第六話「母の気持ち」
今、二人はレイの家の前にいる。
「もう言いたいことは決まってんだろうな?」
「はい、大体は。あとはその場その場で」
用事を終えた二人は、ノエルの説得に来ていた。
そこでちょっとした作戦会議をしていたところだ。
「先に入るので、後から来てくださいね」
「おう」
レイはドアを開け、
「ただいまー」
と、視界にいない母親に向かって言う。
レイの家では挨拶は絶対となっている。
家から出るとき、帰るとき、家に誰もいなくても挨拶をする。
朝に関しても元々していたが、今日の朝のようにレイが起こされているため、朝の挨拶は少なくなっているのだが。
しばらく玄関に立っていると、
「おかえり、レイ」
洗い物をしていたのだろうか、布巾で手を拭きながらレイの方へ来た。
「今日、お客さんがいるんだけど。入れてもいい?」
「あぁ。全然かまわないよ」
ノエルは、笑顔で答える。
承諾を得たレイは、さっそくゼルを中に入れる。
「入って来てください」
「邪魔するぜ」
そう言い、家に入り、レイの横に並ぶ。
「まぁ、中に入りなよ。ここで話すのも何だしね」
※
ノエルに向かい入れられた二人は、椅子に座らされている。
その二人の向かい側に、ノエルが座っている。
「とりあえずその人を、紹介してよ」
「分かったよ。えーと……」
「俺はゼル、冒険者だ。レイとは店で知り合った。知り合ったのは結構前だな」
レイが言う前に、ゼルが自分の情報を伝える。
「冒険者か……。今日は一人で来てるみたいだけど、パーティーとか組んでるの?」
「いや、俺は一人だ」
「ソロの冒険者かー、かなりきついでしょ?」
「まぁ、さすがに別のパーティーに入れてもらったりするときもあるが。基本一人だな。一人で冒険するのもなかなか楽しいぞ?」
「ふぅん……」
ゼルは自分の冒険スタイルについて話した。
ノエルはそれを聞き、ゼルの事について大体のことを知り、さっそくレイに、
「この人を連れて来たってことは、冒険者についての相談?」
「……うん。そうだよ」
ノエルの質問に言葉を詰まらせながらも肯定する。
そしてさらに言葉をつづける。
「前も言ったけど、僕は冒険が好きで冒険者に憧れているんだ」
「うん」
「今日もゼルさんと話して、自分の気持ちを整えて、冒険者になりたい、なるんだって思ったんだ」
「そうかい」
「ゼルさんも最初少しだけついてきてくれるって言ってるし、冒険者・・・どうかな?」
「うん、全然いいよ」
「やっぱり……、って、え? いいの?」
あっさり言われてレイは驚く。
もっとためらわれると思っていたのだ。
最終的に口喧嘩になり、家出みたいになるとまで考えていた。
「確かに、冒険者は命がけだし、危ないよ」
「うん……。」
「正直、今でも冒険者なんてなって欲しくないって思ってるかもしれない。でも私は決めたんだよ。」
ノエルはレイの目をしっかりと捉え、
「――あなたを信じるって」
ノエルはいつかこんな話が来ると思っていた。
その時のために、どうするかもずっと考えていた。
その結果、信じることに決めたのだ。
「だからレイ」
「はい」
「冒険者になりなさい。世界中を旅しなさい。あなたはいつかきっとすごい人になれるから」
「うん、任せてよ!」
こうして、ノエルの説得、もはや説得でもなかったが、終わったのであった。
「で、冒険者になるのはいいとして。これからどうするのさ」
「それならもう考えてあるぞ」
ノエルの質問に答えたのはゼルであった。
「まず隣の村、チタン村に向かおうと思う」
「なるほどね……、あそこなら武器も揃ってるし」
「レイは剣術とか武術とかも何も知らないし、ついでにそれも教えようと思ってる」
今いるシユル村は、農業や牧畜など、食料関係に関わっている。
それに対してチタン村は、武器や道具を作っており、シユル村とは交易をしている。
主に食料と武器、道具の交換である。
「あそこならいい武器も買えるし、序盤は安心だね」
「あぁ」
「あとはそうだね……。いつ頃行くんだい?」
「急ぐ必要はないんだが、明日行こうと思っている」
準備はチタン村でできるため、あまりこの村にいる必要はないのだ。
「明日かー。寂しくなるねぇ」
「たまには帰ってくるから安心してよ」
「うん、そのときは美味しい料理たくさん作ってあげるよ」
「楽しみにしてるね」
これでノエルとの話も終わり、あとは冒険者の集いの店主とメイへの報告だ。