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弱虫モンブラン

みなさんお久しぶりです、こんばんは。そしてこんにちは

作者の代弁者の紫乃宮綺羅々(しのみやきらら)でぇ~す

またせてごめんね。でもやっと完成したってことで投稿しますっ!


えっ? お前はだれだって? そうだよね知らないのも無理ないよね! だって作中には一度も出てないからね。作者の設定の中だけで存在するだけだからね! 私は!


自己紹介をさせてもらうとね。年齢は十七歳で森羅カンパニーで『アンブレイドを設計した博士』って事になってるんだ! でもそれも作者の頭の中の設定でしかないけどね! あははっ!


たぶん今後も出演予定がないからここで凪紗ちゃんの元になったゲームキャラをぶちまけちゃおうかなぁ~凪紗ちゃんはましろ…イタっ!

いたぁ~…あ、作者さん? えっ? 言ったら設定から消す……?


と、言うわけで、あまり余計な事を言うと作者さんから抹消されるので言いませ~ん。


それでは、第七話『弱虫モンブラン』をお楽しみください。それではっ!

「次の攻撃で終わりやで、イケメンくそ野郎」

 男性がゆっくりと近づき、そして刹那を見据え終戦の宣告をする。


「……くっ」

 体力が限界でもうほとんど動けない刹那。一対一だったら二十五分は持つと思っていたが想定外の来客で一対二なってしまって想定していたプランが崩れてしまった今、披露しきっている刹那には男性の攻撃はもうかわせないだろう。


「おつかれさん、イケメン野郎!」

 刹那を目の前にして男性はアンブレイドを振りあげた。


「もう……ダメか……」

 足が言うことをきかず動かない。APUのビニール傘を杖代わりにしている刹那には男性の攻撃をかわす事のできる体力はもうない。


「刹那くん!」

 そのとき刹那に耳に届いたのは聞き覚えのある声、赤いマフラーを乱暴に首に巻き、ボロボロになった紺色のブレザーの制服と赤いネクタイ。そしてスカートの下にレギンスを履いた背の低いポニーテールの髪型の女子学生だった。


 ◆


 よくわからないけど道路や歩道、それに街路樹に引っかかっているビニール傘。何本かの傘はへし折れていたり、折れて取っ手がないモノもある。そんなたくさん散らばっているビニール傘。それらを視界に捕らえながら猛スピードで駆けスノバに向かう。


 そしてスノバを目前にして私の目に飛び込んできたのは男のひとがビニール傘を持った刹那くんにアンブレイドを振り下ろす光景だった。


「刹那くん!」

 大切に持っていた大好きなひとのアンブレイドを思いっきり刹那くんを襲う男のひとに投げつける!


「な、なんや!」

 投げたアンブレイドを男のひとは横へ大きく飛び退き回避した。でもこれで……気づいて刹那くん!


「なにすんじゃ! ワレぇ!」

 男のひとは刹那くんから私に視線を移して激昂している。ううっ……恐いよ……


「先に自分から片づけてやるわ、チビッ子」

 攻撃対象を私に移し、男のひとがこっちに向かってくる。


「君の相手は俺だろ! こっちに来い!」

 刹那くんの声が男のひとの耳に刺さり、男のひとは刹那くんの方へと振り向いた。


「アンブレイドを持ってへんヤツは黙ってろや!」

 男のひとが刹那くんに向かってアンブレイドを振り下ろす。


 その振り下ろしたアンブレイドを刹那くんは『アンブレイド』で受け止めた。


「な!? ア、アンブレイド?! なんでや……!?」

 さっきまでアンブレイドを持っていなかった刹那くんの手には一瞬の間でいきなり黒いアンブレイドが握られている。


「よかった……刹那くん。気づいてくれたんだ」

 私は尻もちをついて座り込んでしまう。刹那くんのアンブレイドを見た男のひとの驚きの表情。それはそうだろう。だって刹那くんのプレートスロットには……


「おかしいな。君は『この疑問の答えを見ているはずだし、訊いてたはずだよ?』」

「な、なにいってん……あ! そうか! 『回帰』のスキルかい!」

 そう。刹那くんのスロットに装着しているマテリアルプレートのひとつは『回帰』。そのスキルの『回帰』の効果は『手放したアンブレイドをどこにあっても瞬時に引き戻す』効果。


