7-5:”ブルーアイズ”の新たな輝き
「それは……どう言う意味ですか……!?」
聞き間違いかと耳を疑ったほど、意外なバミューダの言葉に、ストロヴェルは絶句した。
「言葉通りの意味ですよ、ストロヴェル」
何を疑問に思う事があるのか、と言わんばかりに微笑みを絶やさず優し気な眼差しをストロヴェルに向けているバミューダ。
「そんなハズはありません!」
叫んで、ストロヴェルはバミューダに詰め寄った!
「わたしの”VERDIGRIS”は、カメリアにすり替えられたものです!
バミューダ様がそうおっしゃったじゃないですか!」
パニックになるストロヴェルに、バミューダが口に手を当ててクスクス笑う。
「それでは聞きますが、ストロヴェル。貴女は何の根拠があって、わたくしの言葉が真実だと思っていたのですか?」
その言葉に――愕然とする。
”魔染獣カメリア”の討伐作戦の前――『ラピス・ラズリ』へ復帰の要請を受けた時、ストロヴェルの身体の異常がカメリアの魔導石すり替えによるもの、と説明を受けた。証拠として、カメリアが魔導石の在庫を操作した履歴も見せてもらった。
あれが――すべてバミューダの捏造だったと言うのか!?
では、まさか――!?
頭の中に浮かんだ嫌な疑念に、ストロヴェルが顔を上げる。それに応える様に、バミューダは深く頷いた。
「そう。貴女は自分の身体に起こった異変が、カメリアのイタズラによるものだと信じて疑わなかった様ですが――カメリアは、何の手出しもしていないのですよ」
「じゃあ……バミューダ様は、わたしがこうなる事を承知の上で、わたしの身体に”VERDIGRIS”を埋め込んだのですか!?」
「その通りです」
あっさりと答えるバミューダに、呆然としてストロヴェルは床に膝をついた。
それが本当ならば、ストロヴェルはとんでもない勘違いで、無関係なカメリアを”魔染獣”にして命を奪ってしまうところだった事になる。
「どうして……そんな事を……!?」
師に裏切られたショックで、涙がとめどなく流れる。
床にへたり込んだストロヴェルを見下ろして、バミューダはほくそ笑んだ。
「更なる強さを秘めた魔導師を生み出す為です」
元々、バミューダは『アクア・オーラ魔導師ギルド』の運営が、魔導師ではないエルダーメンバーによって支配されている事に、不満を持っていた。そこで、魔導師による魔導師ギルドの運営を目指し、彼女は魔導師の育成に努めた。
精鋭魔導師部隊”青眼の魔女”を結成したのも、その一環である。
才能の世界である魔導において、優秀な魔導師が現れるかどうかは、完全な確率論だ。上級魔導師であれば、ストロヴェルも含め『フォス・フォシア』にもそれなりの人数がいる。だが、バミューダの様な最上級クラスともなると、数えるほどしかいない。
元々、魔導にちからを入れていなかった『フォス・フォシア』では、優秀な魔導師の人数があまりにも足りないのだ。
この問題を解決する為に、バミューダが考えたものが、魔導石と一体化し人工的に魔導石とのシンクロ率を高めた魔導師――”青眼の魔女”である。
「……ですが、その”青眼の魔女”でもエルダーメンバーから権力を奪還するには至らなかった。わたくしは、”青眼の魔女”の改良方法を模索していました」
そこでバミューダが目に付けたのが――高性能魔導石”VERDIGRIS”。
魔動炉”のエネルギー源である”VERDIGRIS”を人間の身体に埋め込んだ時、どの様な相乗効果が生まれるのか――?
バミューダの、新たな試みだった。
「じゃあ……、わたしはただの実験材料だったって事ですか!?」
怒りと悲しみの余り、大声で怒鳴るストロヴェル!
それによって引き起こされた発作で、彼女は緑色の粘液を口から吐き散らした!
「実験材料とは人聞きの悪い……。わたくしは貴女を本当に愛しています」
喉がむせ返って藻掻くストロヴェルを、笑いながらバミューダは見据えた。
「それが証拠に、貴女の身体に埋め込んだ魔導石は、貴女が斃した”ニュークフラッシャー”から採取した”VERDIGRIS”を、このわたくしが丹精込めて磨き直したものなのですよ?」
そんな言葉を聞いて、ストロヴェルが安心するとでも思ったのだろうか?
