はお父さんを救えなかった事を後悔しているかい?」
その言葉が引き金と成って全てを思い出した。
「……! ……パパはパパはどうなったの!?」
クマさんは一つ首を振るとこう答えた。
「ゴメンね。何も教えられないんだ。もう一度聞くよ君は後悔しているかい?」
その言葉で私は何なく分かってしまった。
後悔しているか? そんなの決まっていた。
「私は救えなかった事が……とても悔しい。」
「何処を間違えたか分かるかい?」
多分あそこだ。色々間違えたけど一番間違えたのはあそこしかない。
私はいつの間にか溢れ出した涙で息が詰まり声が出せない。
だから代わりに一つ大きく頷いた。
「……そっか。良かったよ。じゃ僕の役目も終わりだね。さぁその扉をくぐって行くんだ。そこで君に与えられた最後のチャンスがあるはずだから。……本当は使っちゃダメなんだけどね」
クマさんがそう言って笑うと私の真後ろで大きな光が弾けた。
そしてそこに大きな扉開いていた。
しかし大きな扉は普通なら威圧感さえ感じさせるものなのに、それはどこか包み込むような柔らかさを持っていた。
私は涙を拭いクマさんに向き直る。
「クマさん。ありがとう」
するとクマさんは照れ臭そうに言った。
「僕だけじゃ何も出来ないんだよ。本を読むのに読み手がいるようにね。
輪廻の輪に帰れないって言うのはそういう事なんだ。
君の罪の記録を見た人が居て、君の幸せを望んでくれなかった時。
その人がふっと思い出す場面はその記録をなぞるんだ。そこに未来はない。
つまり永遠に君は後悔し続ける訳だ。
でも君は違う。僕だけが君の未来を望んでも一通りの未来しか存在しないけど、君を望んでくれた人がもう1人でもいればいい。
少なくとも君に選択することが出来るんだからね。そこに明るい未来があればいいと願ってくれる人もいるかもしれないからね。
だから、そのお礼は僕じゃなくて、君を想って、未来を望んでくれた人にこそ言うべき言葉なんだよ」
私には良く解らなかった。
でも、ただ一つ分かった事がある。
「……そっか。……誰だか分からないけど……でも、もし本当に私を見てくれる人がいるなら、ありがとう。私は……貴方? 貴女? のお陰で、もう一度チャンスが……未来があるみたいです」
(私には難しい事は良く分からないけど、誰かの為に何かが出来る人は素敵だと思うから、私の為を『想って』くれた人に最上級の感謝を捧げます。ほんとうにありがとう。)
私は扉に吸い込まれるのを感じながら最後に一つだけクマさんに問いかけた。
「クマさん!!! 貴方の名前は?」
クマさんは嬉しそうに、また少し誇らしそうに答えた。
「僕の名前はね……」
「……う、う〜ん。…………こ、こは?」
私はベットから起き上がるとボンヤリと考えた。
(酷く辛い夢を見た気も、良い夢を見た気もするし……???)
しかし、いくら考えても答えは出ない。
しかも目が覚めてくるとオシッコに行きたくなって来た。
時刻は8時50分他の子は知らないけど寝るにはまだ早い時間だ。
トイレを済ませその帰りにパパの部屋を覗く。
やはりまだパパは帰って来ていない。
(一緒に寝たかったなぁ)
なぜか今は無性にパパの顔が見たかった。
その時、玄関の方から『ガチャ』と音が鳴り私は駆け出した。
(パパが帰って来たんだ)
私が玄関の近くまで行くとドアの閉まる音と、カギが閉められる音がした。
でも、何処かおかしい……
(???何がおかしいの?)
私は自分で自分の考えが信じられなかった。
時刻は9時を指した所。
(あたり前だよね。だってパパが私の誕生日に遅く帰って来た事なんてなかったし……)
私はパパの元へ一直線に走って行った。
「パパ! お帰りなさい!」
パパの胸元に縋り付く様に顔を押し付けた。
「……あぁ、ただいま」
そう言うパパの顔が少し困ったものに見えた。
「……? ……どうしたの、パパ?」
パパは少し言い辛そうに私にこう言った。
「……その、な……」
「……?」
首を傾げる私はパパがどうして困っているのか分からなかった。
(……もしかして、遅くなった事を気にしてるのかな?)
