6-3:恨みと恨みの激突
「アイツは何者だ? あの瞳は……”青眼の魔女”か!?」
突然の攻撃に焦りを隠せず、スカーレットがカメリアを見つめる。
「わたしの……同期の子です。カメリアって言います」
「カメリア? ではあれが”双頭……いや、例のカメリアか……?」
頷くストロヴェル。
あの”双頭獣”がカメリアの成れの果てだった事は、現場に直接いたルージュたちと、一部の者しか知らない。ルージュのマスターであるスカーレットは、そのひとりだが、気を使って言葉を濁したのが解かった。
もっとも、この状況でスカーレットの言葉を聞いている者など、いないだろうが……。
突然の大爆発に、周囲の住宅街は既に阿鼻叫喚の地獄絵図となっている。
「カメリアとやら!」
スカーレットが、崩れかけた壁を背に隠れ、カメリアに呼びかけた。
「貴様は”青眼の魔女”だな? この攻撃はバミューダの指示か!?」
ストロヴェルとアクエリアスは、バミューダの了承を得て『ファイア・トパーズ』に身を寄せているのだ。その彼女たちに対して、カメリアが追手として送り込まれて来るハズはない。
何より、カメリアは精密検査を受ける為に、国立病院に連れて行かれたのではなかったか?
「残念だったね! アタイの今の指揮官はエルダーメンバーさ!」
声高に叫ぶカメリア!
と、言う事はアクエリアスを、”VERDIGRIS”の生贄に捧げた連中が、直接カメリアに指示を出したと言う事か?
だが、”青眼の魔女”はバミューダが独自に創り上げた部隊だ。カメリアに対する指揮権はエルダーメンバーにはない。
「わたしと闘いたいが為に……エルダーメンバーに自分から取り入ったのね……?」
ストロヴェルの言葉に、カメリアは「良く分かっているじゃないか」とばかりに笑みを浮かべた。彼女にとって、”VERDIGRIS”やアクエリアスなど、どうでも良い事なのだろう。
ストロヴェルとの因縁に、決着を付けられれば、それで良いのだ。
「解かってるじゃないか! それならば、続きを始めようかッ!?」
叫ぶと、カメリアは高々と跳躍し、”マギ・コード”を描き始める! 目にも止まらぬ速さで組み立てられた”マギ・コード”を大きくさらけ出した胸元の魔導石に投射し――
空中で、くるりと半回転!
「発現せよ! 乱れろ、”連光弾”!」
放たれた火球の連弾が、カメリアの回転に合わせて螺旋を描きながら迫り来る! 不規則な軌道の”連光弾”は、広範囲に散らばり、隣や上下階のまったく関係のない民家に直撃する!
「何て事を!」
非難の声を上げながら、ストロヴェルは『ファイア・トパーズ』の事務所に迫った火球を、”魔力消去”で打ち消した!
「まだまだ、行くよ!」
”連光弾”を撃った反動で空中に舞い上がったカメリアが、なおも追撃の攻勢をかける! 腕を大きく突き出すと、魔導石を通じた魔力が、強烈な風となった収束して行く!
風は彼女の手のひらと言う極めて極小の空間に圧縮され、今にも破裂せんばかりの超高密度の空気の塊を成した!
「膨れろ! ”高圧風膜”!」
ドンッ! と言う空気が音速を超えた音が響き、ほぼ同時にストロヴェルは不可視の空気の壁に叩き付けられ、真後ろに吹っ飛ばされた!
「ぎゃあッ!」
ストロヴェルの身体が壁に叩きつけられると同時に、周囲の建物の窓が衝撃波ですべて、粉々に打ち砕かれる!
突然の火球と暴風の爆撃に、周囲では悲鳴が響き渡り、周囲の区画一帯がパニックの様相を呈して来た。本当に見境なく、ストロヴェルを攻撃するつもりか!?
舞い上がる白煙を切り裂き、カメリアが崩壊した事務所に飛び込んで来る!
