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Tell Your World

みなさんお久しぶりです。こんにちはそしてこんばんは。

この小説の主人公をさせていただいている雪見凪紗です。

なぜ私がこの前書きに出てきているかというとこの作品を作っている創造神さくしゃが「俺もうだめだ。もうだめだよ」と弱音を吐いて前書きを頼む。と私のもとに空から手紙を送ってきたためです。そんなこんなで私が前書きを担当することになりました。よろしくお願いします。

まったく、そんなことじゃ私とあのひととの関係は

どうなるんですか!

ゴホン。取り乱してごめんなさい。さて、ここのその創造神さくしゃから送られた手紙があります。手紙にはとりあえず本文を読めば前書きは大丈夫と書かれているのでさっそく読んでみますね。


簡単な前回のあらすじ

創立記念日で休みなのに制服を着てしまったおっちょこちょいな女の子雪見凪紗。現在我が友アイリーンと電話中


……って、簡単すぎるんじゃないんですか?! なにこれぇ前書きなのに前回のあらすじなの? しかもあらすじにもなってないんじゃないのかな?!

ううっ、ホントに大丈夫なのかな。この物語完結するのかなぁ。

不安だなぁ、新生徒会長と同じくらい不安だよ。まぁとりあえず第二話の「Tell Your World」をお楽しみください。それではッ!

「はぁ、どうしょう私このまま学校行った方がいいかな?」

「なんでよ? そのまま家にいればいいじゃない?」

「ホントに学校には行かなくてね。その、昨日逢えなかったからあのひとに逢いに行こうかなって、えへっ」

「えへって……で、その後はどうするの?」

「えっと……帰宅?」

「じゃあ、そのまま帰宅状態でいなさいよ。明日どうせ会えるでしょ?」

「ん〜そうだけどさ〜」

「じゃあそういう事で。せっかくの休みだから私はもうひと眠りするからね」

「あっ、アイリーン」

 待ってと言う前にアイリーンの通話が一方的に切れた。

「どうしょうかな……うん。やっぱり行くだけ行こう」

 一瞬の思考だけどわたしは家にいることよりもあのひとに会うことを選択した。いや最初から『行く』という選択していた。もちろん会えないかもしれないけど……でも、これもアイリーンに言わせればストーカー行為になるのかな? でも、でも、やっぱり昨日会えなかったから今日は好きなひとに逢いたいよね?

「お姉ちゃん。ごめん私出かけるね」

「ん? こんな早い時間に? 制服のままで?」

「うん。着替えるのも面倒だしこのまま買い物してくる」

「買い物? こんな早い時間はどこも開いてないぞ?」

「えっと、妻沼のスノバでコーヒーでも飲んで騎士道学の予習して時間つぶすよ」

「ほう、偉いではないか。創立記念日でも騎士道学とは」

 言えない。好きな人に会うために電車に乗るなんてこんな不純な理由を言えないよ!

「う、うん、じゃあ行ってくるね」

「凪紗待って。雨か雪が降るらしいから傘を持っていた方がいいぞ」

「うん、わかった」

 玄関に向かい靴を履きカサ入れから傘を取り出そうとした所で気づく。

「あれ? 私のAPSの傘がない」

 セブンで買ってきたAPSの文字が入ったビニール傘がない。あのビニール傘はコンビニのビニール傘にしては丈夫で少しくらいの風ではビクともしないし安いのでお気に入りだったんだけど……

「お姉ちゃ〜〜ん、私のAPSの傘知らな〜い?」

 リビングのお姉ちゃんに大声で傘の所在を聞いてみる。

「あ〜〜〜あの傘はこの前の大雪で使ってしまって会社に置いてきたままだ。すまん」

「ちょっ、え〜〜〜〜っ!」

 非難の声を上げる。カサ入れを見渡すと数本残っているが残りはお父さんやお母さんの

傘。その傘に混じって一本だけ私の傘が残っている。

「いい機会だ。私があげたアンブレイドがあるだろ? それを使え」

「ん〜アンブレイドかぁ」

 リビングからのお姉ちゃんの発した単語。


 アンブレイド。この傘は数年前から販売していて爆発的なヒットを上げている『森羅万将製作所株式会社』が独占販売している番傘をイメージした傘だ。お姉ちゃんの話だと傘骨の数は二十八本で傘を構成する傘骨はオリハルコンブルースフィアって金属をシャフト部分や傘骨に使用していてすごく軽い。さらに強度も耐久度もかなりのものでしかも強風にも強いし傘がしならないしひっくり返りもしない。さらに傘布部分はミスリルファイバーとかいう特殊な繊維を使用しているので傘布の部分もかなりの硬度を誇る。さらにさらにこの傘布は薄くて軽い。あとよくわからないボタン類。ホントなんだろ? このいっぱいのボタン?

 ちなみにこの傘のキャッチフレーズがあって『一本で十年持つ、コスパ最高の傘』だったかな?


「でも、このアンブレイドは確か戦闘用なんだよね……」

 お姉ちゃんが高校入学の時にプレゼントでくれた白色のアンブレイドだけど戦闘用って事で敬遠してたんだよね……お姉ちゃんは戦闘用の方が便利って言うけどさ……なんかイヤなんだよね。

 妻沼に行く途中にセブンがあれば買えるんだけどあいにくセブンエイトは私のバイト先のすこし先の方にある。一度行ったことあるけどこじんまりしててせまいんだよねあそこ。そもそも無駄なお金は使いたくない。

「でもまぁ、確かにいい機会かな」

 一度も使っていないアンブレイドだけどお姉ちゃんが言うようにいい機会かもしれない。買ってもらって使わないのはなんだし、一度も使わないのはお姉ちゃんに悪い。確か戦いになるのは貫きたい主張や主義がある時だけだでし。それに意見や思いが平行線の場合と話し合いでもまとまらない場合とかだったかな? それと強制じゃないし。

「うわっ、こんなに軽いんだ」

 一年ぶりに持つアンブレイドはかなり軽い。お姉ちゃんが羽のような軽さって言ってたけどあながち間違えじゃないかも。

「あっ! なんだかんだで10分も遅れた!」

 スマートフォンのホーム画面に表示されている時計をみるとすでにいつもより10分くらい家からでるのが遅れていた! ヤバい、これはヤバいですよ! 急がないとあのひとが乗ってるいつもの電車に間に合わなくなる!

「お姉ちゃ〜ん、行ってくるね」

「気をつけてな」

 お姉ちゃんの見送りの言葉を耳に入れて私は急いで家を出た。駅に向かう道中は小走りだったのは言うまでもなかった。


 ◆


「よし、なんとか間に合った!」

 新京連線前橋駅に到着しスマートフォンのホーム画面の時計をみる。六時五十三分。いつも乗っている五十四分着の京連妻沼行きの電車到着一分前だった。走っている途中に駅の横にある踏切も見たけどバーが降りていないのは確認済みだし実際に電車もまだ来ていない。

「ふぅ〜息と髪を整えて、っと」

 私は手櫛で長い髪を整え、大きく深呼吸をして息を整える。

「ん? なんか人がいつもより多いような……」

 落ち着いたところで前橋駅を見渡してみるとなんかいつもより人が多い。


「六時五十四分着、京連妻沼行きの電車をお待ちのお客様にご連絡いたします。五十四分着京連妻沼行きの電車ですが、六時十分頃に踏切内に自動車が立ち往生した影響で安全確認しておりました関係で現在、約十分程度の遅れでの運行となっております。到着予定時刻は七時五分頃となっておりますので到着までしばらくお待ちください。電車が遅れてしまいご利用のお客様にはご迷惑をおかけします」


