第30話
夏男「君は知っているか!」
冬丸「にゃにゃ?」
夏男「それは!」
冬丸「にゃーっ!」
夏男「その前にこの子たちどうにかしてくんない?」
冬丸「にゃにゃ(無理)」
ある日、夏男と冬丸が廊下で話をしていると女子が群がっていた。お目当ては夏男だ。以前、喧嘩を止めたことがキッカケだった。冬丸は自分の周りだけ誰もいないことに腕を組んで嫉妬していた。
夏男「こらこらこら」
冬丸「いいな~」
夏男「みんな押さないで」
冬丸「アイドルみたい」
夏男「俺には恋人がいるんだってば」
冬丸「今日も告白されてる」
夏男「冬丸、助けてくれ!」
冬丸「にゃ~にゃにゃ(やーだね)」
夏男「ヘルプミ~!」
冬丸「にゃーにゃにゃ~にゃ~(しょうがないな~)」
冬丸はたまに使う「ゴロにゃ~語」を発し、夏男を助けるためイケメンがいるぞと恰好よく言った。ポーズもキリっと決めた。一瞬、みんなが冬丸に注目したことで静かになった。冬丸は夏男に群がる女子たちの視線に「すいませんでした」と軽くお辞儀をし、クルっと背を向けてサササっと夏男から遠ざかった。冬丸は足を止めそっと夏男を見た。
冬子「助けてあげなさいよ」
冬丸「会長じゃんか。会長も夏男のファン?」
冬子「あたしは興味ありません」
冬丸「カッコつけちゃって」
冬子「先輩にもね」
冬丸「どうすっかなアレ~」
冬子「無視しないでよ~」
冬丸「にゃ?」
冬丸が冬子に変顔をした次の瞬間だ。煌びやかな女性が来たかのような雰囲気が辺り一面に漂い、冬丸と冬子がその方向を見た。夏男に群がっていた女子たちもその人物の方を見る。夏男は待っていたかのように甘いルックスを見せた。
夏男「来てくれて助かったよ」
春子「凄い人気だね」
夏男「もう参っちゃった」
春子「大変だね」
夏男「うん。ごめんな心配かけて」
春子「ううん。有名になっちゃったんだから仕方ないよ」
春子がそう言うと夏男が皆の心を射止めるかのような言葉を発した。冬丸はキューピットの矢が胸に刺さったかのような仕草を見せた。しかし、それは冬子に届いていなかった。
冬子「なにしてるんですか?」
冬丸「わかんないかな?」
冬子「気分でも悪いんですか?」
冬丸「刺さったの」
冬子「魚の骨が?」
冬丸「もういい」
冬子「うらやましいな」
冬丸「裏山がいいな?」
冬子「あの2人が羨ましいんです!」
冬丸「だよな~」
冬子「先輩はいつも彼女さんとあんな感じじゃないですか」
ララ美は彼女ではなくある意味で加害者と被害者の関係だと冬丸は言いたかった。しかし、言ったところで冬子に伝わるのかと冬丸は思った。その時だ。冬子がきゃーっと悲鳴のような声を出した。夏男に群がっていた女子も同じような声を出した。
冬丸「どうした!」
不審者でも出たかと冬丸が冬子を見た。彼女の指さす方向に目をやると冬丸が唖然とした。その訳は夏男と春子がハグをしていたのだ。皆、よくここでそういうことができるなと羨ましがっていた。
冬丸「……」
冬子「あの2人すごいですね」
冬丸「……」
冬子「先輩、もしかして羨ましいんですか?」
冬丸「俺にも……俺にもやらせろ!」
冬子「彼女さんといつもしてるじゃないですか」
冬丸「あれはニャあ」
冬子「いいな~」
冬丸「にゃ~にゃ~(いいな~)」
冬子「先輩とハグなんてしませんから」
冬丸「!?」
冬丸はどうして俺の考えていることがわかったんだというリアクションをした。冬子が呆れた瞬間、チャイムが鳴り響いた。冬子が「それじゃ」と言い教室へ戻った。夏男と春子のハグはまだ続いている。冬丸はその光景に笑い、クルっと2人に背を向けて歩き去った。
冬丸「ぬハ?」
教室に戻る途中、冬丸は突如出現した不気味な扉の前にいた。ジッと見つめること十数秒。彼が扉に手を差し伸べた。そんな冬丸に声をかけたのはリリ子とルル香だった。
リリ子「あんたなにしてんの?」
冬丸「えっ」
ルル香「誰かそこにいるの?」
冬丸「ん?」
リリ子「それ壁だよ」
冬丸「あれ? 壁だ」
ルル香「壁と見つめあってるなんてヤバーい」
冬丸「俺どうしちゃったんだろ」
リリ子「その壁がララ美に見えたとか?」
冬丸「そんなんじゃないよ」
ルル香「冬丸様―っ!」
リリ子「ラっララ美さん!」
ルル香「似てるーっ!」
リリ子「はははっ」
冬丸はどうして何もない壁に手を差し伸べようとしていたのかわからなかった。冬丸が考えているときもリリ子とルル香はララ美と冬丸の真似をしていた。
リリ子「冬丸様―っ!」
ルル香「ラっララ美さん!」
ララ美「はーい、ララ美だよ」
リリ子とルル香「!?」
この後のことは大体想像がつくだろう。冬丸はどう考えてもわからないと頭に疑問符を浮かべながら教室に戻って行った。その頃、リリ子とルル香は真似をしなければよかったと後悔した。
夏男「ん?」
春子「どうしたの?」
夏男「なんでもない」
春子「あ!」
夏男「どうした?」
春子「時間!」
夏男「あ!」
どれだけハグをしていたのか夏男と春子は周囲に生徒がいないことに気づき、それぞれの教室へ慌てた様子で戻った。
夏男「セーフ」
冬丸「もしかしてさっきまでしてたのか!」
夏男「そうだよ」
冬丸「にゃにゃにゃにゃにゃ~にゃ(うらやまし~な)」
夏男「えっなに?」
冬丸「にゃ~でもにゃい」
夏男「お前ってたまににゃを使うよな」
冬丸「これはにゃ、ゴロにゃ~語だ」
夏男「なんだよそれ」
冬丸「教えてしんぜよう」
夏男「いらん」
と夏男が拒否したところで先生がやってきて授業が始まった。それはそうと話しの冒頭で夏男は何を冬丸に伝えようとしていたのか。まさか、冬丸が見た謎の扉のことを夏男は知っていたのか知らなかったのか。




