痛がり小町
お久しぶりです。間宮冬弥です。
とりあえず、第六話が完成しました。今回は最新話の投稿が遅れてしまい楽しみしてくださったみなさまには申し訳が立ちません。
なんとか完成しましたので楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、第六話『痛がり小町』をお楽しみください。
「囲まれないように動き回ってるって訳かい!」
同じ顔の女の子達の追撃をとにかく止まらないで捌いて、避けて、動き回る!
20秒! この時間を過ぎれば女の子達は消える!
「ほらほら、行くで!」
ジャンプして追いついてきた女の子の上空からの振り下ろし攻撃をアンブレイドで受け流してそのまま止まらずに前方に駆ける! でも……
「次ィいってんで!」
受け流す瞬間に一時的に動き鈍くなり、そのスキに私に追いついた女の子のひとりがサイドに回り水平斬り!
「ひゃあぁぁ!」
水平斬りをスライディングでアンブレイドの下ぐぐり地面を滑ってかわす!
気づくと妻沼駅の改札口広場。モルボルからかなり速く突っ走ったけど……止まる訳にはいかないんだ!
「ほら、次ィ!」
「まだ20秒経たないのぉ!」
長い! 20秒ってこんなに長かったっけ!?
三人目の女の子の垂直からの斬り攻撃をサイドステップでかわす!
「おっ!」
駆け抜け様に女の子が光の霧状になって霧散していったのが見えた。20秒経った!
「よし、これで一対一!」
改札口広場を抜け名もない裸の銅像付近で緊急停止し、振り向き女の子を見た!
「はぁっ!」
私はアンブレイドを振りあげて女の子に剣術の『天地』を放つ!
『天地』はまっすぐ落ちてに女の子を捕らえそして、
「えっ……」
女の子は私の振り下ろしの攻撃が当たる前に……光の粒になって……消えた……?
「油断したなぁ!」
「えっ!」
突然の後方からの声!
「これで終いや! 高く舞い上がれや!」
「ぐっ……ふっッ!」
振り向くと同時にアンブレイドが腹部にめりこみ、激痛が私のお腹を襲う!
「はぅ……」
激痛が侵入した直後……私の体は、ふわっと浮き上がる感覚が包み込む。
あれ痛い……とても痛い……なんだろ? 体がゆっくり回転して……私……空に浮かんでいる? ……空のふたつの月が手に届きそうなくらい月が近く感じる。ああ、痛い……お腹がとても……痛い……すごく痛くて……まぶたが重い……痛い、イタいよ……
「これで終わりや。おつかれさん」
あ、あれ女の子が……目の前に……アンブレイドを……ゆっくり振りあげて……
腕を動かして、アンブレイドで受け止めないと……あ、あれ……痛みが邪魔で腕が動かないな……あれ、腕ってどう動かすんだっけ? これじゃあ……アンブレイドが当たっちゃうよ……
「凪紗ちゃん!」
あ、刹那くんの声だ……来てくれたんだ……嬉しいな……
「う、うあぁぁぁあぁぁぁぁぁあああぁあ……!」
痛みが全身に駆け巡って、悲鳴がこぼれる……
「うっ! ……あっ……うぁ」
背中に衝撃が走って……一瞬身体が……浮いて……落ちて……冷たい……あれ、なんかぼやけて視界が赤くなって……なんかおでこが暖かい……な……
あれ……ふたつの月が遠い……あれ私、空にいたのに……浮いている感覚がなくなってる……
手がなんか冷たい……あれ、なんで私……地面で寝てるの?