「えっ、10分遅れ!?」

 業務的な声で電車遅延のアナウンスが駅構内に流れる。

「遅延かぁ〜もしかして乗ってないかも……あのひと」

 電車が遅延していると到着時間がまちまちでもしかしたらこの一本前で乗っているかもしれないし後の電車かもしれない。

「もう、なんで踏切で止まるの」

 踏切にグチをこぼし、カバンから壊れかけのクォークマンを取り出す。イヤホンを耳にはめ再生ボタンを押してもいつものように再生はされない。

「やっぱり、バイト代でたら買い換えよう……」

 そう心に決めつつ、私は再生ボタンを連打。再生を確認するとスマートフォンを取り出し時間を確認する。

「まだ、二分しか経ってないのか……」

 時間を確認してスマートフォンをポケットにしまおうとしたら手のひらに振動が伝わってきた。

「メール? あっ、紫さんからだ」

 スマートフォンが受信したメールはバイト先の店長代理の紫さんからだった。

「あっ、そうだ今日だった!」

 メールは『今日は給料日だからヒマな時にお給料を取りに来てね。でも現金だからでもなるべく早めに取りに来て』という内容のお給料を取りに来てねのメールだった。

「ちょうどいいから今日取りに行こう。そして新しいクォークマンを買おう!」


 お給料の心を弾ませつつ電車を待つ。待つが……


「うう〜、うううう〜寒いぃ〜あと七分もあるぅ〜」

 寒い、とにかく寒い! しかも電車の遅延がある。電車到着時間がさらに遅れるかもしれないから心なしかさらに寒く感じる。さらにさらに外は曇り。太陽が出ていないからこころなしかもっと寒く感じてしまう。


「お客様にお知らせ致します。遅れておりました六時五十四分着、京連妻沼行きの電車はまもなく到着いたします。到着までしばらくお待ちください」

 駅員さんの抑揚のない電車到着のアナウンスが流れる。 待ってたよ電車! 早く来て! 寒いから!


 遠くから見える前橋駅にやってくる大きな走る鉄の箱。

 そうです! 電車です! 来たよ!


「乗ってるかな……」

 深呼吸。不安と期待。高鳴る鼓動。胸のドキドキが早くなる。

 駅に進入し流れ着く電車。

 徐々に速度を落とし停止。外から見ると車内は満員。開かれたドアに流れ込むように降りる人と転がり込むように車内に乗り込むひとの流れ。

 その中に私もいて乗り込んだ直後、視線自然とはあのひとのドア付近の定位置に向かれていた。

(あれ、いない?)

視線の先の思いひとがいつもいるドア付近の定位置に姿はない。

(あっ、いた!)

 発見したあのひとはいつもの定位置よりも奥にいた。と、言うよりたぶん各駅で乗り込む人々で押されて流れて言ったと思う。小説も読んでない。

(ううっ、遠い……)

 少しでも近づきたくて移動を試みるがひとが多くて一歩も動けいない。さらに乗り込む人がいるから私は乗り込んだドアの反対側のドアに押しやられていた。

(でも、今日は逢えてよかった)

 私は遠目であのひとを見る。幸せな気分に浸り新妻沼の駅に着く。前橋駅よりさらに多い人が津波のように降りていきその中で降りていくあのひと見送る。

「うん。今日もがんばろ」

 朝にも自分自身に言った言葉を自分に贈る。ん? なにか忘れてないか? 私?

「あっ! しまった。私も新妻沼で降りるんだった!」

 あのひとを見つめてて私も降りる事を忘れていた。ヤバイ! 弾けるようにドアに駆ける。発車ベルは駅構内に鳴り響き止まる寸前。閉まるドアを駆け抜けなんとか降り立った。

「ふぅ〜あぶなかった」

 新妻沼から発車するときはなぜか三十秒くらい電車が停止する。それが幸いして降りることができた。

 改札に向かう階段を上りあのひとがいるか見渡してもいない。

「まぁ、そうだよね」

 小さく言葉を落とし、私は改札を出たのだった。


 ◆


「紫さん。おはようございます!」

「あれ、もう給料取りに来たの?」

「はい、朝の忙しいところすみませんが取りに来ちゃいました」

 バイト先のパルモ一階のスノーバックスに到着。紫さんに挨拶してカウンター内に入る。

「別に学校帰りでもいいんだよ?」

「いえ、今日は創立記念日で学校休みなんですよ」

「え、なに今日学校休みなの? じゃあなんで制服なの?」

「えっと、制服のほうが動きやすいので」

 言えない。創立記念日を忘れて制服に着替えててさらに好きな人に逢いたいからなんて言えないよ!

「ふぅん、まぁいっか。ねぇ学校休みならさ少し稼いでいかない?」

 紫さんは人差し指と親指で丸をつくりウインクして私に告げた

「はい?」

 私の顔は笑顔のまま凍り付いていた。


 ◆


「ありがとうございました」

 店から出るお客様を見送る。

「ごめんね、手伝わせちゃって」

「いえ、でもいつも朝はこんな感じなんですか?」

 来たときも紫さんひとりでコーヒー作ってたしレジも打ってたし。私がシフトに入るのは土日の夕方からだ。

「いやね、今日ひとりカゼで休んじゃってね、夕方の六時までわたしひとりなんだよね」

「六時までですか? なら私、今日一日空いてるんで六時まで手伝いましょうか?」

「ホント? ありがたいよ! じゃあ、お願いしちゃおうかな?」

「はい」

「ホントごめんね。じゃあレジとオーダーをお願い」

「はい、あ、おはよ〜ございます」

 役割分担を確認して入店してきたお客様にご挨拶。オーダーを聞いて紫さんに伝えてレジを打つのだった。


 ◆


「凪紗ちゃん。ごめん、10分過ぎちゃったけどあがっていいよ」

 夕方になり紫さんから声がかかる。

「はい、じゃあ、このコップ洗ったらあがります」

 私は残りふたつのコップを洗い終わりカウンター奥の従業員更衣室に入る。

「凪紗ちゃん。これ給料ね」

「あ、ありがとうございます」

 更衣室に入ってきた紫さんから給料袋を受け取る。

「あとさ、これは親御さんとの相談になるんだけど銀行の通帳って作れない?」

「通帳ですか?」

「うん、現金を手渡すのもなんか緊張するし、凪紗ちゃんがくるまでここに凪紗ちゃんの給料を保管しないといけないでしょ? それも緊張するんだよね。だから一度親御さんと相談してみてくれないかな? 銀行振込にしてもいいかどうかを」

「わかりました。今日にでもお母さんとお父さんに相談しみます」

「うん、ごめんね。じゃあね。お疲れさま」

「はい、お疲れさまです」

 更衣室を出ていく紫さんを見送り制服に着替える。う〜ん振込かぁ、確かに現金をそのまま保管するのは緊張するかな。金庫に入れておくって手もありそうだけど取り出すのも面倒なくらい開けるのが手間るって言ってたもんな紫さん。

「忘れ物はなしっと」

 ロッカーの中をざっと見渡し、忘れ物がないことを確認してスノバの制服をロッカーに納め、カギを閉める。


 ◆


「じゃあ紫さん、赤さんお先に失礼します」

「うん、おつかれ。今日はありがとうね」

「またね、ナギちゃん」

「はい、失礼します」

 紫さんと赤さんに見送られ店を後にする。さぁ、新しい音楽プレイヤーを買いに行くぞ。


「うん、雨も雪も降ってない」

 外に出て雨か雪が降ってないか夜空を見上げ確かめる。空は雲に覆われているが雨も雪も降っていなかった。


「ん?」

 妻沼駅にさしかかる途中にあるタクシーのロータリー付近で大量のダンボールが拡散して転がっている。

 どうやらトラックに積まれていた積み荷がのかもしれない。現にトラックの運転手らしきひとが携帯電話片手のどこかに連絡している。その周りには五、六人の警察官が的ラックのまわりを取り囲んでいた。

 そんな事故現場を横目で横切り駅に続く歩道橋を渡り、ショッピングセンターのモルボル三階にある家電量販店の『ヤマト電機』へと向かう。

「そうだ、電池も買わないと」

 電子辞書の電池がなくなりそうなので買わないと、と思っていてもつい忘れちゃうんだよね。ついでに買っておこう。給料袋取り出し中身を見つつ買い物の計画を立てつつ妻沼の正式名称の知らない全裸の銅像が見えてくる。毎回見るたびに思うんだけどなんで裸なんだろう? それとなんて名前の銅像なんだろうと思う。

 そんな名前のない銅像を通り過ぎようとしたところで


「そこの女子高生? ちょい待って」


 と、女性の声が聞こえたがそのまま歩くのを止めない。


「ちょっと、待ってて」


 今度は男性の声が聞こえてきたけど歩くのをやめない。


「あんただって!」


 肩を叩かれ私はびっくりとして歩みを止め振り返る。


「わ、私ですか?」

 驚いている私の目の前には男性と私の腕を掴んでる女性。女性は私と同じくらいの年で男性は私より年上。たぶん私の好きなあのひとと同じ年くらいの年だと思う。

「そう、自分」

 言葉の節々にすこし訛? 関西弁……?

