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1 ある夏の夜に

今でも、あの日を忘れられない。

塾からの帰り道、私は小さな神社の階段の前で足を止めた。

何かに呼ばれているような、吸い込まれるような感覚がした。

もう日は沈み切っているのに、私は階段を上がっていった。


長い間、誰も訪れていないのだろう。階段は泥と蔦に覆われ、

草の隙間から小さな虫の光がちらちらと瞬いていた。

蝉の声も止み、風の音だけが耳に残る。

鳥居をくぐると、そこには夜空が一面に広がっていた。

そしてその中心に、一本の大きな木が立っていた。


どうしてだろう。

初めて見るはずなのに、どこか懐かしい気がした。

髪がなびき、空気が一瞬ひやりと冷たくなる。


まるでその木だけが、周囲から切り離されているみたいだった。

触れてはいけない気もした。

それでも、私は手を伸ばした。


——その瞬間、視界が白く弾けた。

眩しさの中で、誰かの笑い声が聞こえた気がした。

懐かしいような、

でも、誰のものかは思い出せない声だった。


気がつくと、自分の部屋の布団の中だった。

夢だったのかもしれない。けれど、手のひらにはまだ温もりが残っていた。「みこちゃーん!? 起きてるのー?」

下から母の声がする。私は我に帰った。

『今起きたとこー。すぐ降りるよ』


その日からだ。

——“見えてしまう”ようになったのは。

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