 だから私は刹那くんに向けて投げつけたのではなく男のひとに投げつけた。牽制の意味と、それに刹那くんに気づいてもらうために。


「よう、お早いお目覚めやな」

「あっ……」

 私の前に降り立ったのは名前も知らない対戦相手の女の子。私を気絶させた張本人……


「兄貴、いったん仕切直しや!」

 そう男のひとに視線を向け叫ぶと視線をこちらに戻した。


「あの一撃を食らってこんなに早く起きてくるなんてウチショックやで」

「早い……?」

 私が気絶してた時間ってそんなに短いのかな……かなり長く気絶おちていた気がするけど。


「凪紗ちゃん」

 そんな事を思っていると隣に刹那くんが駆け寄ってきてくれた。


「ケガは大丈夫? 痛くない?」

 座り込んでいる私に刹那くんは片膝をついて私と同じ視線に合わせてくれた。


「あ、はい。ケガは大丈夫ですしどこも痛くないです」

 やさしい刹那くんの言葉に視線が泳ぐ。


「よかった」

 笑いかけてくれる刹那くん。思い切って視線を合わせると刹那くんの服はボロボロで顔には擦り傷がある……


「私その、ごめんなさい、ごめんなさい、その私!」

「いいって、でも10分で起きるなんて嬉しい誤算だったよ。俺の目算では二十五分くらいで目が覚めると思ってたからね」

「10分……」

 また10分だ……もう今日の私は『10分』って時間に縁があるどころか呪われてるのかも。でも呪われてる『10分』だけど今は感謝してる……気絶してから10分で起こしてくれたから。


「さてと、二対二になったところで今度はチームバトルと行こうか」

 女の子の隣に立つ男のひとがそう言ってきた。


「凪紗ちゃん、いける?」

 そう私に言葉をかけて手を差し伸べてくれる。


「あ、は、はい」

 私は緊張しながらも差し伸べられた好きなひとの手を握る。


(あたたかいな刹那くんの手)

 胸中で思い、私は立ち上がりアンブレイドをしっかりと握る。


「あ、あれ?」

 足が……あれ? なんで……


「……自分、めっちゃ震えてるやん」

 女の子が私を見て冷めた口調で言ってる。お、おかしいな……なんで足が震えてるの? 私?


「自分恐いんやろ? アンブレイドのあの痛みが」

「こ、恐い……?」

 そうか……恐いんだ私……あの気絶したアンブレイドの一撃が……痛みが恐いんだ……だから身体が……震えて……


「凪紗ちゃん……」

「だ、大丈夫です」

 そう言ってみるけど足の震えが止まらない……


「凪紗ちゃんは気づいていないかもしれないけど手も震えてるよ……」

「えっ……」

 手も……震えてるの……?