「あんた、戦闘用のアンブレイド持っているよね?」

 女の子が私のアンブレイドの持つ手を握る。よく見ると目の前のふたりもアンブレイドをもっている。しかも戦闘用。

「も、持ってますけど……」

 恐る恐るそう答える。イヤな予感が全身を駆け巡る。昨日の田村さんとは違う異質の予感。心底予感がハズれて欲しいと願う私の思い。

「あ、あの手、離してもらえませんか?」

「あ、ごめんな」

 アンブレイドを持っている手を握られて言うとあっさりと離してもらえた。このまま走って逃げてしまいたい……

「わ、私に何か用ですか?」

「そう、用がある。あんたが来てくれたおかげで無駄にならずんと済んだ」

「よかったな、10分ねばった甲斐があった」

「しかし、おまえ背が小さいな?」

「ほんと、もしかして中学生? それとも小学生?」

「こ、高校生です」

「へぇ〜やっぱ高校生なん? こんな背が低い高校生もいるもんやな?」

「あの、用がないならこれで失礼します」

「用? あるで」

 女の子が睨みを効かせてくる。

「な、何の用ですか?」

「決まってるやないか。これや、これ」

 男性が自分の持っているアンブレイドを私に見せる。

「ア、アンブレイド?」

「せっかく大阪から千葉まで来たんや。ひとつ、バトルをしようや」

 女の子もアンブレイドをわたしに突きつけてくる。

「な、なんでですか?」

「なんでですかって、自分戦闘用のアンブレイド持っとるやない?」

「そ、そうですけど、持っているだけで戦うなんて……」

「なに? 戦いたくないの?」

「ええ……」

「ホントに?」

「はい、本当に」

「ウチらは戦いたくてしょうがないのにあんたは戦いたくないん?」

「……戦いたくありません」

「あらららら〜こりゃ平行線ですな?」

「ホンマに話し合いが平行線やな?」

 ニヤニヤしながら、ニヤけた表情でふたりは私に視線を送る。話が平行線……あっ!

「じゃあ、アンブレイドで白黒つけようよ」

 しまった!……話を平行線に持って行かれた……

「そんな矛盾していることに納得はできません。それに話話し合いなんてしてないじゃないですか!」

 ムジュンしている……こんな話に納得なんてできない!

「矛盾してるしてないなんて問題じゃない。用は『話がまとまっていない。平行線状態になっている事』が肝要なの。これでバトルができる条件がひとつ揃った」

「そ、そんな……な、納得できません。それに私はアンブレイドはやったことないんです」

「やったことない? 一回も?」

「ありません」

「ならなんで戦闘用のアンブレイド持ってるんだ?」

「そ、それは、もらいモノだから……」

「なるほど、でもな、あんたが一般用ではなく戦闘用のアンブレイドを持ってる事実はかわらへん。なら今日アンブレイドデビューしいや」

「な、なんでそうなるんですか!!」

 反論の余地あり! 私は声を荒げ抗議をする。通り過ぎるひと達が一斉に私たちの方へ振り向く。恥ずかしい。恥ずかしいけど今はそんな事を気にしていられないし納得いかない。

「おっ、反論? 『話がまとまらない』ねぇ〜」

「うんうんまとまらない。これじゃあアンブレイドで白黒つけないとね」

 なにを言ってもああ言って話を平行線へと……

「でも、ウチらも鬼じゃない。どうしてもイヤって言うならやらんでもいい。ただし、大阪までの運賃を出してくれたらウチは帰るで」

「う、運賃?」

「そう、その袋は給料袋やろ? それをウチらに渡せば帰っていいで」

「そんな」

 これは私が稼いだお金なのに……なんで

「渡せないならアンブレイドしようや」

 アンブレイドをするだけなら……

「……アンブレイドをすればいいんですか?」

 イヤだけど、さっさと負けてしまえば……この状況から抜けられる。

「わかりました……やります」

「おっ、モノわかりがいいね。そんなあんたが好きや」

 女の子が言う。でもこれは分かりやすい嘘。きっと私よりもこの給料袋の中身が好きなんだ。

「オッケイ、じゃああんたのパートナーを連れきな」

「パ、パートナー?」

 意外な単語が出てきて私の声は1トーンあがってしまった。

「そう、ウチらはタッグでアンブレイドしてんねん。だからあんたもちょちょいっとパートナー連れてきて二対二でやるんやで」

「ちょっッ! そんな話は」

「聞いてない? そうやろな。だって今言うたもん」

「パートナー連れてこないならその袋を献上しな」

「そうやな時間は10分以内で。時間内に連れてこないと試合成立不可って事であんたの袋もらうで」

「な、なんで!ッ」

「喋ってる時間はないよ。はい三十秒経過」

「……っ!」

 アンブレイドをしてる知り合いなんていない。周りのひとが注目の視線を向けては無関心で通り過ぎていく。無関心で無関係のひとを巻き込んでいいの? きっと面倒事はお断り視線を向けて去っていってしまう。なら、どうしたらいいの。給料を渡して逃げる? それはイヤだ。ならいっそ一対二で戦って……

「言っとくけど一対二のバトル形式はアンブレイドレギュレーションでは認められてないからできないで、止まって思考してないで動いて思考したほうがいいよ」

 女の子が私の考えを察したのかクギを指してきた。ならどうすればいいの……イヤだよ……誰か助けてよ……


 信号機の故障で約10分遅れておりました千葉行きの快速電車ですがまもなく到着いたします。ご利用のお客様は二番線ホームでお待ちください。本日は電車が遅れてしまったことをお詫びいたしいます。


 妻沼駅から電車遅延のアナウンスが響く。10分。今日はやたらと10分という時間に縁があるって感じがするな……

 目の前の二人はじっとこっちを見ている。感情のない顔で……どうしよう、どうすれないいの? アイリーン……私、どうしよう……わからないよ


 ふと改札口を見た。電車遅延で遅れていた電車が到着したのか大量の人が自動改札を通り出てくる。こっちの状況も知らずに足早に私たちの側を通り過ぎていく。そして時間も過ぎていく。

(もうイヤだ、もういいや……)

 私は給料の入った袋を手に取ったとき


(えっ……!?)


 自動改札から人が引いた最後の列から、私から見て一番左の改札から、いつものミリタリーのコートを着ていつものように変わったイヤホンの付け方で音楽を聴きながら缶コーヒーを片手にあ、あのひとが出てきた。


(うそ?! なんで、この時間なの?! 妻沼駅なの!?)


 驚いて目が見開いているのが自分でもわかる。八月から今日までずっと見てきた。間違えるはずがない。

 あの人は私の姿に気づかずに新妻沼駅方面へと歩みを続ける。視線が自然とあのひとを追いかけている。


(どうする? どうすればいい? どうしょう?)


 私は自然と歩み始める。あのひとを追いかけている。


「おっ、パートナー見つけたんか?」

「行ってきます」


 歩みだした私に向かって女の子が言ってきた。


(パートナーを見つけたって? ええ、見つけましたとも。八月にとっくに見つけていましたとも。私の身も心も魂さえ、頭のてっぺんからつま先まで髪の毛一本にいたるまで、私の全てを捧げてもいいと思っているパートナーが)

 心に響く自身の言の葉。こんな事を思うほど私はあのひとを思っている。好きになっている。大好きになっている。


 朝はいつもより10分出るのが遅れた。

 電車がいつもより10分遅く来た。

 終業時間がいつもより10分遅かった。

 私に絡んできたふたりは10分ここで粘った。

 パートナー探しの時間が10分だった。

 そして、あのひとがたぶん乗ってた電車も10分遅れてきた。


 あのふたりがここで私に絡んでいなかったら、私は今日ここであのひとに出会っていなかった。


 『10分』私はこの時間の偶然だか奇跡だかわからないけど重なる10分の時間のおかげで今日この場所であのひとに出会った。


 今日は学校が休みだけど朝に私があのひとに『逢いたい』って思いがなければ、休みだけど動かなかったら今このときにここで出会えなかった。今日は最高だ!


