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「エルフリーデ! お前は私に背いた! あの者たちは愚かで救いようがないというのになぜ庇うのか! それほどあの者たちが大切だというならば、ここから去るがいい! そしてあの者たちがどれほど愚かで嘘吐きで裏切者であるかを、しかと知るがいい! それがお前への罰である!」
怒れる男の声が聞こえる。
その男の顔はよく見えない。しかし、その怒気で肌も髪もピリピリするほどだった。
姉妹たちも怯えて出てこない。それはいい、悪いのは私だけなのだ。
私が彼を守るためにやってしまったことだから。
ただ、彼に死んでほしくなかった。
それきり、私の意識は途切れた。
***
「んぅ……」
小さな話し声で目を開ける。
最初に見えたのは、眩い太陽と煌めく複数の刃だ。
なんだ、たかだかこの程度の兵力で私を囲んだのか? せめて倍は連れてこい。
「やっとお目覚めか、不審者殿。この状況でよくも眠れるものだ」
刃の向こうから声がする。
刃の間を進み出てきた声の主は綺麗な男だった。その半歩後ろには年上の男もいる。
ふむ、この場ではこの綺麗な若い男がトップのようだ。
「どうやって警備をかいくぐって我が家の庭に入り込んだ」
「ワガヤノニワ?」
周囲を見回すと、よく手入れされた花が植わっている。私は木の幹に背中を預けるようにして地面に座っていた。
もぞもぞ動くとどのくらいここにいたのか分からないが、尻と背中が痺れている。
ここが庭だと認識すると、途端に鼻が土と花の香りを感じ取った。
自然が多くていい場所だ。
しかし、なぜ自分がここにいるのか分からない。
目の前の刃はいつでも退けられる自信があるので、私はゆっくり再び周囲を見回した。声の主である銀髪の男は眉間に盛大に皺を作る。
綺麗な男は眉間に皺を作っても迫力がある。
「明け方、ここに雷が落ちた。様子を見に来たらあなたがここで呑気に眠っていたわけだ。身重の女性が軽々しく侵入できる警備ではないはずなのだがな。あなたは何者だ。ここで何をしている。どこの家の者だ」
「坊ちゃま、矢継ぎ早に質問されては私でも答えられませんよ」
銀髪の若い男を半歩後ろにいた年上の男が落ち着かせているように見える。
しかし、身重? 身重だと?
「丁重に聞いている間に答えた方がいい。間者なら容赦はしない。まさか王女の手の者じゃないだろうな? あの女、妊婦を送り込んできたのか?」
意味が分からず、自分の腹部を見下ろすとそこは奇妙なほど膨らんでいた。
服の中に何か入っているのだろうか。着ているワンピースの襟ぐりを掴んで顔を少し突っ込んで確認する。
周囲が動揺する空気を感じたが、私は自分の目が信じられなかった。
服の中には布でもなんでもなく、膨らんだ自身の腹があった。服の上から撫でてもへこむこともない。
「ひっ!」
意味が分からず悲鳴を漏らす。
急激に太ったにしては腹以外に大して脂肪はついていない。
それならばこれは間違いなく妊娠だ。
「なんだ、これは……」
「私が質問しているのだが」
「どうして私が……これではまるで妊婦ではないか……」
「どこからどう見てもそうだが」
「わ……」
「わ?」
「分からない!」
「黙秘か?」
「違う! なぜ妊娠しているか分からない!」
私の叫びで取り囲んでいた兵たちの間に「え?」と戸惑いが広がる。
愚か者ども、私を怪しい人間だと見なすなら戸惑いで剣先をそらすんじゃない!
そう叫びたいが、それどころではない。
なぜ私はここにいる? しかも妊娠した状態で?
そもそも父親は誰だ? 分からない、分からない、分からない。
いや、そもそも、私は──。
私の名前は何だ? どこから来た?
私は一体何者だ?
「あぁ……あぁぁ!」
急に頭痛が襲ってきた。体を動かしたせいで、したたかに木の幹で頭を打つ。
「おい! どうした!」
「坊ちゃんが妊婦に刃を突きつけるからですよ」
「妊婦だが同時に不審者で侵入者だ!」
「じゃあ、そんなに近づかない方がいいのでは? ブスッと刺されるかもしれません」
「だが、苦しそうだろう!」
銀髪の男が年上の男と会話しながら、慌てたように駆け寄ってきてしゃがんだのが分かる。
この男はバカである。私が何者かも分からないのに、こんなに近づいてはいけない。
痛みに歯を食いしばりながら、私は銀髪男の顔を至近距離で見た。
綺麗な長い銀髪に翡翠と同じ色の目。
綺麗だ、とても。私の好む色だ。
しかし、あまりの頭の痛さで私の目の前は徐々に暗くなっていった。




