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日本語にうるさいおじさん  作者: 立川好哉
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7.誤用を正したいおじさん

 おじさんは間違った意味で使われている単語について調べていた。彼は日本語が正しく使われていれば気にならないが、誤った使われ方をされていると気になってしまうため、解説の前の誤用例を見るだけで身体が痒くなってしまう。

 以下に頻繁に目にする誤用例を示す。


 1)お前じゃ役不足だよ。もっと稽古をしてから来い。

 2)放っておけ。情けは人の為ならずだ。

 3)一人でテレビ見てたら好きな芸人が出てきたから爆笑しちゃった。

 4)会議が煮詰まったので、明日に持ち越そう。

 5)彼は窓際で黄昏れていたよ。

 

 これらすべてには誤用された単語が使われている。それぞれを順に解説したい。


 1)の誤用部分は『役不足』である。もっと稽古をしてから来いと言っているので、言われる側の人間は能力が不足していることがわかる。『役不足』とは『役割が、担い手に対して不足していること』であるため、文を少し変えると、

 

 お前に対して役が不足しているよ。もっと稽古をしてから来い。


 となる。役が不足しているならば稽古をせずともその役を担えるはずである。この間違いを避けるために、『役のほうが不足』と記憶するとよい。


 2)の誤用部分は『情けは人の為ならず』である。放っておけと言っているのに『情けは人の為ならず』と続けるのはおかしい。『情けは人の為ならず』の意味は、『人に親切にすればその人のためになるだけでなく、いつか報いとなって自分に戻ってくる』である。『為ならず』を『為ではない』としてしまうと、『人に親切にするとその人のためにはならない』となってしまう。『情けは人の為のみならず』であれば、その人のためになるだけじゃなくて何か他のことがあるのだろう、と思えるので、惜しいと言いたい。


 3)の誤用部分は『爆笑』である。この単語の意味を『爆発的に笑う』『爆発したように激しく笑う』と誤解したまま使うと、『一人が爆笑』問題が発生する。『爆笑』の正しい意味は『大勢がどっと笑う』ことであるため、一人が爆笑することはありえないのである。誤用した人の中に多数の人格があり、それがどっと笑ったのであれば、一人で爆笑することができている…と言えるだろうか。


 4)の誤用部分は『煮詰まった』である。煮詰まったのにどうして会議を持ち越すのだろうか。『煮詰まる』を『固まる』というイメージと結んでしまうと、『結論が出ず、もしくは合意に達せず、会議が終わらなかった』という意味で使ってしまうかもしれない。『煮詰まる』は『結論が出る』『合意に達する』ことであるため、会議は終了しており、明日は別の会議を開くことができる。煮詰めて完成させる料理を作れば、この問題を解決できるかもしれない。


 5)の誤用部分は『黄昏れていた』である。おそらく外を見て物思いにふけっていたと言いたいのだろうが、このままでは『勢いが衰えた』=『元気がなくなって弱弱しくなった』となってしまう。窓際で弱弱しくなる前に、保健室に行って欲しいものだ。誤用を避けるためには、使う時間を夕暮れ時に限定するとよい。


 そんなことを考えていると外が黄昏れてきたので、おじさんは夕飯の支度を始めた。その途中にEメールが届いた。『日本語を学習する子供たちのために、五十音などの日本語の基礎を教えてあげて欲しい』とのことだった。これは日々日本語について考えるおじさんにとっては役不足である。夕飯を食べながらテレビ番組を見ていると、芸人のモノマネに観客たちが爆笑する様子が映った。夕飯を食べ終えたおじさんの携帯電話に着信があり、アロハ男が新しい小屋を造りたいので手伝ってくれと頼んできた。情けは人の為ならずなので、おじさんは明日の昼頃迎えに来てくれれば手伝うと言った。アロハ男は電話を切り、Eメールでデザイン案をいくつか送ってきた。おじさんは自分のデザイン案を送り、アロハ男と何度も意見を交換した。深夜になる前に煮詰まったので、おじさんは日を越す前に眠ることができた。


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