8.代替を探すおじさん
今回は障がい者について扱います。不快に思われる方がいらっしゃるかもしれません。あらかじめご了承ください。
おじさんは日本の新聞を読みながら、昨日友人から届いたオレンジジュースを飲んでいた。彼が気になったのは、『障害者 害と言わないで』という見出しだ。記事は『害』という文字を使った言葉は全体が悪い印象を与えるものとなってしまい、人のことを指す『障害者』という言葉はその人が害であるようなイメージを与えるため、『害』の文字を他の文字に代替するべき、という意見が多数出たことを紹介している。この記事に対するおじさんの感想は、『気にしなけりゃいいのに』であった。
記事を読み進めると、『障害者』を『障碍者』や『障がい者』と改める動きが始まり、既に公文書や新聞などは新たな表記を採用しているとあった。おじさんの疑問は、改めたら何かが変わるか?というものだ。
『害』の意味は『悪い状態にする』『不幸なこと』であり、この字を含めた『障害者』では『害』の意味ばかりが先行し、不愉快な単語として認識されるかもしれない。
『碍』の意味は『さまたげるもの』であり、『害』より『障がい者』の『がい』に当てはめるには適した文字だといえる。ただしこの『碍』の字は、極めて限定的に使われている文字だ。この文字を使った単語を思い浮かべて欲しい。おそらくすぐには思い浮かばず、文字を検索してはじめて『碍子』という言葉を見つける人が多いだろう。『碍子』とは磁器製の絶縁体のことであり、電線の一部分として使われる。電気の流れを妨げるものであるため、『碍』の字の意味に違わない。
さて、二つの文字の比較を終えた今では、『障害者』より『障碍者』のほうが適していると思うだろう。しかし、文字ではなく、『障害』と『障碍』の熟語を比較すると、おじさんと同じことを思う人がでるかもしれない。
『障害』も『障碍』も『碍』の字と同じく『さまたげるもの』を示す。したがって『障害者』と『障碍者』はまったく同じ意味である。意味が同じなのに、『害』の字が入っているからという理由で『障害者』を『障碍者』とは別の言葉のように錯覚し、前者を忌み嫌うのだ。つまり、おじさんの言った通り『気にしなければよい』のである。
ネガティブな印象を抱かれないようにしたいのであれば、『しょうがいしゃ』に漢字を当てたものを使わず、別の表現を用いればよいとおじさんは思った。障碍者を英訳すると、handicappedであり、これは『不利な条件を持つひと』と訳せる。『不利』は『害』という言葉より幾分ましであろう。サッカーの試合で相手に先制点を許した時、『不利な状況だ』とは思うが、『害だ』とは思わない。つまり、『不利』は『害』よりマイナスの値が少ないということだ。ただ、『不利な条件を持つ人』を『障碍者』の代替とするには、あまりにも長い。かと言って『不利者』と言えば別の問題が発生する。したがって、ネガティブな言葉を使わず、ポジティブな言葉を使って『障碍者』を呼べばこの問題を解決できる。
たとえば『挑戦者』…障碍を乗り越えようとしている人 と呼べば、『障害』に抱く悪印象をまったく感じずに済むだろう。もちろんこの単語だけでは障碍のない挑戦者と区別できていないので面倒事は起きるだろうが、その前後の会話などによって察することはできるのではないだろうか。
おじさんはさらに適した言葉を考えることを短期的な目標としつつ、語りの最後に大切なことを語った。
障碍者を指す単語に『ガイジ』というものがある。これが『害児』なのか『碍児』なのかが非常に重要で、前者である場合は用いると差別に該当する。そもそも『障碍児』を略す必要はないし、この呼び方が専ら差別を目的として使われることから、この単語は駆逐しなければならない。おじさんはこの単語を発したものには毎回一時間ほどの説教をしてきた、と駆逐に寄与したことを語り、この話を締めくくった。