 でも私の置かれている状況は最悪だけど……



 あのひとの後ろ姿が迫る。いつも朝に見送っている背中。鼓動が高鳴る。心臓が脈打つ速度がさらに加速する。胸のドキドキが止まらない。


 誰かに頼まないといけないのなら。

 誰かを巻き込まないといけないのなら。

 誰かに助けを求めないといけないのなら。

 誰かと一緒に戦わないといけないのなら。

 そして、いつか声をかけたいと願っているのなら。

 告白したいと思っているのなら。


 だから……私はッ!


「あ、あの!」

「え?! えっと……」


 パチンコ店の前で私はあのひとの真後ろに追いつき同時に後ろから手を掴んで大きな声で呼び止める。振り向いたあのひとは困惑の表情を浮かべ耳に付けているイヤホンをはずした。それはそうでしょう、だっていきなり後ろから女子高生が手を握っているんだから。言いたいことはたくさんある。たくさんあるけど……あれ、なんだろ視界がぼやけてはクリアになり、ぼやけてはクリアになる。雨でも降ってきたかな?


「えっと、どうして俺に声をかけたのかわからないけど、どうして俺の手を握っているのかわからないけど、だからその……泣かないで」


「えっ?」


 泣いている? ああ、そうか。だから視界がぼやけてはクリアになっていたのか。雨じゃないのか。通り過ぎる人がチラチラと私を見てるのはそういうことなんだ。私泣いてたんだ……でもいつから? きっとあのひとにこの状況で出会えたから。出会えなかったらきっと私は泣いてない。挫けていたと思う。

 あ、あのひとの顔がさらに困惑している。迷惑かけちゃったかな?


「あっ、ご、ごめんなさい」

「いいよ。それよりなにかあったの? もし困っていることがあるなら、俺でよければ全力で助けになるよ」


 とてもやさしい言葉。私はその言葉でさらに涙が溢れてきた。


「えっと……」

 あのひとはジーパンのポケットを漁りなにかを取り出し私に差し出す。あっ、ハンカチだ。


「これで涙をって、あっ、ハンカチ汚れてる……」

 慌ててしまおうとするハンカチを私は奪い取り涙を拭く。汚れなんて関係ない。

「あっ、それ」

「これでいいです。その、ありがとうございます」

 さらに深く困惑する彼をよそに私はお礼を述べる。

「えっと、とりあえず落ち着いた?」

「はい。それとハンカチありがとうございました。これ洗って返しますね」

「あ、いいよ、気を使わなくて」

 彼はそう言ってるけどこんないい機会はない。これでハンカチを返すって口実でまた会えるかもしれない。私は彼のハンカチをポケットにしまい頑なに『洗って返します』と言いのけ彼は渋々『わ、わかったと』言って了承してくれた。こんな形でだけど……しゃべれた。嬉しい。


「えっと、それでなにがあったの? それで俺は君の助けになる?」

「はい、私と付き合ってください!」

「へっ!?」

 あれ? イヤイヤ違う、違う! イヤ違わないけど

……いやいや違う! 勢いで何いってんの私っ!


「ち、違うんです、えっとその、ですね」


 私はいま置かれている状況を簡潔に話した。ふたりが絡んできたこと。私がアンブレイドが初めてだってことを。そんな話を彼は黙って聞いてくれていて、何かを考えているようだった。


 数分後。


「なるほど、アンブレイドのパートナー探しね。それでさっきの付き合ってください発言か」

「あ、はいそうです……」

 う〜ん残念のようなこれでよかったような複雑な心情だな……

「それと、アンブレイドレギュレーションだっけ? そんなものはないよ」

「えっ!?」

 彼の言葉に私はうわずった声で驚いてしまった。あ、変な声で驚いちゃったな……

「一対二でもアンブレイドはできるよ。でもなんでそのふたりがパートナーを連れてこいって言ったのはわからないけどね」

「そう言われればそうですね。一対二の対戦のほうが有利のはずなのに?」

 アンブレイドレギュレーションなんてないならなんでパートナーを連れてこいって言ったんだろ? 一対二の方がいいはずなのに?


 沈黙。それ以降話が続かずふたりして黙って歩いている。

 な、何か話さないと。なんかもったいない。う〜ん、どうしょう。


「あの話は変わるんですけど、私ってお金に汚い女の子ですかね? お金渡した方がよかったですかね?」

 とりあえず今私が思ったていた事を思い切って聞いてみた。もしお金に汚い女って言われたらどうしょう。また泣いちゃいそう……

「なんで? そのお金は君が自分で汗かいて正当な手段で稼いだお金なんでしょ? ならそのまま胸を張ってればいい。それともそのお金はその、汚い仕事で稼いだの? その、援助的な交際で」

「援助的な交際? あっ! いや違います、このお金はそこのスノバで働いていてその稼いだお給料です!」

 今度は私が慌ててこのお金の正当性を説明する。

「なら、恥じることはないよ。渡すことはない。そのまま持っていていい。渡したくないなら徹底的に抗えばいい」

 飲み終えた缶コーヒーをゴミ箱に入れ彼はそう言った。


 ふたりで横に並びながら例のふたりが待つ名もない全裸の銅像まで早足で戻っていく。時折腕がぶつかってなんかそれだけで嬉しい。だけど……


「おっ、逃げずに戻ってきたな」

「五分オーバーやで。で、そいつがあんたのパートナー?」


 待っていた男女のふたりは待ちくたびれたのようにあくびをかいて私たちを出迎えた。


「ん〜そないイケメンの男でもないな」

「確かに、中の上って感じやな」

「イヤイヤ上の下くらいのイケメンさんやで」

 目の前のふたりは彼を見ながらいろいろと言っている……ちょっと、あまりあのひとの事を言わないでよ。そんな隣の彼を見るとバツの悪そうな顔で苦笑いを浮かべていた。


「じゃあ、話はこれくらいにしてさっそく始めるか」

 男のひとがアンブレイドを掲げる。

「ちょっと待って」

 私のパートナーの彼が掌を指し出し男を抑制した。

「なんやねん」

 若干イラっと来たのか男のひとが怒気を含んだ声で彼を睨みやる。

「大事なことだから言うけど、それともうわかってると思うけど俺アンブレイド持ってないよ」


「「なんでやねん!」」


 ふたりは同時に関西特有?のツッコミを彼にかましたのだった。


「自分どうすんの? アンブレイドどうすんの?」

 男がまくし立てるように彼に言う。

「今考えてるから。思考中ってやつ」

 男の剣幕にものおいせずに彼はアゴに指を当てる。

「あ、あのホントどうするんですか? アンブレイドは?」

 恐る恐る聞いてみる。自分でもアンブレイドを持っているか確かめずに声をかけたことを反省してるけど後悔はしていない。

「う〜ん、買ってくるのももったいないし、かと言って取りに行くのも時間がかかるしな」

 悩む時は指をアゴに当ててる考えるんだ。そんな彼もカッコイイ……おっと、イヤイヤ何考えてんだ私はっ! でも、カッコイイなぁ〜 ん? 取りに行く?

「もしかして家にはアンブレイドあるんですか? 戦闘用の?」

「うん。戦闘用の方が便利だし。それに昔アンブレイドバトルやってたからね」

 昔はアンブレイドやってなんだ。あ、だからアンブレイドレギュレーションなんて無いって事も知ってたのか。このひとが便利だっていうならあながちお姉ちゃんが言った『戦闘用アンブレイドは便利』ってのはホントかも。

「う〜ん、しょうがないか……」

 おもむろにスマートフォンを取り出す。残念。私とは違う機種のスマホだ。

「ちょっとごめんね」

 彼は私にそう言ってはスマホを耳に当て通話体勢に入った。


「……」

 沈黙が私とあのひとを包む。例のふたりはお互いに何かを話し合って我関せず状態だった。


「あ、もしもし? 中村くん? 中村悠太くん? うん、そうそう俺です。あ、イヤ、師匠じゃないからね」

 通話相手と話しているけど相手はこのひとを師匠って言ってるの?