「そんな……」

 自分の右手のひらを見る。震えてる……こんなにもはっきりと、大きく手が震えてる……


「刹那くん……私……」

 足の震えたが止まらない。震えは『恐怖』となって伝達して私の身体全体にも浸食していく……


「……凪紗ちゃん」

「は、は、はい」

 声が震えてる……恐怖はとうとう声にまで行き届いていた。


「クリスタルパネルの中に『リタイア』ってアイコンがあるからそれをタッチして」

「えっ……」

 それって……


「タッチしたらあとは画面の指示通りに進めればこの戦いからリタイアできるから」

「で、でも……」

 そんなことはできないよ……それをしちゃうと……


「凪紗ちゃんは高校生だもんね。痛いのはイヤだよね。がんばったよ。凪紗ちゃんは」

「せ、刹那くん……?」

 刹那くんは笑顔を向けてくれている……でも、その笑顔は私の心にグサりとくるよ……心が……痛いよ


「あとは俺ひとりで戦うから凪紗ちゃんは鏡の外で観戦しててよ。非公式だけどバトルを観戦できるアプリがあるから、それを検索してサイトから落としてね」

 そう言うと刹那くんは視線を対戦相手のふたりに戻す。


「あ、で、でも……」

「そんな震える身体じゃ戦えないでしょ? 恐怖で折れた心じゃ戦えないでしょ? 闘争心がなくなった今の凪紗ちゃんは戦えないでしょ?」

「あ、う……」

 言い返せない。言い返したとしてもこの震えた足じゃ、震えた手じゃなんの説得力もない。


「だ、大丈夫です」

 精一杯の言葉。これが精一杯の返答。


「ごめん凪紗ちゃん。正直に言うよ」

「えっ……」

「今の凪紗ちゃんは邪魔なんだよね。戦えないならここにいてもしょうがないでしょ? だからリタイアしてよ」

「あぅ……邪魔……」

 刹那くんの眼はとても冷たい眼をしていた。まるでいらないゴミを捨てるような……汚い何かを見るようなとても冷たい眼……


「あ、じゃあ……刹那くんも一緒に……」

「……ごめんね凪紗ちゃん。その提案には乗れない。俺はどんな形であれ最後まで戦うよ。だからじゃあね。さっさとリタイアしてね」

「あ……」


 そして完全に私を突き放す言葉。拒否、否定、拒絶。邪魔……私は邪魔……なら、ここにいても……震える足が膝からストンと崩れる。両膝を地面に着いた私はうなだれ頭が真っ白になった。


 もう何も考えられないよ……


「待たせてごめん、じゃあバトルの再開しようか」


 刹那くんの言葉だけが耳に届いて、頭の中で消えていった……


 ◆


「うん、上出来だわ」

 わたしはディスプレイに映る譜面を見て、歌声を聴いてひとり納得する。


「あとは細かな調教をしてニコ動に投稿するだけかぁ、長かったわね」

 わたしは今、ボーカルドロイドの『新音ミク(あらたねみく)』に自分で作曲した歌を歌わせていた。自分でも今回の作品は上出来だと思う。うん。投稿した時の反応が楽しみ。


「そうだ、少し宣伝でもしちゃおうかな?」

 私はツブッターを立ち上げ140文字という制限の中で宣伝を行うことにした。


「愛リーンの新曲近日公開予定。みんな聴いてね」

 必要最低限の宣伝をつぶやきツブッターを閉じる。


「さてと、今日はこれくらいにしておこうかな」

 ディスプレイの下部に表示してある時計を見る。時刻は八時二十分。時刻確認してファイルから『上書きで保存』を選択して現在の状態を保存。そしてパソコンをシャットダウン。


「ん? メール?」

 デスクの上に置いてるスマホが震え着信を知らせている。


「誰だろ? あ、悠木さんからだ」

 メールは悠木さんからだった。メールのアイコンをタッチして内容を確認。えっ……


「なんで……どうして……」

 メールの件名には『雪見さんがアンブレドバトル?』と打たれていて本文には……


 なんでか分からないけど雪見さんが年上っぽい男のひとと一緒にアンブレイドバトルしてるけど瀬尾さんなにか知ってる? それと……なんかケガしてるみたい。大丈夫かな?


 と、簡潔に書かれていた。


 それと、一枚の画像が貼り付けられていて……


「なんで……凪紗……」

 ボロボロになってるけど見覚えの制服にポニーテールに結んでいる長い髪。それに……半身の独特の構えは騎士道の構え。凪紗が何度も私の前で見せてくれた騎士道の構え。凪紗……なの?


