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日本語にうるさいおじさん  作者: 立川好哉
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5.比喩表現を豊かにしたいおじさん

 昼食を終えたおじさんとアロハ男は再びコテージに戻り、おじさんは語りを再開した。

 

 テレビ番組やラジオの出演者が何かに対して『~みたいですね』と言ったとき、『ここでその喩えが出るか、すげぇな』と思ったことはないだろうか。巧みな比喩で笑いを誘うのは会話のテクニックの一つであり、話題の人物や流行などが喩えられやすい。以下に例を示す。


 【状況】背の高いスキンヘッドの友達が、食事会にスーツとサングラス姿で来た。

 『お前なんでその格好で来ちゃったんだよ。SPみたいになっちゃってんじゃねぇか』

 

 『SPみたい』が比喩表現である。比喩がなければ『お前なんでその格好で来ちゃったんだよ。怖いよ』で終わるところを、『SPみたいになっちゃってんじゃねぇか』とすることで『SPみたい』かどうかを他人に判定させ、そう思った人は笑ったり、『俺もそう思った』と言ったりするだろう。これで『怖いよ』で完結してしまうことを防ぎ、楽しい会話を続行させることができた。

 別の状況でも会話を続行させるきっかけになるか検証する。以下に例を示す。


 【状況】友達が、彼の身体の大きさに合わず大きい服を着ている。

 「お前その服大きすぎだろ。マスコットキャラみたいになっちゃってんじゃねぇか」

 

 『マスコットキャラみたい』が比喩表現である。『お前その服大きすぎだろ』で終わってしまっていたら、友人は批判されたと不快感を示すかもしれないし、そうでなくても『そうかい?』と返し、面白みのない会話になってしまう。そのあと『最近こういうのが流行りなんだよ』と続くが、それに対しては『そうなんだ』で終わってしまう。それよりも『マスコットキャラみたいになっちゃってんじゃねぇか』と続けることで、友人に様々な返しを期待できる。友人は『マスコットキャラじゃねぇよ』と言ってツッコミをしてもよいし、『ぼく、ビッグシャツくん!』とマスコットキャラのふりをしてもよい。このほうが淡々と会話をするより笑いを生み出せるだろう。機械的にストレートばかりを投げ合うより、時にはカーブ、時にはナックルと投げる球種に幅を持たせてやれば、キャッチボールを長く楽しめるだろう、ということだ。


 様々な球種を投げられるピッチャーになるには知識の吸収と練習が必要であるのと同じく、豊かな比喩表現を使えるようになるには、知識=語彙の吸収と練習=会話が必要である。語彙の吸収に役立つのは何だろうか。これも野球に喩えるとわかりやすい。ピッチャーになりたい人は上手なピッチングの方法を学び、何度もボールを投げる。それを上手くなりたいという意欲、野球を知りたいという好奇心が支える。語彙の吸収に関しても、もっと言葉を知りたい、トーク力を向上させたいという意欲・好奇心が支えている。そのため、興味のある事に積極的に手を伸ばせばよい。おじさんが日本語にうるさくなったのは、彼が友人を楽しませるために語彙力や表現の豊かさを欲したからである。

 語彙力や表現の豊かさを欲するならば、面白い芸人のラジオを聴くだとか、人気ゲーム実況者のトークを聴くだとか、興味のあることと繋げればよいだろう。そうでなくても、友人と会話をするだけでも自分にはない語彙や表現を教えてくれるかもしれないので、効果はあるだろう。単語帳を黙々と読むより、楽しく学べるはずだ。


 おじさんが島に帰る支度をしているとき、アロハ男ははっきりしない滑らかな声で言った。

 「わりぃな、さっき飲んだジュースは酒だったわ。船操縦できねぇから今日は泊まってくれや」


 おじさんは持ち上げた荷物をコテージの床に下ろし、新たな日を迎えるまでアロハ男とその妻と語り、深夜になって眠りについた。彼はどんな夢を見たのだろうか。


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