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掲載日:2026/02/14

 鉛筆の行方が気になる。


 次はどこへ行くのか…。



 その日は、子供の幼稚園の発表会当日だった。私とママ友のAさんは、園庭のフィールドの横に並び、我が子の可愛い活躍や成長を、温かい目で見守っていた。


 その時である。


 ふいに背の高い、かなり目立つ雰囲気の男性が現れた。どうやら同じクラスの保護者らしく、近くにいた奥さんを見つけて近寄って行った。


 ここまではまだいい。どこにでもいる夫婦だ。私もAさんも、そこまでは気には留めなかった。


 では、何が問題か。


 彼の片方の耳に、斜めに「鉛筆」が挟まっていたのである。


 最初にそれを見つけたのは私だった。「耳に鉛筆を挟む人、久しぶりに見たわ。」

私はそうAさんにこっそり言った。Aさんは、それを目視し、少しだけにやっと笑い、こらえ、「たぶん、大工さんか工事関係のお仕事をされてて、この発表会の後にお仕事に行くんじゃないかしら。」と言った。


 なるほど、確かに彼は、がしっとした体格で、無駄な贅肉がないように思われた。棟梁と言われても納得できる様な風貌だった。そして、凛々しく、背筋も伸び、普通の会社員には到底見えなかった。

しかしながら、彼の服装は、この後仕事に行くような格好ではなかった。


 では、なぜ鉛筆を…。


 目は我が子を追っているのに、頭は鉛筆から離れない。それはAさんも同じだったらしく、時々、角度するどい鉛筆が彼の耳から地面に落ちやしないかと、2人で心配したりした。


 発表会も中盤になり、子供達全員での可愛いダンスに目を奪われている間、再び、ちらりと鉛筆に目をやった。そして、私は心の中で「あっ」と思った。


 消えてる…。


 急いでAさんに鉛筆が消えた事を伝える。Aさんも非常に驚いていた。

では、あの鉛筆はどこへ行ったのか。


 我が子と鉛筆の両方の行方…。

 

 見なければいけないものが多く、しかも片方は相手にバレないように盗み見る、という高度な目の動きをしなければならない。私とAさんは忙しかった。


「あっ」


 今度は思わず声が出た。


 鉛筆を見つけたのである。

 それは、彼の胸ポケットに移動していた。


 安堵と共に、笑いが私とAさんの中で沸き起こる。しかし、バレてはいけない。私達は今、非常に失礼な事をしているのだから。彼の鉛筆の行方を追う、という…。


 その後、鉛筆は右へ左へ、大忙しだった。ある時は右耳、ある時は左耳、時折念入りに角度を変えられ、ベストポジションに収まったかと思いきや、最終的にズボンのポケットに入った。


 肩を震わせる私達。

 一体、私達は何をしに幼稚園へ来たのだろうか。

 心は完全に鉛筆に奪われていた。


 そして発表会は最後の演目になった。

気を取り直して、カメラを我が子に向け、私とAさんは真面目な顔に戻る。


 数カ月前までの我が子と比べ、こんなにも子供というものは成長するものか…と普遍的な感動を覚えていた時、またまた事件が起こった。


 今度こそ、「アレ」が完全に消えたのである。


 今まで移動したどこにも見当たらない。両耳、胸ポケット、ズボンの後ろ…。


 一体どこに…。


 最後に見つけたのはAさんだった。


「彼の手の中を見て。」


 急いで彼の指先を追う。



 撫でていた。優しく。愛おしく…。



 Aさんはそっと呟いた。


「もしかして…宝物なのかしら…。」


 私の腹筋は崩壊した。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました!

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