別にそんな事を気にしなくてもいいのに、と思って私はパパに声を掛けようとした。
それを遮ってパパは私に言う。
「……ゴメン! パパ、ウサギのぬいぐるみを買って来るって言ったけど、買えなかった」
(…………なんだ、びっくりした。)
そんな事で気になんてしないのに、でもパパがそんな事で気に病んでくれた事が嬉しい。
「別に良いよ。ちゃんと家に帰って来てくれたんだから、それで十分。……ね?」
いつもならプリプリと怒ってしまう所だけど、何故か今日は全然そんな気分になれなかった。
……本当はちょっとだけ、本当〜にちょっとだけ残念だけど。
パパはそんな私を見て目を丸くして、そうして少し悲しそうにこう言った。
「……そっか、もう大人の女の子なんだね」
パパが悲しそうに言うから口を挟まなかったけど言いたい事が一杯あった。
(……パパ……『大人』なのに女の『子』って……)
それにいつもなら大人って言われると嬉しいんだけど、今はパパの『子供』でいたい気分だった。
だからパパを見上げながら私はパパにこう言った。
「まだまだ、子供だもん。……ねぇパパ。一人でお留守番出来たご褒美になでなでして欲しいな」
大きなその手で撫でられていると自然と頬が緩む。
暫くきゃっきゃ、きゃっきゃと、じゃれ付いてパパの傍に置いてある紙袋に気が付いた。
「パパ? ……あれ、何?」
そうして初めて気が付いたという風にパパが言う。
「あぁ。その……ウサギの代わりに買って来たんだ。」
「わぁ! 本当!! ありがとうパパ。」
私はパパに一際きつく抱きつくと紙袋から包装された包みを取り出し、少し包装を破りながらその包みを開けた。
そして目に入る文字。
[HAPPY BIRTHDAY10歳の誕生日おめでとう]
そして、そのカードを持っている『クマのぬいぐるみ』と目があった。
「あ…………あ、あぁ……」
そして一瞬だけ頭にイメージが浮んだ。
辛く、悲しいイメージとその後の暖かいイメージの二つ。
声は自然と喉を振るわせた。
「……ありがとう」
自分でもどうしてクマさんにお礼を言ったのか分からないけど、
このクマさんにはそう言う事が正しい事だと思った。
私は一瞬だけ強くクマさんを抱きしめた。
優しい何かが私を包み込む。
「……ど、どうしたんだい! やっぱり、ウサギさんが良かったのかい?」
パパの慌てた声で初めて自分が泣いている事に気付いた。
「……ちょ、ちょっと待ってて、今からウサギさんを売ってる店を探して来るから!」
そう言って出て行こうとするパパを呼び止めて私は言う。
「待って! パパ! 違うの、これは嬉しくて泣いちゃっただけだから」
それでも、まだ疑問に思っているパパに私は言う。
「それにこのクマさんでいいの……ううん。違う、このクマさん『が』いいの」
「それなら、いいけど……日を改めてウサギさんも買って来ようか? 返品も効くを思うし……」
疑い深いパパに私が最後の一押しをする。
「この子が新しく来た子とケンカしちゃわないように言い聞かせなきゃ! だから、それまで新しい子は要らない。それに返品なんていやよ。……だってこの子にはもう名前があるんだもん」
すると、納得したのかそうでないのか分からんないけど、パパは少し興味深そうに聞いてくる。
「へぇ。もう名前を付けたのかい? ……それで、この子はなんて言う名前なのかな?」
「この子の名前はね…………」
私は少し誇らしげにこの子の名前をパパに教えてあげた。
Happy End!
お読み頂きまして誠に有難う御座います。
以前に携帯でチマチマと作っていたものをパソコンで修正して今回の作品としました。
ですので、多少は携帯で見やすくなっていると思います。
この話しはこれで終わりです。大分とくさい台詞になりますが続きはあなた様の胸の中、という事にしといて下さい。キャラクター全てに名前を付けてないのもその為です。
彼女の行く末が明るいものであれ、暗いものであれ楽しんで頂けましたら幸いです。
後、少し補足を、題名の1%というのは
もし、彼女が救急車を呼ぶ事を思いついたら?もし、中途半端な知識がなければ?または知識があれば?彼女が警察の人に抵抗しなければ?暗がりでのパパの顔を良く見ていれば?台所に逃げ込まなければ?などなど、パパが助かったはずの未来が数限りなくあるにも関らず、その全てに置いて間違えてしまった彼女の1%未満の確率の不幸、という意味です。
ちょっと分かりづらいのでこの場を借りて言っておきます。
そして、最後にもう一つ感謝の言葉を、ありがとうございました。