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ひとりかくれんぼ

お久しぶりです。間宮冬弥です。

だいぶ遅くなりましたが第五話の『ひとりかくれんぼ』が完成しました。

私事ですが仕事が忙しく執筆する時間がなくこの時期までになってしまいました。ホントならもう少し早く投稿したかったのですが…


誤字や脱字などがあるかもしれませんがその時は報告をお願いします。


では、第五話の『ひとりかくれんぼ』をお楽しみください。それでは!

「どうや? ウチに勝ついい案は浮かんだんかい?」

「今、考え中です思考中ってヤツです!」

 私と女の子はダンスという名のアンブレイドでの接近戦を繰り広げていた。かれこれ数分くらいお互いアンブレイドを打ち込んでいるけど私の攻撃は一向に当たらない……なんか、悔しい!


 袈裟斬りに逆袈裟、それに斬り上げ斬りの天空や斬り下ろし斬りの天地もすべて避けられる、かわされる! ホントに悔しい! 悔しいけどこの子は騎士道をくまなく調べている。攻撃の先を読まれている。読めてるよ! どれだけカリン……なんちゃらってひとを倒したいの!?


「ほらっ!」

「うひゃあッ!」

 突拍子のない横方向からのアンブレイド。私はエビ反りで避けてその勢いで後方宙返りで女の子との間を離す。


「いまの攻撃をかわすんかい?! さすが鏡の中やな。身体能力の上げ幅がハンパないな。見事な身のこなしやったで」

「どうもッ!」

 って、言っていいのかな? イヤイヤこれって皮肉じゃないの? おっと、これも挑発かもしれないから無視で気にしない。スルーだ! そんなことより


(スキルキャパは……68か。かなり打ち込んでたからこんなもんか……)


 クリスタルパネルボタンを押しショートカット起動でステータス画面を開きスキルキャパの確認。68って事は回復数は75だったのかな? あ、でももし回復量が100だったらもったいないことをしたなぁ……


(でも、これで最低三回はスキルが使える)


 でも三回か……うまく使ってなんとか攻撃を当てないと。理想は一撃で相手を気絶できるほどの攻撃が繰り出せるといいんだけど……


「お互いスキルキャパがある程度溜まったようやな」

 右手を振り払いステータス画面を霧散させて視線を女の子に戻す。どうやら女の子もステータス画面を開いてスキルキャパの確認してたようだな。


「お互いスキルキャパの確認は終わったな。じゃあ」

 女の子のステータス画面が霧散して女の子の雰囲気が変わる。空気が張りつめる。これは……攻撃が来る!

 女の子の一挙一動を見逃さすに眼を見張る。


「行くで!」

(来た!)


 女の子はさっそくスキル『滑空』で地面を滑るように私との距離を縮めてくる。


(アンブレイドを後ろに引いた……突き!?)

 滑空で間合いを詰めてくる女の子は左手を引きアンブレイドも連動して後ろへと引き、傘の先が私を捕らえている!


「食らいや!」

 間を詰めながらの突き攻撃! だけど突きは攻撃が直線に限定される。これなら加速でサイドへかわして、


「へっ!?」

 突然アンブレイドが目の前で開き展開される。一瞬視界がすべてアンブレイドの白色に覆われる!?


「な、なに?」

 目の前の開いたままのアンブレイドは地面に落ち視界がクリアになるそしてその持ち主の姿は……


「いな……ッ!?」

「こっちや! チビっ子!」

「いッ!」

 左横からっ!? アンブレイドを目隠しにしての奇襲!?


「ぐっ……はうっ!」

 腹部に走る激痛。女の子の左足からの蹴りが私のお腹にめり込んでる……っ!


「う……あっ……」

 両膝が地面にくっつく……息が乱れる……うまく息ができない……呼吸が整わない……なんでこんなに……痛い……の……


「痛いやろ? そらそうやろ。ここじゃ痛覚がアホみたいに強化されてるんやから」

 あっ……そうだ……痛覚の感覚が向上してるんだった……


「初心者のあんただからすっかり忘れてやろ? でもな今の一撃は『アンブレイドを持ってない蹴り』やで」

「う、あ……」

 女の子が落ちているアンブレイドを拾う場面がおぼろげに視界に入る……あ、やばい……この状態でアンブレイドを持っての攻撃を受けたら……


「くっ、はっ」

 腹部を押さえ立ち上がる。痛いけど……立ち上がらないと攻撃が来る……


「お、立ち上がるか? まぁそうやろ? アンブレイドを持っての一撃やないからな」

「イヤイヤ……結構効きますよ……うっ!」

「ウチもあんたの一撃、かなり効いたで。すごく痛かったで」

 あの子すごい……アンブレイドの一撃を受けても立ち上がるなんて……アンブレイドを持っていない状態でもこれだけ痛いのに。アンブレイドを持ったままの攻撃が怖いよ……当たったらどうしょう……


「じゃあ、そろそろお寝んねの時間や!」

 女の子が逆袈裟斬りで決着を付けに来る。でも、このまま攻撃を受けて終われないんだよねッ!


「おっ!?」

 ジャンプ一番! 女の子の攻撃を大きくバックジャンプでかわしそのまま駅のフェンス越えて道路へと着地。


「ちょっ、逃げのかい!?」

 女の子も追従してジャンプでフェンスを越えてこっちにやってくる。


「これだぁ!」

 ジャンプで女の子がフェンスを越えるこの時。私は一瞬の閃きで『加速』して女の子の着地予定地点まで一気に間合いを詰める。


 そして左手を引きアンブレイドを弓矢のように……


「あ、あか〜ん!!」

 放つ! 槍は持ってないけど騎士道の槍術を見せてやる!


「雷光一閃! 火燐センパイ直伝『紫電』!」

 超高速の突き! 空中にいる女の子は体勢制御はできない! この突きは必ず直撃させる!


「くそがッ!」

 その時、女の子はフェンスに右手をかけ思いっきり引っ張り自分自身の身体を強引にフェンスに引き寄せる。


 無理矢理空中制御させられた女の子の身体は急激に傾き私の放った『紫電』の軌道からはずされた!


「うそぉ!」

 肩をかすっただけ?! くそっ直撃させられなかった! あの状態からあんな方法で無理矢理体勢を変えるなんて!?


 そして、女の子はフェンスの網部分に足を当てそのまま『滑って』地面に着視、そしてそのままこちらに向かって地面を『滑って』くる。『滑空』ってあんなこともできるの!?


「忘れとったわ! 騎士道は剣術の他に『槍術』があるんやな!」

「くっ!」

 女の子のアンブレイドの袈裟斬りをアンブレイドで受け止め鍔ぜり合いの状態になる。


「自分さっき『カリン』先輩って言わんかったか?」

「えっ?! 言いましたけど!」

「あんた『カリン・エルヴァード』の知り合いなんか?」

「カリン……エル……なんですか?」

「言ったやろ? 最強のブレイダーや」

「ああ、なんか言ってましたね!」

 そう言えばさっき最強のブレイダーの〜とか言ってたな。でも今この状態でそれを訊くの?! この状態で?!