「さぁて、お楽しみの前に……お仕事の方を片付けちまうかね。一応、命令は命令だし」
キョロキョロと事務所を見回し、何かを捜す仕草をする。何をしているのかは、すぐに想像がついた。”VERDIGRIS”を捜しているのだ。
すぐに、カメリアは”VERDIGRIS”が保管された金庫に目を留める。右腕を突き出し、指先に溜めた”光弾”を放って、金庫を爆裂させた!
最初の攻撃ですでに歪んでいた金庫の扉が、大きな音を立てて崩れ落ちる。
金庫の中から噴き出した淡く蒼い光を見つめて、カメリアがニヤリと笑った。
「見ぃつけたぁ!」
如何にも楽しそうに、青白く光る結晶体を手に取る。
「”VERDIGRIS”をどうするつもりよ!?」
「どうすると思う?」
ちらりとアクエリアスを見据え、カメリアがほくそ笑む。
その表情に、怯えてスカーレットに抱き付くアクエリアス。そんな銀髪の少女を冷めた目で見つめ――カメリアはため息をついた。
「あらあら、”青眼の魔女”の端くれともあろう者が、情けないわね」
ぽんっと、”VERDIGRIS”を空中に放り投げ、ぞんざいに扱うカメリア。
「この”VERDIGRIS”は既にレッドベリルの手垢が着いてしまっている。アタイは、重要な証拠である”VERDIGRIS”の破壊を命じられたのさ!」
”VERDIGRIS”を小脇に抱え直すと、蒼い双眸をギラリと輝かせ――再び”マギ・コード”を編み始めた!
「安心しなさいアクエリアス。
アンタを”VERDIGRIS”に吸収せよとの命令は、受けていないわ。
アタイは受けた命令はただひとつ。アンタの口を封ぜよ! それだけよッ!」
カメリアの手のひらに組み上げられた巨大な”光弾”が――アクエリアス目掛けて発射される!
悲鳴を上げるアクエリアスを抱き締め、身構えるスカーレット!
「打ち消せ、”魔力消去”!」
アクエリアスに迫る火球を、ストロヴェルは左腕を振り払う動作で掻き消した!
そよ風すら残さず消滅するカメリアの魔法。
舌打ちして、カメリアはストロヴェルを睨んだ。
「まったく……とことんイラつく能力だねッ!」
吐き捨てて、カメリアがストロヴェルと正対する!
「そんなに八つ裂きにして欲しかったら、先に叩きのめしてやるよッ!」
殺気を隠そうとしないカメリアに、ストロヴェルは被りを振った。
「カメリア、止めようよ、こんな事は!
わたしと貴女がいがみ合った結果、こんな騒ぎになっちゃったんだ! これ以上わたしたちがいがみ合っっても、エルダーメンバーの思うつぼだよ!」
「ふざけるんじゃないよッ!」
唾を吐き捨て、カメリアが吠える!
「アンタのお陰で、アタイは”VERDIGRIS”に飲み込まれ、”魔染獣”として討伐されかけたんだ! まさか、覚えてないとでも思っているんじゃないだろうね!?」
その言葉に、ストロヴェルは俯いた。
すべて事実だからだ。
カメリアが、ストロヴェルの魔導石をすり替え、事故に見せかけて抹殺を図ったとしても――復讐心に駆られて、彼女の命に手をかけた事に変わりはない。
妬みに恨みで応え、のっぴきならない状況を作り上げたのは、他ならないストロヴェル本人だ。これさえなければ、アクエリアスがトラウマを抱えてしまう事も、”VERDIGRIS”の生贄にされてしまう事もなかった。
ならば、せめて――。
ストロヴェルは――構えた。
その様子に満足げに頷くカメリア。
「やっと、その気になったみたいだね、ユニットリーダー様?」
「……わたしが撒いた種だもの。わたしが刈り取らなきゃならない。
”VERDIGRIS”は渡さない。そして……アクアには指一本触れさせない!」
次回 6-4:”ルーン・キャンセル”の弱点