「凪紗ちゃん!」
あ、刹那くん……
「大丈夫! 凪紗ちゃん! しっかり!」
「だ……う……よ……」
あれ、声が……お腹が痛くてうまくしゃべれないや……ごめんね刹那くん。
「な……と……だ……」
あ。私刹那くんに抱きかかえられてる? 嬉しいな……
「しっ……あ……から……だよ!」
刹那くん……ごめんね。痛くて……痛くて……とても痛くて刹那くんが何言ってるかよく……き……こえ……ない……よ……
「……! ……!」
刹那くん……痛いよ……痛いよ。痛くて痛くて私は泣いちゃいそうだよ……痛いよ。痛いよ助けて刹那くん……でも泣いたら、助けを求めたら刹那くんはきっと私を助けてくれるよね……でももう私は刹那くんに助けてもらってるから……一緒に戦ってくれているから私……
「……! ……! ……!」
痛い。体中がイタイよ……でも、このまま刹那くんと一緒にイタい……よ。ずっとこのまま抱かれてイタイよ……ずっと刹那くんの暖かさを感じてイタイよ……ずっと刹那くんとおしゃべりしてイタイよ……
あれ? どんどん瞼が落ちてくる……死んじゃうのかな……私……
「刹那……くん……いっ……イタイよ」
イヤだな、生きてイタい……
生きたいよ……刹那くん……!
そこで私の意識は……途切れた……
◆
「しっかりして凪紗ちゃん! 凪紗ちゃん!」
刹那は凪紗を抱き上げ、必死に凪紗に呼びかける。が、凪紗はピクりともせずに完全に気を失っていた。
「いい手応えやったで、会心と言ってもいいな。あんたのパートナーはしばらく目ェ覚めんやろ」
刹那と抱きかかえられている凪紗を見下ろし。少女は口を開く。
「あんたはどないする? まだバトル続けるん?」
「……凪紗ちゃん。ごめんマフラー借りるね」
刹那はそっと凪紗の首に巻かれているマフラー取り出しゆっくりと地面に寝かしつける。
「地面は冷たいけど我慢してね」
そして自分のアンブレイドを凪紗の右手に持たせ先ほど無言の凪紗から借り受けた赤いマフラーを右手にグルグル巻きに巻く。
「な、なにしてんねん!」
関西弁の少女は刹那の行動に驚きの声を上げた。
「ああ、ごめんさっきの質問の答えだけどバトルは続けるよ」
「あ、でもあんた、アンブレイドは……」
少女は刹那の行動に戸惑い、戸惑いの声を上げる。
「その点なら心配ないよ。死ぬほど痛いと思うけどあれくらいの痛みと傷なら『アンブレイド二本でマナの身体能力の治癒力を倍増』、させればすぐに回復するから」
「なに言ってんねん。あんたアンブレイド持ってないやんか?」
「ん? ああその事か。それなら大丈夫。凪紗ちゃんならきっと三十分以内に目が覚めるよ。高校生だもん体力は有り余ってるでしょ? 俺の目算だとだいたい二十五分くらいで目が覚めるかな? 気にしないでいいよ。目が覚めたら返してもらうから」
少女とは逆でまったく動じない刹那は淡々と少女と話す。
「なに言って……じゃあなにかあんたは二十五分間『アンブレイドなし』で戦うって言うんか?」
「そうだけど? なにか問題でもあるの?」
「ア、アホちゃうん!」
少女が逆ギレ気味になり声が張り上がる。
「アンブレイドがないと身体能力の向上があらへんやん!あんた、そないな状態で戦ったらただじゃすまんで! よう見てみい! ウチはアンブレイドもってんやで!」
「……それを含めて問題あるって聞いてるんだけど?」
極めて冷静に。そして沈着に刹那は落ち着いた、冷たい表情と声で少女に答える。
「なっ!」
少女の表情がさらに赤くなり激情する。
「俺から質問するけどそっちはバトルを続ける気あるの?」
「なんやねん……あの騎士道部のチビっ子といいあんたといい……」