「どうなん?!」

「残念ですけど火燐センパイは違います。衛宮火燐って名前ですからねッ!」

 女の子のアンブレイドをくるりと回りながらいなしそのままバックステップで距離をとる。


「えみやかりん?」

「そうです」

「カリン・エルヴァードじゃないんか?」

「そうです」

「ホンマ?」

「ホンマです。第一火燐センパイは日本人です。そのカリン・エルヴァードって名前ですけど外人さんみたいな名前じゃないですか?」

「言われてみたら……せやな」

 せやなって! なんとなく名前でわかるでしょ!? エルヴァードってどう考えても外人さんの名前でしょうが! まったく戦闘中なのになんでこんな会話してるの? 私たち!?


「ほんならおしゃべりは終わりや。このまま眠りや」

 構えが沈んだ……来るか!?


「いくで!」

 女の子は『滑空』を使い地を滑りながらこちらに接近!


「おらっ!」

 水平斬りをアンブレイドでいなしバックステップで距離を取る。


「逃がすかい!」

 『滑空』追撃をかける女の子。


 私は『加速』で女の子追撃をかわそうと考えスキルダイヤルに手をかける。


「『加速』は使わせんで!」

 道ばたに停めてあった原付バイクをアンブレイドで思いっきり打ち抜き振り抜いてスイング!


「ウソだろうが!」

 原付バイクはまるで野球のレーザービームのように一直線に飛んで襲いかかってくる!


「うっひぁあぁぁぁぁぁ!」

 飛びかかってくる原付バイクをジャンプで緊急回避! あぶなかった! これはあぶなかったよぉ!


「飛んだなぁ」

 女の子を見る。口に端が歪み吊りあがっている。


「しまっ!」

 私は空中! 女の子は地上!


 女の子は『滑空』を使い距離を詰め、私の着地予定地点でジャンプ!


「もう一度吹っ飛べや!」

 女の子は原付バイクを吹き飛ばしたスイングを私に放つ!


 周りにはなにもない! さっき見た女の子のような無茶な回避方法はできない。


 私はとっさにアンブレイドの開閉ボタンを押し傘布を展開して開く!


「ぐッ! はぅ!」

 開いたアンブレイドに直撃し、私の身体はアンブレイドごと思いっきり後方へ吹っ飛ばされる。

 空を駆け抜けすごいスピードで景色が流れていく。


「う〜〜〜〜〜っ! うぐぅ……いっつ〜!」

 空から思いっきり吹っ飛ばされた! ううっ肩口から落ちて体中のあちこちがとても痛いよ……


「ううっ、痛い、痛いぃ〜」

 痛いけどとても痛いけどいつまでも痛がってはいられない。痛覚も向上しているけど治癒力も向上している。だからこの痛みもそのうちに痛くなくなるはず……だよね?


 立ち上がり周りを見る。見るけど女の子はいない……


「追撃をかけてこない……」


 開閉ボタンを押してアンブレイドを閉じる。その流れでトリガーボタンを引いてバサバサのアンブレイドをまとめあげ傘止めフックをひっかける。


 左右を見渡す。見渡すけどやっぱりどこにもいない……


「ここって……」

 女の子を探すのと同時に自分の状況を考えてみる。


「ここって……モルボル?」

 どうやらここはショッピングモールの『モルボル』で二階入り口広場だった。う〜ん妻沼付近の道路からここまで吹っ飛ばされるってすごい事なんじゃないの? さすがは鏡の中の世界って感じ。


「でも……なんで?」

 女の子が追いかけてこないのはなんで? あんなに攻撃的なのに追撃をかけてこないのはなんで? どうして?


 もう一度周りを見る。いないのは変わらない。


 モルボル周辺は妻沼駅から直接二階入り口にこれる連絡通路があり、さらにモルボルは地上から二階、三階に上がれる階段もある。さらにユザマヤ方面から店内に入れる入り口やコンビニのマーソン方面から店内に入れる入り口もある。私のいる二階入り口広場までは店内ルートを含め複数のルートが存在している。そのすべてのルートを見渡したけどこちらにくるひとも影もない。


「こないの……?」

 左右を見渡してもいない……後ろを見てもモルボル店舗内から来る気配もない……


「どうして……」

 『滑空』のスキルがあるならすぐにでも来れそうなのに……スキルキャパがなくな……っ!


 待って『滑空』? 『滑空』は『地面じゃない所でも滑れる』って言ってなかった? ならこちらにくるルートは地上だけじゃない?


「上!」


 上空を見る! 見渡す!


「居たぁ!」

 女の子は丸源からユマザヤにかけての店舗の壁面や電線をたぶん『滑空』で滑りこちらに向かっていた!


「どうする!? 迎撃? それとも……」

 チラッとモルボルへの入店するガラス製の手押しドアを見る。


「逃げるみたいだけど……」

 モルボルの中にいったん退却して……


「イヤ! ここで迎え打つ!」

 腰を落としアンブレイドを後方に引き半身の独特の構えを取る。


 戦略的撤退かもしれないけど……中に入ったら『加速』が封じられそうかもしれない。さっきもパルモの時も走っただけでマネキンにぶっかったから! たぶん『加速』を使ったらいろんな所にぶつかりまくる!


「見つけたで! チビっ子ぉ!」

「チビっ子って言うな!」

 女の子はすこし距離を取って着地! ダッシュで間をつめアンブレイドを振り上げる! 振り下ろされたアンブレイドを私はサイドステップでかわしてそのまま水平切りで反撃!


「くっ、当たらない!」

「はずれや、はずれ」

 反撃はむなしくアンブレイドで受け止められた……くっそ! 攻撃が……当たらないよ!


「しかし驚いたで!」

「う、ぐ」

 女の子は私の攻撃のスキを突いてダッシュで近づき、マフラーの上からネクタイごとブラウスまでまとめて胸ぐらを掴み顔を自分の目の前まで唇が当たるくらいまで引き寄せられる。


「自分ホントに今日が初めてのアンブレイドバトルかい? あそこでアンブレイドを開くってそうそう思いつくことやないで?」

 あそこでって……さっきの攻撃の事?


