5、青ぷる
夕方、悠斗はシルリアの家(屋敷)へと歩いていた。
あの後、喫茶店へ行った。アンティークな感じの店でのシルリアとマスターの会話によると、
マスターも知らないらしく首を横に振っていた。
そして、話を終えたシルリアは「次の場所へ行くわ。」と言い歩き出した。
組合と喫茶店だけじゃなかったのかな?と思いながら歩いていた俺が到着した場所はパン屋。
その後、青果店や精肉屋、呉服屋、雑貨店などを回り…
その結果は今の両手の通りだ。つまり、
「俺の立場って…」
「荷物持ち。」
清々しいほどにあっさりと答えられる。だからこそ、余計に悲しい。
トボトボ歩く。
「ちょっと待って。」
いきなりかけられた真剣なシルリアの声。
「へ?」
などと間の抜けた声を出していた俺は即座に後ろ襟を掴まれ姿勢を低くさせられる。
「何なんだ、いったい?」
「外獣よ。」
「外獣!?」
例のライオンを思い出し姿勢を低くしてあわてて周囲を見渡す。シルリアが身を隠そうとするほどの外獣だ、相当強いのだろう。
「あそこのいる。青いの。」
キョロキョロ見回していた俺にシルリアは指で指して教える。
透き通った青色のボディ、表面は艶やかに光っており、つぶれた球のような外見を持つ、柔らかに動くモンスター。
どこかで見たことのあるようなソイツの名は…
「スライムよ。」
度重なる勇者の進行により絶滅しちゃいそうなソイツはぷるるんとたたずんでいた。
シルリアは目を離さずに低く構えている。
「組合にナッシュの援護頼みに行って。」
(え!?あいつ相手に!?)
「早く!」
ただならぬ気配に気おされてシルリアから離れる。
少し走って振り返るとちょうどシルリアがスライムに見つかったところだった。
※※※
悠斗は離れたようだ。さすがのシルリアも悠斗をかばいながら戦うほどの力はない。
悠斗の走る音で気づかれたみたいだったので立ち上がる。あたかも相手はこっちだと言わんばかりに。
スライムは蛇のように地面を這ってくる。
しばらく間合いを計るかのように横に移動していたスライムはいきなりスピードを上げて突撃してきた。
魔法で障壁を張ってスライムを弾き返すが、その一撃で障壁も破壊される。
「クッ…」
シルリアは落ちていた拳大の石を拾う。
石に耐久性上昇の魔法をかけ、爆発系と風操作の魔法を使い石を吹っ飛ばす。
その石はスライムの少し前に着弾した。
コントロールをミスって外れたのではない。
スライムの体は固体より液体に近い性質を持っている。なので直撃させるより少し前に狙いを定め、吹っ飛ばしたほうが効果がある。
スライムを倒すには炎系の魔法で蒸発させるしかない。しかもスライムはスピードもあるのでその魔法は広範囲でかつ確実にしとめられるほどの火力を持ってなければならない。そして、敵はそれを使わせてくれるほどのろまじゃない。
(ナッシュがいれば時間稼ぎはしてくれる)
※※※
(ここのスライムってこんなにも強いのかよ)
小さな魔法陣がいくつもできたり消えたりする。あのときのスプーンみたいに石を飛ばす、火の玉の連弾、地面から出てきた手で叩く。
しかし、スライムはまだ動く。
(なんて化け物だよ)
悠斗は走り出す。
全力でキセムの町へ走る。
勇者ならここでシルリアを助けに行き、スライムを一緒に倒して、恋愛発生イベントでも発生させているだろう。
しかし、彼は悠斗だ。
悠斗にはー武術を習っていたーとかー路地裏のケンカで負け知らずーなんていう過去はない。
だから悠斗は走る。
記憶を頼りに組合のほうへ走る。
だが、
「くそっ、組合はどこだよ。」
たった一回行っただけでは道を覚えられない。
荒れる呼吸を無視し、あたりを見渡す。
当然、見覚えのある場所ではない。
「あー、シルリアちゃんのお連れさんやん。」
聞き覚えのある訛りにガバッと顔を向ける。
キセム治安維持防衛組合組合長、その名は………たしかナッシュ。
「どないしたん?」
「……スライムが出て…シルリアが……援護…を……」
「シルリアちゃんが援護!?ちと道案内してもらうで!」
ナッシュは悠斗の腕を掴んで走り出す。
「にいちゃん、馬乗れっか?」
乗馬経験?そんなものは勿論無いので首を横に振る。
「じゃあワイと一緒に乗ってもらうで。」
馬小屋は城壁のところにあるようだ。
ナッシュは俺を馬に乗せ、自分も同じ馬に乗った。
「ほな、行くで。」