「君がこのままなにもしないならしないでいいよ。それで凪紗ちゃんが目覚めたらふたりで君を倒しにいくだけだから」
「わかってんと思うけど三十分しか戦えへんで、自分!」
「そうだね。でも凪紗ちゃんは絶対に起きるから大丈夫だよ」
「ええんやな?」
「くどいね。戦う気があるならさっさとかかってきなよ。
このまま何もしないと凪紗ちゃんが起きちゃうよ?」
刹那は右手をクイクイっと動かし少女を挑発する行為を行った。
「かかって行く前にひとつ聞いていいか?」
少女は一歩踏みだし、刹那に少しづつ近づき言葉を漏らしていく。
「どうぞ」
そんな少女の行動を見やり、刹那は警戒をしつつ返答をした。
「あんたがここにいるって事はウチのアニキを倒したんか?」
「アニキ? ああ、もしかして君のパートナーの事?」
「そうや」
「へぇ〜君たち兄妹だったんだ」
「質問に答えろや!」
少女はアンブレイドを振りあげ、刹那に向かい駆けだした。
「そうだね! 君のお兄さんは俺が倒したよ! 手応えがないくらい楽勝だったね」
「ふざっけんなや!」
振り下ろされたアンブレイドは刹那をまっすぐ捕らえる。刹那は少女の攻撃を大きく横に飛び退けこれを回避。
「は! すごいやん! めっちゃ強いウチのアニキを倒すなんてな!」
「めっちゃ強い!? 俺には今の君の方がお兄さんより強いと感じるけどね!」
刹那は少女の連続的な攻撃を地を這いでこれを避ける。
「どうしたどうした! 動きが鈍いで! そんなんじゃウチの攻撃をいつまでもかわせんで!」
少女の言うとおり今の刹那はアンブレイドを持っていない。それは今の刹那には『マナの身体能力向上の恩恵』がないと言うことだ。現に少女の連続的な攻撃を大回りな回避でギリギリの所でいて、間一髪の回避がほとんどだ。
パルモ二階入り口まで少女の攻撃を回避してきた刹那はチラっと歩道橋の下を見る。
「よそ見すんなや!」
振り下ろされるアンブレイドを間一髪でかわす。振り下ろされたアンブレイドは刹那の真横の鉄柵に直撃して「キィィィィン」と大きな金属音を鳴り響かせた。
「ちょっとアンブレイドを借りるよ」
刹那は真横にある少女のアンブレイドを右腕の脇の下に挟み込み、さらに左手でそれを掴んだ。
「何すんねん! 離せや!」
少女は刹那からアンブレイドを引き離そうとするが少女のアンブレイドは刹那から離れなかった。
「なんで?! あんたアンブレイド持ってへんのになんでそない力があんねん!」
少女は何度も、何度もアンブレイドを引いては押して、引いては押した。だが、少女のアンブレイドは刹那からは離れる事はなかった。そんな刹那を少女は驚愕の表情で見ていた。
「アンブレイド? アンブレイドなら『持ってるよ』ほら」
そう言った刹那の視線は、脇の下に挟み込まれているアンブレイドを見ていた。
「な、ウチのアンブレイド……?」
「そうだよ。君のアンブレイドからマナを取り込ませてもらってるよ」
「な、なんで……アンブレイド持ってへんやん……」
「あれ、知らなかった? マナの身体能力向上は別に『自分の所有しているアンブレイドじゃなくても』身体能力の向上は得られるんだよ。『他人のまったくの赤の他人のアンブレイドでもその効果は得られる』さらに言えば別に持っていなくても『触っているだけでも効果は得られる』んだよ?」
「な、なん……」
少女の表情は戸惑いで曇っている。どうやら少女は刹那の言った『自分の所有しているアンブレイドじゃなくても身体能力の向上が得られる』という事を知らなかったのだろう。それに付随して『他人のアンブレイドと触っているだけで効果を得られる』と言う事も知らなかっただろう。そんな少女を見つめ刹那はさらに口を開いていく。
