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父
目を覚ますとそこは病室だった。俺は自分の左手に包帯が巻いてあるのを見て、何が起こったのか思い出した。夢であればと何度も思ったが、左手の痛みと喪失感が俺に事実を突き刺した。
しばらくして父がやってきた。
「はぁ〜。面倒なことをしてくれたな」
これが父の第一声だった。
「今、看護士を呼んでくる」
「待って!」
父は扉を開けようとした手を引っ込めて、こちらに振り返った。
「なんだ?」
その目は早くしろと言いたげであった。
「お、お母さん…は?」
父は無表情で答えた。
「死んだよ。…まったく俺に迷惑ばかりかけやがって。もうお前達の面倒なんか見てられないから施設にあずけるぞ。」
「え、いやだよ!お父さんと暮らせないの?」
そして俺は、この後ずっと引きずることになる悪魔の言葉を耳にする。
「俺に人殺しの世話をしろってのか?」
あの時の父の不潔なモノを見るような目は俺は一生忘れないだろう…。
そうして父は病室を出ていった。それ以来父の姿は見ていない。