第27話
ある日のお昼休み。1年生のいる校舎で最近誕生した空手同好会に所属するQ美とP子が廊下でしょうもないことをきっかけに口喧嘩を始めた。騒がしいなと生徒たちが様子を伺い徐々に彼女たちの周りに集まりはじめた。次第にQ美とP子の喧嘩は激化していき大勢の女子が見ている前でバトルを始めた。さすがにヤバいと感じた冬子を含めた複数の生徒たちが先生を呼びに職員室へ走った。
冬子「こんなときに!」
職員室の出入口に「職員会議中のため問題は自分たちで解決しましょう」の札が下っていた。それを目の当たりにした生徒たちはどうすればよいのか困り果てた。すると冬子が言った。
冬子「アノ人しかいない!」
女子たち「アノ人?」
冬子「アノ人、呼んで来る!」
冬子はそう言ってどこかへ駆けて行った。女子たちはアノ人とは一体、誰のことなのかと想像がつかなかった。その頃、冬丸は1人スマートフォンで動画を楽しみながらのんびり弁当を食べていた。仲良しの夏男は春子と屋上でラブラブしているため冬丸はこの時間いつも1人で過ごしている。そこへ冬子が慌ててやってきた。
冬子「先輩!」
躊躇なく冬子が2年10組の教室に入り冬丸のところへやってきた。周囲の生徒は彼女を副会長だと認識しており注目はしていない。
冬丸「ハロー」
冬子「先輩! お願いがあります!」
冬丸「弁当がほしいだと!? やんないよ」
冬子「別にほしくないし」
冬丸「お弁当忘れちゃいました~くださ~いって来たんじゃないの?」
冬子「そんな訳ないでしょ」
冬丸「じゃあ何しに来たの? まさか!」
冬子「違います」
冬丸「まだ何も言ってないし」
冬子「どうせ、俺に会いたくて来たとか言うんでしょ」
冬丸「正解! 正解者に拍手! パチパチパチ!」
と冬丸が陽気に冬子に向けて拍手をした。そんな彼に冬子が「世間話をしに来たのではない」と本来の目的を伝えた。
冬丸「喧嘩?」
冬子「そうです! 喧嘩を止めてほしいんです!」
冬丸「喧嘩ねぇ」
冬子「先輩しか頼める人いないんです!」
冬丸「先生とか1年の男子とか……いくらでもいるじゃん」
ムメモ「1年生に男子はいないよ~」
冬丸「えっマジ!?」
彼の席の近くで複数人と食事をしていたムメモが言った。彼女の発言から冬丸は1年生に男子がいないこと初めて知った。その後、冬丸は冬子を無視するカタチで昼食を再開した。
冬子「先輩!」
冬丸「まだいたの!?」
冬子「あのねぇ」
冬丸「先生は?」
冬子「職員会議中なんで対応不可です」
冬丸「そっか。それは残念だったな」
冬丸は中々動こうとしない。そんな態度の冬丸に冬子は早くしないと誰かが巻き込まれて怪我をしてしまうと必死だった。そんな冬子を心配したムメモたちが冬丸にこんなことを聞いた。
ムメモ「もしかして春夏秋くんビビってる?」
冬丸「ぬっ!?」
女子1「コワいんだ~」
冬丸「そっそんなハハっ」
女子2「めっちゃビビってんじゃん」
ムメモ「副会長さん、かわいそう~」
周囲の女子がグチグチと冬丸へ非難を浴びせはじめた。冬丸は行きたくない理由として昼休みを邪魔されたくないことを上げた。本当は自分が被害に遭うかもしれないと心の中で思っているのだが。
女子「本当のこと言いなよ」
ムメモ「コワいんでしょ~」
冬丸は皆に詰め寄られた挙句、うんと頷いた。すると次の瞬間、キャーとクラス中が沸き上がった。そしてまた「男のくせに」など冬丸に非難が集中した。それに耐え切れなくなったのか冬丸はようやく行く決意をした。
冬丸「わーったよ!」
冬子「ありがとうございます!」
ムメモ「がんばってね~」
女子たち「行ってらっしゃ~い」
冬子「先輩、急ぎましょう!」
冬丸「ゆっくりでいーよー」
冬子は急いで10組の教室を出た。そして冬丸が来るのを待った。彼は嫌だな、コワいな、面倒くさいなとダラダラっとなかなか教室を出ようとしない。そんな冬丸のやる気の無さにムカっときたのかムメモが瞬間移動でもしたかのようにシュッと目の前に現れた。
冬丸「うぉ! なんだよ」
ムメモ「早く行け」
冬丸「行くよーっ」
ムメモ「喧嘩してる女子2人、春夏秋君のタイプかもしれないよ~」
冬丸「うひょー! マジで!?」
ムメモ「喧嘩を止めて生徒会長カッコイイなんて言われちゃったりして~」
冬丸「!?」
ムメモ「早くしないと終わっちゃうよ~」
冬丸「行こ行こ行こう! レッツゴー!」
冬丸は喧嘩をしている2人が美人だと思うと急激にやる気が出た。そんな冬丸にムメモたちは「単純なやつだな」と思ったことだろう。現場に向かっている時も冬丸は先ほどとは打って変わり胸を張って堂々と歩いていた。そのとき冬子は空手同好会同士の喧嘩だとを伝えようか迷っていた。
冬子「やる気なくされちゃあ困る!」
冬丸「なんか言った?」
冬子「いいえ」
冬丸「そっか。なぁ会長」
冬子「はい?」
冬丸「喧嘩してるのってどんな子なの? どうせしょうもない感じなんだろ?」
冬子「えっと……」
冬丸「可愛い子? なぁなぁ教えてくれよ」
冬子「えっと……急ぎましょう!」
冬丸「おう! 早く行こうぜ!」
超ご機嫌な冬丸は冬子とともに現場へと急いだ。このあと冬丸はとんでもない目に逢うことになるなんて誰が想像したことだろう。




