第五話「レイの夢」
「僕の夢、ですか……」
「そうだ。お前の夢、冒険者になること。それについてだ」
レイは冒険者の話を聞くためだけに、この店で働いているほど冒険が好きだ。
そのため冒険者に憧れ、今現在の夢となっている。
「まぁ、お前の場合、冒険者になって冒険すること、が夢か」
「そんな感じですね」
「で、実際それについてどんなことやってんだ?」
「……」
レイの場合、夢ではあるが冒険の話について聞いたり、読んだりするだけで、夢に直接的に繋がることはやっていないのだ。
自分の実績を話すことができずに何も言えなくなってしまう。
「あのなぁ、夢ってのは、叶えたい、なりたいって思うだけじゃ叶わねぇぞ?」
「……」
「特に冒険者の場合、冒険する時はいつだって死ってのが近くにいる。そんな簡単になれるもんじゃねえ。お前だってそのぐらい知っているだろう」
「はい。それを知っている上でなりたいと」
「だったら、できるだけ早く行動した方がいいだろう」
冒険者になりたいと願う者がまず突き当たる問題。
それが死だ。
世界には人間の脅威をなるものが、かなりの数ある。
モンスターという存在や、現在敵対している魔族という者もいる。
それだけじゃなく自然も時には敵になる。
そのため、冒険するとなれば必然的にそれらと戦うことになるのだ。
「まぁ、昔からお前を知ってるし、どれだけなりたいか、なんてことはとっくに知っている」
ゼルは、レイの昔からの知り合いで、何十回と冒険の話を聞かせている。
「一番大事なのは、お前自身の気持ちだが、次に大事なのは親の気持ちだろう」
「えぇ。一応話は以前しました」
「そうか……。反応はどんな感じだった?」
「完全に否定はされませんでしたけど、いい顔はしてませんでしたね」
レイの母、ノエルはレイが冒険者に憧れている、なんてことは話される前から気付いていた。
だからその夢を応援してやろうと、思っていた。
だがその危険性のことをよく知っているため、素直に応援できなかった。
「まず、お前の母親から納得させることからだな」
「はい。そうですね」
一回母親に夢のことについて話したが、本当にこれから冒険者になるから、なんて伝えるのは子供として、親に気を使ってなかなか言えない。
しかし夢は叶えるためにあるのだ。
レイは母親としっかり話そうと、覚悟を決める。
「レイ、このあと暇あるか?」
「12時から休憩、というか12時から18時までは仕事入ってないので、その間なら暇ですよ」
「そうか」
ゼルは少し考えるような仕草をして言う。
「なら、12時になったらすぐお前んちいって、一緒に母親を説得しにいくぞ」
「はい……、って、え? 一緒って言いました?」
「あぁ、言ったぞ」
レイは親を説得するなら、やっぱり一人だろうと思っていたのだ。
そのため、ゼルの言葉を聞いて驚く。
「全然いいですけど……、なぜですか?」
「この話をする前から、お前が冒険者になるなら、最初は少しだけ同行しようと思っていてな。お前1人だと不安だからな」
「一緒に来てくれるんですか!?」
レイは一緒に来ると聞いて驚いていたが、ゼルは憧れの冒険者の一人だ。
そのため一緒に行動できると知って、喜んでいる。
「本当に、少しだけだがな」
「いいえ、十分です! ゼルさんと一緒かぁ、楽しみだなぁ」
「そのためには、母親を説得しねえとな」
「絶対説得してみせます!」
レイの気合いの入った顔を見て安心する。
「それじゃ、話したいことは全部話したし、仕事に戻っていいぞ」
横にどけたオムライスを寄せながら言う。
「はい、とてもいい話でした。ありがとうございます」
「はいよ」
ゼルは目の前にある料理を食べ始め、レイは仕事に戻る。
2人とも手を動かしながら、説得するための言葉を考える。
レイにとって、今日は人生を左右する出来事になるかもしれない。
「絶対に、なってやるんだ」
レイは、そう小声でつぶやく。