第20話
男「○○(国民的アイドルグループの名前)の真夏ちゃんだよね」
真夏が芸能人のオーラを消して学校から最寄り駅へ向けて歩いていた。その時、イロハとスマートフォンで通話をしていた男性が真夏に声をかけた。彼女は男性が自分を待ち構えていたかのような感じに見えたので足がすくむ。
男「絶対そうだよね」
真夏「……」
周囲に助けを求めようとしても誰もいない。男はニヤついてゆっくりと近づいてくる。彼女は恐怖に駆られどうすればよいのか考えることができない。
男「こわがらなくてもいいからね」
真夏「……」
男「黙ってる君もカワイイね」
真夏「……」
男「??」
真夏は男に何をされるかわからない恐怖から学校に向かって走った。男は彼女の背を見つめて追っては来ない。しかし、走るのを止めることはできない。
冬子「真夏じゃん。どうしたの?」
真夏は正門を通り、ようやく走るのを止めた。そんな彼女に心配して声をかけたのは校庭の美化清掃をしていた冬子だった。
真夏「さっきそこで」
冬子「どうしたの? 何かあった?」
真夏は冬子に何があったのか説明をした。ちなみに冬子は真夏がアイドルだと知る数少ない生徒である。冬子が先生に相談しに行こうと提案するが真夏は足が震えて歩ける状態ではない。そこにやってきたのは自分の清掃エリアを素早く終えた冬丸だった。
冬丸「会長がサボってる」
冬子「サボってません」
冬丸「サボって……さっきの女子」
冬子「真夏を知っているんですか?」
冬丸「うん」
冬丸が補習授業で一緒だったと冬子に言った。真夏は正体がバレるのではないかと冬丸と目を合わさない。そんな彼女に冬子は大丈夫だと言った。
冬子「あの人アイドルのこと何にも知らないから大丈夫大丈夫」
真夏「よかった」
冬丸「なんでアイドルなの?」
冬子「ううん別に」
冬丸「で、この子がどうかしたの?」
冬子「不審者に襲われそうになったんだって」
冬丸「不審者!?」
冬子「先輩、様子見てきてください」
冬丸「なんで俺なんだよ」
冬子「男でしょ」
冬子は今すぐ冬丸に不審者がいるかどうか確認してほしいと通学路を指さした。しかし、被害に遭ったらと冬丸は行こうとしない。すると真夏が言った。
真夏「お願い! 駅まで着いてきて!」
冬丸「いいよ」
冬子「おいおいおい」
冬丸「可愛い女の子のためだ仕方ない」
冬子「今は生徒会の活動中です。それにまずは先生でしょ」
冬丸「そっかぁ。てか先生に言ってないの?」
冬丸が不審者情報について報告したのか聞いた。真夏は何もしていないと首を振る。そこへタイミングよく御茶野が姿を現した。
御茶野「どうした?」
冬子「先生」
冬子が御茶野に真夏が不審者に襲われそうになったと話した。御茶野は驚き、彼女から詳しく事情を聞くため女性教員付き添いのもと別室で話をすることになった。
冬子「あの子人気ですもんね」
冬丸「人気なの?」
冬子「あっえっと……女子に人気が高いんです」
冬丸「へぇ」
冬子は危うく真夏が超人気アイドルであると話しそうになった。一方、冬丸は真夏がアイドルだとは一つも気づいていなかった。その頃、人気のないところでイロハがあの男とスマートフォンで会話をしていた。
男「逃げられちまったじゃねぇか!」
イロハ「それはアンタが悪いんでしょう」
男「せっかく真夏ちゃんと一緒にいられると思ったのにどうしてくれるんだ!」
イロハ「知らないわよ。情報、教えてあげただけでも感謝しなさい」
イロハの言葉に男は舌打ちをした。彼女はそれに動じることなく約束していた金銭を要求した。男は不貞腐れながらも支払うことを了承。通話のあとイロハは校庭に目をやった。そこで見たのは教員が見守る中、真夏が所属事務所の車に乗る光景だ。そこに生徒会の2人もいた。
冬丸「彼女ってお金持ちなの?」
冬子「たぶん所属事務所関係者かと」
冬丸「どういうこと?」
冬子「えっあぁえっとその……」
冬丸「なにか隠してるな」
冬子「隠してません」
冬冬コンビがああだこうだ言い合っていると彼女を乗せた車は走り去った。それを目の当たりにした冬子は一部しか知らない真夏の情報を絶対に他言してはいけないと改めて誓うのだった。その情報とは真夏が芸能活動のために実家を出て事務所が管理するマンションで一人暮らしをしているということだ。これを知っているのは冬子と春子。それから秋矢の合計で5人である。
冬丸「昨日、通学路に不審者が現れました」
翌日、登校時間に教員たち学校関係者は警察と協力して生徒の見守りを行った。ホームルームでもそのことが各クラスで報じられた。そして昼休み。生徒会が校内放送を行った。それは生徒たちが知る不審者情報だ。
冬子「ピンポンパンポン」
彼女による声とともに放送は終了した。途端に冬丸がこんなことを言った。
冬丸「不審者不審者ってもういいんじゃない。しつこいよね」
冬子「しつこくていいんです」
冬丸「女子が多いから?」
また2人は以前のようにマイクの電源が入った状態で会話をしてしまった。それに気づいたのは数分後のことだった。
御茶野「またアイツらマイクのスイッチ切ってねぇし」
御茶野がまたかと思いながら放送室へ向かうため席を立った時だ。2人がオンに気づいたかのような会話が校内中に流れてしまった。
冬丸「危ねぇ危ねぇ」
冬子「またですかぁ?」
冬丸「切ったんじゃないの?」
冬子「今切りました」
冬丸「なにやってんだよ」
冬子「なによ」
冬丸「ちゃんと切ったか確認しろよ」
冬丸の言い方が悪かったのか冬子が反論した。その瞬間、放送室内が一触即発になった。が、切ったはずのスイッチが何かの拍子でオンに変わった。御茶野はまたかと重い腰を上げて放送室に向かった。
冬丸「ちゃんとオフになってるかどうか確かめないからこんなことになるんだろ」
冬子「お言葉ですが無駄話を先に始めたのは先輩です」
冬丸「最後にマイクを使ったのは会長だろ」
冬子「無駄話を始めなきゃこんなことにはなりませんでした」
冬丸「なんだとコノヤロー」
冬子「なによ」
幼稚な口喧嘩が学校中に流れていたとは知らず。御茶野が放送室の扉を開けた。そしてすぐさま彼はマイクの電源を切った。2人は御茶野の行動にスイッチが入っていたのかと驚きを隠せなかった。その後、数分の説教をくらい冬冬コンビは顔を赤くして口喧嘩を反省した。