「今、大丈夫? えっ、仕事中なの? なんとか抜け出せない? うんそう。急用なんだけど無理かな? あ、なんとか大丈夫? じゃねお願いがあるんだけど、今から五分以内にJP妻沼駅のパルモの二階入り口までアンブレイドを持ってきて。それとマテリアルプレートを四枚ほどお願い。プレートのスキルはまかせるからじゃあ」

 彼は言うだけいってさっさと通話を切ってしまった。

「えっと、今の電話で大丈夫なんですか?」

「うん、大丈夫。お〜い、五分待ってくれない? 今アンブレイド持ってくるように頼んだから」

 そんな彼の言葉を聞いて距離を置いていたふたりの男性の方がひとつ頷いた。


「さて、五分か……」

 となりの彼がつぶやく。五分、されど五分。なにかをしている五分となにもしていない五分は天地ほどの差がある。なにもしていない五分はかなり長く感じるし何かをしている五分はあっと言う間に過ぎる。そしていま、まさに『何もしていない五分』がここにあった。


「なぁ、あんたそのモッズコートなんやねん? 踊る大調査線か!」

 女の子が彼に向かって言葉を投げる。面白いよね『踊る』は

「自分ダサイで」

 男性の方は強気ではっきりと言う。そんなことないのにとても似合っていますよ。青山刑事みたいって言いたい。

「そっちはふたりともずいぶんとオシャレさんだね。これからバトルするのにそんな高そうな服着て大丈夫か?」

 彼もふたりに服のことをツッコむ。

「えっ、なに俺らの服高そうに見える? イヤイヤ聞いて驚け。これな全身でたったの一万円でコーディネイトしたんやで」

「なに自分の手柄っぽくゆうてんねん。そのコーデはウチがしたんやないか。あ、ちなみにウチも全身でたったの一万円やで」

 へぇ〜男性も女性も合計で二万円なんだ。男性のあのロングコートとか中に来ているジャケットとかスラックスも靴も高そうに見えるし、女の子のカワイイダッフルコートとかネクタイとかセーターもセミロングスカートも靴も高そうに見るけどな。でも黒のアミタイツは安そう。

「へぇ〜お互い一万円でのコーディネイトなんだ。あ、聞きたかったんだけど言葉に訛があるよね? 関西方面から来たの?」

 彼はふたりの服装にさも興味がないように返して今度は自分からふたりに質問をぶつける。

「そうやで、本場のアンブレイドバトル千葉でしかできへんからな。大阪ではムリやねんな」

 男が彼に向かって答える。へぇ〜そうなんだ。千葉でしかできないんだ。でも、なんでだろ?

「わざわざご苦労なことだね。それで帰る資金がないからカツアゲまがいなことしてんの? この女子高生に?」

 彼の最後の言葉はふたりを挑発しているようだった。

「イヤちゃうで、たまたまその女子高生が戦闘用のアンブレイドをもってたんでな、バトルを申し込んだんや」

「申し込んだ、ね。この女子高生から聞いたんだけど強制的に話を平行線に持っていってバトルに持ち込むなんてそれって脅迫じゃないの? それとアンブレイドレギュレーションなんて嘘の単語まで使っておいて?」

「脅迫? 嘘? ちゃうな。ならその女子高生がウチらに勝てばいいだけやないの? でもアンブレイドをしたことがないってのは想定外やけどな。それにその子はバトルやるっていったで。あと、嘘ついてゴメンな」

「なるほど、後戻りも先回りもできないって事か」

 彼は指でアゴをさすりひとり納得したようだった。でも嘘のことは謝るんだ。なんだか意外といいひとかもしれない。

「あと二分やで。ホンマに来んのか?」

 女の子がスマートフォンの時間を見ながら彼に言う。

「大丈夫だって。そのまま静かに待ってよ」

 女の子にそう答える。

「さて、あと二分か……」

 彼も自分のスマートフォンの時計を見ながらつぶやく。

 会話も途切れなんとなくぎこちない空気が漂ってきた。

「なんか、巻き込んですいません」

 私はいまさらながら彼を巻き込んでしまったことを謝る。

「気にしないでいいよ。拒否しようと思えばできたことだし。それに巻き込まれることを選んだのは俺だ。だから君は気にしなくていいよ」

「ホント、すいません」

 笑顔で私に言う彼。彼の笑顔がとてもかわいくて自分の顔が赤くなっていくのがわかる。ううっ、笑顔もかわいいな……

「あ、あの、ひとつ聞いていいですか?」

 私は赤顔をごまかすべく話を変えるべく先ほど思った疑問をぶつけてみた。

「さっき本場のアンブレイドバトルは千葉でしかできないっていってましたけど、何で千葉が本場なんですか?」

「うん。それはね、鏡の世界に入れるのが千葉県だけだからだよ。ほかの都道府県じゃアンブレイドバトルそのものができないんだよ。まぁ、疑似的なバトルはできるかもしれないけどマテリアルプレートを使ったバトルは千葉県のしかも鏡の中じゃないとできない」

「そ、そうなんですか?」

 知らなかったな〜アンブレイドバトルはどこでもできるものだと思ってた。

「まぁ、正確に言うとね千葉県全域とあとは港区が鏡の世界にはいれる場所だね」

 えっ? 港区って……あの港区?

「でも、港区って確か今でも『完全封鎖区域』でしたよね?」


 近代歴史の授業で習った事が確かならば2003年の六月に起こった大規模な地盤沈下で東京タワーを残して港区全域が大きな大穴に飲み込まれて、多数の行方不明者が出た未曾有の大災害……その地盤沈下以降、地盤沈下をまぬがれた一部の港区は関係者以外立ち入り禁止でしかもその関係者もほんのひと握りのひとしか港区に入れないってことを歴史の先生が言ってたけど……

「うん、その今でも完全封鎖区域の港区。森羅カンパニーが調査した結果港区も鏡の中に入れる地域なんだって」

「へぇ〜でもなんでこの千葉と港区だけなんですか?」

「う〜ん、それは俺も知らないな。たぶんマナが関係してるんじゃないかな?」

「マナ?」

「たぶんだけどね。マナは千葉県で微量だけど観測されているらしいんだ。で、このマナは港区でも観測されたらしい」

「千葉と港区だけって言うことは他の都道府県ではマナは観測されていないって事ですよね?」

「そう。森羅カンパニーが調べた調査結果だけどね」

「えっと、そのさっきから言ってる森羅カンパニーって森羅万将製作所のことですよね?」

「そう。アンブレイドをしているひとはたいてい森羅カンパニーって呼ぶね」

 う〜ん、謎だなマナって。マナもそうだけど森羅万将制作所も謎だな。アンブレイドを作ったのも森羅万将製作所だし。マナを調査しているのも森羅万将製作所。それに港区に入れるなんて普通のいち企業じゃありえないよ。

「さて、そろそろかな?」

 彼はスマートフォンの時計を見る。ちょうど五分。たしかにそろそろ彼が連絡した相手がくるはずだけど……

「来ますかね?」

「搬送物の落下事故……か? 搬送物はセブンのAPUのビニール傘?」

 私が彼に訊くと彼はタクシー乗り場のロータリーで拡散しているダンボールを見ていた。

「あ、あの?」

「あ、ごめんなに?」

「もう五分過ぎていますけど、来るんですよね?」

「う〜ん、たぶん……」


 あのひとの回答からさらに五分経過……


「えっと、来ませんね……」

 あの電話から10分経過。やっぱり今日は10分って時間に縁があるな。私。

「ん、やっぽり五分じゃムリだったかな?」

 なんてあっけらかんと言ってるけど。目の前のふたりは、特に男性の方はかなりご立腹してるんじゃないかな〜

「なんやねん! ホンマにくるんか!」

 男があのひとに向かって怒気を含んで吠える。うん。ご立腹してた。

「たぶんもう少しでくるから待って」

「なんでやねん! 五分ゆうたやん!」

 う〜ん、だいぶ怒ってるなぁ〜掴みかかってきそうだよ。


「ししょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 大声と共に一台のバイクが大きなブレーキ音を立てて豪快に電柱にぶつかり止まった。……大丈夫かな? でも、今『師匠』って言ってなかった?


