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ナーミアくんの魔法講座

 もう少しですよ! というナーミアの嬉しそうな声を聞きながら歩いていくと、遠目にずらりと長い行列が見えた。

 ナーミアの言う通り確かに人気の場所らしい。この時代は本も高級品だし、当然スマホもないだろうに、大人しく列に並んでいるってのは余程のことだろう。行列が前に伸びてしまっている店の店員が迷惑そうに顔をしかめているが見えたが、日本ほど列整理が整っているわけでもないし、しょうがない。

 列の先は、小さいボロボロの掘建て小屋のような建物で今にも倒れてしまいそうな様相だ。

 人気スポットにはそぐわないボロさ加減だが、ナーミアが言うにはお金はあまりかからないらしいからその辺りが関係してると思われた。


「結構な盛況ぶりだなぁ……いつもこうなのか?」

「そうですね、今日はちょっと少ないかな……連れてきてしまってから言うのもなんですけれど、お時間とか大丈夫ですか? 並ばないといけないですし。どうしても駄目なら抜け道はないでもないですけれど……」


 申し訳なさそうに上目遣いに聞くナーミアの髪を優しく梳いてやって、俺はなるべく穏やかそうに見えるよう微笑む。


「や、いいよ。待つのは慣れてるし。横入りとか好きじゃないんだ、俺。マナーもルールも、守らなきゃ後で存分に楽しめないだろ?」

「……はい! ありがとうございますフィリアさんっ」


 なんでお礼?

 まぁ、悪い気はしないからいいけど。

 また新しい人が何処からかやってきて列に並びかけたから、俺は慌ててナーミアの手を引き、列に並んだ。


「並んでいる間は少しお暇でしょうから、魔法の説明でもしましょうか? といっても、ファニーマン先生ほどは上手くできないですけど……」

「あ、そうだな。魔法ってなんなんだ? 人々の生活に関わってたりはするのか?」

「そうですね。まず魔法というのは、体内にある魔力であるオドを自然界中に存在する魔力であるマナとを結合させ、事象を改変する技術のことです。例えばこう、火を点けたりとか、水を出したりだとか。高位の魔法使いともなると、一人で天変地異を起こしたりも出来ると聞きますよ。人々の生活にも勿論役立ちますから、村に一人魔法使いがいるのといないのとでは全然労働の過酷さが違ってくるそうです」


 おお、ファンタジーっぽい。

 一人で天変地異は流石に尾ビレが付いている気がしないでもないが。ちょっとチート過ぎるだろう。


「魔法は素質のある人だと、そうですね……三年くらい特訓をすれば簡単な魔法は使えますね。小さな火を点けるティンダーとか、コップ一杯分くらいの水を出すクリエイト・ウォーターとか。まぁ、魔法はそもそもある程度素質がないとどれだけ頑張っても使えないんですが」

「結構かかるんだな……それだけで三年もかかっちゃうのか」

「最初は感覚を掴むところからですから、そこが一番時間がかかると聞きますしね。天才と呼ばれるような人……それこそ、今からいく塾の経営者であるファニーマン先生なんかは、ハイハイするより早く焔の竜巻を起こしたなんて話もありますし。制御出来なくて家が何度も灰になったとか」


 なんだその物騒過ぎる赤ん坊。軽く兵器じゃねーか。小さな身体に対して過剰戦力すぎるだろう。


「まあ天才なんてそうそうはいませんし、時間をかけてじっくりと上達するのが普通なんですよ。だからこそエルフが魔法に長けているんです」

「だからこそって……何でだ?」

「エルフは長寿なんですよ。五百歳くらいまでならけろっとして生きています」


 なんかその理屈だと、滅茶苦茶魔法が強い吸血鬼とかいそうだな……あの老人とか、余裕で三万歳超えてるらしいし。


「僕はまだ十二歳ですけど、母は見た目は人間の二十歳くらいに見えて百八十はいっていたと思いますし、本当見かけによらないんですよね」

「はぁ……あれで二百歳近いのか……」


 恐ろしい程の若作りだ。エルフには軽々と声をかけられないな……まぁ、女になってしまったのでナンパとかはすることもないだろうけど。


「で、じゃあそのファニーマンってのは何者なんだ? なんか名前からして胡散臭いんだが」

「ファニーマン先生は……凄く偏屈な人って事はわかるんですが、それ以外は何もわからないんですよね。何を聞いてもはぐらかしますし。あの塾も、気づいたらいつのまにかあったって感じで……赤ん坊の頃に云々っていう噂も、先に噂が元々あって、ファニーマン先生が『あ、それ俺のことだわ』とけろっと言ったので、ファニーマン先生の魔法の腕前は他の追随を許さないところがあるので、まぁそうなんだろうと……や、いい人なんですよ!? いい人なんですけど……」


 なんだその死ぬほど胡散臭い奴。

 聞けば聞くほど会いたくない、というか……ナーミアが言うならいい奴という評価に嘘はないんだろうけれど。


「……ま、まぁ、会ってみたらわかると思います……最初に言っておきますけど、何があっても驚かないでくださいね、本当に……」


 どういう事だ? と問い返すより先に。

 目的地である小屋から悲鳴が轟き、木霊した。

 ……えぇ……?

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