第50話
芸能人の熱愛が原因で学校や仕事に行けない人が続出している騒動「推しショック」は1週間どころで終わるものではない。ミレニアム高校も一緒で何ら変わりはない。
珈琲谷「校長先生お話があります」
校長「どうしたの?」
ある日、教頭の珈琲谷が校内の売店いわゆる購買について言及した。彼は複数いる担当職員が全員、推しショックで休職しているため営業できないでいる。このままでは真面目に登校している生徒に迷惑がかかると言った。
園子「先生やる?」
珈琲谷「私は仕事がありますので」
園子「じゃあどうする?」
珈琲谷「生徒会長にやらせてはいかがでしょう」
園子「いいんじゃない!」
珈琲谷「ではそうしましょう」
園子「うん」
という訳で担当職員が復帰するまでの間、生徒会がお昼休み限定で店員をすることに決まった。本人の了承を得ていないので実行するかどうかは決まっていない。放課後、売店の件を生徒会室で御茶野から聞いた冬丸はやりたくないとキッパリ断った。
冬丸「大人なんだから出勤させればいいじゃん」
冬子「それができないから困ってるんでしょう」
冬丸「こっちだって迷惑だよ」
御茶野「春夏秋」
御茶野は冬丸に生徒会長としての自覚はあるのか聞いた。すると「五分五分」という言葉が返ってきた。御茶野は半分ではあるが自覚していることにホッとしたのも束の間。もう一度、やるかやらないかを尋ねた。
冬丸「やりたくはありません」
御茶野「どうして?」
冬丸「どうしてって……弁当の食う時間なくなるから?」
御茶野「それだけか?」
冬丸「復帰するまでですよね?」
御茶野「そうだ」
冬丸「いつ帰って来るんですか?」
御茶野「わからん」
冬丸「それ! それそれ!」
冬丸は復帰する期日が決まっていないことを指摘した。店員が帰ってこない限り冬丸はずっとやり続けなければならない。それも無報酬で。冬丸は期間を決めてほしいと御茶野に訴えた。
御茶野「それは難しい判断だ」
冬丸「えーっ」
御茶野「仕方ないだろう」
冬丸「仕方ないって……報酬は?」
御茶野「ない。ボランティアだからな」
冬丸「大切なお昼休みを削ってやろうとしてるんですよ!」
御茶野「決定!」
冬丸「へ?」
御茶野「今お前、自分でやるという意思を表明した」
冬丸「いや待って、やろうとしてるって言ったんです!」
御茶野「よし! 決まり!」
結局、冬丸は言い返すことができず。仕方なくやることになった。そのあとすぐ御茶野を含めて売店の清掃をした。1週間も使われていない店内は多少汚れていた。商品のチェックも加えて実行した。
冬丸「疲れたー」
冬子「先輩、明日から頑張ってくださいね」
冬丸「なんで俺だけなんだよ!」
冬子「ブツブツ言わない!」
冬丸「他人事だと思って~」
冬子「あたしは関係ないもん」
冬丸「冬ちゃん協力して。ねっ」
冬子「残念でした」
冬子は秋美というクラスメートとお昼休みを過ごしている。彼女は友情を優先にするため協力できないという。すると冬丸がポンっと何かを思い出したかのように「やることがあったんだ!」と嘘丸出しの動作をした。
冬子「はいはい」
冬丸「やることがあるんだって!」
冬子「そういう幼稚な嘘はやめましょう」
冬丸「俺たち相棒だろ。冬冬コンビの仲だろ!」
冬子「冬冬コンビってなんですか」
冬丸「冬ちゃーん!」
翌日、ピカピカになった店内で冬丸はレジのすぐ隣でパイプ椅子に腰かけながらお弁当を食べていた。そこへ本日、最初の客がやってきた。それは春子だ。冬丸は早速、彼女に話しかけた。
春子「お願いします」
冬丸「春子ちゃんおひさ」
春子「あれ! 生徒会長さんじゃないですか」
冬丸「オス」
春子「いつもの店員さんはどうしたんですか?」
冬丸「推しショックで休んでる。だから俺がこうしてやってるってわけ」
春子「へぇ~大変ですね」
冬丸「よかったら一緒にしない?」
春子「大丈夫です」
冬丸「そんなこと言わないでよ~」
春子「結構です」
冬丸「春子ちゃんと一緒なら俺、がんばちゃうよ」
春子「……」
冬丸「俺と一緒にがんばろう!」
夏男「俺の女をナンパするな」
冬丸「ナンパじゃなくてお願いしてるんです!」
と冬丸は夏男の会計をしながら言った。それを終えると夏男と春子が手を繋ぎながら売店を出た。冬丸はその後ろ姿をうらやましそうに見つめていた。そして椅子に腰かけた冬丸は突然、天井を見て拝んだ。
冬丸「どうして私のお昼休みはこうしてなくなるの。あ~神様~っ! どうかお助けを!」
そんなことを言っても何も変わらず。冬丸はお弁当を完食した。そこへララ美が寂しそうに現れた。いつものパック飲料を手にレジに来た彼女の雰囲気が一瞬にして変わった。
ララ美「冬丸様!!」
冬丸「ララ美さんじゃん」
ララ美「店員?? やばーい」
冬丸「別にヤバくはないよね」
ララ美「いつもの店員さんは?」
冬丸「推しショックで……」
ララ美「だから生徒会長である冬丸様がやることになったんですね」
冬丸「そゆこと」
冬丸はこのとき日替わりでララ美に協力させようと考えた。しかし、彼女は「頑張ってね。キュン」と可愛くハートを放ちすぐに退散した。いつもの彼女なら冬丸と何分いや何十分と会話をするものだが今日は違った。
冬丸「もう帰ちゃった。ウヒーっ!」
ハートを真に受けた冬丸は1人寂しく店番をすること十数分。誰も来ないと思ったのも束の間。ウトウトしていた冬丸が一瞬で目を覚ました人物が来店した。それは御茶野だ。彼はもう少しで眠りそうな冬丸の元へ歩みよる。
御茶野「これを頼む」
冬丸「あい……先生!」
御茶野「客は少ないか?」
冬丸「そりゃもう。だって今、生徒10人くらいしかいないんでしょう」
御茶野「まぁな」
冬丸「うっ!?」
御茶野「どうした?」
冬丸「しぇんしぇー」
御茶野「あ?」
冬丸「我慢できない!」
御茶野「春夏秋?」
冬丸はどこかへぴゅーっと駆けて行った。御茶野は目的地がわかっていたのか微笑んでいた。数分後、すっきりした彼が売店に姿を現した。御茶野がレジに立っている光景はなんだか怪しい店に来た感がある。
冬丸「先生お待たせ~」
御茶野「スッキリしたか?」
冬丸「もちろん! っていうか」
御茶野「なんだ?」
冬丸「先生似合わない」
御茶野「どういう意味だ?」
冬丸「どういう意味でしょう」
御茶野「あとよろしくな」
冬丸「はーい」
御茶野は交代するや否や職員室へと戻った。店内に1人になった彼はパイプ椅子に腰かけてぼーっとしていた。御茶野が出てから誰も来ない。気が付くと冬丸は気持ちよさそうに居眠りをしていた。お昼休みが終わっても全く起きる気配はない。
御茶野「春夏秋―っ!!!」
冬丸「ほぇ???」
御茶野「今何時だと思ってる!」
冬丸「にゃにゃ? にゃーっ!!!」




