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三題噺「鏡」「鴨」「金持ち」

作者: 斑鳩じゅん

「まいったな・・・・・・」

 預金通帳の印字された零の数字を見て落胆と共にため息を吐く。

財布の中身を見て再びため息を吐く、財布の中には、諭吉が一人と野口が二人、小銭は、百二十円ほどこれが現在の全財産だ。

 嘆いていてもお金は増えない、少年はとりあえず、いつもの喫茶店に足を向ける、店内に入るといつものやや不慣れな笑顔のウエイトレスがいつもの他の客の視線から隠れる一番奥のテーブル席へと案内される。

席へ着くと、そのウエイトレスも前の席に腰を下ろす。

すると今までの不慣れな笑顔が消え去り、自然な笑顔でこちらを見つめている。

少年も困ったように見つめ返す。だがウエイトレスは、話してくれるまで待つといった風情で優しく微笑むだけで何も話さない。

少年が観念したようにため息を漏らすと、語り出した。

「これといって理由はないよ、ただ寄っただけ」

 今度は笑顔では無く無表情で長い吐息を吐き出すと。

「お金、また無くなったんだね」

少年の目が驚愕に見開かれる。

ウエイトレスは目を細める

「当たったみたいね・・・・・・」

少年はカマをかけられたのだ、ウエイトレスのそれに対して、少年はリアクションを取ってしまったために最早言い逃れの余地は無かった。

少年は、無言のまま俯くしかなかった。

ウエイトレスの少女また無言のまま顎に手を当てて考えるような仕草をする。

店内の賑やかな雰囲気とは、隔絶されたようにそのテーブルだけは凍り付いたような重苦しい空気が漂っていた。そのまま長い長い数分の時が過ぎる。

場を和ませるためにウエイトレスの少女は手を軽く叩く

「じゃあこうしよう、明日少し私を手伝って、そしたらなんとかしてあげる」

 そうしてその場を切り上げ、彼女は仕事に戻り、少年は店を出た。


 ――そして翌日。

 少年は、ウエイトレスの彼女のマンションの前に来ていた。

オートロックのタワーマンションの最上階そこに彼女の名前が書かれていた。

お金持ちだとは知っていたが、大金持ちのお嬢様だったらしい。

少年は、内心ビビりながらインターフォンを押す。

「はいはーい、おっ来たね」

 快活な口調でそう言うとタワーマンションの下の自動扉が開く

「上に来たらインターフォン鳴らしてねー」

そう言うとブツンと通信が途切れる。

閉まりそうになる自動扉を半身で滑り込むようにして、くぐり抜けると隔階止まりのエレベータを乗り継いで最上階までやってくる。そして最上階の一番奥の部屋のインターフォンを鳴らす。

「・・・・・・」

 待つこと数分、音沙汰が無い・・・・・・。

少年は、再びインターフォンを鳴らすが依然として返事は帰ってこなかった。


 少年はダメだと思いつつ、そっとノブに手をかける、ガチャリと金属音がして扉が開く。

少年はそのまま部屋の中へ慎重に音を立てないように足を踏み入れる。

部屋の中へ入った時の印象派というと、モデルルームや家具やの展示レイアウトと言われても信じてしまうようなほこり一つ落ちておらず、導線に障害物がない彼女の几帳面な性格が表れている整理整頓された部屋だった。

 丁寧に靴を脱ぎ、忍び足で一部屋、一部屋そっと覗く、だが彼女の姿はどこにもない、最後に彼女の寝室を覗くと、大きな姿見の鏡に、今の今まで着替えていたのであろう、脱ぎ散らかした衣服や下着が散乱した部屋にたどり着く、がそこにも彼女の姿は見えなかった。

少年は、ふと唯一見ていない部屋があることに気付きそこに向かう、扉の目の前でノブに手をかけるそして勢いよく開く。そこには一糸まとわぬ姿で便器に跨がる彼女の姿があった。

 両者共に一瞬の思考停止――。

 なぜ全裸なのだと、そしてなぜノックをせずに扉を開いてしまったのだろうと少年の自問自答――。

 なぜ彼はここにいるのだろうかと、そしてなぜ扉を開けられているのだと彼女の疑問――。

 最初に再起動したのは彼女が先だが、用を足していたため、立ち上がるに立ち上がれない彼女は、トイレットペーパーをロールごと引き抜き、彼に向かって投げつける。

 トイレットペーパーは、見事に彼の顔面にヒットする。

「覗くな変態! 早く閉めなさい!」

それで彼も思考を再起動させて勢いよく扉を閉める。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

 気まずさから両者共に沈黙。

少年は、自責の念からか背筋を伸ばし正座で彼女の魔に座っている。

そして彼女のまた見られた行為の羞恥心から顔を真っ赤に紅潮させて彼の前に座っている。

「冷める前に食べましょう」

 そう絞り出すようにして告げる。

二人の前には、彼女が用意した鴨鍋が準備されていた。

「うん・・・・・・」

少年も絞り出すようにそう返事を返す。

ただ淡々と黙々と食事を口に運ぶだけの儀式と化していて折角の鴨料理も全く味を理解できなかった。


一時間の制限時間内でとりあえず書く、マスを埋めるという訓練のために書いております。

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