プロローグ
ガラガラ、という聞き慣れない乾いた音。
横に倒している身体が音と同期して、頻繁に小さく跳ねる。
「お客さん、もう少しで着きますぜ」
御者の野太い声が、まだ不明瞭な脳に届く。
「んっ…………あぁ、ありがとう」
小さく呻いて、身体を起こす。
急に身体を起こしたせいか、視界がくらりと揺れる。
「大丈夫かい? 着くとは言ったけど、ちょっと街の検問は混んでるみたいだしもう少し寝られそうだよ」
「あれ、そっか……あぁ、着いたら起こしてって言ったな、そういえば……」
まだ時間はある、というのに起こしたのは何故だろうと思ったが、頼みが若干不明瞭だったか。
その辺りも、勉強しないといけない。
「希望にそぐわなかったならすまないね。街に入ってから起こせばいいのか、ちとわからんかったんで、早い方がいいだろうと」
「いやいや、俺が悪いからいいさ。それに、旅の始まりなんて何処からでもいいだろうし」
そう、これは俺の旅の始まり。
何が起こるだろう。そこに何があるのだろう。
わからないから面白い。
わかってちゃ、つまらない。
旅ってのはそういうもので、筋書き立てて行うものじゃないんだから。
アクシデントも、鼻で笑って次の瞬間を楽しもう。
「しかし、お嬢ちゃん……べっぴんさんなのに自分の事を俺、何て言いかたするなんて、変わってるね。それにいつもフードを被ってるし」
「……やっぱ変かな」
「沢山人がいればそんなこともあるだろうけど、いや、勿体無いと思ってなあ」
俺は苦笑して、確かにな、と笑い返した。
景色が止まり、馬車が長い列の最後尾に並んだ。
もう少しで、最初の一歩は下りる。
俺の胸の高鳴りは、誰にも止められない。