表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/52

7-1:魔導石の行きつくところ

前回までのあらすじ


 『ラピス・ラズリ』の手から逃れ、ルージュの(もと)に再び身を寄せたストロヴェル。あくまでストロヴェルを(かば)い続けるバミューダに(ごう)を煮やしたエルダーメンバーは、カメリアを刺客(しかく)に差し向けた。”魔力消去(ルーン・キヤンセル)”の弱点を()き闘いを優位に進めるカメリアだったが、突如(とつじよ)ストロヴェルの魔力が復活! 形勢はストロヴェルに傾いたかに思えたが……。

 ***


 そっと、ストロヴェルの身体をベッドに寝かせる。

 『ファイア・トパーズ』事務所からほど近いルージュのワンルーム。そこで、ルージュとパプリカ、それにアクエリアスは、死んだ様に眠るストロヴェルを見下(みお)ろした。


 半壊した『ファイア・トパーズ』の事務所では、ストロヴェルを安静に寝かせられない為、こちらに移動して来たのだ。

 かかった時間は僅かに数分ほどでしかないが”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”によるストロヴェルの浸食(しんしよく)は、恐ろしいスピードで進んでいる。身体は、(すで)に上半身のほとんどが、緑青(ろくしよう)に変色し、至るところに結晶のウロコがびっしりと()えていた。


「……本当に申し訳ありません。わたしがもっと早く気付いていれば……」

 ベッドの横に移動したイスに座り、パプリカが肩を落とした。

貴女(あなた)のせいではないわ。それより、いったいどうして突然こんな事に……!?」

 眠ったままのストロヴェルの横に突っ立ったまま、ルージュが歯ぎしりする。

 少なくとも、昨日(きのう)まではストロヴェルに何の変化もなかった。それが今日になって急に激変するとは……。


「ヴェルさん……カメリアさんと闘っている時に、急に魔法が使える様になったんです」

 ソファに座り、身体をすぼめて震えながら、アクエリアスがぽつりと(つぶや)く。その言葉を聞いてパプリカが頷いた。

合点(がてん)が行きました」

「どう言う事よ?」

 パプリカがルージュを見上げる。


「スィートハートの特殊能力”魔力消去(ルーン・キヤンセル)”。あれは、魔法を消去していたのではなく、スィートハートの身体に埋め込まれた”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”が、魔力として吸収していたのです。おそらく、本人の魔力も……。それで、魔法が使えなくなっていたのでしょう」

「それなら、何でヴェルは急に魔法が使える様になったの? 何で急にこんな身体になっちゃったのよ!?」


 自然と口調がきつくなるルージュ。

 パプリカも(つと)めて冷静な表情で説明を続けるが、その筋肉が緊張でこわばっているのが伝わって来た。

「”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”が吸収出来(でき)魔力量(キヤパシテイ)が限界を超えたのです。おそらく、この子の身体は既に臨界ギリギリの状態だった……。そこに、カメリアの高密度の魔力を吸収した結果、臨界点を超えてしまったのでしょう……」


 ”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”が魔力の吸収を止めた結果、ストロヴェルは魔力を放出出来る様になったのだ。しかし――


 それと引き換えに、”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”の魔力がストロヴェルの身体を侵食し始めた。このまま浸食が進めば、彼女の身体はすべて緑の結晶に(おお)われ……。

「”魔染獣”と化します」


「ちくしょうッ!」

 ルージュが壁を、思い切り拳で叩いた! その音の大きさにびくっとアクエリアスが身体を縮める。

「それじゃあ何よ!? カメリアの奴は、ヴェルの身体に”魔動炉(リアクター)”のエネルギー源に使われる様な魔導石を埋め込んだって言うの!?

 冗談じゃないわよ! イタズラじゃ済まされないわ!」

「落ち着きなさい、エンバーラスト!」


 パプリカに一喝(いつかつ)され、ルージュは言葉に詰まる。

「カメリアとて、自分がすり替えた魔導石が、まさか”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”だとは思っていなかったでしょう。今は、誰が悪いとかそう言う話をしている時ではありません」


 ルージュは無言で頷いた。

 早急に考えなければならない。ストロヴェルを助ける方法を。あるいは、ストロヴェルを……処分する方法を。

 このまま放置すれば、彼女は”魔染獣”となって暴れ始める。


「……お願い、パプリカさん。何か……何か方法を考えて……っ!」

 震える両手でパプリカの肩を掴み、懇願(こんがん)する。そのルージュの頬を、大粒の涙がいくつも伝う。

「ヴェルを……助けて……!」


 考える様な表情で、パプリカがストロヴェルの胸に手を当てる。

 彼女のその手に反応する様に、”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”が一瞬、碧い光を放った。ストロヴェルが苦しそうに(うめ)く。


「考えられる方法は、新たに”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”を用意し、スィートハートの身体に溜まった魔力を、移し替える事です。そうすれば、この臨界状態も収まるハズです」

「もうひとつ……となると、手っ取り早く手に入る”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”は、カメリアに奪われた”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”しかないわね」

 涙を(ぬぐ)って、ルージュは窓の外を見た。


 見据えたのは、夕暮れに(かす)んだ空の向こうにそびえる、巨大なタワー。


 カメリアは”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”を破壊し証拠を隠滅する命を受けている。ならば、その行き先は魔導石破壊塔『ディス・カ・リカ』だ。

「アタシが行って、カメリアから”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”を奪い取って来るわ! パプリカさんとアクエリアスは、ヴェルをお願い!」

「解かりました。宜しくお願いします」


 ルージュは、ソファにうずくまるアクエリアスに歩み寄り、その肩を抱いた。

「ヴェルのこと、お願いね?」

 こくんと頷くアクエリアス。


 ルージュは気を引き締めて立ち上がると、ジャケットを羽織(はお)る!