「は、離してください……うっ」

 首にブラウスが……


「ホントの初心者だったらあんな場面でアンブレイドを開くって思いつかないもんやで? 自分初めてなのにアンブレイドの特性をよう知ってるな?」

「私の……か、彼の教え方が、くっ、わかりやすかったんでね。『開いたアンブレイドは広範囲の攻撃を防ぐ』シールドにな、るって……事を教えてくれま……した」

 息が苦しい……思いっきり胸を掴んで……首にブラウスとマフラーが巻き付いて……


「ほぉ〜そうなん。それであの思いつきかい? 自分アンブレイドバトルの才能あるで?」

「そんな才能は要りま……うっ、せんよ……欲しいのは勉強が出来るようになる才能ですね……テストの点数がすこぶる悪いんで……つっ!」

「その才能はウチも欲しいなぁ。ウチもテストの点数悪いんでな」

「へ、へぇ〜やっぱ……りあなたも高校生……ですか?」

「そうや」

「バカなん……ですね」

「……口が減らんなぁ」

「がは……」

 胸ぐらを掴んでいた手が離され地面に膝まづく。


「いっ……」

 思いっきり息を吸い込み空気を肺に取り入れる。


「……!」

 女の子を見るとアンブレイドを振り上げて、そして振り下ろすさまが視界に飛び込んでくる。

 とっさに『加速』で後方に退避し大きくバックジャンプでモルボル三階のヤマト電機入り口までジャンプで後退した。


「その減らず口をだまらせてやんで!」

 女の子は『滑空』で階段の手すりを滑りながら追跡をかけてくる!

 手すりから着地しそのまま攻撃に転じた。その攻撃を後方に移動しながら受け止める。しかし女の子の攻撃はとまらず何度もアンブレイドでの攻撃を仕掛けてくる!


「これじゃあ……」

 防戦一方。私の攻撃は避けられ、女の子の攻撃はアンブレイドで受け止めている。ただの『防戦一方』ならいいけどこのままアンブレイドで攻撃を受け続けたらどんどん『スキルキャパが減って』いっちゃうよ!


 女の子の攻撃に押され後方へと流されて、気づいたら『ヤマト電機』店舗内にいつのまにか侵入していた。


「このままじゃ……」

 私はこの状況を打破できる最善の一手をなんとか思いつこうと思考を思いっきり働かせていた。いたけど……


 ううっ……でも、戦いながらは無理だよぉ……


 ◆


「凪紗ちゃん大丈夫かな?」

 刹那の視線は自分の反対方向にいるであろう分散させられたパートナーの雪見凪紗の身を案じていた。


「なんやねん……あのチビっ子の心配かいな……」

「まぁね。そろそろ向こうにも行かないと」

「アホか、行かせへんで……」

「……アンブレイドも持てないのに?」

「くそが、こんな痛みぐらいで持てないわけあるかい!」

 男はアンブレイドを手に取り刹那を見据えた。


「う〜ん、あの一撃で立つか……俺も腕が落ちたな」

 刹那もアンブレイドを両手で持ち傘先を見据え正眼の構えを取る。


「行くで!」

 男は空へと飛び上がり刹那を見下ろし空を舞う。


「……まいったね。それは『重力』と『指針』のスキルかな」

 男は刹那の周りを『重力』と『指針』のスキルをリンクさせ上下左右、縦横無尽に動き回り立体的に移動し攻撃のスキを伺っている。

 『指針』で『重力』の方向を変える。このふたつのスキルを組み合わせる事によって、男は『空に落ちる』や『壁に着地』などのトリッキーな動きをする事ができるのである。

 疑似的ではあるが空を飛ぶ事が可能だろう。だが男がそれを披露する事はない。


「これじゃあまるで立体機動装置だな……でもアイツの『飛空』のスキルよりはマシか」

 刹那は落ち着いて男を見ている。


「どうや、この動き!」

 建物や空、看板そして柱などに『重力』で張り付いてはすぐさま『指針』で重力の方向を変え、別の柱や建物や看板に飛び移る。その繰り返しで『立体的な移動』を可能にしていた。


「食らえや!」

 男は刹那の後ろから攻撃を仕掛けるため『重力』の方向を刹那に合わせる。


「でも、どうしても攻撃の瞬間は……」

 刹那は垂直にジャンプして男の攻撃を華麗にかわした。


「なんっ!」

「やっぱり後ろか。俺は巨人じゃないんだけどな」

「なんでや!」

「いくら立体機動でも視界にいないと上か下、それか後ろの三択。そして上にいないなら後ろと下の二択になる。でも下はコンクリート。それに後ろから『食らえや!』なんて言ったら後ろにいるって事が特定されるでしょ?」

「くそがっ! 『重力』で……」

 男はスキルを起動させるが起動しなかった。


「あんなにスキルを使いまくればスキルキャパがなくなるよね?」

「ちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「スキルの使いすぎだよっとぉ!」

 空からの重力と加速度を加えた一撃。その一撃は男の脳天を直撃した。


「ちく……しょう……まだ終わらへん……で……」

 そこで男はガクっと顔を落としそのまま動かなくなった。


「そのまま三十分おとなしくしててね」

 刹那はそう捨て台詞を吐くと男のアンブレドを手から取り上げ放り投げる。


 そしてクリスタルパネルを起動させアイコンからマップを開いた。


「さてと、凪紗ちゃんはどこだろう」

 マップにはモルボル付近で黄色で点滅するポインターがひとつある。


「モルボルか……俺がいるのがミーカドーよりさらに先の場所だから……う〜ん、ここからだいぶ遠いな」

 刹那はマップを閉じ通信のアイコンをタップ。


「黄色だから大丈夫だよな?」

 一抹の不安を抱きながら刹那は凪紗のアンブレイドシリアルナンバー『Umblade Serial No:Sb2809986091-783』をタップした。

 クリスタルパネルはしばらく通信中の表示のあと、通話中に切り替わった。


「どう凪紗ちゃん。今通信しても大丈夫?」

「ううっ刹那く〜ん、よかったぁ〜」

 とても小さな声でとても不安そうな凪紗の声が流れたのだった。


 ◆


「ううっ、どうしょうぅぅ〜なんとか隠れることができたけど……」

 結局、いい案が浮かばずにヤマト電機内で戦闘したけど……ここっていろいろとごちゃごちゃしてるから動きづらい! さらに天井も低いからジャンプもできない。さらに通路に洗濯機やら電子レンジや掃除機やらパソコンや携帯電話とかおいてあるから通路が狭い! 『加速』してもすぐにどっかに当たって止まっちゃうし……攻撃しても広くないからきっとどこかに当たるし……とにかく戦いづらい!