 何度見ても。何度自分の記憶に確認してもその画像に写っているのは紛れもなく凪紗だった。

 私は一瞬思考が停止した脳を再起動させ、悠木さんに件名を無題のまま『どういう事!』とメールを返す。


 数秒後、悠木さんからのメールは『私も知らないけど雪見さんが戦ってる』と返ってきた。


「メールじゃラチがあかないわね……」

 わたしはそう判断して自分の無料通話アプリのコネクトID番号をメールに打って一言『メールじゃテンポが悪いからコネクトからこのIDで電話して』と書いて送信した。もし悠木さんがコネクトをやってないかも、と脳裏をよぎったがその時はその時!


「来た!」

 数秒後、コネクトからの着信がありすぐさま通話を押す


「瀬尾さん?」

「そうだよ、ねぇ悠木さん! 凪紗がアンブレイドでバトルしてるってなんでなの? それとケガって!」

 矢継ぎ早に悠木さんに聞く。


「私もよくわかんないんだけどウチのお兄ちゃんが『これお前の学校の制服じゃない?』って言って見せてくれたのが雪見さんっぽいの!」

「見る? メールに貼ってあった画像もそうだけどアンブレイドバトルって見れるの?」

「うん、非公式だけどスマホのアプリで」

「どのアプリなの!?」

「えっと……ごめんお兄ちゃんに聞かないとわからないや」

「……わかった。じゃあ悠木さん今から逢ってそのアプリ直接見せて!」

「えっ!? 今から?!」

「JPの妻沼駅なら大丈夫でしょ? じゃあ妻沼駅で!」

「あっ、ちょっ、瀬尾さっ……」

 伝えることを伝え終わると早々に通話を切って服を脱ぎ着替えを始める。


「なんでよ……なんでアンブレイドで戦ってるの……凪紗。ケガってなに!?」


 着替えをしながら私の大親友の安否を思う。


「それと男のひとって……」

 着替えをしながら悠木さんが言ってた一言に着替えの動きが止まる。


「誰よ!」

 一瞬考えたけどわからないし、凪紗が男のひと交友があるなんて心当たりもない。


「もしかしたら……」

 心当たりがあった……凪紗が思いを寄せる男性。朝の登校で乗る電車で凪紗が一目惚れした男のひと。そのひとは確か年上……


「そんなこと!」

 頭を左右にブンブンと振り頭の中で思い描いた凪紗の一目惚れ相手の記憶を消す。


「今は妻沼に行って悠木さんに逢うってホントに凪紗かどうか確認しないと」

 止まっていた着替えを再開してタンスを開けて服を適当に選ぶ。


「よし!」

 着替え終わり、わたしは放たれる弓矢のごとく部屋を出てJP妻沼の駅に向かった。


 ◆


「ごめん瀬尾さん遅れた!」

「ううん、こっちこそ突然呼んでごめん」

 走ってきてくれた悠木さんに私のワガママで突然呼び出したことを謝罪する。


「あれ、東山さんも来たの?」

「あ、うん、実はあの電話の時ね、私の部屋で奈瑠と遊んでたんだよそれで一緒に」

「そう。じゃあごめん悠木さん。さっそくだけど」

「うん、ちょっと待ってね」

 悠木さんは肩掛けカバンからスマートフォンを取り出し

画面を操作して『これがそうそのアプリ。で今そこに写っているのが現在の雪見さん』と告げて私にスマホを渡してくれた。


「凪紗……」

 そこに写っていたのは両膝を地に着きうなだれている紛れもない私の大の親友の凪紗だった。


「お兄ちゃんが言うにはね。今の雪見さんは『怖がってる』んだって」

「怖がってる?」

 私の後ろから画面を覗きこんでいた悠木さんが口を開く。


「雪見さん、対戦相手からすごく強烈な一撃を食らってね。それでその時の痛みが後を引いて……」

「痛み?」

「うん、アンブレイドバトルってね『痛みの感覚? 痛覚って言うのかな? それがすごく敏感になってる』らしいんだ。その状態で攻撃を食らうと死んじゃうくらいにすごく痛いってお兄ちゃんが言ってた」

