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第4話 名付け

淫魔を拾ってから1ヶ月半。



「どうしてこうなった」

「きっと栄養がいいからだよー」 


呟く言葉に、後ろから俺の首へ腕を絡めて頬を押し付ける淫魔はのんびりと答えた。一人掛けの椅子が軽く軋む。

拾って飼い殺す予定だった淫魔は死ぬどころか、むくむくと成長した。むっちりと吸い付くような感触のミルク色の肌。ぱんと張った尻に、ふっくらと膨れた胸。胸筋の形を残している所が、こいつを雄だと認識させる。

顔はそのまま何歳か成長させたようだ。滑らかな白い頬に、鮮やかな緑色の瞳。柔らかく垂れた目尻に、いつでも微笑んでいるような形の血色のいい唇。全体的に整った中、どこか愛嬌がある。


正直、ものすごく好みだ。娼館にいたら、真っ先に選ぶタイプ。こいつは雄だけど。


「俺の精って、毒のはずなんだけど」

「そう?すっごく美味しいよ」

「そりゃよかった」


何度もくり返した問答に手を伸ばして淫魔の顎下をくすぐってやれば、淫魔はむずかるようにくすくすと笑った。首元の隷属紋は、今も健在のようだ。


「それにしても、成長速度おかしくない?」

「この体のこと?」


淫魔は一度離れたかと思うと、今度は膨らんだ胸筋を押し付けるように、頭を抱きかかえてきた。後頭部にむっちりと柔らかい感触が広がる。微かに甘い香りが鼻をくすぐり、淫魔の吐息が髪をそよがせる。こいつのやたら近い距離感にも、もう慣れてしまった。


「僕ね、あなたにもっとかわいいって言われたくて、あなたからもらった精の力を使って、かわいくなるように頑張ったんだ。僕らには、そうできる力が備わってるの」

「だからあれは…」

「僕がかわいいこと、あなたが教えてくれて気付いたの。ほら、僕はあなたの言う通りに本当にかわいくなったよ。どう?」


屈託のない笑顔が、逆さまに覗き込んでくる。影になってもなお白い頬に手を添えれば、淫魔は幸せそうに目を閉じた。


「まぁ、悪くねぇな」

「ふふ、よかった」


そのまま体を屈めた淫魔は俺の鼻に鼻先を擦り付け、顔を引っ込めた。俺の首に取り付いたまま、話しかけてくる。


「ねぇ、そろそろ名前ほしいな」

「名前?」

「いつまでも『淫魔』だけじゃ、いやだ。僕も名前がほしい」

「名前ったってなぁ…」


名前ねぇ。急に言われたって思い浮かぶはずもないし、まともに考えるのも面倒だ。何かその辺にいいものはないか…。部屋を見回せば、ふと玄関ドアに飾ったドライフラワーのリースが目についた。何かのお礼だって、花屋の女の子にもらったんだっけな。ふんわりした丸いシルエットが淫魔の雰囲気と似通い、所々はみ出している細い枝葉が淫魔の髪を思わせる。



「…リース」

「リース?」


思わず口から出た言葉を、淫魔は聞き逃さなかったらしい。淫魔は口の中で音を転がすように何度かリース、とつぶやいた後、ぱっと回り込んで俺の手を握った。


「リースって、とってもいい名前!ありがとう神父さま、僕、気に入った」

「そりゃよかったな」

「うん。僕の名前は、リースだ!」


淫魔、もといリースがそう宣言すると、突然首元の隷属紋が赤紫に光った。同時に首を囲むように浮き上がる。菱形の紋様は滑るように絡み合い、見る間に複雑な紋様へと形を変えていく。

数秒の内に隷属紋は光を静め、最後はすぅっとなじむように同じ場所へ落ち着いた。当のリースはきょとんとしたまま、首をなでている。


「なんか起きた?」

「そうだな。…これもしかして、名付けの儀式として認識されたか?」

「名付けの儀式?」


首を傾げるリースの顎を上げさせ、近くで隷属紋を確認する。こういう魔術に詳しい同僚ならすぐにわかるはずだが、俺が目を凝らしてもただ紋様が足されただけに見える。『感覚で魔術を使うな』とは常々言われていたが、俺には理屈で使う方が合わなかったからと流していた。ただ少し、隷属の意味合いが変化していることだけを読み取って、俺は頭を抱えた。

リースは何度も自分の名前を唱えながら、嬉しそうに体を揺らして名付け元のリースを眺めに行った。



とりあえず、同僚に相談だな。

あーあ。知らねーぞ、未来の俺。

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