ストロヴェルの身体に走ったものは――悪寒。
”ニュークフラッシャー”は、ルージュと初めて出逢った時に闘った”魔染獣”だ。あんな化け物の心臓を――自分は移植されたと言うのか!?
「……しかしまさか、貴女が一切の魔法を失ってしまうとは、思いもよりませんでした。流石のわたくしも、これは大変な事になってしまったと慌てたものです」
まるで、「あの時は困った困った」とでも言う様な軽い口調で、バミューダはクスクス笑った。
「国の貴重な財産である”VERDIGRIS”を消費した挙句、出来損ないの魔導師を生んでしまったとあっては、エルダーメンバーに付け入る隙を与えてしまいます。
わたくしは、この失態を隠蔽する為、貴女に消えて貰う事にしました」
「まさか――!?」
「そうです。”魔動炉”を暴走させる為の”記録結晶”。あれを仕組んだのも、わたくしです」
「そんな……」
ならば、結局カメリアはこの一連の騒動に、何ひとつ絡んでいなかったと言う事ではないか!?
「じゃあ……わたしに”タイタンフェイド魔動炉”のメンテナンスをカメリアが押し付けたのは……単なる偶然!?」
もしそうなら、ストロヴェル以外の娣子――例えばアクエリアスが、貧乏くじを引いて、事故死していた可能性もあったと言う事ではないか!?
しかし、バミューダはそれを否定する。
「偶然ではありませんよ。カメリアが貴女を快く思っていないのは事実です。
そのカメリアがユニットメンバーに仕事を分配する時、貴女に最もつまらない任務を押し付けるに決まっている――。
貴女もそう信じて疑わなかったでしょうし、事実そうなったでしょう?」
……なるほど。バミューダはカメリアの性格をうまく利用したワケだ。
「しかし貴女は生き延びた。しかも、”魔力消去”と言う新たな能力に目覚めて帰って来た。わたくしは、喜びに打ち震えました。
新世代の魔導師が誕生したと!」
目を輝かせ、両腕を大仰に広げ、ひとり悦に入るバミューダ。
「貴女はまだ、”ニュークフラッシュ”の全能力を解放出来いない。それが出来る様になった時、”青眼の魔女”すら足元にも及ばない最強の魔導師と成るでしょう。
そう、貴女は正に”青眼の魔女”の新たな輝きなのです!」
質の悪いジョークを言い放ち、ニタリとした笑みを浮かべる。いや、この様子だとバミューダは本気で言っているのかも知れないが……。
「…………」
ストロヴェルは、失望のあまり声を発せなかった。
バミューダは、とても面倒見の良い師だと思っていた。だが、そんなものは幻想だったのだ。
その正体は、娣子の命を手のひらで転がし、自分の目的の為に握り潰してしまう事も厭わない――そんな悪魔の様な女だったのだ。
いや、悪魔は自分だ……。
ひとりよがりの勝手な勘違いでルージュたちを振り回し、まったく罪のないカメリアを”魔染獣”に変えてしまったのだから。
しかし、ストロヴェルはようやく納得出来た。
自分が”魔染獣”になってしまったのは――当然の罰だったのだ。『ディス・カ・リカ』に身を投げて、消えてしまわなければならなくなったのも、因果応報と言うものだったのだ!
だが、その前に――
ゆっくりと立ち上がるストロヴェル。口端から垂れた粘液を、指で振り払う。
「バミューダ様……。わたし、ひとつやるべき事が出来ました」
「ほう? 何ですか?」
真っ青に染まった双眸で、これ以上にないほど、バミューダを睨みつける。
最大限の憎しみを添えて!
「わたしは命を棄てる……! ここで溶鉱炉に身を投げ、すべてを終わりにする。
そして……」
その背後に――巨大な”マギ・コード”を展開し、ストロヴェルは牙を剥いた!
「アンタも、破滅させてやるッ!」
次回 7-6:カメリアの悔恨




