6-4:”ルーン・キャンセル”の弱点
「お高くとまってんじゃないよ!」
叫ぶと同時に、カメリアが”マギ・コード”を展開する!
彼女の胸の魔導石から、事務所全体に蜘蛛の巣の様な構成文が張り巡らされた!
「発現せよ! 絡み取れ! ”氷蜘蛛網”!」
カメリアを中心に発した猛烈な冷気が事務所を包み込み、彼女の張った魔法の構成に沿って、文字通り、氷の蜘蛛の巣が広がって行く!
獲物を捕えんと迫りくる氷の糸に、ストロヴェルも負けじと”魔力消去”を叩き込む!
ストロヴェルに絡み付く氷糸はことごとく消滅し、細かい雫の粒となって弾かれて行く。だが――
それでもなお、次々に延びる氷糸が、彼女の身体に絡み付かんと迫って来た!
「ちくしょうっ!」
舌打ちして、ストロヴェルは走った!
”氷蜘蛛網”を打ち消しながら、カメリアに迫る!
「そうこなくちゃね!」
如何にも楽しそうに、カメリアは真後ろに飛び上がり、崩壊した事務所の壁から空中に躍り出た。見事な身のこなしで、十数メートル下の地上に降り立つ!
それを追って、ストロヴェルも飛び出した! 魔法で姿勢制御をサポート出来ない、ストロヴェルは崩れた瓦礫を伝って降りるしかない。
あまりの高さに眩暈がするが――今はそれどころではない!
雨に濡れた瓦礫に脚を取られぬ様に注意しながら、ようやく地面に近づく。
「スキあり!」
ストロヴェルが地上に降りかけた、その瞬間を狙って――
「乱れろ、”連光弾”!」
――”光弾”を連射して来る!
「なっ……!?」
着地にまごつくストロヴェルの隙を狙って来る事は予想していたが――
ストロヴェルの背後はビルの一階。普通の住宅である! 避ければ間違いなく住人を巻き込んでしまう!
「”魔力消去”!」
両腕を突き出し、火球の群れをすべて消し去る! そのストロヴェルの上に被さる様に、影が落ちる!
射撃と同時に空中に飛び上がったカメリアの蹴りが、突き出したストロヴェルの右腕を砕いた!
「きゃあッ!」
悲鳴を上げて、仰け反る!
続く蹴足の連撃を何とか躱しつつ、ストロヴェルは大きく後ろに跳躍して、距離を取った!
「ちっ……、惜しい!」
セリフとは反対に、不敵な笑みを浮かべるカメリア。
”青眼の魔女”の時は、仮にも仲間と言う制約があった為、目立ってストロヴェルを傷つける事は出来なかった。だが、今は違う。彼女はストロヴェルを抹殺する命を受けている。
ストロヴェルを存分に傷つけ、追い込む事が出来るこの状況を――カメリアは心底楽しんでいる様だった。
”魔力消去”の連発で、再び痛み出した胸を抑え、ストロヴェルは息を吐く。いや、ストロヴェルを苦しめるのは、胸の痛みだけではない。
蹴られた腕は骨折したのか鈍痛で呻き、身体中に打撲や裂傷が広がっている。
”魔力消去”が、カメリアの攻撃を防ぎきれていない。
カメリアは、ストロヴェルとの戦い方を心得ている。彼女は、”魔力消去”の弱点を見出しているのだ。
それは、射程距離と指向性。
この術によって魔力を掻き消せる範囲は、精々数メートルに過ぎない。しかも、ストロヴェルの前方からラッパ状の範囲に限定される強い指向性を持つ。
それを理解しているカメリアは、広範囲を一度に攻撃出来る魔法を連発する事で、闘いを優位に進めているのだ。直撃は叶わずとも、周囲に着弾した攻撃の余波が、ストロヴェルを襲う。
「お次はこいつだ!」
高々と片手を振りかざし、”マギ・コード”を組み上げるカメリア。
マズイ! この構成は――
「みんな逃げて!」
何事かと集まっていた周囲のやじ馬に、叫ぶ!
「発現せよ! 迸れ、 ”雷衝撃”!」
カメリアの手から天に向かって放たれた雷撃が――雨を伝って電の茨となって乱れる!
