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ハルカアキ  作者: 珈琲之助
お昼休みを奪われてしまった生徒会長
49/55

第49話

騒動から数日後の朝、冬丸は自宅の台所で1人、朝食を摂っていた。前方をジッと見つめながらパンを一口かじる。時間に余裕があるのかゆっくり食していく。その頃、2階の部屋から言い争う声が聞こえてくる。それは冬丸が起床する前から続いている。


冬丸「朝から元気だねぇ」


声の主は冬丸の母と彼の妹だ。喧嘩の原因は熱愛報道のショックで学校に行こうとしない妹を母が何がなんでも行かせようとしたことだ。2人を落ち着かせようとする父の声も聞こえてきた。


冬丸「ごちそうさまでした」


家族の言動を全く気にしてはいない冬丸はいつも通りな感じで朝食を終えた。今日はお弁当がない。冬丸が階段から母にお弁当のことを聞くも相手にされない。もう一度、今度は先ほどより大きな声で話しかけてみた。


冬丸「ねぇ聞いてる?」


どうも聞こえてないみたいなので妹の部屋を少し覗いた瞬間、国民的キャラクターのぬいぐるみが冬丸の顔にヒットした。冬丸は何が当たったのか目の前に落ちたぬいぐるみを手に取った。


冬丸「なんだぬいぐるみか」


原因が判明した直後、妹の部屋からお昼代だと1000円を握った父の手がひょっこりと出た。お金を受け取った冬丸は何を買おうかなと嬉しそうに隣の部屋、マイルームに入った。お昼代を財布に入れ、制服に着替えた冬丸は学校の鞄を手に1階へ下りる。


冬丸「1000円あったら何買える~」


と口ずさみながら冬丸は身支度を終えた。そして「行ってきま~す」と言ったものの多分、聞こえてはいない。冬丸は何ら気にはせず家を出た。表に出たときお隣さん家など近隣の住宅から「学校へ行け!」「今日はそれどころじゃない」など同じような内容の言い争う声が聞こえてくる。


冬丸「みんな同じことやってらハハハ」


冬丸は笑いながら最寄り駅を目指す。いつもなら会社員や学生などで人通りが多い最寄り駅までの道のりも今日は冬丸以外の中高生の姿が見当たらない。小学生の姿でさえ見ることができない。


冬丸「影響は、どこまであるのか、わからない」


と彼は五七五のように口ずさむ。最寄り駅に着いた冬丸はいつものホームで電車を待っていた。向かいのホームには会社員の姿はあるが高校生や学生と思われる若者の姿はない。


冬丸「このホーム、待っているのは、俺だけだ」


と冬丸はまた五七五で呟いた。1人ポツンと電車を待つこと数分。乗車した車両の中は当然のように冬丸だけだった。彼はいつもなら座れない座席に腰掛けながらボーっとしていた。それがあまりにも心地よかったのか駅に着くまで居眠りをしていた。


ララ美「朝なのにあたししか乗ってないなんでヤバい~」


冬丸が隣の車両にいることを知らず。ララ美は座席に座ってぼんやりとしていた。最寄り駅に降り立った彼女は改札へ向けて歩き始めようとした。すると目の前で冬丸が「よく寝た」と言って清々しく背伸びをしていた。


ララ美「冬丸様!」

冬丸「ララ美さんおはよう」


ララ美は冬丸が隣の車両にいたなんて。もっと早く気づけばよかったとショックのあまり手で顔を覆った。冬丸はどうしたのとララ美を不思議な顔で見ていた。そんな冬丸の口から予想外の言葉が出た。


冬丸「ララ美さん一緒に行こう」

ララ美「一緒に!?」

冬丸「うん」

ララ美「よろこんで!!」


ララ美は嬉しそうに返事をすると冬丸と手を繋いで人気の少ない駅構内を楽しそうに歩いた。どうして冬丸がララ美を誘ったのか。それは冬丸がララ美と手を繋ぐのを想定していたからだ。その方がカッコイイと思っていたのも事実である。