「ところでどう? 俺と一緒に命綱なしのスカイダイビングでもしてみない?」
「え!? うぇえええっ〜〜〜〜!」
刹那は柵に背中をあずけ、少女の腕を掴みさらに少女の腹部に足をかけ、そのまま柵を支点にして柔道の巴投げのように後方へと回転して歩道橋から落下した。
「いやぁぁぁぁぁあぁぁああぁぁあぁぁ!」
少女の悲鳴が轟き、刹那と少女が落ちた先はトラック横転事故現場の山積みになっているダンボールの上に落下。
「いてて……」
刹那は肩を押さえながらゆっくりと立ち上がり、地面に拡散している鏡文字で反転した『APUの文字』の入ったビニール傘を一本拾い上げる。
「これでなんとかなるか……? なんとかするしかないか」
拾い上げたビニール傘に不安を覚えつつも今はこのビニール傘に頼るしかない事を刹那は悟っている。
「さてと……おっ、もしかして落ちた衝撃で気絶してるかな?」
一緒に落ちてきた関西弁の少女を見て刹那はつぶやく。少女はピクりとも動かずに置物のように落ちてきたそのままの状態で倒れていた。
「う〜ん……死ぬことはないと思うけど……なんか心配だな……」
少し少女の身を心配して近づき、ゆさぶり起こそうとして肩に手を伸ばす。しかしその行為が『三十分気絶していたら負け』の勝利条件に反している事を刹那は十分承知の上での行動だったのだろう。
「めっちゃ……」
「あ、よかった生きてるね」
「めっちゃ痛かった! なにしてくれんねん!」
目を見開き、自分の身を案じてくれた刹那にアンブレイドを振りかざす。
「元気そうでなによりだよ」
少女の攻撃をバックステップでギリギリのところでかわし刹那はそう声をかけた。
「怖かったやん! すごく怖かったやん! ウチ泣きそうや!」
恐怖を叫び、泣き出したいことを告白した少女は自分の周りにある無数のダンボールをアンブレイドで吹き飛ばす。
吹き飛ばされ、宙を舞った複数のダンボールは中身のAPUのビニール傘をあたりにまき散らし雨のようにビニール傘が降っていた。それはそれはとても異様な、鏡の外ではめったに見られない異質なほどの光景だった。
「あ……いい感じに傘がちらばったな」
空を見上げその様子を見ていた刹那の口の端は少しつり上がっていた。
「自分なにしてんねん! めちゃくちゃやで自分!」
「何いってんの? 鏡の中じゃすべてがめちゃくちゃでしょ? こんなに異常的な空間なんて滅多にないよ」
降り注ぐ傘の雨の中、少女の怒号が響きわたる。
「ホンマ……チビっ子といいあんたといいイライラするわぁ!」
「怒りっぽいのはよくないよ?」
「うっさわ!」
少女は刹那に駆け持っているアンブレイドを思いっきり降りあげ、刹那に攻撃を仕掛けた。
「避けるのが精一杯やな、自分!」
少女の言うとおり、刹那はかわす事に神経を集中している。それは当たったらそこで終わり。アンブレイドを持っていたない刹那は一撃で気絶してバトル終了を意味しているからだろう。
「そんな安っぽい傘じゃなにもできへんやん!」
刹那は少女の攻撃を回避しているが、持っているAPUのロゴの入ったビニール傘はほどんど使っていなかった。
少女の攻撃に刹那は徐々に追い込まれ路上駐車してある車まで追い込まれ背を当ててしまった。
「終わりやボケぇ!」
少女の降りあげたアンブレドが刹那を急襲する。だが刹那はその攻撃をAPUのビニール傘で受け流しその場を凌ぐ。
そして受け流したAPUのビニール傘は真ん中からポキっと折れ、折れたビニール傘をそのまま少女に投げつける
。
「ちっ!」
アンブレイドで投げつけれたビニール傘をたたき落としたその隙に刹那は、自動車から離れ広い場所へと駆け出した。車から離れと同時にまき散らされたAPUのビニール傘を一本拾い上げて再び駆け出す。
