2.神社
しばらく、中学生時代の回想シーンになります。
「ねぇ、悠斗。いい加減、戻ろうよ。
今ならまだそれほど遠くまで行ってないし…。」
「んなこと言ってられるか。
せっかくの夏休み、こんな体験しないでどうすんだよ。」
こんな体験とは、肝試し的な体験だ。
図書委員会の活動として、地域図書館にボランティアをした日の帰り道、私は悠斗に連れられて知らぬ道を歩いていた。
知らぬ道と言ったら少し語弊がある。
この道は、私が普段、家と駅を行き来するときに利用する道で、普段は三叉路となっている。
三叉路の中心には、1本の木が生えており、それを囲うようにして正方形のレンガが埋められている。
駅から家に向かうとすると、左に中学校(私たちの通っている中学ではない)が見えると、例の木が見え、右側が家に向かう道、左側が左は学校、右には木があり1日中日が当たらない道となっている。それらの道の間には、ちょっとした林があり、季節によって表情を変える私のお気に入りの場所だ。
ちなみに家と駅を行き来するこの道は、すべて歩道であり車は滅多に入ってこなく、安全である。
そして問題の道は、普段林があるはずの場所にできていた。
悠斗はこの道を滅多に使用しないため、三叉路のことは知らなく、四差路になってしまっているのを見た私が「何この道?」とつぶやいてしまったせいで、せっかくなら行ってみよう、となってしまった。
さっきまで、蜩がうるさいくらい鳴いていたのに、今は私たちが動く音以外何も聞こえない。
日の入りまではまだ2時間近くある、おかしい、嫌な予感がする、等々悠斗に言っているのだがなかなか聞き入れてもらえない。
いっそのこと一人で戻ろうと思うが、迷いそうで戻れない。そのため、仕方なくついていく。
しばらく歩いていると、目の前に一つの小さい建物を中心に広がっている草原が広がっていた。
「何、ここ?」
悠斗が、つぶやく。
普段は、林を少し行くとマンションがあるのだが、完全に知らない場所だし、この地域を地図等で上から見てもこのような場所は示されていない。
また、さっきまでは日は傾き始めていたし、夏特有のジメジメしていたはずなのに、ここでは、日は真上にあり、爽やかな気候だった。
とにかく情報収集と、二人で小さい建物に近づく。
知らぬ場所だからむやみに近づいてはいけないと頭の片隅では思っていても、何故かなつかしく感じ、歩みを進める。
歩みを進めるうちに気が付いたのだが、小さな建物と思っていたのは、神社のようなものだった。
その神社はしかし、鳥居のようなものは崩れ落ちていて、かろうじて鳥居の足元が残っている状態で、周囲には、その鳥居の石と思われるものが草に覆われながらも確認でき、狛犬があるべきところには、丸く磨かれた石がある。参道の石畳は、拝殿から離れるにしたがって草に覆われていた。拝殿の後ろには、立派な樹がそびえ立っていた。
さすがに神聖な場所なので、悠斗はもう帰ろうといったが、私は、何かに引き寄せられるかのように拝殿に向かって参道の中心を進んでいったと、後日悠斗から聞いた。
当の私は、そんなことを言っているのを気付かず、何かに呼ばれているような気がして歩みを進めた。
歩みを進めていくうちに時々、今の自分の動きにリンクしている幻覚が見える。
桜が舞い散っている拝殿が目の前に見える。
その拝殿は、きれいなままで、夜のように空は暗いが、参道はろうそくのような優しい光で照らされている。
目の前には、賽銭箱ではなく、わずかに赤い模様が入っている石が丁寧に置いてある。
実際にも、賽銭箱ではなく、わずかに赤い模様が入っている石が置いてある。
幻覚の私と実際の私が、その石に伸ばす。
着物を着ている手と、肌が見えている手。
その両方がめまぐるしく、映る。
そして、その石に触れた。