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10 水色の空
病室の天井は、やけに白かった。
消毒液の匂いに混じって、外の風の気配がした。
ベッドの横に置いた鞄から、あの髪飾りを取り出す。
水色は、変わらない。
何年経っても、色あせない。
『……おはよう』
誰に向けた言葉かは、わからない。
ただ、そう言いたかった。
窓を開けると、空は高く、雲がゆっくり流れていた。月は、もう見えない。
でも、それでいいと思った。
私は、すべてを知っているわけじゃない。
これから先、いつまで生きるのかも。
また、視えてしまう日が来るのかも。
それでも。
誰かの手を掴むこと。
逃げる背中を追いかけること。
泣いている声に、立ち止まること。
それは、死を使うことじゃない。
生を、渡すことだ。
結衣が、そうしてくれたように。
私は、髪を結び直し、ゆっくりと立ち上がった。
外では、踏切の警告音が、遠くで鳴っている。
今日は、何も起きないかもしれない。
それでもいい。
次に繋ぐのは、
もう、死じゃなくていい。