地面に、壁に鋭い破裂音を響かせて雷が弾け散り、それはやじ馬たちをも巻き込んで、表通りすべてに広がった!
ここまで広範囲に広がってしまっては、到底”魔力消去”で防ぎきれない!
悲鳴を上げて逃げ惑うやじ馬のひとりに体当たりされ――ストロヴェルは思い切りバランスを崩した!
「きゃっ!?」
「もらった!」
鋭い気迫とともに、続け様に撃ち込まれたカメリアの”光弾”!
姿勢を崩したストロヴェルに――掻き消す余裕はない!
腹部に、まともな直撃弾を浴びて、視界に爆炎が広がった!
激しい痛みに続いて、視界が空転し、地面に叩きつけられる衝撃が身体を走る!
「がはっ!」
地面に突っ伏し、ストロヴェルは痛みで藻掻いた!
火球が直撃した脇腹は、真っ赤に焼け爛れ皮膚がめくれ、下の肉が露わになっている。
涙を流して、痛みに耐えるストロヴェルの頭を――カメリアが踏みつけた!
「どうだい、これで少しは身の程ってヤツを理解しただろ? ちょっと変わった魔法を身に着けたからって調子に乗りやがって!」
ブーツの底にちからを込め、ストロヴェルの頭を何度も蹴り付けるカメリア!
そこに一切の手加減は感じられない。本気でストロヴェルの頭を踏み割る気だ!
「止めて下さいッ!」
唐突に――アクエリアスの絶叫が響いた!
同時に、ふたりの頭上に青白い閃光が迸る!
「何ッ!?」
空を見上げたカメリアを、青い火球が襲った!
完全な不意打ちに対応出来ず、火球がカメリアを捕える!
「うぎゃああッ!?」
カメリアの背中で火球が爆発を起こし、彼女の絶叫が木霊した! 威力は小さいが、直撃すれば悶絶は必至である。
火傷した背中を抑えてうずくまるカメリアを尻目に――ストロヴェルはゆっくり身体を起こし、上を見上げた。
「アクア!」
事務所の壁から、こちらを見下ろしているアクエリアス。小柄な身体を命一杯広げ、魔法を撃つ姿勢を取っている。
どうやら、今のフォローは彼女のものらしい。
だいぶ、魔法の感覚が戻って来ている様だ。
だが――
「やってくれたな、クソガキがッ!」
がばりと起き上がり、カメリアがアクエリアスを睨みつける!
あの程度の威力では、カメリアを沈める事は出来ない。背中に痛々しい火傷を負いながらも、大したダメージを受けた様子も見せず――強大な”マギ・コード”の構成を組み立て始めた!
「どいつもこいつも! よっぽど先にこの世から消えたいらしいなッ!」
これは、ヤバイ!
カメリアが組んでいる魔法はシンプルだが強力な魔力が込められている。問答無用で、『ファイア・トパーズ』の事務所を粉々に消し飛ばすつもりだ。
もちろん、こんな威力の魔法を撃ち込まれれば、アクエリアスもスカーレットも、姿かたちを残さないだろう!
「止めて、カメリア! やり過ぎよッ!」
止めに入るストロヴェル! だが、彼女の声にカメリアは耳を貸さない!
この立ち位置からでは、五階の事務所まで”魔力消去”は届かない! ふたりを護る事が出来ない!
自分の奥底から湧き上がる激しい怒りを、ストロヴェルは抑えられなかった!
青白い炎がメラメラと心に灯り、心臓が激しく高鳴る!
もう、許せない!
―― 天照星の赤光よ! 紅蓮と成りて一条に撃ち抜け! ――
咄嗟に――本当に、自分が魔法を撃てない事すら忘れて――ストロヴェルは”マギ・コード”を編み上げた!
加減も、躊躇もしている暇はない!
「発現せよ! 爆ぜろ! ”光弾”!」
胸の魔導石の結晶構造を走った魔力が、”マギ・コード”によってかたちを成し――生まれたものは、久しぶりに感じた魔力が全身を駆け抜ける爽快感!
強烈な魔力が籠った火球の一撃が――ストロヴェルの腕から放たれた!
次回 6-5:魔力の復活