「おっ、来たな」

「ししょぉぉぉぉぉ〜、すんませぇぇぇ〜ん!」

 私と彼は声のする方に振り返る。そこには階段を駆け上がってきたのか遠目でもわかるくらい、息を切らせているピザ屋さんの配達中らしき店員さんがこちらに向かい走ってきていた。

「おつかれ、中村くん」

「し、師匠、ヒドっす……五分はないっすよ……」

 ひどく疲れたのか店員さんはかなり息を切らして肩で息を整えている。そしてその手には黒色の戦闘用アンブレイドが握られていた。


「それでも、10分で来たのは早い方だよ。あ、もしかしてピザの配達中だった」

「はい……はぁはぁふぃ〜そう、っす……」

「ごめんね。忙しいところ」

「いや、いい……っす。師匠の頼みごとなら……いいっす。ふぃ〜 これ、頼まれていたアンブレイドです。それとプレート四枚と……ふぅ〜あとメガネっす」

「おっ、ほんと悪いねメガネまで持ってきてもらって」

「いいっスって、師匠には返しきれない恩がありますから」

「あ〜あの事なら気にしないでいいって言ってるのに」

「いやダメっす。俺が今こうしていられるのも師匠のおかげですから。それにあの時の恩は死んでも返しきれないっす。ところで、」

 ピザ屋さんがチラっと私の方を見る。そして彼に『彼女さんっすか?』と彼に問いつめる。か、彼女って……彼女って……

「違うよ。ちょっとした知り合い」

「そうすか。でも小さくて可愛らしい子ですね?」

 ううっ、そうですよね。間違っても『俺の彼女』なんて言ってくれないですよね……

「師匠、戦闘用のアンブレイドってことは、これからバトルっすか?」

「うん。色々あってバトルすることになる」

「そっすか! あ、でも俺配達中だからな〜すんません!師匠のバトル観戦できないっす!」

「いいよ。それより配達中なら早く戻った方がいいよ」

「はいっす! ホントすいません! じゃあ失礼しまっす! 彼女さんもがんばってください! あとで結果みますんで!」

 ピザ屋さんは駆け足でバイクの元を走り電柱からバイクをひっこぬきそのまま走り去っていった。

 強風のようにあっという間に行ってしまった。うん。嵐のようなひとだったな。


「アンブレイドを受け取ったなじゃあ、やるで!」

 男性の方がアンブレイドを構える。

「待った。ここじゃできないから。それと、一時間待ってくれない。この女子高生はアンブレイド初めてなんだろ?ならアンブレイドの基本とかプレートの使い方を教えないといけないから」

「そないなこといいからやろうや!」

 女の子のほうが急かすように彼に言った。

「イヤイヤさすがにダメだろ? それに君らもバトルを楽しみたいんだろ? バトル開始直後にこの女子高生がやられちゃうと一対二になっちゃうから困るんだよね。こっちサイドも」

 彼は顔の前で手を横に振るとそう説明する。

「う〜ん、せやな。わかった、ただし一時間や。それ以上は待てへんで」

「わかった。じゃあ、一時間後『向こう』でって事で」

「ええで、じゃあ一時間後」

 一時間後って言う約束を取り付けふたりは人混みの中に消えていった。アンブレイドの基本とプレートの説明って彼は言ってたけど……

「じゃあ、さっそくだけど説明に入るよって言いたいけどどうするかな?」

 指をアゴに当てて考え出す彼。ううっ、こんなことになるならアンブレイドの基礎知識くらい調べてくればよかったな……

「向こうで実際にやったほうがいいかな」

 そう言って彼は私に『じゃあ行こうか』と告げて歩き出す。

「あ、あの行くってどこに?」

「鏡」

 その一言だけ口に乗せてどんどんと歩き出す。マムトナルドの横にある雑居ビルに入りエレベーターに乗り三階へ。

「ここって……」

 三階に着くとそこはフロア全体がアンブレイドを扱う専門店らしき場所だった。

「こんな所妻沼にあったんだ……」

 フロア自体は広くないが所せましと戦闘用アンブレイドと一般用アンブレイドが売られていた。お客もそこそこはいっているけど、たぶん一般用を買いにきたお客さんだろう。だって戦闘用アンブレイド売場前には人が二、三人しかいないのだから。

「一般用ってこんなに種類がいっぱいあるんだ。あ、このアンブレイドかわいいな」

 一般用のアンブレイドは黒と白の二種類しかない戦闘用アンブレイドとは違いカラーバリエーションやデザインがとても豊富だった。ちなみに私がかわいいと言ったアンブレイドは鮮やかなワインレッドに青のストライプがはいったアンブレイド。うん。これなんかいいな。ビビっと来た。

「なに見てるの?」

 私がビビッときたアンブレイドを見ていると彼が私の横に立つ。

「このアンブレイドかわいいなって思って」

「綺麗な色のアンブレイドだね。どう一度開いて持ってみたら?」

「えっ、いいんですか?」

「いいもなにも開かないと持った時のイメージって沸かないんじゃないの?」

「そうですけど、でもここで開いちゃって大丈夫なんですか?」

「うん、大丈夫、大丈夫」

 彼のお墨付きで私はアンブレイドを開く。

「ど、どうですか……?」

「おっ、いいね。その制服とあってかわいいよ」

「そ、そうですか? えへへっ」

 か、かわいいって……私の顔が赤くなるのがわかる。こうしてるとなんかデ、デートしてるみたい……きゃ〜〜〜っ!

「あ、ありがとうございます」

 そそくさとアンブレイドを閉じ元の場所へと戻す。

「さて、楽しんでいるところ申し訳ないけどそろそろ姿見の間に行こうか」

「すがたみのま?」

「あ、ええっと全身が移る大きな鏡がある部屋の事だよ。鏡の間って言った方がよかったかな?」

 きょとんとした顔でいると彼が丁寧に説明してくれる。姿見の間か。でも鏡?

「大きな鏡?」

「忘れちゃった? ここに来る前に俺言わなかったけ?」

 そう言えば言ってたような……かわいいって言われて浮かれてそのことがふっとんでたな……

「とりあえず行こうか。一時間後にはバトルだから」

(ううっ、そうだった。残念)

 一時間後にはあのふたりとアンブレイドバトルなんだ。デートみたいな時間はこれで終わりかぁ〜もっとアンブレイドをこのひとと一緒に見ていたかったな〜と思いつつ歩きだす彼の横に立ち一緒に歩く

 ずんずんと歩き店内の奥に壁で区切られた一角見える。彼の歩みはそこへ向かっていてどうやらその中が鏡の間、彼曰く『姿見の間』らしい。区切られた区画の中には誰も居なくテレビで見たことがあるダンスレッスンとかに使うであろう全身を写すことができる大きな鏡が一枚あった。

「ひとつ確認したいんだけどいいかな?」

「はい? なんですか?」

 鏡を前にして彼が私に問いかける。その顔は真剣な顔。マジメな話かな?

「ここにはいったらアンブレイドバトルが始まるんだけど覚悟はできてる?」

「……はい」


 『戦いたくない』が本音。


 でもなりゆきとはいえ私自身が『バトルします』って言った以上。このひとを巻き込んでしまった以上『できません』なんていまさら言えない。

「もちろんです」

「すごく痛いよ?」

「覚悟の上です」

「ホントに?」

「ホントです」

「もう一度言うけど、君の想像以上に痛くて辛くて苦しくて挫けそうで逃げ出したいと思うほどの苦痛が伴うけどホントにいいの?」

 彼のとても真剣な顔。その真摯な気持ちに渡しも顔も引き締まる。そして私の答えは決まっている。

「……戦いはそう言うものじゃないんですか? 痛みを伴わない戦いなんて聞いたことありません。それに自分がやると言った以上私は戦います。たとえこのアンブレイドバトルで負けたとしても」

 ホントの事。たとえパートナーがこのひとじゃなくてもきっと私の答えは変わっていない。なりゆきとは言え自分で言った事。相手の口車に乗せられたとは言え自分で決断したことだから。