「待てや!」
少女は刹那を追いかける。そしてあっという間に追いた。
「遅い、遅いで! 眠ってまうくらい遅いで!」
「そりゃそうでしょ!? 俺アンブレイド持ってないからね!」
そう少女にツッコミ少女の攻撃を持っていたAPUのビニール傘で再び受け流す。
「避けて時間稼ぎか! やる気あんのかい!?」
少女の言うとおり今の刹那には避ける事しかできない。ヘタに攻撃をしようとすると反撃をくらいそこで終わって終うからだ。
「なら、お望み通りにやり合おうぜ!」
だがしかし、刹那はアンブレイドを持っていないのにも関わらず、果敢にもアンブレイドを持っている少女の戦いを挑む。
「ええでかかってこいや! くそイケメン野郎!」
少女はアンブレイドをしっかりと握り刹那の攻撃に備える。
「はっ!」
刹那は少女の水平からの一撃を放った。が、少女にあっさりと弾かれた。
「遅い、ホンマの遅いわ! アンブレイドを持ってないとこんなに遅いんやな!」
弾かれたと同時にAPUのビニール傘は根本から折れ、取っ手の部分しか残っていなかった。されに少女から回し蹴りが刹那を捕らえ飛んできた
「くっ!」
間一髪のところで後方へと飛び退き、手に残った取っ手の部分を投げ捨てる。
「あきらめて降参したらどうや!」
「しないよ!」
刹那は街路樹に突き刺さったAPUのビニール傘を抜き取り少女の攻撃を受け流した。そして先ほどと同じく根本からポッキリと折れる。
「ビニール傘は貧弱やな!」
攻撃によって折れてたAPUのビニール傘を見て少女がそう言うと『奇遇だね。俺もそう思ってた』と刹那は返した。
少女の猛攻を刹那は何とかかわしては受け止め、受け止めては折れるAPUのビニール傘。そして辺りに散らばっている新しいAPUのビニール傘を拾いなんとか凌いでいた。
「いつまでそのビニール傘で凌げるか見物やな!」
「くっ!」
刹那迫りくる強硬なアンブレイドを持つ少女を貧弱なAPUビニール傘で応戦していく。
◆
「はぁはぁ……つっ、はぁ……はぁ……」
「だいぶ息が上がってんな自分。疲れたんやろ? ええでギブアップして休みや」
「イヤイヤ……しないよ……」
刹那がアンブレイドを離して約七分。少女の言うとおり刹那はだいぶかなり息が上がっていた。肩が上下するほどの体力が消耗しているのはハタから見ても一目瞭然で明らかだった。
アンブレイドを持っておらずマナの供給もない。よって異常的で飛躍的な身体能力の向上のない刹那は、ほぼ一般人と変わりない。そして、アンブレイドを持っている少女は刹那と逆でまったく息が乱れていない。むしろまだまだ余裕すら感じてしまうくらいの立ち振る舞いだ。
「そんなんであと二十分くらい戦えんのかい?」
「はぁはぁ……」
「しゃべれんくらい疲れとるやん」
少女の問いかけに刹那は答えなかった。いや答えられなかったのだろう。それだけ疲労が蓄積しているのだ。
「ギブアップしいや。これ以上戦ったって無駄やって」
「しないって……」
「往生際の悪いイケメンやな」
少女はアンブレイドをギュっと握り手に力が入る。
「ならウチがアンタを終わらせてやるわ!」
少女が刹那に向かって駆けだした。
「くっ……」
APUのビニール傘を構え応戦体制に入る刹那。
「おら!」
少女の一撃をAPUのビニール傘で受け流す。受け流したAPUのビニール傘は真ん中からへし折れると同時に刹那は大きくサイドへと転げながら移動し、使いものならないと判断してAPUのビニール傘は投棄。
「逃げることしかできんならもう寝ろや!」