「死んじゃうくらいに……そう……なの?」

 視線を画面に戻した私は悠木さんの言葉にそう返答するしかなかった。


「うん。だからたぶん雪見さんリタイアするんじゃないかってお兄ちゃんが言ってる」

「リタイア……したの? 凪紗」

「ううん。まだしてない。たぶん迷ってるんじゃないかな?」

「迷ってる? 何に?」

「一緒に戦ってくれてる男性のひとに」

「あっ……」

 そうだった。凪紗はひとりで戦ってるんじゃなかった。男の人と一緒に戦ってるんだった。


「ねぇ、その男性のひとって見れるの?」

 私の質問に悠木さんは『見れるよ。ちょっとごめんね』と言って後ろから腕を伸ばしてスマホを操作する。


「このひとだよ」

 そう言って画面の操作を終了させた悠木さんが見せてくた戦ってる男のひとは……


「予想が……当たったの?」

 家で着替えていた時に浮かんだ凪紗と一緒に戦っている男のひとの予想。それは私の思ったとおり通学電車で『凪紗が一目惚れした男性』だった。


「あ、雪見さんが動いたよ」

 東山さんが自分のスマホでバトルを見ていたのかわからないけど張りつめた声が耳に響き、悠木さんが画面を凪紗へと戻す。東山さんが言うように凪紗に動きがあった。凪紗の胸あたり、空中に浮かぶ半透明の淡く光るパネルのようなモノが出現していた。


「クリスタルパネルか……とうとう雪見さんリタイアするみたい」

「そうだね……」

 悠木さんと東山さんがそうつぶやく。


「ダメ……凪紗……今はリタイアしたらだめ!」

「えっ?」

 隣にいた悠木さんが不思議そうに私を見た。


 そんな悠木さんを横目で流し私は自分のスマホを手に取り凪紗に電話をかける


「瀬尾さん、鏡の向こうには携帯は繋がらないよ?」

「電波が届かないから無理だよ?」

 悠木さんと東山さんが言う。わかってるなんとなく繋がらないことはわかってるけど、凪紗に伝えないといけないことがあるの!


「繋がらない……」

 何度も通話しては切って通話しては切る。繋がらない……


 一般通話で繋がらないなら『コネクト』で!


 無料通話アプリのコネクトをタッチし機動させ凪紗のID番号を打ち込み通話を選択。


(お願い、繋がって!)


 携帯電話に願うように思いを乗せる。


 プ、プ、プ…… プルルルルル、プルルルルルル


「繋がった!」

 一瞬の沈黙の後に呼び出し音が鳴る。よし!


「「ええっ〜〜〜〜」」

 ふたりの驚きの声が聞こえたけど無視。


『ア……ーン?』

「凪紗!?」

 覇気のない凪紗の声。活発だった凪紗なのに……今は元気のげの字も見えてこないとても沈んだ声だ……


 それに電波の状態はすこぶる悪い。通話がいつ切れてもおかしくない電波状態かも


「いい凪紗、よく聞きなさい」

 だから私は言いたいことだけ、伝えたいことだけを言って通話を切るつもりだ。


 ◆


「私……邪魔なのかな……?」

 真っ白の頭の中に響くのは刹那くんの言葉……『邪魔』……


「ごめんね……ごめんね刹那くん……」

 口から漏れて繰り返すのは刹那くんへの『ごめんなさい』の言葉……


「私……怖いんだ……あの痛みを思い出すと怖いんだ……すごく怖いんだよ……」

 女の子から食らったアンブレイドの一撃。あの一撃を思い出すとお腹がなんか痛くなる。もう痛くないはずなのに。もう痛みは引いてるはずなのに。痛いんだよね……


「刹那くん……」

 停止している思考の中、ボーっと眺めているのは刹那くんが対戦相手のふたりと戦っている光景。


「ごめんね刹那くん……」

 もう一度そうつぶやき、私はクリスタルパネルを起動させた。


「リタイア……あった……」

 パネルを下へとスクロールさせるとリタイアのアイコンを発見してそのアイコンに指を伸ばす。


 ブィーン! ブィーン!