 部屋の扉を蹴破る様に開け放つと、一路『ディス・カ・リカ』を目指した!

「お願い……どうか間に合って……!」


 ***


 うっすらと――ストロヴェルは意識を取り戻した。

 いや、元々意識はあったのだ。かなり微睡(まどろ)んだ状態ではあったが、ルージュやパプリカの会話はしっかりと聞こえていた。

「大丈夫ですか、スィートハート?」


 真上からパプリカが覗き込んで来る。

 どうやらベッドに寝かされているらしい。見上げた風景は見慣れた部屋――ルージュの部屋の様だ。

「……カメリアがわたしの身体に埋め込んだ魔導石は……”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”だったんですね?」

「聞いていたのですか」

 頷くストロヴェル。ゆっくりと自分の左手を上げる。

 既に感覚がなくなりつつある左腕は青緑色に変色し、ウロコがびっしりと生えている。きっと、もう全身がこんな状態なのだろう。


 上体を持ち上げ、起き上がる。

 ”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”が埋め込まれた胸がズキンと痛み、ストロヴェルは咳き込んだ!

「無理をしてはいけません。安静にしていて下さい」

 パプリカがストロヴェルの背中をさすった。

 しかし、ストロヴェルの胃はひっくり返り、(のど)を胃液が逆流する!

 ストロヴェルはシーツの上に吐き戻した!

 びちゃッと音を立てて飛び散った()しゃ物も、胃液などではなく青緑色の粘液……。


「…………っ」

 流石(さすが)のパプリカも、それを()の当たりにして言葉を失う。

 流した涙を手の甲で(ぬぐ)うも、その涙すら青く光る液体と変わり果てていた。

「……わたし……もうダメだ……っ!」

 両手で顔を覆う。

「諦めてはいけません。エンバーラストがカメリアから”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”をきっと取り戻してくれます」


 パプリカの言葉に、顔を覆ったまま、ストロヴェルは青く変色し始めた髪を振り乱す。

「無理だよっ! ルージュじゃカメリアには勝てない!

 それに……例え今は助かっても、この”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”を身体から取り出す方法はないんだ。いずれ……わたしは必ず”魔染獣”になっちゃう!」

 ストロヴェルの放った現実に、パプリカも言葉が出ずに肩を落とす。


 (しばら)く……いや、そんなに長い時間ではなかったかも知れない。三人は言葉ひとつ発せず黙りこくり――。

 ストロヴェルは、ゆっくりと顔を上げた。

「アクア、こっちに来て……」


「はい!」

 慌ててソファから跳び起き、ベッドの(ふち)に近寄って来るアクエリアス。

「何ですか、ヴェルさん?」

「ほっぺた、触っていい?」

「……はい……!」


 ストロヴェルの言葉に、一瞬逡巡(しゆんじゆん)してアクエリアスは頷く。彼女の頬に伸ばしたストロヴェルの左腕は、完全に”魔染獣”のそれそのものだった。

 表面には出さないが、アクエリアスが怖がっているのが伝わって来る。


 そっと、アクエリアスの頬に触れる。怪物になり果ててしまった自分の肌とは、対照的な白くてキレイな少女の肌。

 軽く微笑(ほほえ)んで――ストロヴェルは、”マギ・コード”を組み立てる!

「スィートハート!?」

 隣に座っていたパプリカが、悲鳴を上げた!

 ベッドに立てかけてあった錫杖(ロツド)に手を伸ばすが――遅い!


発現せよ(マテリアライズ)、従え、”精神支配(マインドコントロール)”!」

 ストロヴェルの魔力が、アクエリアスとパプリカの精神を捕え、掌握する!

 アクエリアスは一瞬で意識を失いベッドの上に倒れ込み、何とか持ち(こた)えたパプリカも、たまらず床に崩れ落ちた!

 相手の精神を抑え込み、掌握する術だ。知能の低い生物ならば完全なコントロール下におけるが、人間――増して魔導師相手では、軽いショックを与える事しか出来ない。

 だが――”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”の魔力を乗せた”精神支配(マインドコントロール)”は、パプリカさえもダウンさせた。


「何を……するのです、スィートハート!?」

 床で藻掻(もが)くパプリカを他所(よそ)に、ストロヴェルは立ち上がり、裸の上からローブのみを羽織(はお)る。

「わたし……行きます」

「どこへです……!?」


 パプリカの目を、見据えた。既に両方が真っ青に染まってしまったその瞳で。

「”青眼の魔女(ブルーアイズ)”は埋め込まれた魔導石と一体化してる。つまり、わたしも”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”そのものって事」

 窓の外の――『ディス・カ・リカ』を見つめた。

 今ごろ、ルージュがあそこに辿り着き――間に合っていれば、カメリアと闘っているハズである。


「暴走した魔導石の行くところは……たったひとつ」

「『ディス・カ・リカ』に……身を投げるつもりですか……!?」

 そう。かつてカメリアがそうした様に……。


 パプリカに、深く――深く頭を下げた。


「さようなら、パプリカさん。アクアをお願いします」

 動きが鈍くなった脚を引きずって、ストロヴェルが玄関の扉を開ける。

 バタンと扉が閉じられ、パプリカたちが残された部屋の床には――青緑色の粘液が、足跡のかたちとなってへばりついていた。

次回 7-2:ゴミ捨て場の闘い

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