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ハルカアキ  作者: 珈琲之助
生徒会長はすごかった
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第16話

マラソン大会当日、生徒会一同は校内放送をするため放送室にいた。マラソン大会前の放送をしようと冬子がマイクのスイッチを押す。だが「今から放送を開始します」という音が出ない。


冬子「ピンポンパンポーン」


と冬子は自らの声を出してそれを表現した。そのあと冬丸の声が校内中に響き渡った。


冬丸「今からマラソン大会を行います。生徒の皆さんは運動場へ集合してください。繰り返します」


生徒会長からのお知らせが終わると冬子が先ほどと同じ声を出してスイッチを切った。かのように思われた。


冬丸「今年も優勝は俺で決まりだな」

冬子「ってことは去年も優勝だったんですか?」

冬丸「そうよ。春夏秋冬丸! 2連覇達成―っ! いいね」


と冬丸が放送室で大声を発した時、冬子が何やらやってしまった感を出していた。冬丸が何事かと尋ねる。


冬子「スイッチが……」

冬丸「入ってんじゃん! あらま~」


2人の雑談がマイクを通じて校内中に流れていた。当然、冬丸の2連覇宣言が秋矢の耳に入ったことは事実だ。彼は冬丸の発言にイラ立ちを感じていた。だが秋矢はダンス部たちが必ず妨害すると信じて気持ちを落ち着かせて運動場へ向かった。そしてついにその時がやってきた。女子がスタートして数分後、男子が走り出す。


珈琲谷「今、スタートしました」

園子「今年は男女とも誰が優勝するのか楽しみね」


園子は校長室から運動場を眺めて教頭に言った。レース序盤から秋矢と冬丸は他の男子を大きく引き離す。そんな2人が校庭を走行してから正門を出た。しばらく進むと大きな公園の中を走ることになる。そこでとあるアクシデントが冬丸を待ち受けていた。


クケ子「うぅぅ」

ララ美たち「大丈夫?」

クケ子「……」


アクシデント。それはクケ子が腹痛で走れなくなっていたのだ。F女3を含めた女子数人が心配する中、クケ子は横たわりうずくまってしまった。そこへ知らせを聞きつけた女性教員が駆け付けた。するとそこへ冬丸より先に秋矢がやってきた。


秋矢「どけ!」


秋矢が前方にいたクケ子を心配する女子に言う。彼女たちは走り去る秋矢に不機嫌な顔を見せる。それからすぐ冬丸が女子の側を通過した。


ララ美「冬丸様!」

冬丸「??」


何メートルか先で冬丸は走るのをやめた。そして何事かとクケ子たちに近寄るなり教員に声をかけた。


冬丸「何事ですか?」

女性教員「春夏秋君。いいところに」


冬丸はうずくまるクケ子を見て「この間の子だ」という雰囲気を見せた。この現場の先で秋矢が笑みをこぼした。その理由は冬丸が追ってこないからだ。


秋矢「春夏秋が追って来ない。1位だ!」


ついに念願が叶うのではないかと喜ぶ秋矢。一方、冬丸は教員から事情を聞いていると最下位になってしまった。


冬丸「あっ腹痛女子」

女性教員「知ってるの?」

冬丸「前に1度、彼女を保健室に運びました」

女性教員「そうなんだ」


女性教員はクケ子を保健室まで運ぶため学校に連絡を入れた。その時、痛みが増したとクケ子が訴える。ララ美たちは早急に運ばないと大変なことになるかもしれないとザワつき始めた。冬丸はこの時、こんなことを考えていた。2連覇を目指すかそれとも彼女を運ぶか。彼の場合、定期試験はいつもギリギリな故にここで点数を稼ぎたいものだ。ちなみにマラソン大会最下位の男子は点数がない。


冬丸「運びます」

女性教員「そんなことしたら失格になっちゃうよ」

冬丸「このまま彼女を見捨てることはできません」


教員とララ美たちがマラソン大会はどうするのとざわついている。冬丸はにっこりとクケ子と目を合わす。そして彼は少しの間、痛みを我慢するようとクケ子に言った。


冬丸「それじゃあ行きます!」


クケ子をおんぶした冬丸は学校を目指して走り出した。前に進む彼を見て彼女は思った。反対の方が短いのにと。ララ美だけがうっとりとしている中、教員とほかの女子たちは冬丸の雄姿に感心していた。