「あ〜あ、こんな形でここに来るなんて……」

 本来なら新しい携帯音楽プレイヤーを買いに来るはずだったんだけどなぁ〜チラッとだけでも見とけばよかったなぁ〜


「でもどうしょう……ずっとこのまま隠れている訳にはいかないしなぁ〜」

 今私は大型の冷蔵庫の中に人生で初めて隠れている。冷蔵庫に入れるくらい小さい自分にもショック受けたけど……


「と、とにかく何か案を浮かべないと」

 私の攻撃はまったく当たらないし一向に当たる気配がない。ならばどうすれば当たるのか考える必要がある。あるんだけど……


「浮かばないんだよなぁ〜」

 まったくいい案が浮かばない。『加速』を使用した一撃の事を加味して考えてみたけどあれって、ほぼ不意打ちで相手も油断してたから当たったようなものだし……それに私が『加速』を持っているってもう知っちゃったから、その対処もしてくるだろうしなぁ〜


「どうしょうおぉぉぉぉぉぉぉ?」

 突然私のアンブレイドが微振動をしだす。自動起動したクリスタルパネルには見覚えのある英語と数字が羅列していた。


「これって……この数字と英語って!」

 私はすぐさま通話にタッチ!


「どう凪紗ちゃん。今通信しても大丈夫?」

「ううっ刹那く〜ん、よかったぁ〜」

 私は不安と安心の入り交じったような小さい声で刹那くんの通話に応答する。


「凪紗ちゃん大丈夫? 通信してもいいかな?」

「はい……むしろいろいろと相談に乗ってください!」

「相談? それにしてもずいぶん小さな声だね? もしかして相手から隠れてるの?」

「はい、そうですぅ〜私どうすればいいんですかぁ〜」

「と、とにかく今の状況を簡潔に教えてよ。回答はそれからにしようね」

「は、はいそうですね」

「じゃあ、お願い」


「苦戦中で問題は私の攻撃がまったく当たらないんです。それで今、隠れて対策思案中なんですよぉ〜」


「了承」

 こんな短い状況説明でホントにわかったのとても不安だけどとりあえず簡潔に言えばこれで大丈夫のはず!


「攻撃が当たらないのはなんでなの?」

「あの子、騎士道を研究してて攻撃の仕方や反撃の対応とかわかってて、こうやったらこう反撃するって事を読まれてるんです。それで攻撃はあたらないんですよ……」

「一発も?」

「あ、いえ不意打ち気味ですけど『加速』を使った一撃は当たりました」

「なるほど、『加速』を使った時か……」

「なんかいい案ありますか?」

「凪紗ちゃんは今でも騎士道の戦い方を捨てる気な無いんだよね?」

「はい」

 当たり前ですよ刹那くん。だって私には騎士道しか戦う術がないんですから。もし『騎士道以外の戦闘スタイルで戦って』って言われても拒否しますからね。


「なら『加速』で攻撃速度を速めてみて」

「攻撃速度?」

「そう、スキルの説明の時に言ったと思うけど『加速』は行動に直結してるスキルだからね。たぶん凪紗ちゃんは『加速』を移動や相手との距離を詰める時にしか使ってないんじゃないかな?」

「あ……」

 確かに。距離を詰めるとか移動にしか『加速』を使ってなかったな。

 それに私も刹那くんが『加速』の説明の時に『行動に直結するのか』とか言ってなかったけ?


「そうか……『加速』で攻撃速度を速めればもしかしたら……」

「うん、攻撃は通るかも」

「でもそのうちに相手の目も攻撃速度に慣れてきますよね? 慣れちゃったらまた当たらなくなるんじゃ……」

「全部の攻撃を『加速』で速めるんじゃなくて所々で加速を使わない攻撃を織りまぜれば、そうそう対応できるもんじゃないよ。緩急をつけるってヤツだね」

「あ……」

 なるほど! 早い攻撃と遅い攻撃。この緩急で攻撃を続ければ相手は戸惑うから攻撃が通りやすくなる。う〜んやっぱり経験者は違うな。


「よ、よし、なんか攻撃が通りそうな予感!」

「うん、じゃあ俺もすぐにそっちに行くから待ってて」

「はい、待ってます。あ、でも刹那くんはいま戦闘中じゃないんですか?」

「たぶん終わったかな」

「おおっ! 早いですね!」

 さすが刹那くん! あの関西の男のひとを倒したのか!早い! さすが!


「ところで凪紗ちゃんは今モルボルにいるんだよね?」

「はい、三階のヤマト電機です」

「ヤマト電機、あそこか……」

 んっ、刹那くんの声が沈んでるな? なんかここってマズいのかなぁ?


「あそこって通路に色々と電化製品が置いてある関係で通路が入り組んでて狭いし、天井も低いからジャンプとか攻撃が通らないし『加速』も使いづらいでしょ?」

「そ、その通りです!」

 さすが刹那くん! そうですよその通りです!


「本音を言えば今すぐにでも外に出て欲しいけどもし戦い続けないといけないなら大型家電には気を付けて」

「大型家電?」

「うん、大型家電の特に『冷蔵庫』は倒れると通路が塞がるとか押しつぶされちゃうとか危険だからね。できればあまり近づかないでね」

「は、はい……」

 私は今、その大型家電の『冷蔵庫』に、しかもその中に隠れています! どうしょう!


「じゃあ、俺もすぐにそっちに行くから!」

「はい、待ってます!……あの、なるべく早く来てくださいね」

「わかった。善処するよ。じゃあ」

 その言葉を最後に通信は刹那くんの方から切れた。


「と、とりあえずここはマズいよね」

 刹那くんの言葉通りなら冷蔵庫付近はマズい。というか中に隠れているのはすこぶるマズい!


「お〜い、隠れてないで出てこいやぁ〜」

 女の子の声が冷蔵庫越しから聞こえてくる。これは……結構近いな……


(スキルキャパはどうなってるんだろう?)

 クリスタルパネルのショートカット起動でステータスを開く。数値は42を表示している。


(42か。『加速』の使用は最高で二回まで。リンクするなら一回のみ)

 確認を終えステータス画面を手で払い閉じる。女の子の声はこっちに近づいてきている。


(どうする? 出る? それともやりすごす……)

 声の距離からしてたぶん女の子はすぐそこ……


「お〜い、隠れてないで出てこいやぁ〜」

(ここは飛び出す!)

 ド〜ン! と思いっきり冷蔵庫の扉を開ける!


「えっ!?」

 飛び出したはいいけど、誰もいない?


「お〜い、隠れてないで出てこいやぁ〜」

 声は聞こえるけど……ん? スマホ?!


「これって、ボイスレコーダー!?」

 私はしゃがみ落ちていたスマホを拾い上げる。画面にはボイスレコーダーのアプリが起動していた。マズイかも……


「女の子はいないな……えっ?」

 立ち上がった時、持っていたスマホになんか引っかかってなにか抜けたような違和感があったけど……


 ビー! ビー! ビー!


「な、なに? この音!?」

 突如鳴り響く警告音! な、なんなの!?


「あっ、スマホに……しまったかも!?」

 スマホのストラップホールに紐が取り付けられており、その紐の先には丸い金具? あっ……防犯ブザー! さっきの違和感はこれか!?