 突然胸のポケットから振動が起きた。なんだろ……


「ああ、スマホの着信か……」

 胸からスマホを取り出す。着信はアイリーンからだった。まったく、こんな時に電話なんて空気読めないな。アイリーンは。


 私は震えるスマホの画面から応答を押しアイリーンとの通話を始める。


「アイリーン?」

『凪紗……!?』

 ノイズがひどい。これじゃあいつ切れてもおかしくないかな?


『い……ぎさ、よく聞きなさい!』

 アイリーンなんか怒ってるな? なんでだろ?


「どうしたの?」

『いいから聞きな……い……いい、今はリタイアはダメ!』

 リタイアはダメ? どうしてアイリーンはそんな事知ってるの?


「でもアイリーン……私もう……痛いのはヤだよ……」

 どうしてアイリーンが私がリタイアするって事を知ってるのかわからないけど今はそんな事はどうでもいい。


 もう、痛いのはイヤだ……


『……凪紗。今リタイアした……っと……後悔するよ』

「後悔?」

『そ……ぎさが……リタイアしたら残されたあのひ……とはどうするの?』

「残された……なに? よく聞こえないよ」

『凪紗の……だ……好きな人はどうするかって聞いて……の!』

「残された……好きなひと……」

 ぼーっと眺めていた刹那くんの戦う姿がアイリーンの言葉で意識し始めてる。


「アイリーン……わたし……」

『質問はしな……で! あと……聞くから!』

 通話状態はとても悪く所々聞き取れない場所があるけどたぶん何も言わずに黙って聞きなさいって事だと思う。


『凪紗が痛がってるすが……死ぬほど痛がってる姿なんて私も……見た……ない! でもリタイアはだめ! 結果がどうあれ好きなひと……一緒に結果を納め……さい!』

「一緒に……?」

「そうだよ、勝てなんて言わ……い! この際勝ち負けなんて問題じゃ……い! 好きなひと……置いて凪紗だけリタイア……逃げ出したらあんたき……と告白なんてでき……い!」

 好きなひとを……刹那くんを置いて逃げ出す……? 告白できない……


「ここで逃げて好きなひ……を置いていったらマジメな凪紗は……逃げ置いていった後ろめたさであのひ……に告白できない! ううん……告白して付き合っても……楽しくないはず!」

「アイリーン……」

『だから負けてもいい! でも好きはひととは一緒の結果をもぎとって来なさい! いい凪紗、身体の痛みは一時いっときだけど心の痛みは一生だよ? あんたは一時いっときの痛みと一生の痛み。どっちを取るの?』

