表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/52

8-2:漆黒の決意

「ダメよ、ヴェルッ!」

 絶叫の様なルージュの叫び声とともに、ストロヴェルの身体が真横に吹き飛ばされる!

「ぎゃッ!?」

 ストロヴェルの身体は空中できりもみし、床に叩きつけられた!


 頭を振って顔を上げれば――ルージュが構えを取ってこちらを向いている。魔法で突風を起こし、溶鉱炉に身を投げたストロヴェルを吹き飛ばしたのか?

「何で止めるのよ、ルージュ!? わたし――もういなくなりたいんだ!

 こんな身体のまま生きていたくないんだよ!」

 涙を流して訴える!

 これで、楽になれると思ったのに……!


 鉄骨の上で、ルージュが魔法を撃った体制のまま、大きく息をついて震えている。その姿は――泣いている様だった。

 その姿に胸が痛み――ストロヴェルは視線を床に落とす……。


「ふ……ふふふ……!」

 震える様な声で笑ったのはバミューダだった。転倒した姿勢を立て直し、立ち上がる。

 その顔に噴き出した大量の汗粒を手の甲で(ぬぐ)い払う。

「あ……危ないところでした……!

 まさか、わたくしとの因縁さえかなぐり捨てて、自らの命を捨て去ろうとするとは……!?」

 ちらりと肩越しに、ルージュを見る。

「まさかそこまで思いつめているとは思いもよりませんでしたわ。

 あのエンバーラストは、貴女(あなた)の事を良く理解している様子。彼女に感謝しなくては……」


 視線を戻し――カエルを(にら)むヘビの様な目つきで、ストロヴェルを舐める様に見つめる。

「もう、命を粗末にはさせませんよ、ストロヴェル?」

 バミューダの瞳が蒼く光り、”マギ・コード”が展開されて行く!

 今度は――何をするつもりだ!?


 ―― 水流凍て付きて、獲物を捕らえる巣を張り巡らせ! ――


 バミューダが編んだ魔法は――広範囲の氷結攻撃!

発現なさい(マテリアライズ)! 絡み取れ! ”氷蜘蛛網(アイシクル・ウエブ)”!」

 鋭く突き出された両の腕から、無数の氷の糸が放射状に展開される! バミューダの魔力に支えられた、氷糸(ひようし)の密度は、ストロヴェルから逃げ場を奪うほどだ!


「やばい……ッ!」

 慌てて飛び退く! ……が、(すで)に遅く、次々に身体に絡み付く氷糸がストロヴェルの身体を凍り付かせて行く! あっと言う間に巨大な氷の蜘蛛(クモ)の巣に絡め取られ、身動きを封じられてしまった!

 ”スカイシェイク魔動炉(リアクター)”でカメリアが”魔染獣”と化した時、バミューダは同じ氷系の魔法で動きを封じて見せた。その氷糸の束の強度は、ストロヴェルの腕力でも破壊出来(でき)ない!


 空中に貼り付けになったストロヴェルを見上げ、バミューダが一息つく。

「さぁ困りましたね? 貴女は溶鉱炉に身を投げようにも、その氷の蜘蛛の巣を脱出する為には、”魔染獣”としての全力を振るう必要があるでしょう」

「…………っ!?」

 見え透いた挑発に、ストロヴェルは歯ぎしりする。あくまでもストロヴェルに魔力(ちから)をすべて解放させて、”魔染獣”化を促進させるつもりか……!?


 もちろん、このまま時間を浪費して、時間切れが訪れるのを待つのもバミューダにとって悪くない戦略だ。

 余裕を持って、黒髪を手ですくうバミューダ。その背後から、ルージュが叫ぶ!

「ヴェルを離しなさい!」

 鉄骨の上で、腰を屈める!

「よせッ! バミューダ様に敵うハズがないッ!」

 慌ててカメリアがルージュを止めようとするが――


 一歩早く、ルージュが空中に躍り出た!

 ”マギ・コード”を組み立てながら、バミューダ目掛けて舞い降りる!


 ―― 天翔(あまかけ)ける星! 空を跳びて地を照らせ、地に墜ちて空に()ぜよ! ――

発現せよ(マテリアライズ)! 打ち砕け! 紅蓮(メテオ・シ)……!」


 ルージュの脚に紅蓮の炎が撒きかけたその瞬間――!

「”高圧風膜(エアロ・プツシユ)”……」

 ルージュに見向きすらせず、バミューダは背後に右腕を振るう!

 腕の動きに(なら)った爆風が吹き荒れ、ルージュの身体が弾き飛ばされる!

「きゃあッ!?」


「……引っ込んでいなさい。中級(Cランク)魔導師風情(ふぜい)など、状況に変化を与えるそよ風にすらなりません」

 まったく抵抗できず、吹き飛ばされたルージュの身体が――青いマグマに向けて落ちて行く!