 展示用の冷蔵庫と冷蔵庫の間に小学生が持っているようなかわいらしい防犯ブザーが仕掛けられてた!


「そこかい!」

「くっそ!」

 ワナにかかった?! スマホのボイスレコーダーに金具を抜くと警告音を発する防犯ブザー! よく見るとそこらに仕掛けられている!? これって家電量販店だからこそできるワナだなって、感心してる場合じゃない!


 迫る女の子はアンブレイドを垂直に振りかざす。その攻撃を私はとっさにアンブレイドでそれを受け止めた!


「どこにおったん? 自分?」

「い、言えません!」

 アンブレイドを重ね女の子が問う。言えない! 『冷蔵庫の中に隠れてました』なんて言えないよ!


「冷蔵庫付近にいたんやからもしかして『冷蔵庫の中に隠れて』たんやないの?」

「言うと思いますか?」

 とっさに刹那くんが言ったよう心理戦っぽく切り返す。でも……その通りですよ!


「言いたくないんなら言わんでいいわ!」

 女の子がアンブレイドを無理矢理振り抜き私はバックステップで後退!


「逃がさへんで!」

 追撃をかけてくる女の子。私はアンブレイドを薙いで反撃!


 ドン!


「あっ!」

 横薙の攻撃は冷蔵庫に当たり止まる。しまった……ここは家電が置いてあって通路が狭いんだった!? 


「アカンな! 周りをみて攻撃を考えへんと!」

「くっ……」

 女の子は水平斬りや袈裟斬りは多用せず『垂直斬り』や『突き』で攻撃を仕掛けてくる。その攻撃を身をそらして回避してやりすごす」


(ここじゃ『槍術』や『天空』や『天地』が有効だな)

 狭い通路じゃ横に薙ぐ攻撃は得策じゃない。なら女の子のように『垂直』な攻撃か『突き』のような刺す攻撃の方がいい。


「ほらほらどうしたん! 手詰まりかい!」

 突きと垂直からの攻撃を織り混ぜながら徐々に追いつめられる! また防戦一方!


「そぉら!」

 突きをサイドステップでかわす!


 ドン!


「あっ!」

 横に掃除機!?


「いっつぅ〜!?」 

 サイドへステップした先に掃除機があり直撃。そのはずみで肩から床へと転倒!


「スキありやゃゃゃ!」

 転倒のスキを突いて女の子はとどめとばかりに傘先を私にめがけ突き刺してきた!?


「うっひゃああああ!!!」

 身を横にそらしかわしそのまま転がる。転がった勢いで左膝を中心に右足を駒のように回しその反動で体勢を持ち直した。


「すばしっこいなぁ自分。さすがはチビっ子だけの事はあるな?」

「チビっ子って言わないでください!」

「まだそんな口聞けるんやな?」

「チビじゃないですから! これからグングンのびますから! 成長期ですから!」

「もう遅いと思うで?」

「ううっ……」

 遅いなんて言わないで……希望がなくなっちゃうよ!


「で、どうするん? 自分の攻撃はまだ一発しか当たってへんで?」

「そっちの攻撃も蹴りしか当たってませんけどね」

 とは言ったものの、『マナ』の身体能力の向上のおかげでなんとかかわせているようなものだし……

 もし、マナがなく身体能力の向上がなかったらきっと妻沼駅での戦いで負けてたな……私。


「面白い事言うやないかい……」

 目つきが鋭くなった……眉もつり上がってる……もしかして怒ってるかも……


(どうする? ここじゃ不利だ。思いきった攻撃もできないし回避方向も限定される。『加速』を使う? ううんダメ。『加速』は広い場所で使ってこそ効果があるし意味がある……『滑走』も加速みたいなもんだし。かといって『停止』はまだ使用時の感覚がわからない……やっぱり刹那くんの言うとおりここは外に出るべきだな……)

 周りを見て出入り口を探す。ここから見て一番近いのは……どこ? 


 周りを見ても入ってきた入り口は見えないし他の出入り口は見えない。ん〜〜〜〜〜〜! 積んだかも! これは積んだかもぉぉぉぉぉ!


(あっ!)

 上をみた。天井に『エレベーター』って書いてある! あの矢印方面にいけばエレベーターがあるぞ!

 でもその方向は……女の子のいる方向! 立ち位置を変えるか走り抜けないとたどり着けない……


「どこ見とんねん!」

 天井を見ていたら女の子が突進してきた! そのまま突きまで攻撃の動作を繋げる。

 突きをアンブレイドで捌きながらすこしづつ後退。


(ううっ、どんどんエレベーターから遠くなる……)

 雨のように連続で繰り出される突きを捌いてるから後ろに下がってるよ……狭いから攻撃も限定されるし回避方法も限定されるしな……打つ手ないし!


(ん? 回避が限定される……)

 自分で言ってみて気づいた。回避方法が限定されるのは私だけじゃなくてあの女の子も同様? なら!


「でりゃあ!」

 突き攻撃を捌ききり、私は斬りあげる『天空』で反撃し間を置かずに斬りおろす『天地』で追撃をかける! 私の連続攻撃で今度は女の子が後退しながら攻撃を防ぎ捌く!


 余裕しゃくしゃくで攻撃をアンブレイドで防ぐ女の子。でも……ッ!


「今度はウチの反撃や!」

 反撃に転じアンブレイドを振りあげる! 冷蔵庫の通路まで押し戻した! 今ッ!


「雷光一閃! 『紫電』!」

 火燐センパイ直伝の超高速の突きの『紫電』を放つ! 通路幅は狭い! 横にはかわせない! この速度なら後ろに回避する前に……直撃する!


「く、そがっ!」

 女の子は暴言を吐く。妻沼駅でのフェンスのように掴む事はできない。無理矢理回避する事は不可能! 当たる!


「当たれぇぇぇ!」

「なめんなぁぁぁぁぁぁ!」

 女の子は振り下ろし直前のアンブレイドを力まかせに振る方向を横へと変えた。振り変えた場所は……冷蔵庫!


 ドガン!


 鈍器で殴ったような音が冷蔵庫から鳴る。鳴った冷蔵庫は攻撃の反動で扉が開く。


 私と女の子の間を塞ぐ形で!


「なっ!」

 そして、私の放った『紫電』は冷蔵庫の開いた扉に当たった……そんな……また、あんな方法で……


「おらっ!」

 

 ドカン!


「へ? うぉおおぉぉぉぉぉぉ?!」

 なんか鈍器で叩いたような音がして、ハッと意識を戦いに戻す。見ると女の子が小さくジャンプしていた。そしてアンブレイドで冷蔵庫を叩いたのが見えた。そして、そうそう倒れないはずの冷蔵庫が私に向かって……倒れてくるッ!?


「まっずいぃぃぃ!」

 『紫電』を思いもよらない形で防がれて軽い放心状態になってた! さらにちょっとしたピンチだ!


「うっひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 バックステップでなんとか回避! あぶない! あぶなかったよぉ〜!


「今の攻撃のタイミングは見事やったで。冷蔵庫がなかったら当たるところやった」

 そうか冷蔵庫が裏目にでたのか……こんな事になるならさっきの掃除機付近で『紫電』を放っておくべきだった……? ううんなんとなくだけどきっとここでは『紫電』は当たらないかも。私の想像もできないとんでもない方法であの子は掃除機を使って防ぐかも……


 痛感した。ここは私のいる日常じゃない。


 鏡の中の日常は非日常に塗りつぶされ、常識は非常識に浸食されている。すべて反転。まるで鏡写し。常識も反転すれば非常識になる……


 ここじゃ日常も常識も通じない!


「なんや、自分ボーっとしとるで?」

「いや、あんな方法で私の『紫電』をかわすなんて思いませんでした。しかも二回も」

「ショック受けてんのかい?」

「ええ、火燐センパイに顔向けできないですね」

「そのカリンセンパイ? をたてるわけやないけどさっきの突きはお見事。鏡の外でやったら正直直撃やった。鏡の中でならやっとかわせるって感じやな」


 やっぱりここには常識はない。私もこの反転した鏡の世界のように常識を反転させて非常識を常識として捕らえないと! ん? あれ? もしかして私、あの子に誉められてるの?


 ちょっとうれしいけど私は気を抜かずに半身の体勢になりアンブレイドを構える。


「行きますよ!」

「その騎士の戦いは貫くんやな」

「ええ、これだけは譲れません」

 騎士の戦いは捨てない。捨てるのは……私の中の常識だけだ!


「行くで!」

 女の子が突進してくる。


(どうする? ここから出る方法は?)

 視線を動かし思考を巡らせる。


(消火器……)

 突進してくる女の子の通路には大型家電搬入口、その脇に消火器が置いてある。


(使えるか?!)

 七月の時に学校の避難訓練で教わった『畜圧式消火器』であることを祈り、女の子の攻撃をとっさにかわす!


「ちっ!」

 舌打ちの女の子の脇をするりと駆け抜け一目散に消火器を……


「はぁ!」

 思いっきりアンブレイドで消火器を女の子に向け打ち出す。お願い! 畜圧式消火器であって!


 ブッ、ブッ……ブシュウウウウウ〜


「煙!? よし!」

 私の願いを聞き届けられたのか地を這う消火器は打ち込まれた衝撃で『ブシュゥゥゥ!』と音を立てて白い煙を巻き散らし、あっと言う間に辺りを真っ白に染めていった。よかった! 破裂すると煙を吐く『畜圧式消火器』だった! 覚えててよかった、ありがとう消防士さん!


「くそ! 煙幕のつもりかい!?」

 うまく女の子の回りに大量の煙をまき散らすことに成功した。よし、これで女の子の視界を奪った! でも私も視界も奪われないため行動を開始!


(確かCD販売のコーナーに……)

 うろ覚えの記憶を頼りに私はヤマト電機の最奥ゲーム・CD販売コーナーへと駆ける。


「思った通りにあった!!」

 CD販売コーナーのレジの後ろは使われていないガラス張りの出入り口!


「とりゃぁぁぁぁ!」」

 持っていたアンブレイドを気合いと共に振り上げ、力の限りガラス張りの出入り口に放り投げる!


 『パリィィィィン』とガラスの破壊音が鳴りアンブレイドがガラスを突き破り外へと放り出された!


「よし!」

 割れたガラスから外へと飛び出しすぐさま落ちていたアンブレイドを回収! アンブレドは特に壊れた様子もない! すごい! すごい頑丈だぞアンブレイド!


 この流れで刹那くんと合流したいけど……


「待たんかい!」

 やっぱりガラスの破壊音に気づいた女の子が追ってきたか……けっこう響いたからな……


「意外と追いついてくるのが早かったですね」

「まいったで。消火器を使うなんておもってもなかった。やっぱ自分アンブレイドバトルの才能あるで」

 後頭部を掻きながら女の子はぶっきらぼうに言う。


「今日で引退ですけどね」

「もったいないなぁ、もったいないで!」

 女の子が私に向かってツッコんで突っ込んできた? 話の途中でふたつの意味でツッコんで突進してきた!?


「は、話の途中だと思うんですけどぉ!?」

「話だったらバトりながらでもできるやろぉ!」

 アンブレイドを振る女の子の縦横無尽の攻撃を前後左右、そして上下に捌きかわす。


「はぁ!」

 負けじと私も攻撃のスキを突いて反撃。『天空』や『天地』や袈裟斬りを放つ。

「いいで、やっぱりいいで騎士道部!」

「くっそ、当たらない!」

 相変わらず私の……騎士の攻撃は女の子には当たらない!


「あんたが引退するなら、ウチが引導を渡してやるわ!」

「引導は頂けないけど、この戦闘は勝って引退はします!」

 お互いの攻撃を繰り出しては防ぎそしてかわす。でも私の方が……


「おらおら、攻撃が少なくなってんで! そんなことじゃスキルキャパがどんどん減るで!」

「くっ……」

 確かにこのままアンブレイドで攻撃を受け止めていると、どんどんスキルキャパが減る。『加速』も使えなくなる……それは相手も同じだけど……なら! スキルキャパが尽きる前に!


「反撃、行きます!」

「来いやぁ! 騎士道部!」

 Aスロットにダイヤルを合わせ……女の子の攻撃をさばきショートダッシュで女の子に近づく!


「『加速』!」

 女の子の目の前で『加速』を起動!


「こんな間近で『加速』……してッ!?」

 わかっていますよ! こんな近くで『加速』してもしょうがいないって事は! でも、私は『距離を詰めるために、間を埋めるために』加速した訳じゃない!


「はぁぁぁぁっ!」

 『加速』を加えた渾身の横薙ぎを打ち出す!

「う……っ! な、なんなん?!」

 よし、相手は私の攻撃速度を上げた攻撃に対応しきれてない! 畳みかけるなら……今ッ!


「くっ、一度……」

 女の子はバックステップで後退して私と距離を取った……けど!

 

「遅いです!」

 『加速』で攻撃速度を上げた私の一撃、一撃は今までとは違う!


 駆け抜けそしてすれ違い様に横薙ぎで斬りつける火燐センパイ直伝の『疾風はやて』を試みる。

 一番最初にこの子に一撃を食らわす事のできたこの剣術で終わらせる!


 距離を取った女の子の距離を私は『加速』維持したまま詰める!


「くっ……ッ!」

 あの子の表情が今までにないくらい崩れる。余裕ぶっていた顔に焦りが滲みでている!


「斬空一迅! 『疾風はやて』!」

 女の子を間近に捕らえ『疾風はやて』を渾身で放つ!