 心に響く……そうだね。わたし痛みでどうかしてた。恐怖でどうにかなってた。だから言うね。


「……そんな事聞かなくてもいいよ。だけど答えるね。わたしは一時の痛みを取るよ!」

『なぎ……』


 プッ!……プー、プー……


 電波が途切れた……でも言いたいことは言えたしアイリーンも伝えたいことは伝えてくれたはず。


「ありがとうアイリーン。今度ふんぱつしてモグバーガーおごるね」

 すでに通話が切れたスマホに向かい話しかけ通話終了のボタンをタッチした。


「よし行くぞ! しっかりしろよ雪見凪紗!」

 わたしは右手を勢いよく払いクリスタルパネルを霧散させ、立ち上がって気合いを入れるため自分のほおを両手で叩き気合いを入れたのだった。


 ◆


「瀬尾さん……?」

 私の後ろから心配そうに声をかける悠木さん。


「大丈夫だよ。伝えたいことは伝えたし、凪紗も言いたいことは言えたはず」

 悠木さんのスマホには立ち上がり自分のほおを両手で叩き、たぶん気合いをいれてるのであろう凪紗の姿が映し出されていた。


「もう、大丈夫だね」

 私は気合いを入れた凪紗の姿を確認すると悠木さんと東山さんに『ごめん。最後まで見ていい』と告げた。


「うん。私も最後まで付き合うよ」

 悠木さんがそう言ってくれた。


「私も付き合うよ」

 そのあとに東山さんも続く。


「ありがとう」

 私はふたりにそう言うと視線をスマホに戻した。


 ◆


「刹那くん、ごめん今行くから」

 立ち上がって気合いを入れたけどまだ足と手が震えてる……


 このままじゃダメだ……このままじゃ刹那くんの足手まといになっちゃうよ……また……


『邪魔なんだよね』


 脳髄に刹那くんの言葉が響き繰り返される。


 わたしは頭を左右に大きく振って持っていたアンブレイドを手放し、おもむろにスノバのウインドウガラスに近づいて両手を置く。


 女の子からもらった痛みを忘れないと……痛みを消すには……


「……っ! しっかりしろ! しっかりしてよ雪見凪紗!」

 わたしは女の子からもらった一撃を忘れ去るため自分の頭をガラスに叩きつけ痛みを上書きしていく。

 痛みはアンブレイドを持っているときより痛くないはずなのにすごく痛い。当たり前か。思いっきり叩きつけてるんだもん。


「このままじゃダメなんだ! 凪紗もわかってるでしょ!」

 透明ガラスに写るわたしに怒鳴りつけもう一度頭をガラスに打ちつける。


「刹那くんに言ったわたしの覚悟はそんなもんじゃないでしょ!」

 刹那くんの忠告を聞いた上で私は『痛みを伴うのは覚悟の上です』とか『痛みのないバトルなんてない』って言葉は全部ウソになる! それはダメだ! それだけはダメだ!


 ガラスに写るわたしはとても必死でそれを訴えてくる。


「思い出して! 刹那くんを巻き込んだのはわたしなんだよ! 刹那くんはわたしのワガママに巻き込まれてくれたんだぞ! その巻き込んだ本人が先に逃げ出してどうするの!」

 刹那くんは今ひとりで戦ってるんだ。それなのにわたしは……逃げだそうとしてた!


「死ぬくらいの一撃がなんなの!? 死なないだけマシなんだぞ! だから大丈夫! 震えないで!」

 震える足を見て、ガラスに映るわたしを見て訴える。

 

「真っ白なんだ! 刹那くんもわたしも真っ白なんだ! これからふたりでどんどん色を染めていくんだ! だからこんな事で逃げ出しちゃダメなんだ! イヤな色で染めちゃいけないんだ! 塗っちゃいけないんだ!」


 背中を大きくのけぞらせ頭を後方へと移動させそして……


 さらに大きく頭をふりかぶって……



「わたしの青春は……純白だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 思いっきり叫び、思いっきり自分のおでこをガラスに叩きつける。強烈な痛みがおでこに走る。

 なにを言ってるか自分でもわからないけど気合いははいったぞ! ……って、あぅぅ……


「ううっ傷口がひらいちゃったな……」

 やりすぎたぁ……塞がっていた頭の傷が開いておでこから血が流れてきた。でも……


「よし、震えはとまったぞ!」

 手を見て足を見る。両手両足とも不思議と震えが止まっている。結果的にオッケー!


「今行くから、刹那くん」

 流れてくる血を制服の袖でふき取る。血で染まった制服の袖口を見て『もうこの制服は着れないな』と心胸で思う。


 ボロボロになってしまった制服。二年とちょっと着てた制服がこんなにボロボロになるとなんだかとても感慨深いし悲しいかな。


「明日はジャージで登校かな……あっその前に学校に行けるかな?」

 そんな思いを抱いて私は地面に横たわっているアンブレイドを拾い上げ、刹那くんが戦っている戦場へと駆けていった。


 ◆


「刹那くん!」

 遅れて辿り着いた場所では刹那くんがふたり相手に戦っている最中だった。

 

 わたしはわたしを気絶させた女の子に狙いを付けて思いっきり大きくジャンプしアンブレイドを振り上げる!


