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プロローグ

AD3140年11月6日


 体が、徐々に重くなってきている。

 コクピットの中で既に一時間半。気を、その間機体にゆっくりと吸われていく。


 正直言うと、疲れてきた。だが、今、国の大事を成すためには、この程度の疲れを疲れといってはいけないのだ。

 XA-006紅神(こうじん)。ミリタリーバランスをも一変させると言われる、プロトタイプエイジス。これがほぼ完品に近い状態で、地層から発見された。


 この力。この力があれば、腐敗しているラスゴーを救えるかもしれない。そしてその力がどの程度か、それを試すために、わざわざ日本の一区画の住人を全て避難させた上で実験なぞを行うのだ。

 チャージが完了するまで、後三分。三分後にどれ程の力をこの機体が発揮するのか、正直、自分にも分からない。


 ただ、言えることが一つだけある。この兵器は、使いどころを間違えば世界を滅ぼす。

 この気の吸われ様、チャージする時間。どう考えてもただのエイジスの力とは思えない。

 だが、だからこそ、自分はこれを御さなければならない。そして、この力を持って民を守る。それが、軍人としての責務だろうと、常日頃から思っている。

 しかし、だとすれば、何故心にはむなしさが溢れているのだろう。


 カウントが一〇を切ったと知らせたのは、そんな時だった。

 一度、小さく息を吸って、吐いた。

 直後、カウントが〇になる。

 紅神の持つ『デュランダル』の銃口から、赤い気の炎が一気に吹き出した。


 大地が、抉れていく。その光景以外は、ただひたすらに、赤が広がっている。

 意識が、遠のいてきた。目がかすんでいく。


 死ぬのか、俺は。


 一瞬だけ、そう思った。


「死ぬにはまだ早かったようだな」


 医者の顔が、目の前にあった。確か、名前は『(ライ)白文(ハクブン)』とかいっていた。

 何故か、自分は寝かされている。夢なのかとも思ったが、現実味がありすぎる。

 ちらと横目に見ると、点滴が何本もつながれていた上に、少し手がやせ細っていた。


「俺はコクピットにいたのでは?」

「そのコクピットの中で、干涸らびる寸前まであの武器に気を吸われてたんだ、お前は」

「それほど、だったのか」


 ああ、とだけ、白文は頷くが、表情は暗い。


「俺は、どれ程寝ていたのだ?」

「三日だ。ついでにお前の機体の戦果、見てみるか?」


 そう言われたとき、何故か、心が疼いた。

 だが、見ないわけにはいかなかった。点滴を外してもらった後、上着を羽織り、外に出る。


 風がかすかに吹いている。高台の上に陣営を構えていたため、風は地上の物よりも冷たく感じた。

 空模様は夕暮れなのか、朝焼けなのか、よく分からない色に染まっている。

 ただ、赤い。

 そして、高台から見上げた大地、否、海がその陽光を照らして赤く染まっていた。


 しかし、この場所に、海など無かったはずだ。三日前まで、この陣地からは、ただひたすらに住宅街が広がっていたはずだ。

 その痕跡が、跡形もなく吹き飛んでいる。


 何が起こった。

 紅神。あれが持つ、デュランダル。それが大地をえぐったのか。


「お察しの通りだ。区画は崩壊したよ、物の見事にな」


 白文が、タバコを吹かしながらあきれるように呟く。


「ついでに、あのデュランダルとかいう武器も、使い物にならなくなったそうだ。一発でひしゃけたみたいだ。実際、上層部の連中も、これほど破壊力があるとは思ってなかったらしい」


 心臓が、疼いている。


 俺は、この力を、本当にこの国のために使いたいのか。

 全てを破壊する、力。全てを消し去る、あの炎。それを、腐った国のために使う価値があるのか。


 それだけが、疑問として頭を駆けめぐっている。

 だが、国に忠は尽くすべきだ。それが、軍人としてのあるべき姿だ。

 しかし、人としては、どうなのだろう。


「俺は、何のためにこの力を持ったのだ」


 海に向かって問う。答えは、帰ってこない。

 海鳥の鳴き声だけが、ヴァーティゴ・アルチェミスツの耳に響いていた。


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