会長
先輩と別れ玄関に向かう途中、珍しい人に呼び止められた。
「ちょっと君。待ちたまえ」
目の前にはこの学校の生徒会長が仁王立ちしていた。いつ見ても真面目そうな優男だ。俺になんの用だろうか。
「なんでしょう?これからバイトで急いでいるんですけど?」
「なに。時間はとらせん。手袋を外してみせて欲しいだけだ。君の手袋の着用の件は前々から問題になっていたのだ」
「先生の許可は得ているはずですが?」
「そうなのだが…私が明確な理由を知らないまま、君は特別だと他の生徒に言うのも問題があってな。どうかわかって欲しい」
「…見せるのは構いませんけど、大っぴらにはしないで下さい」
「わかった。生徒会だけの秘密としよう」
俺はしぶしぶ手袋をとった。
まさかこんなことろでこの忌々しい左手をさらけ出すことになろうとは…
「…っ!」
俺の左手を見た人の反応は2種類だ。哀れむ奴と気味悪がる奴。
どうやら、会長は前者らしい。
「これでいいですか?俺には人差し指と中指がないんです。…昔、ちょっと切られてしまって」
「すまなかった。そうとも知らずに不躾にも見せろだなんて。このことは私の会長としての誇りをかけて誰にも言わないと約束事しよう。他の生徒にも、私が全責任をもって君の手袋の着用をわかってもらおう。」
「…ありがとうございます」
もう慣れたと思っていても、やはり思ってしまう。この左手のせいで…俺は……普通じゃいられない…。