「純白アタッァアァァァァァァァ〜〜〜ク!」

「な、なんやぁ!」

 刹那くんのいる戦いの場に着いて早々わたしは意味の分からない叫びを上げて女の子に攻撃を仕掛けた。


「チ、チビッ子!?」

「チビじゃありません! 雪見凪紗です!」

 女の子はわたしの一撃をアンブレイドで受けて止めて、着地したわたしを睨む。


「自分リタイアしなかったんやな?」

「ええ、思うところができたんでリタイアはやめました」

「それでええ、あんたとは白黒はっきりと決着をつけたかったんや」

「そうですか」

「……もう震えてへんな?」

「ええ、わたしの大親友のおかげで」

「ほぉ〜そうかい。自分いい親友と出会ったな」

「お陰様で」

 ……あれ? このやりとりは刹那くんともしたような気がするな? でも、本当にいい親友に出会えたな。あの日あの場所のトイレに紙がなかったらきっとアイリーンとも出会ってなかった。


「じゃあ、これが本当の意味でのバトル再開やな」

「そうですね。でもその前に」

 わたしは男のひとと戦ってる刹那くんに視線を移して大きく息を吸う。


「刹那くん! わたしもう大丈夫だから! だからこの子はわたしに任せて」

 両手を口に添えて大きな声で刹那くんにそう宣言する。これでもう後戻りはできない。まぁ後戻りなんてする気は全くないけど。


「わかった! 気をつけてね凪紗ちゃん!」

 戦いの中そう声をかけてくれた刹那くんにわたしはビシっと親指を空に向けて立ててサムズアップって言うのかな? それで合図をした。


「ほぉ〜言うてくれるやん」

「イヤイヤ、これくらいは言わないと刹那くんにあわす顔がないからですからね。それに自分のアンブレイドをわたしに与えてくれた事もあるし」

 ホント刹那くんには申し訳ない事ばかりだ。巻き込んだりアンブレイドをわたしのために貸してくれたり。だからじゃないけど、この女の子はわたしに任せてね。


「そいじゃあ、再開と行こうか。チビッ子っと、じゃなくてえっと、ゆきみなぎさだっけ?」

「ええ、そうです」

「ウチも名前言わんとな。ウチは白石涼葉や」

「白石さんですね」

「涼葉でいいで」

「じゃあわたしも凪紗でいいです」

「そうか」

 女の子のアンブレイドがピクンと動く。たぶん腕に力をいれたんだろう。


「じゃあ、いくで凪紗!」

「かかってこい! 涼葉さん!」


 わたしと涼葉さんは思いっきり地面を蹴り駆け出す。


 お互いに打ち合うアンブレイド。上下左右に縦横無尽に繰り出されるアンブレイドをなんとかかわし、受け止めていく。


(大丈夫。震えてない!)

 戦いの中、手足は震えてない。うん大丈夫。わたしは大丈夫。戦える!


 そう確信してわたしはアンブレイドを強く握りしめるのだった。


 続く。

お久しぶりです。間宮冬弥です。

まずは駄文ではありますが最後まで読んでいただきましたありがとうございました。

次回もいつ投稿になるかわかりませんが、気長に待っていてくれるとありがたいです。


さて前書きで出演した紫乃宮綺羅々(しのみやきらら)は本当に今のところ本編の出演予定はありません。なので一応設定だけはあるので前書きで登場してもらいました。

まぁ、どこかで本編じゃないところで出演するかもしれませんが……


では、次回も読んでいただければうれしいです。それでは失礼します。

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