第52話
騒動から1ヶ月が経過したが何も変化はない。ある日、生徒会室にて冬丸がお弁当を食べていた。その横で冬子が明日提出する問題用紙を解いていた。しかし、冬子はお弁当を真剣に食べる冬丸のことが気になって仕方がない。集中できないでいる。
冬丸「(もぐもぐ)」
冬子「!?」
冬丸「(もぐもぐもぐ)」
冬子「(なんでお弁当たべてんの)」
冬丸「(もぐもぐもぐもぐ)」
冬子「先輩」
冬丸「(もぐもぐもぐもぐもぐ)」
冬子「ちょっと先輩!」
冬丸「(もぐもぐもぐぐぐ)」
冬子「先輩ってば!」
冬丸「ふーっ。ごちそうさまでした。で、なに? どったの?」
冬子「どうしてお弁当食べているんですか?」
彼女の問いに冬丸は売店ボランティアの話を始めた。お昼休みに入ってすぐ職員室に行って鍵を教頭から受け取る。そのとき珈琲谷から「今日の仕事内容」が書かれた1枚の用紙を手渡される。それは今日中に終わる必要があるという。
冬丸「1番上に書いてあるんだ。今日の仕事は今日中に終わらせることって」
冬子「お昼休み中に終わらない場合はどうなるの?」
冬丸「恐ろしいことが待ってるのだ~ヒュードロドロドロ~」
冬子「きゃーっ」
冬丸「放課後にやることになるの」
冬子「へぇー」
冬丸「放課後するのが嫌だからお昼休み中に全部終わらせるんだ」
冬子「だからお弁当を食べる時間がないってことですね」
冬丸「そゆこと。だからやめる!」
冬子「やめる? やめるってボランティアをですか?」
冬丸「だってミーもお昼休みにのんびりしたいし」
冬子「そんなのヤダ」
と冬子が可愛い仕草を交えて言った。すると冬丸が俺より友情を取った奴が何を言っているんだと口にした。彼女は当然のことでしょうと彼を一撃した。冬ちゃんが手伝ってくれたらやめないと言うも彼女の答えはノーだった。その一言が冬丸を決断させた。
冬子「先輩どこ行くんです?」
冬丸「言いに行ってくる」
冬子「行っちゃった」
冬丸は早速、ボランティアを辞める旨を伝えに職員室に向かった。御茶野は最初、ある提案をした。それは昼食を摂ったあとに始めるというもの。残った仕事は先生が引き受けるという案だ。
御茶野「どうだ? 悪くないだろう」
冬丸「もう決断したので」
御茶野「春夏秋お前なぁ。やると決めたら最後までやれ」
冬丸「いつまでですか? いつまで続くんですか?」
御茶野「担当の職員が復帰するまでだ。当然だろう」
冬丸「それいつですか?」
御茶野「そんなの知るか」
冬丸「いつまで続くかわからないなら辞めます!」
御茶野「ダメだ」
冬丸「辞めます!」
御茶野「ダメだ」
冬丸「先生!」
御茶野「協力してやりたいが俺も昼休みは忙しいんだ!」
冬丸「だからやめる!」
冬丸と御茶野の睨み合いが続く。そこへ1人の女子生徒が現れた。なぜ今の時間、学校にいるのかと冬丸は目を疑った。彼女によると演劇部に協力していたという。そして彼女たちと職員室に訪れた際、2人の会話を耳にしたのだという。その人物。それはララ美だった。
御茶野「協力してくれるのか?」
ララ美「はい!」
御茶野「ありがとう。助かるよ」
冬丸「ララ美さん!」
ララ美「冬丸様!」
冬丸「あとはよろしく!」
御茶野とララ美「ええ!?」
冬丸が彼女に軽い敬礼をした。そして晴れて自由の身になったと冬丸は清々しく職員室を出た。彼の行動に御茶野とララ美は目を見合わせた。本当に冬丸は売店の店員を辞めたのか。職員室から戻った後、あまりの嬉しさから課題をする冬子に話しかけた。
冬丸「冬ちゃん」
冬子「なんですか?」
冬丸「冬ちゃんって1人っ子?」
冬子「そうですよ」
冬丸「俺には妹がいるんだよね」
冬子「そうですか」
冬丸「その妹がさ、推しショックの影響受けててさ~」
冬子「あーもー間違えた!」
冬丸「昨日も母親と学校行くか行かないかで喧嘩してさ……」
冬子「……」
冬丸「ねぇ聞いてる?」
冬子「あの! 少し黙っててもらえませんか?」
冬丸「少しってどれくらい?」
可愛く調子にのった冬丸は見事、冬子にガン無視された。その後、冬丸は何回か声をかけるも失敗。冬子は課題に集中していたせいで何も返事はない。そしてついに冬丸は喋るのを諦め、前を向いてぐ~たらしていた。
冬丸「冬ちゃんに無視されちゃった~」
と冬丸が歌い始めた。何回も繰り返していると冬子がシャープペンシルで冬丸の背中を軽くつついた。これは冬子の「黙れ」の合図だ。冬丸は歌うのをやめた。
冬子「終わった~」
冬丸「終わった?」
冬子「なんですか?」
冬丸「さっきの話の続きね」
冬子「はいはい」
冬丸「最後にはどうなったと思う?」
冬子「え? 何の話でしたっけ?」
冬丸「も~っ! 冬ちゃん!」
冬子「だってどーでもいい話ですもん」
冬丸「どうでもいい話だと!?」
冬子「もちろん」
冬丸「仕方ない。もう一度、最初から話してやるか」
という訳で冬丸は冬子のために最初から話を始めた。それを冬子は暇だからと仕方なく聞いていた。冬丸の妹と母親の喧嘩の結末はどうなったのか。という冬丸の質問に対して冬子は母親が諦めたと答えた。
冬丸「ブッブー!」
冬子「答えをどーぞ」
冬丸「さては冬ちゃん! 真剣に聞いてないな!」
冬子「真剣に聞くような話じゃないし……」
冬丸「なぬ!?」
冬子「じゃいいです」
冬丸「あン!」
冬子「気持ち悪い声出さないで下さい!」
冬丸「やン!」
冬子「もういいです!」
冬丸「ごめんごめん! めんごめんご!」
冬子「……」
冬丸「お父さんがやってきて妹を殴っちゃったの」
冬子「へぇ……えっ!?」
冬丸「いい加減にしろ! バッコーン!って」
話の結末に冬子はあ然とした。そのとき冬丸は現場にいて父親の行動に衝撃を受けて言葉を失った。冬丸が妹に近づこうとすると父から放っておけと言われ、マイルームに入ったという。
冬子「大変ですね」
冬丸「大変だよホント。俺の部屋、妹の部屋の隣だから喧嘩する声が毎日のように聞こえてくるんだよ。今日はどうかわかんないけど」
冬子「1人っ子でよかった~」
冬丸「冬ちゃんはいいな~。俺、冬ちゃんのお兄ちゃんになっちゃおっかな~」
冬子「冗談でもやめてください」
冬丸「俺と冬ちゃん、漢字が一文字違うだけなんだよね~」
冬子「よく考えたら奇跡ですね」
冬丸「顔も似てるし! ホント奇跡だね!」
冬子「似てるかーっ!!」
冬丸「えっそう?」
冬丸が冗談交じりに言うと冬子の殺気が漂ってきた。そして今日の活動終了のチャイムが鳴り響いた。そのあとすぐ「学校に残っている生徒の皆さんは今すぐ帰宅してください」の放送が流れた。これは何ヶ月か前に冬子が学校に頼まれて録音したものだ。