「……わかった。その言葉信じるよ。よしそれじゃあ、さっそく鏡の中へ行こうか。あ、鏡の中に入る方法は知ってる?」

 彼の問いに私は首を横に振る。

「じゃあ、まず鏡の中の入り方を教えるね」

「はい。よろしくお願いします」

 ひとつ返事をすると彼もひとつ頷く。

「自分の胸の前でアンブレイドを水平に掲げて」

「水平にですか?」

「うんそう」

「わ、わかりました」

 私は言われるままに鏡の前でアンブレイドを胸の前で水平に掲げる。

「うわっ……っ!」

 アンブレイドを掲げた鏡は小石を投げ入れた水面のように波を打って波紋を起こしている。

「なに……?」

「波紋を打ってるね。うん正常。もうアンブレイドを下ろしていいよ。それじゃあその鏡に触れてみて」

「ふ、触れるんですか?」

 すこし怖い思いをしている私に彼は察してくれたのか『怖がらないで大丈夫だよ』と私に優しく言ってくれた。

「よ、よし」


 すぅっ、とひとつ息を吸い深呼吸して気持ちを落ち着かせ意を決して指先を伸ばして鏡に振れてみる。

 当たり前だけど鏡の中の私も同じ動作をして指先を伸ばしてくる。


 私と鏡の中の私。指先が触れ合う形で鏡に振れる。


 指先が触れて一瞬の間の後、鏡が光りだし私を包み込む。あまりにも眩しくて目をつむってしまった。


「な、なんなの……!」


 冷たくて熱い光が私を包む。まるで光の鏡に落ちていくような錯覚。空が落ちるような幻想。空に落ちる幻覚。例えようのない感覚。私の精神が意志が、ココロが私の身体から離れていくような……ココロは痛いのに感覚は気持ちいい不思議な体感。


 怖い。なんか怖いよ。


 鏡が発した光が収まり目を開ける。そこは先ほどまでいた大きな鏡がある区画なにひとつ変わらない場所……? ホントに?


「あれ? なんか……いつもと違うような、なんだろ? 何かが違う。雰囲気? が変わったような……っていうか! あのひとがいない!? なんで……」


 さっきまで隣にいたのにいなくなってるなんで!?

 後ろを振り向いてもあのひとはいない。どうしょう!


「えっ! また」


 あたりをキョロキョロしていると、また目の前の鏡が光りだした。さっきと同じように目をつむり眼に入る光の進入を防ぐ


「お待たせ」


 光が収まり目を開けると当然のように彼が目の前に立っていた。


「ど、どこ行ってたんですかぁ」

「そ、そんな泣き出しそうな声出さないでよ。俺はどこにも行かないから」

「ううっ」

彼は慌てて胸の前で両手を降り私に心配かけまいとする。

 でもホントに泣き出しそうだったんですからね!

「えっと、と、とりあえずここが鏡の中の世界です」

 彼は私にそう説明する。

「は、はい」

「どう、初めての鏡の中は?」

「そうですね、ここに入るときの感覚が独特でイヤでした。それとなんか違和感みたいなのを感じますけど……」

 そう、ここに来たときからなにか知らないけど違和感を感じている。鏡の外とはなんか違う何かを。なんだろ? この違和感は?

「違和感ね。なかなかするどいね。その答えはたぶんこれじゃない?」

 彼は私に壁に貼ってあるジュースの三台のある自動販売機を指をさした。

「えっと、自販機ですか?」

 私は自動販売機に近づいてみた。みたけど、なにが私の違和感の正体なんだろ?

「特に違う点はないですけど」

「ジュースの価格をよく見てごらん」

「価格ですか」

 促されて価格を見てる。

「うん? 特別価格100円……あっ!」

「わかった?」

「文字が……これおかしい……おかしいですよ。普通は左から読むのにこれは右から読む」

 そう普通なら『特別定価100円』だけどこの自販機の価格表示は『円001価定別特』と鏡文字となって右から読むようになっている。

「ご名答。その通りここは全て鏡に映したように左右反転しているんだよ。」

 鏡に写したように左右反転これが違和感……確かめるように周りを見る。ほかの自販機の価格も商品名も壁に貼っているポスターの文字も、すべて左か読むのではなく右から読む仕組みになっていた。

「その制服の胸のワッペンも右にあるでしょ?」

 彼は私の胸のワッペンを指さす。

「ホントだ……」

 確かに私の胸の校章のワッペンは左にあったけどここでは右にある。ん? と、言うことは……

「じゃあ、その身体的にも左右反転してるんですか?」

「身体的?」

「はい。その、心臓とか肝臓とか胃とかも反転してるんですか? それと利き手とかも?」

「君はホントに眼の付けどころがするどいね」

「あは、それって私の友達にも同じことを言われました」

 アイリーンにも『凪紗はたまにとても意外で角度のあるするどい質問をしてくるわね』って言われたことがある。自分では思った事を言ってるだけなんだけどなこれが。

「それもその通り。心臓も左から右に反転している。それと利き手だけどそれもそう。右利きのひとは左利きに。左利きのひとは右利きになる」

 そうか……じゃあ、やっぱりこのひとは『左利き』なんだ。いつもの通学電車で横目で見ていた時もスマホは左手でいじる。小説のページをめくる時も左手だし。さっきも考えるときに左手でアゴをさする癖があるみたいだけど今この時は右手でアゴをさすっている。そしてさっきまでアンブレイドを左手で持ったけど今は右。自分でも気づかなかったけど実際に私は今、左手でアンブレイド持っている。

「他にはなにか質問ある?」

「そうですね、あ、声も反転するんですか?」

「今話が通じてるでしょ? それに声は『音』だよ。音は反転しようがない。逆再生されるなら別だけどね」

 それもそうか。今は会話が成立してるし。声の反転はない。あとは……

「えっと、性格も反転するんですか?」

「性格?」

「はい。もし私がおとなしい性格だとします。でこの鏡の中に来たら私は過激な性格になるんですか?」

「それはないよ。あくまで外見的で物理的。有機物で物質だけだよ。内面的な反転はない。ん? でもアイツは……あるか……? イヤやっぱないな」

 また、アゴに手を当てて何かを考えている。ん? 違う? あの顔はなにかを『思い出して』いる感じだな。

「うん。性格の反転はとりあえずないよ」

 とりあえずか。このひとの中でなにか思い立っているって感じだけど確証もないって感じだな。

「他にはない?」

「はい。今のところ聞きたいことは特には」

「わかった。でも鏡の中の世界の特性はこれだけじゃないよ。そうだなとりあえず外に行こうか」

 促されて『姿見の間』からでる。

「あ、その前に荷物はここに置いていって」

 彼は袈裟かけしていたカバンを床に置いた。

「あ、はい」

 私も彼に習って肩に掛けていたカバンを置く。

「でも、ここに置いておいて大丈夫なんですか?」

「ここに置かないと向こうに帰るときに忘れちゃうかもしれないからさ」

 忘れる? カバンを? あ、確かにここは鏡の世界だからか。バトルが終わったら帰らないといけないし。でも盗まれたりしないのかな?

「よし行こう」

 私たちはアンブレイドだけを持って『姿見の間』を出る

「あれ……?」

 姿見の間から顔を出すと店内にひとひとりっこいない。さっきまで数人だけどお客さんがいたのに。

「誰もいない……」

「これも鏡の中の世界の特徴。鏡の中の世界にはバトルをするひと意外は入れない」

 えっ、それって……じゃあ……

「今は、そのここには、ふ、ふ、ふた、ふたりっきりってことですかぁ!」

 あまりにも突飛の事だったので声がうわずってちゃったよ!

「もし、あのふたりが鏡の中に来ていないとふたりきりって事になるね」

「そ、そうですかぁ」

 ううっ、このひとはなんでそんなに落ち着いているんだろう。私は落ち着けないよ……いきなりキンチョ〜してきたなぁ〜

 彼の後を追いエレベーターに乗り店の外に出る。エレベータが動くって事は電気は来てるんだ。

(やっぱり誰もないんだ……)

 エレベータは一階に到着し外へと出た。外は夜。鏡の中の妻沼は私たちふたりで他は誰も居ない。そして、左右反転の違和感がいやおうでも私を襲う。

「あれ……妻沼の駅が左にある」

 違和感。それは妻沼の駅が私から見て左にあることだ。鏡の外にいたときは私から見て雑居ビルに入るまでは妻沼の駅は左にあった。

「これも鏡の中の世界の特有。地形も左右反転するんだ。だから戦いの最中は気を付けて。いつも妻沼駅を利用してるなら、ここに土地勘があればあるほど体が地形を覚えていればいるほど地形の把握に時間がかかる。地形違いの確認に戸惑うとそこに隙が生まれてその隙を相手に突かれちゃうからね」

