いざ、金策へ走れ
「金が……無いッ……!」
嘆く俺。
実際問題困った話で、日光を喰らい続けたら死んでしまう。死ななくても弱体化してしまい、いい事はない。あと、まあこの体になってからは日光を浴びると言いようもない不快感がある。
路銀って言うくらいならもうちょっとくらい融通してくれてもいいのに……と、思っても仕方がない事を思いながら、自業自得という言葉を噛み締めていた。
先にお金を稼いでおくという案が無かったわけでないのだ。ただ、案内しますと息巻いているナーミアにお預けをくれてやるのがどうしても出来なかったというか、そこまで急務になるとも思っていなかったというか。
見たこともない世界がいっぱいに広がる新しい俺の人生の始まりに、俺自身も結構浮かれてしまったという部分は確かにあると認めねばなるまい。
「うーん……手っ取り早くお金を稼ぐ方法とかない?」
「流石にそこまで美味しい話は中々……」
苦笑するナーミアに、だよなぁ、と意気消沈しかけたとき、代わりに俺は、ん? と首を捻った。
この身体になってから視線に敏感になったように、前こそは感じなかったものの、今だから──吸血鬼の身体だから感じ取れる何かが引っかかった。
「……嘘ついてない?」
「………………はい」
正直か。
隠したからには理由があるのかもしれないが、俺としては教えてもらわないと本当に困る。
「あるんなら教えてくれ。割と死活問題だ……頼む」
「う、うぅ……でも、危ないですし……」
「そこを何とか……! 仕事の危なさの前に金銭面で死ぬ……!」
「そ、そこまで切羽詰まっていたんですか……つかぬ事をお伺いするんですけれど」
「何だ?」
「腕に自信とか……おありですか?」
あれっもしかしてヤバイ系?
しかし、俺にはもうこの道しか進むべき道はないのだ。
俺が力強く頷くと、少し渋りながらも、ナーミアは再び俺の手を引いて歩き出した。
◇◆◇◆◇◆
西部劇のバーの入り口のような両開き扉をギシリと押し開けると、そこには喧騒が広がっていた。
「さぁぁ!! お立ち会いっ!! いよいよこの見世物もクライマックスだ! 賭け金はもういいかい!?」
昼間から酒を呑み比べる大男達。一人が丁度脱落し、椅子ごと後ろに倒れた。周りで見ていた野次どもは更に熱狂を熱くしている。実況は白熱した雰囲気を盛り上げるのに一役買っていた。
別のところに目を向ければ、打って変わって本を机に山盛り置いた少女が大人しく熱心に本を読んでいたり、備え付けのバーカウンターではチャラチャラとした男が制服を着た店員らしき女性を口説いたり。
「テメェ!! 俺を嵌めやがったなぁ!」
「あぁ!? ふっかけてんじゃねぇよ、やろうってのか!?」
時折怒号が聞こえ、筋骨隆々な巨躯が宙を舞い、落下してテーブルをなぎ倒し飲み物をぶち撒けるのも珍しい光景ではなかった。
見た目は酒場のようだが、それにしては荒々しく、モラルもクソもないような混沌だ。ここは、一体?
ナーミアは辺りを見渡し、相変わらずだなぁと一つため息をつき、勿体ぶってから言った。
「ここは、冒険者ギルド……依頼をこなして報酬をいただく、荒くれの傭兵達が集う酒場です」