さらに少女の攻撃は続き刹那はガードレールにひっかかっているAPUのビニール傘を拾い上げる。
「これでお寝んねしいや!」
少女はジャンプして刹那を狙い打つ。が、刹那は持っていたAPUのビニール傘を投擲のように少女に投げた。
「ちっ! そないなもん!」
飛んできたAPUのビニール傘を少女はハエをはたくように叩き落として刹那に追撃。しかし刹那はその一瞬の隙を見逃さなく、その場を退避して離れる。
「くそ……足が重い……」
退避しがたあしがもつれて転んでしまった。やはり疲れで足が思うように動かない。そして『逃がさへんで!』と怒号が響き、刹那はあっと言う間に追いつかれてしまった。
「終わりや!」
少女の振り下ろされるアンブレイドを横転でなんとかかわし立ち上がるついでに地面に落ちていたAPUのビニール傘を拾い上げる。
「はぁ、ん、はぁはぁ」
「次の一撃で終わりやな」
傘を杖代わりにしてやっと立っている刹那。そして少女が刹那を倒すためダッシュをかけた。
「見つけたで! イケメンクソ野郎!」
男性の怒りの声が響く。
「なっ!」
刹那は声がした方へと振り向くと同時に地面に転がった。
「ちっ! かわされた」
刹那は振り向くと同時に男性の攻撃の瞬間が視界に入っていたのでとっさに、反射的に地面に転がり回避していたのだった。
「アニキ! ワレ生きとったんか!」
「アホか! 死んでへんわ!」
刹那を襲撃したのは一度刹那に倒されている少女のパートナーの男性だった。
「これは……ちょっとマズいかな……」
そんなふたりを見ている疲労困憊の刹那。その表情には焦りが現れていた。
「あぶなかったで。起きたのが二十八分やったからな。あと二分で負けやったわ」
「ギリギリやん! 自分ギリギリやな!?」
他愛もない会話を交わしているふたり。その光景を見ている刹那はきっと『このままずっと話していて』と思っているに違いない。その証拠に刹那は少しでも体力が回復できるように少しづつふたりから距離をとっていた。
「さてと……そこのイケメンくそ野郎よ」
突然視線が刹那に向けられる。
「自分よくも俺のアンブレイドをどこかに放ってくれたな? 探すのに苦労したで」
「……そんなことないでしょ?」
肩で息をしてなんとか答える。
「アホか! マンホールに落ちかけてたわ!」
「あ、そうなんだ……放り投げた先まで見てなかったからわからなかった」
ビニール傘を杖代わりに立ち、肩で息をしている刹那を見て男性は顔に怪訝な顔を浮かべてた。
「ん? なんで自分そんなに疲れてるん?」
「あのイケメンさんな、アンブレイド持ってないねんで」
「あ、ホンマやん! なんで!?」
アンブレイドを持っていない刹那を見て男性が疑問の声を上げる。
「まぁええか、ふたりならあっと言う間に終わるな」
「まぁ……そうやな」
バツの悪そうな顔の少女。それはそうだろう。つい数分まで男性と同じことを思っていたがあれよあれよと攻撃がかわされ受け流されて現在に至るのだから。
「こいつは……まいったね……」
ふたりを交互に見て刹那は小さく、とても弱々しくつぶやいた。
それは、刹那が凪紗に自分のアンブレイドを巻き付けてから九分後の事だった。
◆
雪……? かな……白くて……冷たくて……どんどん空から降ってくる
積もって……どんどん積もって倒れている私を埋めていくみたい
なんて冷たくて……冷たすぎて低温やけどしちゃうくらい冷たくて……私埋まっちゃうのかな……
「刹那くん……」
最後に逢いたかったな……顔見たかったな……声聞きたかったな……
『……』
あれ、誰だろ……私をのぞきこんでくる……女の子?
……ぼやけてよく顔は見えないけど……私と同じ学校の制服を着てるの……?
