第26話
御茶野「目安箱を設置する!」
怒っているのか疲れているのかいつもこんな顔なのか。ある日の生徒会で御茶野が冬丸と冬子に言った。彼の発表に彼女がなぜ設置をするのか質問をした。御茶野はその理由の一つとして生徒会の発展の為だと言った。
冬子「やりましょう!」
冬子は本来なら自分たちが提案しなければならなかったと反省した上で御茶野の提案に賛成した。彼は「そういうことだ」と冬子の目を見て言った。冬丸は御茶野につられるカタチで冬子に向けてうんうんと頷いた。
御茶野「春夏秋」
冬丸「はい?」
御茶野「いきなりですが問題です」
冬丸「はっはい!」
御茶野「春夏秋冬丸と春夏秋冬子」
冬丸「苗字は一緒です!」
御茶野「最後まで聞け」
冬丸「??」
御茶野「しっかりとしないといけないのはどっちでしょう」
冬丸「えっ俺!?」
御茶野「正解!」
冬丸「はい! しっかりします!」
御茶野「返事だけは満点だ」
冬丸「ありがとうございます!」
御茶野「……」
冬丸「なっなんスか?」
御茶野「いや」
冬丸「もしかして俺のこと……」
冬子「そんな訳ないでしょ」
御茶野「そんな訳あるか」
冬丸「ですよねぇハハハ」
このとき御茶野は思った。今までと何ら変わらないだろうと。御茶野は冬丸と冬子に近日までに目安箱の設置をするよう指示を出した。翌日、冬丸はどこからか段ボールを持ってきては素早く程よい大きさの箱を完成させた。その箱に目安箱と書かれた紙を張り付けた。手作り感満載の目安箱は生徒会室の出入口にひょこっと設置された。
冬子「あとはみんなに知らせるだけですね」
冬丸「任せた!」
冬子「あのね~」
冬丸「なに?」
冬子「一度でもいいから俺がやるとか言ったらどうですか」
冬丸「え~っ」
冬子「もういいです。じゃあ一緒に頑張りましょう!」
冬丸「春夏秋くん、よろしく頼みますよ。これは生徒会長の命令です」
冬子「先輩!」
冬丸「すいやせん!」
その瞬間、冬子は呆れ顔を見せたが冬丸はテヘっという表情をした。結局、目安箱の案内は校内放送で行ったという。
冬子「……」
ある日、生徒会室にて冬子はぼんやりとしていた。昨日、眠れなかったのか頭を揺らしている。今にも寝落ちしそうな感じだった。一方の冬丸は設置してから一度も投函されていない目安箱を確認した。今日こそ入っていますようにとお願いした冬丸は箱の蓋を開けた。
冬丸「会長!」
冬子「どうしました?」
冬丸「見て見て見て!」
冬子「それはそれはようござんしたね~」
冬丸「初めてだよ!」
冬子「そうですね~」
冬丸「なんだ? あまり嬉しくなさそうだな」
冬子「え~?」
冬丸「っていうか眠たそうだな」
冬子「そんなことありませんよ~」
冬丸「本当か?」
冬子「は~い」
冬丸「子守歌でも歌ってやろうか?」
冬子「結構です~」
冬丸「冬丸オリジナル子守歌! どう?」
冬丸は冗談で言ったのだが冬子から気持ち悪いと言われてしまった。そんなことはさておき、冬丸は投函されていた紙を掲げ喜んでいた。一方の冬子は寝落ちまで数秒前のところまで迫っていた。冬子はもうダメだと居眠りの姿勢を取った。そしてスヤスヤと寝落ちしてしまった。
悪者1「へへへへへ」
冬丸「キャーっ」
これは冬子の夢の中だ。廃墟と化した倉庫にて女子生徒の制服を着た冬丸がニタニタとする悪者集団に囲まれていた。何をされるのか恐怖を感じた女子に扮した冬丸は悲鳴を上げた。その時だ。
悪者2「なんだ?」
悪者3「なんだなんだ?」
扉がドンと大きな音を立てている。彼らは何事かと扉に注目する。と次の瞬間、人間の力では壊すことのできない分厚い扉が吹き飛んだ。彼らは一体、何が起きたんだと騒然とする。
悪者4「誰だお前は!」
扉を吹き飛ばした男子生徒に扮した冬子が入り口で仁王立ちをしていた。その後は誰でも想像がつくように冬子が悪者を次々とやっつけていく。
悪者たち「ひえ~」
気絶したはずの者も含め廃墟と化した倉庫から冬丸を残して全員去って行った。2人きりになった冬子がイケメンオーラを放ちながら乙女になった冬丸に接近する。そして「大丈夫か」と冬子が冬丸に手を差し伸べた。
冬丸「ありがとう」
目をキラキラさせた冬丸と歯を輝かせる冬子の唇が重なりあう寸前で目の前が黒くなった。そう冬子が起きたのだ。御茶野が彼女に向けて熱い視線を送っている。そんな中、冬丸が冬子の側で子守歌を奏でていた。
御茶野「歌うな」
冬子「えっ」
ようやく冬子はその場の雰囲気に気づき姿勢を正した。彼女はやってしまったと顔を真っ赤にして目線を下にした。案の定、御茶野から口頭で注意を受けた。
冬丸「会長が居眠りするとはねぇ」
冬子「すいませんでした」
冬丸「顔真っ赤じゃん」
冬子「ほっといてください」
冬丸「どんな夢見てたの?」
冬子「うるさいな~」
冬子は冬丸と性別が逆転した夢を見ていたとは言えなかった。その後、いろいろな話をして完全下校時間まで待機するよう指示を出した御茶野が教室を出た。2人きりになると冬丸が冬子にこんなことを言った。
冬丸「子守歌歌ってやる」
冬子「結構です」
冬丸「なんで? 寝たいんじゃないの?」
冬子「もう目が覚めました」
冬丸「な~んだ」
冬子「そりゃそうでしょう」
冬丸「だよな。あいつ、めっちゃお前のことガン見してたもん」
冬子「マジ焦りました」
冬丸「先生言ってたよ」
冬子「なんて言ってました?」
冬丸「勉強のし過ぎじゃないかって」
冬子「そっそうなんです」
冬丸「ホントか~」
冬子「本当です」
冬丸「怪しい」
本当はただの夜更かしだ。このとき冬子は推しメンが出演した深夜番組を録画しておけばよかったと後悔した。それから数時間後、校舎のとある所に扉が出現した。見るからに不気味な雰囲気を醸し出している。一体、ここはなんなのか。




