8、外の人形
庭には円が描かれており、その真ん中には外の人形がおかれている。
その傍ら、昨日はシルリアが座っていたベンチに、今日は大剣、長剣、レイピア、短剣、ナイフ、斧、槍、薙刀、鎌、鉄鞭など様々な武器が鎮座していた。
興味を惹かれ大剣を手にとってみる。
「重い…」
両手を使い全力で持ち上げてみたが、少し浮く程度しか動かせない。
長剣は10kgくらいだろうか、何とか振り回せる。
それを持って人形のもとへ行く。
今日は昨日と違い鉄パイプみたいなのを構える人形。
踏み込みと同時に鉄パイプが空気を裂く。
悠斗は右に移動しつつ腰をおろしそれを避け、長剣を横薙ぎに振るう。
人形はすばやく戻した鉄パイプでそれをはじき、振り切って無防備な悠斗に当身を食らわせた。
「ぐぁっ」
後ろに吹っ飛び四つん這いになる悠斗に、追撃を食らわせんと鉄パイプが振り下ろされる。
右に転がり何とか避けた悠斗だったが避けた先へさらに追撃が…
「あれ?」
人形はすぐ横にいる悠斗を無視している。
間を分かつのは円を構成する線。
悠斗は立ち上がり、片足を円の中へ入れる。
人形はすぐさま振り返り、鉄パイプを振りかぶって…
…悠斗は円の外に出る。
鉄パイプを振りかぶっていた人形は何事も無かったかのように円の中心へ歩いていった。
「円の中だけが感知範囲なのか。」
だからといって何のハンデにもならないが。
とりあえずひとつ分かったことがある。
「長剣じゃ勝てん」
もしも悠斗が剣道部にでも所属していれば長剣を使って勝てていただろう。
しかし、悠斗は弱小野球部に所属しており、腕力は部内で一位二位を争うほど低く、何かを横に振るとそのまま振りぬいてしまう癖付きだ。
よって長剣じゃ勝てん。
「やっぱこれかな」
昨夜、散々使い込んだため手になじむ短剣を手に取る。ついでに似たような短剣も左手に取る。
※※※
息を整える。
もう何度目の挑戦か覚えていないが、今度こそはとぎゅっと短剣の鞘を握り締める。
ゆっくりと歩いて近づく。
リーチの長い向こうの一閃を上体を反らして避ける。
「はぁっ」
踏み込み右腕を振り下ろすが鉄パイプで防御される。
「なら!」
左腕を思いっきり振り上げてガードを浮かせる。そして人形の空いた腹部を右で突く。
やっとのことで当てた一撃は、カンという軽い音とともに鎧に弾かれた。
「なっ!」
左から人形の一撃が襲いかかる。
自由だった左腕でガードをするが、力負けし左肩に当たる。
「くっ」
薙ぎ倒されかけた悠斗は、悪あがきのように右手に持っていた短剣を投げる。
胸元を狙って投げた一刀は少し狙いをそれて、人間ならば顔があるべきところに向かい、そこにあった『外の気』を切り裂いた。
動かなくなる人形。
「……もしかして、壊れた?」
ちょこんと指でつつくが反応は無い。
右腕で先ほどの動きを再現しにやりと笑う悠斗。
その日、ベンチの上から十本の短剣とナイフがなくなっていたのは余談だったりする。
※※※
「なあシルリア、この家に裁縫の道具ってあるか?」
「あるわよ」
――以上、本日夕食時の全会話を抜粋――
※※※
チクチク…
チクチク…
チョキチョキ…
チクチク…
夕食が終わって、悠斗は一人自室にこもり裁縫をしていた。
チクチク…
こっちに来たときに着ていた制服は棚の奥にたたんでしまってある。
ガサゴソ…
大して勉強も出来ず、運動も得意というわけではない悠斗にある唯一の得意分野がこれだ。
チョキチョキ…
すなわち家事。
料理も地球の道具と地球の材料があれば十分おいしいものを作る自信がある。
チクチク…
漢なら漢らしく生きろ!という父さんの言葉がリフレインする。…今頃何してんだろ…
チクチク…
家事スキルは異世界でも十分役に立つことが判明したし別にいいだろう。
「ふぅ〜」
完成したのはポケット。通常の位置に一対、両膝、両腿にもつけた。
…全て武装用だ。
それ以外にもベルトを通すところを短剣用のサイズに変更したり、袖口にナイフを隠し持つことが出来るようにした。
全てのポケットに実際に入れて動いたり取り出したりしてみる。
問題点はなさそうだ。
※※※
今日は朝に起きれたので俺が朝食を作ることになった。
野菜スープとスクランブルエッグにトースト。
まだこちらの世界の器具や食材に慣れていないので傑作とはいえないが、それなりにおいしかったと思う。
…無論シルリアは何も言わなかったが…
「シルリア、外の人形はもう壊したけど今日の訓練はどうするんだ?」
運を実力に加えた発言。
「仕事にでもついて来る?」
投げやりな発言。
こうして悠斗は仕事に参加することになった。