ララ美「弟がね、推しが熱愛したから学校に行ってる場合じゃないって怒るんですよ」

冬丸「妹と一緒だね」

ララ美「そしたら母との口喧嘩が始まって」

冬丸「ウチも。あーだこーだってバカみたいに言い争ってさ」

ララ美「そのとき冬丸様のお父さんは何してました?」

冬丸「妹を説得してた。ララ美さん家は?」

ララ美「最初は冬丸様の家と一緒だったんだけど……」

冬丸「なになに?」

ララ美「次第に弟との喧嘩が始まって」

冬丸「朝からとんだ騒ぎだね」

ララ美「ホントにそう」

冬丸「それはそうといつもの2人はどったの?」

ララ美「2人とも推しの熱愛がショックで学校に行けないらしいです」

冬丸「推しか」

ララ美「あたしの推しは冬丸様ですから!」

冬丸「もし、俺が熱愛したらどうする?」

ララ美「相手ぶっ飛ばしちゃいます!」

冬丸「こえ~」

ララ美「冗談ですよハハハ」


2人は学校までの道のりを楽しく会話をしながら過ごしていた。その頃、校庭にて園子が音楽子、保健子と話をしていた。現在登校している生徒は11名だ。最後の生徒が登校してから10分以上が経過している。


楽子「11人の中に3年生がいないなんて異常ですね」

健子「みんな推しの熱愛が原因なんだって」

園子「受験生なのに大変だよね~」

楽子「そうですね」

健子「校長先生が呑気なことを言ってどうするんですか」

園子「あたしだって色々考えてるのよ」

健子「ホントですか?」

園子「ホントよ~。それはそうと、もう誰も来ないよね」

楽子「今日、最後の生徒が登校してから10分以上経過していますから恐らく……」

園子「よし! 閉めちゃおう!」

健子「閉めましょう!」

楽子「えっいいんですか!?」

園子「いいのいいの」


ということで門を閉めた。施錠を確認後、園子たちは職員室に戻った。それから数分後、学校に入ることができなくなっていたことに冬丸とララ美は驚いていた。ちなみに門には乗り越えることができないような仕組みになっている。


冬丸「帰る」

ララ美「なんでそうなるの」

冬丸「だって開いてないもん」

ララ美「そうだけど」

冬丸「閉まってるってことは休校ってことでしょ?」

ララ美「休校なら……」

冬丸「今こんなんだし、忘れてんだって」

ララ美「本当かな?」

冬丸「本当だって。帰ろ帰ろ」

ララ美「誰かいると思うけど」

冬丸「じゃあコレ蹴とばしてみる? その衝撃で誰か来るかもよ。アンタならできる!」

ララ美「ララ美いっきまーす!」

冬丸「いけー!!」

ララ美「ってできるか!」

冬丸「できないの?」

ララ美「冬丸様!」

冬丸「仕方ない。誰かいませんか!! ここ開けてください!!」

ララ美「ちょっちょっと!」


冬丸が何の躊躇もなくバカでかい声で叫んだ。1度ではなく2度も同じ行いをした。すると登校している生徒が校庭を見た。ララ美が珍しく恥ずかしそうにしている。そこへ御茶野が防犯用の警棒を片手に園子とともに現れた。彼らに気づいた2人は大至急、門を開錠した。しかし、チャイムが鳴ってしまった。


ララ美「遅刻だー!!」

冬丸「あらら」

園子「オーマイガー!」


あと一歩というところでチャイムが鳴ってしまった。冬丸とララ美の遅刻が確定した。ララ美は入学してから無遅刻無欠席を貫いてきただけにヘナヘナヘナとその場に崩れた。同じ境遇の冬丸は腰に手を当て堂々としていた。


御茶野「そんなに気を落とすな」

冬丸「そうだぞララ美さん。堂々としろよ」

御茶野「お前も遅刻だぞ」

冬丸「エッ!?」

ララ美「無遅刻無欠席が~」


驚く冬丸と気を落とすララ美に朗報が。それは園子が学校に入ることができなかったのは自分の責任だと認めた。それにより2人の遅刻は取消となった。その瞬間、冬丸とララ美は互いに手を取り合って喜んだ。


ララ美「なんであたしだけなのよ!」


気分良く冬丸とともに校舎に入り互いの教室を目指した。そして彼女は元気よく9組の教室に入った。そこにいたのはララ美を待っていた担任の先生だけだった。彼女以外の生徒は欠席している。その状況にララ美は入り口で呆然と立ち尽くしていた。

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