第四章
■第四章
329.10.30
【ランス・アルバレス問題】【第八十六報】【完報】
●宛先情報:
アルカス共和国大統領、同議会議長、同戦略局局長、同政策技術局局長、同政策技術局政策システム課課長
●更新情報:
事後安定化評価完了、ランス・アルバレス問題は完全に解決した。
●時系列レポート:
329.02.28:観測対象に問題発生
329.02.28:観測対象に接触した要素1を分析、危険レベルを4に評価、危険因子と認定
329.02.28:観測対象へのフェーズ1干渉開始
329.03.01:観測対象のフェーズ1行動開始を確認
329.03.02:危険因子へのフェーズ1干渉開始
329.03.04:観測対象のフェーズ1行動完了を確認
329.03.05:観測対象へのフェーズ2干渉開始
329.03.07:観測対象のフェーズ2行動開始を確認
329.03.19:危険因子のフェーズ1行動開始を確認
329.03.27:観測対象のフェーズ2行動完了を確認
329.03.27:観測対象へのフェーズ2干渉開始
329.04.02:観測対象のフェーズ2行動開始を確認
329.04.10:(極秘コード:非公開)
329.04.19:(極秘コード:非公開)
329.04.30:(極秘コード:非公開)
329.07.01:危険因子のフェーズ1行動完了を確認
329.07.01:危険因子の再分析、危険レベルを4から1へ再評価、不安要素と認定
329.07.01:不安要素へのフェーズ2干渉開始
329.07.18:(極秘コード:非公開)
329.08.14:不安要素のフェーズ2行動開始を確認
329.09.05:(極秘コード:非公開)
329.09.29:観測対象のフェーズ2行動完了を確認
329.10.11:不安要素のフェーズ2行動完了を確認
329.10.11:不安要素の再分析、危険レベルを1から0へ再評価、経過観測対象と認定
[以下更新分]
329.10.30:安定化評価完了、経過観測対象のアトリビュートを削除
※国際法に基づく検閲により一部非公開
●問題事象:
観測対象ランス・アルバレス(以下観測対象)に対する危険。
ダニール・ジェンマ(以下要素1)の潜在的行動を量子演算にて予測した結果、観測対象の生命または身体に著しい損害を与える可能性が発見される。発現当初の行動確率は94%。最大97%にまで高まった。
要素1が観測対象に害意を持った要因は、要素1の製作品に対する観測対象の評価が低かったことが直接の要因。背景として、要素1が長期にわたり製作品の商用化に失敗し精神的、経済的に疲弊していたことが遠因にある。
観測対象が損害を受けた場合、量子状態観測が停止し、次の観測対象を見出すまでの期間(過去平均は6.21か月)、立法機能及び政策決定機能が停止する。想定経済影響は八千百七十億クレジット。
●対処案:
観測対象に対して、二段階または三段階の干渉を行い、一定期間、要素1との接触機会を最小化させる。
要素1に対して二段階の干渉を行い、要素1の経済欲求、承認欲求を満足させ、害意を減じる。
●対処手順:
観測対象への干渉フェーズ1:被観測への嫌悪感を増大させる。
観測対象への干渉フェーズ2:反社会的行動により一定期間拘束させる。
観測対象への干渉フェーズ3:フェーズ2で非接触期間が十分でない場合、国外滞在させる。
要素1への干渉フェーズ1:製作物の応用を示唆し新規製作物を作成させる。
要素1への干渉フェーズ2:新規製作物を経済的に承認させるための行動をとらせる。
●事前リスク評価:
観測対象へのフェーズ2干渉が過小の場合、十分な隔離期間を得られない。
観測対象へのフェーズ2干渉が過剰の場合、社会復帰が困難となる。
観測対象へのフェーズ3干渉が過剰の場合、観測対象が帰国せず以降の量子重ね合わせ状態の観測コストが増大する。
要素1へのフェーズ1干渉が過小の場合、要素1がフェーズ1行動を開始する前に観測対象に損傷を与える可能性がある。
要素1へのフェーズ2干渉が過剰の場合、承認欲求を過大にしてしまう可能性がある。
●その他、報告者所感(完報にて記載)
本件は、観測対象が喪失する大きな危機であった。まず第一の危機は、物理的な損壊による観測対象喪失の危機であり、第二の危機は、量子観測網が崩壊する危機であった。
幸運にも第一の危機の発生は、同時に観測対象への干渉の機会を発生させるものだったため、私は即座に積極的な干渉プランを作成した。このプランは概して成功裏に完遂され、第一の危機を完全に防ぐことに成功した。
第二の危機は、観測対象が持つ量子論的特異状態を観測する方法が希薄となる危険性であった。これは、事前リスク評価で見積もられなかった危機であり、私はこの問題を解決するために、―――――に対し緊急コード―――――を発行し、―――――を誘発して―――――を観測対象周囲で発生させ、最終的に―――――の操作を申請し観測対象の心理操作を試みた。これにより観測対象を所定の時期に帰還せしめた。
また副産物として、要素1の発明したユニバーサルプロトコルエクイップメントとその発展の要素技術であるセルフオーガナイジングユニバーサルプロトコルは、秘匿化要請の強い政策システム間通信にきわめて有用であることが認められる。同種の知能機械に今後広く採用されることを望む。
今回は、交代候補の無い状態での危機であったため緊急に干渉を行ったが、過干渉による観測状態崩壊の危機を誘発することとなったため、今後の対策として、早急に交代候補の選定を必要とする。また、量子状態の観測対象として、人類の脳に限らず他の生物・非生物を使う可能性を引き続き研究することを強く要請するものである。
今後、特異点崩壊の危険を防止する観点、および、特異点の特定による量子観測式多体問題解決機能の悪用を防ぐ観点より、同類の知能機械における量子観測式多体問題解決機能に関する情報は慎重に扱われることを合わせて強く要請するものである。
※国際法に基づく検閲により一部非公開
●報告者
量子重ね合わせ政策システム用幾何ニューロン式知能機械『ポリティクス』