「っそ! が!」

「えっ、ちょっ! うそッ!?」

 予想もしなかった行動。女の子は防御も攻撃もかわすこともせずに無防備で距離を取るどころか駆け出し逆に私との間を詰めてきた!


「くっ!」

 女の子は私との間合いを詰めてそのまま体当たり。


 完全に『疾風はやて』の攻撃距離を狂わされ、一番効果的にアンブレイド振り切れる距離の前に体当たりされアンブレイドの根本で攻撃が当たった……でも、それでも完全なタイミングじゃないけど女の子には攻撃が当たった。


「危なかったで!」

 走り抜けた女の子はそのまま反転して再度私との距離を詰めにくる! やっぱり根本じゃあまり効いてないかも!?


「……正直ビックリしてます。まさかあんな方法で『疾風はやて』の攻撃タイミングをはずしてくるなんて」

 駆けてくる女の子をアンブレイドでの迎撃で迎え打ち女の子もアンブレドで応戦!


「いやいや、あんたのその剣術は一度食らってるからな」

 重なりあうアンブレイド越しでお互いがお互いを睨みやり声を重ねる。


「……それでも敵ながら天晴れです!」

 女の子のアンブレイドをはじき、私と女の子はバックステップでお互いの距離を取り、臨戦態勢を崩すことなく半身の構えをとる。

 でもホントに天晴れ。あの体当たりでのタイミングはずしは意外と参考になる。それに使い方によっては相手の虚をつけるし。


「私よりアンブレイドの才能あるんじゃないですか?」

 身構えたまま、対峙したまま口を開く


「イヤイヤ、あんたの方がウチより才能あるで。今日が初めてのアンブレドバトル初心者とは思えへん」

「それは私が騎士道部で戦いの心得があるからです」

「戦いの心得はないよりあったほうがええのはわかる。けどな『才能』そないな事では補えんで」

 補えない……?


「あんたは騎士道の戦いをしつつアンブレイドバトルをしてる。わかるか?

「さっぱりわかりません!」

 きっぱりはっきりと言い放った。言い放っちゃったよ!


「騎士道の戦いとか大会に『傘を開く』動作があるか? 騎士道の戦いとか大会に『スキル』を起動させるか? 騎士道の戦いとか大会は『身体能力の向上』があるか? ないやろ?」

「それはそうですけど」

「そういうことや」

「えっと、どういう事ですか?」

 う〜ん、何が言いたいのかさっぱりわからない!


「つまりや、ウチが言ったこれらの事はこの鏡の中の世界だけのアンブレドバトルだけの特権や、それをあんたは初めてのはずのあんたは見事に使いこなしてる。まぁ、ウチの見解って事を付け加えておくけどな。あんたのパートナーのイケメンさんやウチにアニキはどう言うかわからなんけど少なくともウチはあんたには才能があると踏んでんで」

「は、はぁ……」

 これは誉められてると思っていいのかな? でも、アンブレイドバトルの才能よりどちらかと言うと『騎士道の才能』の方が欲しいなぁ。火燐センパイに一度でも勝ちたいし。


「でも、やっぱり私にはアンブレイドの才能があるようには思えませんね」

「なんでや?」

「だって私はアンブレイドバトルの戦い方はしてません。あくまで『騎士道』の戦いを貫いてますから。『傘を開く』とか『スキル』を起動させるって言うのは騎士道で言えば盾を使うとか『スキル』……の代わりはないけど……とにかく私はこのバトルで一度たりともアンブレイドの戦いはしていません。もし私がアンブレイドバトルの特性? 特権? を使いこなせているというのならきっと刹那くん……えっと私のパートナーのひとの教え方がとてもよかったからです」

 そうだ。私は才能なんてない。初めてのアンブレイドバトルで戦えるのは刹那くんの教え方がよかったからだ。


「あんたやっぱ才能あるで。たった一時間しか教わってなないのにそれだけ理解して戦えるやったら才能以外のなにものでもないで?」

「そんな事ありません」

「……そうかわかったで。あんたにあるのはもしかしたら『戦いそのものの才能』かもしれへんな」

「なんですか?」

「いや、なんでもあらへんよ」

 そう言って女の子はクリスタルパネルを開いて何かを確認した。たぶんスキルキャパだと思うけど。クリスタルパネルを見ている女の子はスキだらけ攻撃しようと思えば攻撃できる。でも、それは騎士道精神に反する。正々堂々と相手の攻撃の意志がある状態で勝ってこその騎士道精神だ。だから私は構えを崩さずに相手を見て警戒を解かない。

 でも、だとするとさっきの冷蔵庫の中からの奇襲は騎士の戦いなの? とか聞かれたら……う〜んどうだろう? まぁ、相手の虚を突くのも戦法のひとつって火燐センパイも言ってたしこれはこれで騎士の戦いとして……ありでしょう!


「さて、じゃあそろそろ決着をつけるとするか」

 女の子は右手を払いクリスタルパネルを霧散させた。


「私の稼いだお金は渡しません。だから絶対に負けません!」

 女の子は霧散したクリスタルパネルから視線を私に移す。私は半身の構えを崩さず女の子を見据えたまま吠えた。


「ん? お金? ああ、そうやったな。でもウチも負けへんで!」

 そう言うと女の子はアンブレイドを乱暴に構える。


(来るか……?)

 そんな雰囲気を醸し出している女の子。でもその雰囲気を反して女の子は『ウチのもうひとつのスキルはなんやと思う?』と、突然の予想外の問いかけに『えっ?』と返答するがその後が私は何も言えず口を閉ざしてしまった。


「えっと……」

 私の返答を待っているのか女の子はアンブレイドを構えたままずっと私を見据えている。


「わからんか?」

「そ、そうですね……」

 女の子のもうひとつのスキルなんて、まったくかわからない。現状でわかってるのは女の子のふたつのスキルの内ひとつは『滑空』のスキルだけだし……


「なら、教えてやるわ」

「な、なんで教えてくれるんですか?」

「なんでやと思う?」

「これもアンブレイドデビュー記念って事ですか?」

「ちゃうな。あんたのデビュー記念は『滑空』のスキルのことだけや」

「じゃあ、教えてくれる理由がまったくわからないんですけど……」

「あんたの思ったこと言うてみ」

 思ったこと? そんな事突然言われても……思いつかないんですけど……でもなんとなくだけど……


「思ったことなら……私の憶測って言うかカンですけど」

「ええで」

「は、はぁ」

 この女の子のこの真剣な眼差しと態度……たぶんホントに決着をつけに来るはず……そしてもうひとつのスキル……スキルはわからないけど……女の子が『スキルを教える』って言う行為はたぶん……このスキルを起動させれば『必ず勝てる』っ言う確固たる自信があるんだと思う。ないならあんな事言わないはず。


 だから、私の言う答えは……


「私にもうひとつのスキルを教えても絶対に勝てる自信と確信があるって事ですか?」

「正解。その通りや。あんたにウチのもうひとつのスキルを教えてもあんたは対処できない。そのまま『翻弄』されて気絶して負けるだけや」

「……」

 翻弄? 翻弄って事はあの子の思いのままに攻撃されて反撃できずに負けるって事なのかな? もしそうならそんな事させない! 翻弄されて負けるのは火燐センパイだけで十分!