「ルージュッ!」


 その瞬間――!

 ストロヴェルは、蒼い両目を輝かせ、歯を食いしばり、左腕を振り抜いた!

 その腕に、ただただ(おのれ)の身体が許す、すべての魔力を放出させて!


 ストロヴェルの身体を縛り付けていた氷の巣が、その強大な魔力の圧迫に耐えられず、粉々に砕け散る!

 自由を取り戻した身体で、一足飛びにバミューダへ斬りかかる!


(つい)に全力を使いましたね!」

 真っ向からの攻撃に、バミューダもフル出力の”魔法障壁(シールド)”で迎え撃つ!

 だが、ストロヴェルが狙ったのはバミューダではない。溶鉱炉の中へと落ちて行く――ルージュの姿だ!

「”高圧風膜(エアロ・プツシユ)”!」

 ストロヴェルの放った空気砲が、ルージュを再び空中へと打ち上げる! もちろん、そのままの勢いで壁にでも叩き付けられれば、ルージュの命を奪ってしまう!

「カメリアッ! ルージュをお願いッ!」


 鉄骨の上で(ほう)けていたカメリアが――弾かれる様に跳んでルージュの身体を抱き止める! 衝撃で自身もろとも弾き飛ばされつつ、器用に別の鉄骨の上に降り立つカメリア!

 金髪(ブロンド)の魔導師は――自分は何をやっているんだ? と言う表情で腕の中のルージュを見下(みお)ろしていた。


 その様子を見て――ストロヴェルはほっと息をついた。

 人間の域を超えた魔力に先程まで(たかぶ)っていた心臓の鼓動が、自分でも感じ取れない程に――落ちて行く……。


 揺らぐ意識の奥で聞こえる――”マギ・コード”の旋律。


 ―― 我が声を聴け、我が瞳を()よ、我が意のままに! ――


 ルージュに意識を集中し、怨敵(おんてき)の眼前で完全に無防備になっていた少女の(ひたい)に――極彩色(ごくさいしき)の光を(とも)したバミューダの指先が触れる。

「この()に及んで、あの様な程度の低い輩を気遣(きづか)うとは……愚かですね」

 パキン! と、小さな音を立てて――光が弾ける!

(ひざまず)きなさい、”精神支配(マインドコントロール)”!」


 ストロヴェルの瞳から――光が消え失せ、闇が彩る……。


「決まりました! さぁ、最強の魔導師の誕生です!

 これで巨大な魔力(ちから)が我がものに!

 もはやエルダーメンバーとて恐れるに足らず!

 如何(いか)なる言葉も、権力も! この”ストロヴェル”の前には無力です!」

「ヴェルっ!」

 勝利を確信したバミューダと、ルージュの悲痛な叫び声が同時に木霊する。


 一瞬の静寂のあと――

 ストロヴェルは、伸びたバミューダの腕を取り――それを握り潰した!


「ぎゃあああ…………ッ!?」

 バキンッ! と言う骨の砕ける音が響き、バミューダの聞いた事もない様な絶叫がドーム内に反響する!

 慌てて飛び退くバミューダ! その右腕は完全に砕け、ぶらりとちからなく垂れ下がっている。

 脂汗を振り乱し、驚愕と苦痛を交えた表情でストロヴェルを睨みつけた!

「ば……バカな! 何故(なぜ)、わたくしの”精神支配(マインドコントロール)”が効かないのです!?」

「当然だよ」

 その双眸(そうぼう)に暗い光を灯し、ストロヴェルは(こた)えた。

「わたしはまだ……わたしだよ!」


 唖然(あぜん)とするバミューダ。

「そんな……!? (おのれ)を失う事なく、”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”の魔力(ちから)を最大にまで引き出した、と言うのですか……!?」

 信じられないと言う表情で、ふらふらと後ろに後ずさる。

「そんなハズはありません! 人としての意志を失い”魔染獣”にならない限り、”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”を完全に操る事など出来るワケがありません!」


 自問自答するバミューダに――ストロヴェルは小さく首を横に振る。


 そうではない。

 ”魔染獣”に成る事なく、”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”を完全に我がものとする方法はあるのだ。

 それは、とても簡単なこと……。


 ”魔染獣”は、破壊以外の意志を持たない存在。

 暴風や嵐の様に、兵器の様に――破壊の限りを尽くすだけの存在。


 ストロヴェル自身が――そう(・・)なれば良いだけの事だったのである。

 もう、”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”も『ラピス・ラズリ』も”青眼の魔女(ブルーアイズ)”も『フォス・フォシア』も……カメリアもアクエリアスも、パプリカも――ルージュも、もうどうでもいい(・・・・・・)


 心の中に(のこ)した、たったひとつの気持ちを胸に――ストロヴェルが吠えた!

「バミューダ! アンタを殺してやるッ!」

次回 8-3:業火の淵

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