『……』
ごめん聞こえない……よ……ああ、でも綺麗な銀髪だな……髪型は私と同じポニーテールかな……
『……』
ごめんね……ホントに聞こえないんだ……
『……』
手を差し伸べてくれてる……そこまで手……届くかな
「あぅ……」
あと……少し、あと少しであの子の手に届く
『私に逢えるのを楽しみにしてるね』
「え……」
手を握る手と握り返してくる手。そして突然に雪の大地が崩れ私と目の前の女の子が一緒に落ちていく。
「う……」
手を握っている女の子は白く輝き雪になって消えてしまった……
「白い……?」
私の手に残ったのは女の子のぬくもりと白くて……まるで水晶のような雪の結晶のような半透明な小さいプレートが握られていた……
落ちていく……空から雪が降るように私も落ちていく……ああ、まるで雪の海を落ちていくかのような感覚だな……深く、深く雪と一緒に真っ白い海を落ちていく……
「刹那くん……恐いよ……」
落ちていく……どこまで落ちるんだろ……
◆
「刹那くん……恐いよ……あ、あれ……」
私は自分の発した言葉で眼が覚めた。
「なんか、私……アンブレイドの一撃で確か気を失って」
それでなんか夢を見ていたような……よく思い出せない。でも誰かに逢ったような……
「え……」
右手に何か握られている違和感……それは、見覚えのある黒い……傘
「な、なんで……どうして……」
私の右手には私の赤いマフラーがグルグル巻きに巻かれていて……
「なんで……なんで『刹那くんのアンブレイド』が私の右手にあるの……
ホントに刹那くんのアンブレイドかステータスをショートカット起動して確認する。
「回帰と……神速……」
装着されているマテリアルプレートは刹那くんが言っていたマテリアルプレートと一致している。
「気を失う前に確か……刹那くんが来て……その後に……?」
考えがまとまらない。なんで刹那くんが私に自分のアンブレドを持たせたのか。さらにマフラーで巻いたのかわからない。
「なんで……どうして……」
同じ言葉を繰り返すけど、答えなんてでない……わからないよ。
「じゃあ、今……刹那くんはどうしてるの……?」
ふと疑問が生まれ言葉にする。
「戦ってるの……スキルなしで……アンブレイドなしで?」
解決するわけのない疑問を口にする。
「どうしよう……どうしよう……どうすればいい?」
どうしようもない状況に頭が混乱する……
「マップ……そうだマップ!」
刹那くんが教えてくれたアンブレイドの搭載機能の事を思い出した!
「どこ、どこにいるの?」
右手に巻かれている私のマフラーを強引にほどき乱暴に首に巻き付けた。
自分でも焦ったいるのがわかる手つきで四角いイラストが描かれたボタンを押して続け、右手を思いっきり薙ぐ。
「マップ! どこマップ!」
クリスタルパネルを機動させ、急いでマップを探す。
「ない?! ……あ、あった!」
数多くあるアイコンにイラつきながらその中に見つけたマップのアイコンをタッチ。瞬時に周辺の地形が表示された。
「どこ、どこにいるの!」
視線を縦横無尽に動かしていると赤い点滅がふたつある事に気づく。
「ここ……って」
そこは私のいる妻沼の駅から少し離れた場所。よく知るその場所は私がバイトをしているパルモ一階にある『スノーバックス』近くだった。
「行かないと……」
誰にでもなくつぶやき、その瞬間、弾けたように私は駆け出し立体歩道橋を飛び降りそのまま走り『スノーバックス』へと向かった。
続く。
最後までこのような駄文を読んでいただきありがとうございます。間宮冬弥です
まずは最新話の投稿が遅れてしまい申し訳ございません。
そして今回の読んでいただいた方はなんとなくわかっていると思いますが、お話はいつもより約半分くらい短いです。
※いつもなら大体二万文字で投稿していますが今回から約一万文字での投稿です。
かなり前の活動報告で『次回作から8千文字から1万文字くらいにします』的な事を書いたと思いますが、すみません。今回から適用させていただきます。
仕事が忙しくなり、二万文字まで書いているといつ投稿できるかわからないためです。
勝手なことで申し訳ございませんが、今回から8千文字から1万文字くらいでの投稿とさせていただきます。
申し訳ございませんがご了承のほどお願いします。
それでは、失礼します。