「私が負けるか負けないかは、その自信満々のスキルを見せてからにしましょうよ」

「いい皮肉やな。減らず口は相変わらずやな」

 これは皮肉なんかじゃないよ。ホントに見てみないとわからないから。見て対応や対処できそうなら全力で対処して対応する。


「皮肉じゃないですよ」

「まぁええわ。じゃあウチのとっておき見せてやるさかい」

 女の子の手元が動く。きっとアンブレイドのスキルダイヤルを回したんだ。次の動作で……来る!


「目ん玉ひん剥いて見ぃや! これがウチのとっておきのスキル『幻影』や!」

 『幻影』? あの子のもうひとつのスキルは『幻影』! でも、名前を聞いただけじゃあどんなスキルはわからない……! わからないけど!


 警戒を怠らず、構えを崩さずに女の子を睨み、見据える! どんな効果なのか、何が起こるのかわからないけど……!


「行くで!」

 女の子が私に向かい駆ける! 女の子は特に変わった様子はない!? まだ『幻影』とやらの効果は現れてないの!?


「……!?」

 あれ? 私の足下に黒い大きな……


「影!?」

 月明かりと街灯に投影されている黒い影のような大きな点はどんどんと大きくなっていった。危険を察知し私はとっさにバックステップでその場を大きく離れる!


「!?」


 私がたったいまいた場所に……アンブレイドを振り下ろしながら落ちてきたのは……


「えっ……なんで!?」


 落ちてきたのは……私と今戦っている女の子?!


「いいカンしてるで!」

 そして私に駆けてくる女の子!


「な、なんでぇ〜〜〜〜〜〜!」

 駆けてきた女の子のアンブレイドでの攻撃を自分のアンブレイドで受け止め、その後から同じく駆けてくる、空から落ちてきた女の子の攻撃をバックステップで回避する。


「ちょ、えっ!? ふ、ふたり? ふ、双子なの!?」

 改めて見てみるとホントにそっくり。ううん、そっくりってレベルじゃない……これは女の子をそのままコピーしたようにそのままの女の子。


「ええで、だいぶ戸惑ってやないの?」

 ふたり並んでいるとどっちがどっちだかホントにわからない。


「これがウチのもうひとつのスキル『幻影』や。おっと、時間かい」

 そう言うともうひとりの女の子は輝く光の粒になって消えていった。


「この『幻影』のスキルは一体出すのにスキルキャパ20必要なんや。キャパ食いまくってしゃーないんやで。それでいて現存可能時間が20秒ときている。呆れるやろスキルキャパ20使用して20秒やなんて」

 一体出すのにスキルキャパ20? じゃあ、スキルキャパが100の時は……


「どう理解した?」

 振られた突然の言葉。

「な、何を……」

「ウチのスキルと……あんたがウチに勝てないって事や」

「そ、そんなの……まだ」

「あんたの騎士道ってのは、一体多数との戦いは想定していないんやろ?」

「そ、それは……」

 確かに、私の学ぶ騎士道は『一対一』を想定している。って言うか騎士道は一対一が絶対。だからこの子の言うとおり『一対多数』や今回のバトルのように『二対二』などのように変則的な戦いは絶対に想定していない。まぁ今は実質的に一対一だけど……


「どうや? 一対多数で騎士道は戦えるんかい?」

「ううっ……そ、それは……」

「答えられんか? なら、あんたは負けや」

「ま、負け……ません……」

「自信がなくなってる口調やな?」

「そ、それは……」

「終わりや。ウチの『幻影』でケリつけたる」

「ふたりなら私でも対応できます」

 考えろ! 騎士道でもふたりなら対応できるはず! でも私の考えがもし……正しかったら? もしスキルキャパが100の場合の時はもしかしたら……


「ふたり? はっ! あんたアホやろ? ウチの話聞いてはったか? 『一体出すのに20』と言うたやろが! だれも『一体だけしか出せない』なんて言うてないで!」

 あっ、この言葉で私の考えは想定から確定した。


「もっとわかりやすく言うてやる。今ウチのスキルキャパは80や。だから『幻影』で作り出せるウチは最大で四体。あんたは四人を一度に相手せなあかん」

 一度に四人の相手を私ひとりでしないといけないんだ……はは、どうしよう。笑っちゃうよ……


「終わりや」

「……」

 どうしょう。四人とだなんて……刹那くん……助けてよ……


「あんたの騎士道はそんなもんや。騎士道なら騎士道らしく正々堂々と負けろや!」

「騎士道らしく……」

 騎士なら……騎士道なら騎士道らしく正々堂々と……ここで諦めたら騎士道を貫くと決めてそう言った刹那くんに顔向けできない。なら最後まで諦めずに!


「騎士道を貫くのみ!」

 負ける負けない、勝つ勝てないは別だ! 騎士道を貫いてこの局地的不利な戦況を覆して勝利をこの手にしてやる!


 見ると女の子は『幻影』を起動して女の子を三人作り出していた。


 この状況で四人とは戦えないけど……20秒の使用時間があるなら20秒耐えれば勝機はあるはず!


「終わりやで、騎士道部!」

「ここが耐え時!」

 アンブレイドをしっかりと構え『幻影』で作り出された三体の女の子を迎え打つ。


 一体目の女の子アンブレイドの振り下ろしの攻撃はバックステップでかわし、ニ体目の女の子の水平斬りを私のアンブレイドで受け止めはじく。

 そして、三体目の女の子の空中からの袈裟斬りを同じくアンブレイドで防ぎはじいて私自身はバックステップで距離を取る。


 四人目の女の子の駆けながらの一閃攻撃は『加速』での後退で回避しつつさらに距離を取るためバックステップから相手に背を向ける形でイヤだけどダッシュに切り替える。


(止まるな! 動け、動け私! 走れ私ィ!)

 止まったら、きっと囲まれる。一度に四人の攻撃は捌ききれない。なら止まらず! 相手との距離を取りつつ戦う!


 続く。

最後まで読んでいただきまして本当にありがとうございます。


前書きでも書きましたが今回の第五話の投稿が遅くなり大変申し訳ございません。第六話ですが、まだ執筆中でございます。なので完成がだいぶ先になると思われますので気長に待っていてくれるとありがたいです。


それでは、短いあとがきですがこれで失礼します。

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