うっかり魔女のまほらさん
俺の名前は、ソラ。猫の使い魔だ。
俺はあるお城でくつろいでいるんだが、今日も部屋中に響く声が聞こえた。
顔を上げると、俺の予想通りだった。
魔女のまほらが、また薬の調合に失敗したのだ。
「もう、またやっちゃった……」
「まほら、これで何回目だ」
「えっと、二回目?」
「五回目だ。あと、可愛く言ってごまかすな」
「ソラつめたーい!」
まほらは魔女のくせに、うっかりミスが多いのだ。
筆記試験では、解答欄がひとつずつズレていたり。
ひどい時には、全部書いているのに、名前を書き忘れることもあるのだ。
実技では、呪文を間違えて、大変なことになった。
そんなこともあるため、今まほらは、必死に勉強している。
「えっと……これとこれを合わせて……」
まほらが、また調合を始めた。
しかし、手には白い液体と、赤い液体を持っている。
「まほら、それじゃない。青い液体の方だ!」
「えっ?」
まほらが顔を上げた瞬間、ポタリと赤い液体が落ちた。
そして、小さな爆発が起きた。
まほらの顔は、黒く汚れていた。
「ごほっ、ごほっ……また間違えちゃった……」
「全部入れなくてよかったな」
「ソラのおかげだよ、ありがとう!」
「しかし、こんな感じで、明日の試験は大丈夫なのか?」
「うーん……なんとかなるんじゃない?」
「なるわけないだろ。そう言って、何回えらい目にあったと思っているんだ」
「うぅ……冷静にツッコまないでよ」
俺に注意されて、まほらはしょんぼりしていた。
落ちこんではいるんだな、一応。
「明日は俺もついているし、安心しろ」
「うんっ!」
そして、次の日になった。
試験当日である。
しかし、まほらがまだ起きてこない。
「しかたない奴だな」
俺はまほらの部屋へ行き、ジャンプしてドアを開けた。
ベッドでは、まほらが気持ちよく眠っている。
俺は高く跳びあがり、まほらの腹に着地した。
「ぐえっ!」
可愛くない悲鳴が聞こえたが、それどころではない。
「急げ、まほら。遅刻するぞ」
「えっ、もうそんな時間なの?!」
飛び起きたまほらは、急いで支度をして出かけた。
「まさか、試験当日に寝坊するとはな」
「だって、昨日遅くまで勉強していたから……」
「まぁ、この調子だと、なんとか間に合いそうだな」
すると、飛んでいる俺たちの方に、何かが向かってきていた。
「なんだろう、あれ……」
「おい、だんだんでかくなっているぞ!」
「グオォーッ!」
「ひえぇーっ、ドラゴンーっ!?」
飛んできたのは、俺たちの倍はある大きなドラゴンだった。
ドラゴンは雄たけびを上げ、俺たちに向かって火を吹く。
「わわっ、早く水の魔法を!」
「避けろ、まほら!」
「ひゃぁっ!」
なんとか、丸コゲにならずにすんだ。
俺はほっとしたが、今度はまほらの悲鳴が聞こえた。
「きゃぁーっ、杖が!」
「はぁー……しょうがない魔女だな!」
俺はため息をついたが、羽を広げて落ちていく杖に向かう。
そして、口でくわえて、まほらに投げた。
「まほら!」
俺が投げた杖を、まほらは両手でキャッチした。
「ありがとう、ソラ!」
「よそ見するな、次くるぞ!」
まほらが振り向くと、ドラゴンが炎を吐いていた。
すると、まほらは杖を構え、呪文を唱える。
「炎を打ち消せ、アクア!」
まほらの呪文で、杖から大量の水が放射される。
炎は消え、ドラゴンはわけがわからないようで、きょとんとしている。
「ドラゴンさんには悪いけど、少しの間大人しくしててね!」
まほらはそう言うと、軽くウインクをした。
「シビれなさい、サンダーボルト!」
「グオォーッ!」
すさまじい電撃に、ドラゴンは音を立てて消えた。
「あれ、消えちゃった?」
まほらは首を傾げたが、全速力で学校に向かった。
俺たちが学校に着くと、先生たちが大騒ぎしていた。
「あの、なにかあったんですか?」
「あぁ、まほらさん遅刻ですよ!」
「すっ、すみません……」
「ですが、あなたのおかげで、暴走したドラゴンを倒すことができました」
「あのドラゴンは一体……」
「本日の召喚のテストで、生徒が誤ってドラゴンを召喚してしまったんです」
「えっ、今日は薬の調合じゃないんですか?」
「それは明日です。本日は、召喚のテストですよ」
「そんなぁー……」
まほらは、相当ショックだったらしい。
ちゃんと確認していなかったのか。
俺は呆れて、あくびをひとつする。
ちなみに、試験の結果は不合格だった。
予習もしていなかったので、まほらは慌てるばかりで、うまく召喚できなかったのだ。
城に戻ると、また薬の調合を始めだす。
「明日は、必ず合格するんだから!」
「まぁ、頑張れよ」
「ありがとう、ソラ。私、絶対立派な魔女になるね!」
「それならまず、そのうっかりを早くなおさないとな」
「うっ……努力するよ」
そうして、まほらは本を見ながら、調合を始めた。
俺はすることがないので、主人を見守りつつ、のんびりしようと思う。
「きゃぁっ!」
あーあ、またやったな。
俺は呆れて、あくびをひとつしたのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
今回は、使い魔の目線で書いてみました。




