12、勝利の二日酔い
「乾杯!」
「「「「乾杯〜!!!!」」」」
やっと襲撃の心配がなくなり、村人たちは大いに喜んで宴に参加している。
ナッシはその中央で乾杯の音頭をとっている。
俺はと言うと飲酒を断固拒否するため、水が好きと言って水を飲みながら宴の様子を見ている。
村人たちは今までの抑圧された気分からの解放により興奮しており、宴は盛況を極めていた。
「こんな端っこで何してるの?」
ティルがぶどう酒を両手に持ってやって来る。
「いや…あの中にいると酒を飲まさせられそうな気がして……俺は酒が苦手だから。」
「なんだ、そうなんだ。ぶどう酒を二杯持ってきちゃったけど…ボクが君の分も飲むことにするよ。」
そう言って片方のコップを俺の方につき出す。
「乾杯。」
なるほどね。
「乾杯。」
俺はコップをティルのコップに軽くぶつけた。
少し話した後、ティルは宴の真ん中へと戻っていた。
ナッシュはゴブリン退治のエピソードを脚色し武勇伝として語っている。
お〜い、ほとんどのゴブリンを倒したのはシルリアだぞ〜。
しばらくすると、宴は静かになった。
簡単に言うと皆が浮かれていてハイスピードで飲んでおり、寝入る人が続出したのである。
ナッシュは最後まで周りが寝ているとも知らず酒を飲みながら誰かに話をしていたが、結局床で寝息をたて始めた。
危険は無いかと死屍累々たる会場を歩いていると、
「……あー…ボクは部屋に帰らないと……」
唯一ティルだけが起きて部屋に行こうとしていた。
「ティル、大丈夫か?」
「平気、へいっックき。」
ふらつきながら平気って言われても…
「肩貸すよ。」
ティルの手を肩に回し歩く。
何とか宴の輪から抜け出した時、不意にティルの力が抜ける。
「ティル?」
「……Zzz…」
遂に睡魔に負けてしまったみたいだ。
穏やかな寝顔に思わず微笑みが溢れる。
このままだと運び辛いので前に回りこみ、ティルをおぶった。
※※※
…暖かい…
何も考えられない状態で感じる温もり。
"私"が今まで見てきた黒い心を隠し持った大人たちとは違う。
教養を身に付けろとしか言わない"私"の両親とも大きく違う。
守ると言いつつ"私"という偶像しか見ようとしない騎士とさえ決定的に違う。
両手の中にある"ボク"を安心させてくれる暖かさ。
…離したくない…
純粋な優しさを感じる事の出来るこの温もり
…離れたくない…
※※※
「ふぁ〜あ」
ここは俺たちのために解放された部屋の一つ。
『一つ』というのはシルリアのためにもう一つからだ。
つまり、この部屋にはもう一人いるべき人がいるのだが、現在ナッシュはいない。
軽く身支度をして部屋を出る。
顔を洗い、荷物を片付けようと思い部屋に戻ろうとすると、
「あら、おはよう。あなたは平気そうね。」
「平気って何が?」
その質問にあれと指を指すシルリア。
指す先には、
「…あ゛ー……う゛ー…」
宴の後遺症に苦しむナッシュの姿が。
「あぁ、俺は水しか飲んでないから。」
「そう、唸る人が一人減って良かったわ。」
ナッシュはさっきからあ゛だま゛がーとか言っている。
「それじゃあ帰りましょう。」
馬車を引く人は宴が始まる前に眠ってしまっており、後遺症にならずに済んでいた。
シルリアが、唸っていたナッシュに魔法を使い黙らせる。
安眠?へと旅立つナッシュ。
それを見て気付く。
「あ、ナッシュの大剣は?」
そうあの大剣が見当たらない。
「あれはナッシュのセルフアクセサリーだから今もナッシュが持ってる筈よ。」
「いや、だから見当たらないんだって。」
「そう言えばまだセルフアクセサリーの事、話してなかったわね。」
「?…どういう事?」
「セルフアクセサリーはデイスの技術で、その人に最も必要な物を産み出すというもの。そして原料が特殊だから自身の第一層心理内に保管することが出来る。そういものなの。」
「その第一層心理ってのは何なんだ?」
シルリアは質問を聞きキョトンとする。
「そっちの世界には心理四層別離思想も無いんだ。」
僅かに知識欲モードが出てきているシルリア。
「心理四―(中略)―なのよ。」
略しすぎ?だって長いんだもん。
じゃあ要約すると1が表面、2が無意識、3が望みで、4が魂。
「セルフアクセサリーは心理内、則ち自分自身の中にしまうことができるのよ。」
「それってやっぱりみんな剣だったりするの?」
「いいえ、武器では剣以外にも弓矢とかもあるし、どっかの王様は宝石だったって話だし、以前私はドレスがセルフアクセサリーの女性も見たことあるわ。」
同じ材料からドレスも剣も出来るのはとても不思議だが、魔法のある世界なんだしそれくらい普通なのかなと思う悠斗だった。




