第二話「冒険者の集い」
「おはようございまーす」
レイはいつも通り挨拶をしながらドアを開ける。
ここが職場の「冒険者の集い」だ。
冒険者の集いは料理を出して金をもらう、というのが主だが宿屋のようなこともやっている。
そのため普通の料理店とは違い、建物としてはかなり大きい。
そしてこの店を経営している家族の家でもある。
表口から入れば料理店だが裏口から入ると本当にただの家、という様になっている。
しばらく玄関で待っていると
「おはようレイくん。今日も早いな」
「あ、おはようございます!」
挨拶を交わしてる相手はこの店の店主であり、ここの家族である父だ。
白髪で背が高く威圧感があるが、他人に優しいいい人だ。
今日も早い、といわれたが本当に早い。
冒険者の集いは冒険者用に作られた店なため時間もそれに合わせている。
冒険者が外に出ていく時間は基本10時。
それまでに朝飯を食べなければいけないので8時に開店。
レイはいつも開店2時間前に来るため、現在6時である。
「開店まで後2時間があるが、どうする?」
「いつもみたいに冒険者が書いた本とかで大丈夫です!」
冒険者好きなレイは人の話を聞くだけでなく、本からもその知識を得ていた。
人の話も、本の内容もこの店で手に入るためここはレイのためにある職場になっていた。
今日も2時間ずっと読んでやろう、そう思っていたレイだがまだ朝飯を食べていないことに気付く。
確かにいつも早く起きるがレイにとっては遅かった。
そのため今日は弁当をもらってきたのだ。
「すいません...今日はその前に朝ごはん食べていいですか? 弁当は持ってきてるんで」
「あぁ、いいとも。 腹が減って仕事がまともにできないなんて困るしな。なんなら妻からももっと作ってもらうよう頼もうか?」
「いや、結構です。どんだけ来るかわかんないんで」
かなり大食いのレイだが、この店の出し物である料理は格が違った。
冒険者用に作られたそれは一般人が食べる量ではなかった。
いつものレイならギリギリ食べることはできるが、母の弁当もかなりの量である。
二つ合わせたら普通の人が一日しのげるレベルだ。
「とりあえず、いつも本読んでるところで食べていてくれ」
「分かりました」
「すぐ食べ終わると思うから、その間に本も探しておこう」
話が終わり、店主は書庫の方へ、レイはいつものところ、ということでさっそくリビングへ向かう。
それから弁当を食べ、受け取った本をよみながら過ごすこと1時間ほど。
時計は7痔30分を指していた。
普通ならこのくらいの時間で準備を始めるものだが冒険者の集いは特に店内に置くものはなく、昨日のうちに掃除をするのでその必要はない。
まだ時間があるなと思いながら本のページをめくる。
すると聞き慣れた声が聞こえる。
「おはよー、レイくん」
「やっと起きてきたんだ。おはよメイ姉」
気楽に挨拶を交わす。
メイは店主の娘、そして同じ仕事仲間でもある。
見た目はどこにでもいる村娘、という感じだ。
「今日もはやいねぇ。」
「メイ姉が遅いんだよ。あと30分しかないよ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ、まだ全然早いくらいだよ」
二人は本当の姉弟ではないが、そのような雰囲気を出しながら話す。
「ん、また読んでるんだそれ」
「うん、まあね。面白いよやっぱ。メイ姉も読んだら?」
「いいや、本なんか読まないよ。そんなのより私と話す方が楽しいよ」
「じゃぁ、冒険の話をお願いね」
「出来たらいつか話すよ。とりあえずごはん食べてくるから。またあとで」
「はいはーい」
雑に返事をしながら次のページへと進む。
冒険以外の話には今興味がないようであった。
そして開店の時間、8時になった。
「レイくん、仕事の時間だ。はやくカウンターに立ってくれ」
「はい!」
「いい返事だ。今日も頑張ってもらうぞ」
レイは速足でカウンターへと向かう。
着いた頃にはもう3人の客がいた。
その客はみな冒険者。
1人は腰に剣をぶら下げている。
後の2人の片方は杖を持ち、もう片方は弓を背中に背負っている。
「いらっしゃい!」
レイは店員としてしっかりと仕事の一つをこなす。
店員にとっては目の前の三人は客である。
だがレイにとってはまさに憧れ、追い求めている姿である。
そういう者が集まる所、それが「冒険者の集い」だ。