「なるほど……体が場所を覚えていますからね」

「うん、そう。戦いの最中にこの位置ならあの建物は左にある。なんて事を自然に思ってると痛い目にあうよ」

 一理あるな。うん、気を付けようって思うけど……う〜ん、これは意外とムズかしいぞ。

「さてと、次はマナの説明か。はいこれかけて」

「メガネですか?」

 私に差し出されたのはさっきにピザ宅配のひとが持ってきていたメガネだった。

「これをかけてマナを見てごらん」

「マナを見る……」

 そう言えば悠木さんも言ってたっけ? メガネは『マナを視覚的に表示する』って。

 と、言うわけで私はメガネをかけてみる。


「なにこれ……すごく綺麗……」

 メガネをかけて見えた光景は光輝く雪のような小さい輝く小玉が落ちていく幻想的な風景だった。

 私は自然と前方に歩きだし光輝く珠を手に乗せる。手の上に乗った光の珠は小さく弾けて消えてしまった。その初めてで不思議で幻想的な現象に私の目は釘付けになってしまっていた。

 降り続ける輝く光の珠の降っている空を見上げる。

「えっ……?」

 そこには信じられないような……鏡の外の世界では絶対にありえない光景が……物体があった。

「あ、あ、あの!」

 私は空にあるありえないものの事を訊きたくて彼に振り返る。

「マナの濃度は96パーセントか……今日は濃いな」

 また思いがけない光景を見てしまった。彼は中空に映し出されている半透明で浮かんでいるタッチパネルらしきものを見ていたのだ。

「あ、あの!」

 その中空に浮かぶ半透明のものも訊きたいんだけど……でも今は空に浮かぶ『アレ』について問いたい!

「あ、ごめん。もしかして空の月に気づいた?」

「あ、は、はい! えっと、なんていうかふたつ! そうなんですよ月がふたつあるんですけど! あれって月なんですかぁ! ふたつですけど!」

「うん、説明するからとりあえず深呼吸して落ち着こうか」

「あっ……」

 詰め寄る私に彼は頭を軽くポンポンして落ち着かせる。

 でも、その行動は逆に落ち着きませんよ。顔が赤くなっちゃいますよって! でも、子供じゃないですからね!

「鏡の中には鏡の外には無いものがある。ひとつはこのマナ。まぁ正確には千葉には微量だけどマナがある。ここほどじゃないけどね。それともうひとつ。気づいたとおり空の月。紅と蒼の双子の月だ」

 彼は空を見上げる。私もそれに追従して空を見る。そこには寄り添うように浮かぶ赤い色と青い色のふたつの月。

「なんでなんですかね? 鏡の中には月がふたつって」

「さぁね、一応これも森羅カンパニーが調査中」

「って事は森羅カンパニーも鏡の中にこれるんですか?」

「そうだよっていうかね。戦闘用のアンブレイドを持ってれば鏡の中の世界には誰でも入れるよ」

「へぇ〜」

 言われてみれば確かにそうだ。私だってアンブレイドバトルは初めてだけど特に鏡の中に入る申請や鏡の中にはいる条件も無いような気がする。

「でも、さっきも言ったと思うけどバトル以外では鏡の中に来てはいけないって条件があるんだ」

「はいさっき言ってましたね」

「戦闘用アンブレイドを持ってれば誰でもこれちゃうからね。やろうと思えばここで人を殺害することだってできる。入ったひと以外は誰も居ないからね。あ、メガネかして」

「殺害……」

 そうだ。ここはアンブレイドを持って入ったひと以外はだれも居ないんだ……殺害……イヤだな。

「だからそんな犯罪を防ぐためにここでは森羅のジャッチメントビットってのが監視してるから。そろそろかな」

 メガネをかけた彼がそう言うとどこからか白と黒ふたつのテニスボールぐらいの大きさの球体がふわふわとこちらに来るのが見える。

「あれが森羅カンパニーのジャッチメントビット。犯罪を抑制する役割の他に公平にバトルを審判する球体。やっぱり今日はマナが濃いな」

「バトルの審判と犯罪の抑制か……」

 一定の距離で停止したジャッチメントビットを見ながらそんな事をつぶやく。フワフワと浮いている白と黒の球体。こんなモノを作って鏡の中に放つなんてホントに森羅万将製作所ってナゾが多い企業だな……

「さて、次の説明はそうだな。とりあえずあの歩道橋の上にあるパルモ二階入り口まで思いっきりジャンプしてみて」

 メガネをはずし、コートのポケットにしまう。メガネをかけた彼も知的でかっこよかったのに。もう少し見ていたかったな。ってパルモ二階にジャンプ!?

「ジャンプですか!?」

 パルモ二階入り口って……この雑居ビルからかなり遠いし距離だし高いんですけど……

「あの……無理なんですけど……」

「大丈夫。大丈夫。いいから飛んでみて思いっきり」

「はぁ」

 私は彼の『大丈夫』の言葉を信じジャンプしてみることにする。でもジャンプしてもパルモまで届かないと思うけどなぁ

「じゃあ、いきますよ」

「思いっきりね。着地の時には気を付けてね」

「はい、あ」

 手に持っていたアンブレイドに目をやる。なんかジャンブのジャマになりそうだな。

「あ、アンブレイドを持ってジャンプしてくれる」

 地面に置こうと思った矢先に彼の言葉が制止する。

「持ったままですか?」

「うん、そう。持ったままでお願い。理由は後で説明するよ」

「はぁ、わかりました」

 腑に落ちないけどとりあえず言う通りにして改めてアンブレイド握りなおす。そして軽く助走をして踏み込み、膝を曲げ両腕を後ろに回して思いっきりスプリングのように膝を伸ばしジャンプ!

「うっひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜なにこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜!」

 思いっきりジャンプしたら眼下に広がる妻沼の地。そして空から近づく歩道橋にあるパルモ二階入り口。私は今、風になって空を飛んでいます!

「おっととととっと!」

 おぼつかない着地で私は歩道橋上にパルモ二階入り口に着地した。


「すごい……すごぉぉぉぉぉぉぉい! 私すげぇぇぇぇぇ! 空飛んだぁぁぁぁぁ!」

 そして叫んだ。興奮が止まらない、なんなの?! なんであんなにジャンプできたのかわからないけどすごい興奮した! そして風になり風が気持ちよかった! なにこれぇぇぇぇ!

 パルモ二階入り口付近にある歩道橋の階段から彼があがってきているのが見えたのでとにかくこの興奮を伝えたい!

「えっと! すごいです! 私すごい飛びました! 見ました! 私のジャンプ見ました!?」

「うん、見た。ごめん見えちゃった」

 あれ、なんかライトに照らされてる彼の顔が赤くなってるような……

「見てくれました!? 風がすごいよかったです!」

「そうだね。風で巻きあがっちゃったね」

「空から見た景色なんて滅多にみれませんよね! 新鮮でした」

「うん俺も白と青のストライプが新鮮だった」

「……」

「……」

「俺も配慮が足りなかった。悪気はないんだよ。ホントごめん」

「配慮? 悪気?」

 なんだろ? なんか話が噛み合っていないような? 白と青のストライプ?

「あの、なんか話が噛み合っていないようですけど?」

「あ、その、お、お」

「お?」

「おパンツ様が丸見えちゃった……白と青のストライプが。でも、悪気があって見たわけじゃないよ!」

「パ……っ!」

 速攻で私はスカートを両手で押さえる。

 彼の顔がさらに赤くなるが私の顔の方が赤くなっていくような恥ずかしさ! スカートを握る手にどんどん力が入る。

 ううっ、身も心も髪の毛一本にいたるまで私の全てを捧げてもいいって言ったけど……パンツを見られただけでこれだけ恥ずかしいなら、もし、は、は、裸を見られたら私どうなっちゃうんだろう!?


 恥ずかしい! とにかく恥ずかしいよぉ!


 続く

最後まで読んでいただきありがとうございます。間宮冬弥です。

前書きではこの作品の主人公である雪見凪紗ちゃんが僕の代わりを務めていただきました。弱音を吐いている僕に変わっていただいてホントに感謝です。で、あとがきくらいは僕が行いますね。

さて第二話の「Tell Your World」ですが、相変わらず展開が遅いです。

バトルの名がついているのにまったくバトルの気配がありません。

第三話あたりからたぶんバトル開始だと思うのですがまったくわかりません。その第三話ですが現在執筆中です。第三話もいつ完成するかわからないですが気長に待ってくれるとありがたいです。


それでは、失礼します。

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