笑顔
私は劇を終え兄さんの元に向かった。
兄さんは考え事をしているのか、私が近づいても気づいていないようだった。
「兄さん?」
私はいつものように兄さんを呼んだ。兄さんはこっちを見て微笑む。
「劇良かったよ」
私は少し恥ずかしくなった。
「ありがとう」
私はさっき何を考えてたの?と聞こうとしたが、
「それじゃ行くか」
と言って兄さんは私の手を引いたので、聞きそびれてしまった。
兄さんはよく私の手を握ったり、頭を撫でてくれる。
でもわたしは知っていた。
兄さんが決して左手で私に触れないことを…。
「どこに行くの?」
私は黙って兄さんに引かれていたが、どこに行くのか検討がつかなかった。
「もちろん俺のクラスのお化け屋敷さ」
うぅ〜。兄さん私が怖いの苦手なの知ってるくせに…。
「心配ないよ?うちのお化け屋敷は一風変わってるから」
「大丈夫かな…?」
少し別の意味で不安になってきた。
兄さんのクラスには秀介先輩や優奈先輩がいる。
まともなお化け屋敷だとは思えない。
「おっ。結構並んでるな〜。」
兄さんのクラスのお化け屋敷には20人ほどの列ができていた。
そしてその最後尾にはナースがいた。
というか奏先輩だった。
「最後尾はこちらで〜す!順番に並んでお待ちくださ〜い!ちょっと!今、誰か僕のこと撮ったでしょ!あっ、また!やめて〜(泣」
奏先輩はナースのコスプレをして、人々と誘導?していた。
「春人〜助けて〜!」
兄さんに気づいた奏先輩が助けを求めるけど、
「これはこれで客寄せとしては良いんじゃないか?」
と流された。頑張って奏先輩。
………
…
ついに私たちの番…。私は緊張で挙動不審になってきた。兄さんはそんな私の様子を見て笑っている。
私はより一層兄さんの手を強く握った。
意を決してお化け屋敷に入ると、そこには言葉に表せないほどの光景が広がっていた。
(カオス過ぎて表現できません。)
………
…
「何⁉何なの?このお化け屋敷!いや、これはお化け屋敷かどうかも怪しいよ!」
私はあまりの驚きに我を忘れてしまった。
「俺がいない間にさらにグレードアップしてたな…。さすが秀介と優奈だ」
兄さんも驚き呆れているようだった。
「それじゃ、そろそろ昼だし、何か食いに行くか」
「うん」
私達は手を繋いで、笑って歩き出す。
これが今日最後の笑顔だとも知らずに…。