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19、ヒトヲ終幕ヘト誘ウチカラ

立ち上がってきたデーモンに最初程の恐ろしさはなかった。


一方は両腕から青紫色の液体(おそらく、血)を流していていて、もう一方は右腕の手首から先が潰れていた。


敵を前にし、シルリアの目が細まる。



またも一瞬でシルリアの両隣に詰め寄るデーモン。


しかし、やはりそこにシルリアはいない。


デーモンもそれは予測の範囲内だったのか、攻撃のモーションに入らず、そのまま弾かれたように大きく移動し辺りを見渡す。


それでも、シルリアの方が一枚上手だった。




360°どこを向いてもシルリアはいない。


   ―薙ぎ払うは焔にて、―


かと言って遠くへ離れた訳でもなければ、障害物の影にいて見えない訳でもない。


   ―尽きるを元に―


無意識の内に視野から外されていた上空からシルリアが舞い降りた。


   ―隣を焼き尽せ。―


シルリアに気付いた二体のデーモンが標的を破壊せんと一気に迫る。


…結局、それが仇となった…




  ―  炎  旋  ―  」




狭い範囲ながら威力は強力な詠唱魔法が始動する。


シルリアに向けて突き出される拳の前に赤い壁が発生し、拳は突如自然発火して赤い壁に触れたところから蒸発していく。


拳を戻そうと脳が判断を下す頃には既に炎旋の膨張が始まり、手首、肘、二の腕、肩と呑み込んでは消し、脳の判断が体の各部に伝わる頃には脳も蒸発していた。




※※※




紅き旋風を伴って降臨した銀の支配者は、熱された地面の温度など感じぬかのように歩き出す。


その先には黒髪黒眼の少年とショートカットの少女が呆然としており――



――一組の男女を一切気にせず素通りし、更にその先にいた魔術士へ近付く。


魔術士は、デーモンという強力な外獣を二体まとめて無傷で倒したシルリアに恐怖し震え始めた。


「あのデーモンとキマイラの制御はどうやってやったの?」


知識欲全開のシルリアの笑顔に、反って恐怖が増したのか魔術士は歯をカタカタ鳴らすばかり。


その反応にシルリアは少し不機嫌そうにし、片手を魔術士の額にかざした。


「Ι ωαντ ψουπ ινξοπματιον. Σηοω με ψουπ πεμεμβπανγε.」


唱えるのはウイグル、デイスの二つの世界で公用語とされている言語。


いや、似ているが微妙に違う一般に“呪語(じゅご)”と呼ばれる蛮術用の言語だ。


シルリアの掌の向こうで魔術士が体を強張(こわば)らせ、ガタガタと今までとは違う不自然な震え方をする。


次第に目が白眼を剥き、口から泡を吹き始め……シルリアが手を戻した。


途端に魔術士は全身の筋肉を弛緩させ地に伏し、時折体を痙攣させる。


口から漏れる唾液すら拭おうとしないその姿は、生きていると言えるのか疑問に思ってしまうほど現実離れした様態だった。



シルリアは用が済んだのかその魔術士には目もくれず、何人もの他の魔術士をも無視して一人の別の魔術士の元で立ち止まる。


その魔術士もシルリアに近付かれて震え始め、「命だけは、命だけは」と呟き続ける。


「どうやってあの7体の外獣を制御下に置いたの?」


「へ、変、変な機械でです。」


「どういうシステム?」


「それは、わ、わ、分かりません。」


「そう。」


また、少し落胆した表情をし、相手に掌を近付ける。

ひぃっ、という弱々しい声がその魔術士の最後の声であった。


前回より長い間の後に再びシルリアが掌を戻した時、魔術士はその白眼から涙を、口から溢れている泡の合間から血を、それぞれ無機質に垂れ流していた。




※※※




シルリアは悠斗とティルを地面から出し、帰っておいて、とだけ言ってどこかへと行ってしまった。



残された二人はしばらく顔を見合わせた後、


「とりあえず帰る?」


「僕の足の事情はどうなる?」


「あ、…どうすればいい?」


「もっとこっちに来て。…よいしょっ。」


「背負って行くのか。で、どこに行けばいい?」


「ユウトの家。」


「へ?」


「だから、ユウトの家。」


「………なんで?」


「僕はこの街に家を持ってないから。」


「いや、でも普通は宿とかじゃ…」


「宿屋生活していたらお金がなくなっちゃうよ。だから。」


「俺もシルリアの家に居候しているんだが……まあシルリアだし大丈夫だろうな。」


「えっ、シルリアの家?本当に大丈夫なの?」


「あのシルリアだし、部屋もたくさんあったし、問題は無い筈だよ。」


「荷物は……なんか大量に抱えているからまた後にしよう。」


両手にパン、背中に同年代の少女というちょっと不思議な格好で悠斗は歩いて行くのだった。




※※※




コツコツと前へと進む足からの心地好い震動が体を揺する。


ドクドクと体を預けた背中から温かい音が伝わってくる。


それは揺りかごの中にいるようで、それは生命の力を感じているようで。



……ただ………ただ……






       “温かかった”





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