あなたが死ねと言うのなら
私には好きな男の子がいる。小野田 柊(おのだ しゅう)くん。
今日も登校中に彼を見かけて声をかける。
「小野田くん! おはよう! 今日も格好いいね!」
すると彼はいつもの様に言葉を返す。
「死ね」
これが私と小野田くんの日常。
私は小野田くんにアタックし始めてから毎日『死ね』と言われる。小野田くんはそういう人なのだ。口が悪い。
けど私は知ってる。本当は優しい人だって。
「今日はいつもより髪の毛跳ねてるよ! 直してあげよっか?」
「死ね」
でも髪の毛を触らせてくれる。
「勉強わかんないよ~!」
「死ね」
でも結局教えてくれる。
「体育で転んじゃった~!」
「死ね」
でも怪我を気にしてゆっくりめに歩いてくれる。
「お昼ごはん一緒に食べよ!」
「死ね」
でも一緒に食べてくれる。それから私が食べ終わるまでちゃんと待ってくれる。
「一緒に帰ろ!」
「死ね」
でも一緒に帰ってくれる。
小野田くんは誤解されやすい。けど、私だけが知ってればいいなんて独占欲と優越感があってちょっと卑怯だななんて思いつつも、毎日が幸せだ。
「もうすぐ受験だね! 私、小野田くんと一緒の大学受けるの!」
「死ね」
小野田くんが勉強教えてくれたからギリギリ受かれそうなんだよ。
「いよいよ明日だね! 一緒に会場行こうね!」
「死ね」
そんなこと言いながら待ち合わせ場所で待っててくれるんだから。
「明日は合格発表だね! 一緒に見に行こうよ!」
「死ね」
当日、私が寒がってるとカイロをくれた。
しかし……。
小野田くんと会場に行き、私は茫然自失とした。自分の番号が無かったからだ。
あんなに、勉強したのに。せっかく、小野田くんに教えてもらったのに……。
「俺、受かってた。坂本(さかもと)は?」
「落ちてた……」
私はその後、どうやって家に帰ったか覚えていなかった。小野田くんがどんな顔をしていたのかも。
私は自分の部屋のベットで体育座りをして膝に頭を埋める。
小野田くんと同じ大学に行けない。
きっと小野田くんは私のことなんか忘れて……他に彼女を作ったりするのかな……。他にっていうか、私は別に彼女でもなんでもないただのクラスメイトで。毎日『死ね』って言われるだけの関係で……。
その時、私は思いついた。そうだ、今度小野田くんに『死ね』って言われたら本当に死んでしまおう。
好きな人に『死ね』って言われて死ねるなんて最高だ。そうしたら小野田くんも私を忘れないでいてくれる。
小野田くんのいない未来なんていらない。だから……。
「小野田くん! おっはよー!」
「……」
私はいつもの様に駅のホームで小野田くんに話しかける。空元気だけど。『死ね』って言われたらすぐに電車に飛び込める。
「せっかく小野田くんに勉強教えてもらったのに落ちちゃった! 私ダメだね~!」
「……」
小野田くんは何も言わない。私は喋り続ける。『死ね』って言われる為に。なのに……。
「なんで……何も言わないの……? なんで今日は『死ね』って言わないの……?」
泣きそうな声で言ったら小野田くんは初めて口を開いた。
「今『死ね』って言ったらお前が本当に死にそうな顔してるから」
「……!」
私は……どんな顔をしていたのだろう。
小野田くんは続ける。
「俺、ずっとお前の好意に甘えてた。ずっとお前は俺を好きでいてくれて、ずっと隣にいてくれるって」
小野田くんから初めて聞く言葉達。私はただ黙って聞いていた。
「でも、大学が離れて、ずっとなんて無いってわかった。だから、俺はもう甘えちゃいけない。後悔しない様に、大切な奴にはちゃんと気持ちを伝えなきゃいけない」
小野田くんは真剣な顔で私を見つめる。
「坂本、好きだ。いつか離れるその時まで、俺の隣にいてほしい」
私の目から涙が溢れてきた。
「うん……! 私も……小野田くんが大好き……!」
私は電車ではなく、小野田くんに飛び込んだ。小野田くんは私を抱き締めてくれた。
それから、私は第二志望の大学に受かり、小野田くんと学校は離ればなれになったのだが……。
「彩葉(あやは)、おはよ」
「柊くん、おはよ!」
家が近いので休日には普通に会える。何故そのことを失念していたかというと、休日に柊くんが私と会ってくれるなんて思わなかったから。
「行くか」
「うん!」
柊くんは手をつないでくれた。柊くんは愛情表現を惜しみ無くしてくれる。
今では『死ね』なんて言わない。代わりに『愛してる』をたくさん言ってくれる。
あなたが『死ね』というのなら、私は喜んで死ぬつもりだった。けど、『愛してる』って言うなら全力で生きて愛を伝えるよ。
私は今、とっても幸せだ。