冬丸「道開けてくれ!」


冬丸のかけ声にみんな素直に道を開ける。冬丸は1人また1人と抜かしていく。そんな矢先、ムメモたちがいた。冬丸はララ美の忠告通りのことが起きる。そう思っていた。しかし、現実は違った。


ムメモ「春夏秋君! 頑張ってね~」


彼を阻止するかと思われた彼女たちは何もすることなく普通に走っていた。冬丸が追い抜かしとムメモたちは「生徒会長におんぶされている子は誰だ」と思っていた。その先に待ち受けているぬねの率いるチームBだ。彼女たちも冬丸に何もすることはなかった。秋矢の言うことなど聞くやつなどいない。


ぬねの「あの子なんで生徒会長におんぶされてるんだろう」


冬丸阻止作戦はムメモやぬねのたちの裏切りによって失敗に終わった。何も知らない秋矢は単独の走行にご満悦だった。そうこうしているうちに冬丸が2位の夏男と肩を並べた。


夏男「その子どうしたの?」

冬丸「急病人なんだ」

夏男「マジで!?」

冬丸「そうなんだ」

夏男「頑張れよ!」

冬丸「おう!」


夏男は走り去る冬丸を見て凄い体力の持ち主だと思った。この時、冬丸は最後まで何も起きないことを願った。だがこの先に待ち受けていたのは秋矢だった。


秋矢「これで俺の優勝は間違いない……ぬぬ!?」


秋矢より先に走っている生徒はいない。彼は優勝を確信したのも束の間。後ろから冬丸が物凄い勢いで迫りくる光景に目を疑った。秋矢は妨害が失敗に終わったんだ。そう思うなり焦り始めた。モタモタしていると冬丸に追い抜かれてしまう。秋矢は絶対にそんなことがあってはならないと冬丸の走行を妨害し始めた。


冬丸「急病人なんだ。どいてくれ」

秋矢「……」


冬丸が右に寄ると秋矢も右に寄るというたちイタチごっこが続く。とその時、クケ子が誰でも分かるかのように苦しい声を出した。


冬丸「秋矢!」

秋矢「……」

冬丸「頼むからどいてくれ!」

秋矢「黙れ! 優勝するのはこの俺だ!」

冬丸「そうだよお前だよ!」

秋矢「えっ」

冬丸「俺はもう棄権した!」

秋矢「春夏秋……なんで!?」

冬丸「もーっ!!」

秋矢「??」

冬丸「邪魔だーっ!!」

秋矢「待て! ぎゃーっ!!」


冬丸は渾身の一撃で秋矢に体当たりした。秋矢はその衝撃でクルクルと回転し、尻餅をついた。


秋矢「棄権? うそだ……そんなこと信じられるかーっ!!」


秋矢は冬丸が大会を放棄したとは信じることができない。彼はもの凄い追い上げを見せたものの結局、先にゴールしたのは冬丸だった。まだ走り続ける秋矢は衝撃な光景を見た。それはゴールしたのに止まらず。クケ子を担ぎながら保健室を目指す冬丸の行動だった。


秋矢「本当だったのか」


冬丸を見ながら秋矢がマラソンを走り切る。そこへ体育教員の筋肉夫キン・ニクオが来た。そして秋矢に言った。


筋「優勝おめでとう」

秋矢「待ってください!」

筋「どうしたの?」

秋矢「先にゴールしたのは春夏秋です」

筋「春夏秋君はね、大会を放棄してカキさんを運ぶことを選択したんだ」

秋矢「……」

筋「よって優勝は秋矢君。君だ」

秋矢「そうだったんですね」


秋矢は念願の優勝を果たしたにも関わらず素直に喜ぶことができなかった。そして冬丸の進路を妨害していた自分を情けなく感じていた。


秋矢「なにやってんだ俺……」

第17話へ続く

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